やさしい堤体前

宣誓しているのは・・・、

駅弁というものの魅力にすっかりハマってしまった。

前回の神奈川県小田原市でのエピソードでは、たまたま売店の近くを通りがかったことから購入に至った「相模こゆるぎ茶飯」。

もはやあまりのウマさに後日ふたたび“駅弁を買うためだけに”小田原を再訪し、入手するというほどの熱の入れようである。

駅弁のなにが、そんなにも惹きつけるのか?

「冷たくも温かい」ではないかと考えている。

どんなに世の中が暗いニュースで侵されようとも、食という行為が無くなることはない。

人が生きていくために必要な食べ物の摂取。生きていくことイコール食べることであり、食べ物を作ってくれる人がいることで生きていくことができる。

生きていくためのものを作っている人。そういう人が社会にいるということ。

売りの舞台は駅。文化的背景もふくんでいる。駅弁は。

人の生が無くならないように。駅弁という文化が無くならないように。こうしている今も駅弁という商品に関連して、どこかで生業をしている人がいる。

人から人へと繋がるもの。

その温かさ。

塩気の効いたおかずと揚げ物の油と、そして何の変哲もない白飯を噛みつづけていると感じられる人のつながり。

冷たくも温かいという幸福に包まれる。

新富士駅南口

新富士駅へ

12月1日、午前8時。静岡県富士市川成島、「新富士駅」駅南口。

新幹線専用駅の駅前広場でさっそく目に飛び込んできたのは巨大な銅像ならぬ“銅本”。

新富士駅のある静岡県富士市は製紙業のさかんな街。市内にはパルプ・紙製造を行う会社が多数軒を連ねる。その数、事業所にして40以上。工場は50以上。紙加工品をあつかう事業所も含めると、総数は200を越えるという。(富士市産業経済部産業政策課 富士市の工業 令和3年度より。)

本には「富士市民憲章」がレリーフで作られ、その条文は

富士山のように・・・、

からはじまる5つの条文。条文は、こうして他所からやってきた観光客の目にも留まる。

観光客が見る、宣誓調に書かれた文書。

宣誓しているのは富士市民ということになるが・・・。

が、

これはイメージにない。

富士市には何人も知り合いがいるが、明るくて気さくな人が多い。

融和的で親しみやすい人が多い。

こんなカタくるしい文書でものごとを語る人は?

う~ん?ちょっと・・・。

それでも、書かれている内容は富士山を手本として直喩する素晴らしい内容。デジカメに撮ると駅舎内に向かった。

駅南口から駅舎内に入り、新幹線きっぷうりばにて入場券を購入。改札口を入場券でパスし、上り線エスカレーターに乗って駅2階の新幹線ホームにのぼる。お目当ては富陽軒の「巻狩べんとう」だ。

新幹線ホームに到着。

静かな新幹線ホーム。しかし、こちらは国内屈指の工業都市、静岡県第三位のまち富士市である。さらに富士市の新富士駅である。

シャッターの閉まった富陽軒の売店をこの目で確認したのだが、それは長い長い新幹線ホームの中。自身の背中側にもう一店舗くらいあるのだろうと振り返ってみた。

無い。

あるわけも無く!

土曜日と日曜日、祝日は休業とのこと。

ちゃんと調べておけばよかった・・・。

ふたたび新幹線ホームから下降のエスカレーターに乗り、1階におりて改札口を出る。目指したのは駅の南口方向。

駅に入ってすぐのところにコンビニがあったはずだ。

着いてわかった。コンビニと思われた店はコンビニ兼、みやげ物屋のような店。みやげ物屋なのだから、当然?!駅弁も置いてあった。

無事、購入。

お目当ての富陽軒ではないが、駅弁には変わりない。買うことが出来てよかった。

「富陽軒」新幹線ホーム上り線
まぼろしの味となってしまった。
駅の南口に向かう。
コンビニとしても。みやげ物店としても。オレンジショップ
あったー!

しらす街道

午前9時半、新富士駅駅前の駐車場を出発。

静岡県道174号線を南進し、国道1号線「宮島東」信号交差点をクロスして進むと道は左に向かって大きくカーブ。

クロガネモチの赤い実がなんともさわやかな街道の名前は「しらす街道」。

大きくカーブしたところから、およそ2キロメートルほど走った先にあるのが「田子の浦漁港」。この田子の浦漁港の名物が「しらす」であることから名付けられたしらす街道である。

途中、飲み物を買いにコンビニに立ち寄った。コンビニの隣には、なんとしらす料理専門店が。割と大きな建物は網元直営の食堂ということで、漁にしろ店にしろそんなにも儲かるのかと感心してしまった。

コンビニ駐車場を出てからは、しらす街道を田子の浦漁港まで走る。田子の浦漁港では右折。新江川橋をわたり、道なりに進んでいくとすでにゲートは開いていた。ゲートを越え、そのまま公園駐車場に到着した。

駅前駐車場を出発。
駅前はレンタカーショップが多い。
しらす街道
田子江川と新江川橋
田子の浦漁港

幕の内弁当

午前10時10分、公園駐車場。

公園の名称は「ふじのくに田子の浦みなと公園」。

外は晴れている。

気持ちのよい晴天の空の下で、弁当タイムというのもありな気がするが、トンビに見られていそうで怖い。

いま風な言い方をすれば、これはトンビが悪いのではなく、その生息域に侵入していった人間の方が悪いのだということになって、食糧強奪の際にこちらは同情の余地も与えてもらえない。

鷹の目ならぬ鳶の目を避けて、車内の安全なところでゆっくりとその味を堪能することとした。

静岡の戦国武将、今川義元の駿河凧が描かれた駅弁は東海軒の幕の内弁当。

さっそくフタを開けると何とも彩り豊かに。

揚げ物も蒲鉾も卵焼きもウグイス豆も入っている。各食材が収められたトレーは白色で、その白色トレーの上で彩り豊かにおかず各色が輝いている。

美味そう・・・。もそうなのだけれど、豪華すぎて申し訳なくなってくる。

昨今の報道では、日本が貧しくなった。日本が貧しくなった。とばかりであるが、こんなにも豪華で文化的背景もふくんだ食べ物をあたりまえに口にすることができる国。日本。

貧しくなったと言っているヤツらは何をもって貧しいと言っているのか?

自由に車を走らせ、この場に来ることが出来て、食べ物を奪われない安全も担保され、世界中から届けられた食材を口にできる今の自分。

本当に本当に豪華な食事なのだということを忘れてはならない。

弁当をつくってくれている人。日本の人なのか?海外からの人なのか?

輸入食材の使用を考えればオールメイドインジャパンでないことは火を見るよりも明らかだ。

申し訳なさとともに完食。冷たくとも温かいという幸福感とともに。

東海軒の幕の内弁当。

ドラゴンタワー

駅弁を食べたあとは、富士山ドラゴンタワーに登ってみた。

ドラゴンタワーといえば、これからは年始の初日をひかえているという。伊豆半島のつけ根部分(発端丈山山頂よりも少し右のあたり)、山の稜線より上がる初日が見られるという。

もちろん、そういった特別な日でなくともここの展望デッキから見える景色は素晴らしい。

北向きには富士山と富士市の街並み。南向きには広大な海。

雄大な景色を望める展望デッキは、静岡県内、駿河湾眺望スポットとして間違いなくトップクラスにランクインするであろう。

これからの季節は冷たい風が吹くが、しっかり着込んでいけば問題ない。とくに、風を通さないようなアウターを一番外側に着ると、いやな寒さを感じずに楽しむことができる。

海の青さ。空の青さ。富士山の青さ。青さに染まる富士市のみなと公園。

荒天時をのぞけば間違いなく遊べる場所であると思う。冬場でも。

富士山ドラゴンタワー
富士山と富士市の街並み
駿河湾と伊豆半島
ツワブキが咲いていた。
花はしっかりとした黄色。
陽は暖かくも、風は冷たい。あしからず。

すどちゅうのあたり

午後1時、ふじのくに田子の浦みなと公園を出発。

来た道を折りかえすように田子の浦漁港、しらす街道、国道1号線「宮島東」信号交差点とつづく。

「宮島東」信号交差点では右折。

国道1号線に乗り東進。イオンタウン富士南を右手に見たあとには「江川」信号交差点を通過。

この江川信号交差点を過ぎたのちの「依田橋高架橋」は信号機の全くない区間。

橋上は東海道新幹線が並行して走ったり、富士市の工場群を望める。さながら高速道路のような雰囲気をもった快速道路は、富士東インターチェンジ、沼川橋もふくめ「桧町北」の信号交差点まで計れば、およそ5.6キロメートルにもなる。(江川信号交差点を起点とした場合。)

走れる展望デッキと言ってもいいくらいの心地よい快速区間。これを越えたあとには「中里西」信号交差点。

ここで左折し、2.5キロほど直進。岳南電車「川尻踏切」を越え、学校の校舎が見えたところで車を停車。

「すどちゅうのあたり」

富士市立須津中学校の辺り。略して、すどちゅうのあたり。

自身にとって、すどちゅうのあたりは静岡県東部地区を代表する伏流河川の名所。

須津中学校の道路挟んで反対側には須津川が流れている。

ここはいつ来ても伏流している。(と思い込んでいたのだったが・・・。)

流れはこの付近より約1.5キロほど上流にある「二ツ目橋」のあたりまで行かないと回復することがない。

当地は富士山の噴火物により地層が形成されているため、伏流が起きやすい。ならば元々はか細い流れなのかといえば決してそんなことはなく、上流の地表水ながれる区間は「須津川渓谷」と呼ばれるほど立派な谷あいが形成されていて「大棚の滝(おおだなのたき)」という、市内最大の直瀑まであるほどだ。

さて、

須津川の伏流のようすをカメラに収めようと川へ向かったのであったが・・・。

???

流れている。

今日はどういうわけか水が流れていた。しかも、かなりしっかりとした流れで。

???

ふたたび車に乗り込み出発。東名高速のガードをくぐると丁字路にさしかかった。

丁字路を右折し、そのまま道なりに進んだ。進んだ道のりは5キロ。

午後3時、大棚の滝第二駐車場に到着。

依田橋高架橋
画像左端が富士市立須津中学校。
すどちゅうのあたりを流れる水
それは今おもえば・・・、
この異常事態を伝えていたのか?(四ツ目橋)

須津川ダムへ

車から降りて準備をする。

寒さをしのぐため上半身にはレインウエアをはおった。

ウエーダーはアルミ製の背負子に。メガホンの入ったバッグとともにくくりつける。

午後3時15分、歩きを開始。大棚の滝、須津山休養林キャンプ場とつづいたのであったが、結果は画像のとおり。

11月2日に受けた豪雨により、須津山休養林キャンプ場より北の区間は林道が通行止めの措置。

本日は大棚の滝より上流2基目の堤体に入る予定であったが、堤体へとつづく林道を使用することが出来ない。

このまま帰ることも考えた。しかし、せっかくここまで来たのだからということで堤体を変更することに。変更先は大棚の滝下流の「須津川ダム」だ。

須津山休養林キャンプ場、大棚の滝、大棚の滝第二駐車場と、歩いてきた道をもどり、さらには車で走ってきた区間もふくめて少し行くと「須津山休養林案内図」まえ。

この案内図をかわして看板裏に入りこみ、護岸が途切れた地点から須津川に入渓した。堤体は入渓直後に。

午後3時40分、須津川ダム着。

げっ
川の様子をうかがいに滝見橋へ
滝見橋から大棚の滝
豪雨の爪痕が・・・。
須津川ダム

豪雨の爪痕

水はしっかりと流れている。

豪雨の激しい流れを食らったあとにも関わらず、とくに落水が左右どちらかに偏ったりすることもなくきれいに落ちている。

かとおもえば、堤体前。見れば凄惨たる状況。

どこにどんな石が並べられてあったかまでは記憶にない。しかし、明らかにこれは豪雨であるとか洪水であるとか、とにかく大水が出たあとの河川の姿であるということが見てわかる。

河床の石が強烈な水の流れに押されて動いた跡。動いた跡の起点には落ち込みができ、それより下流には泥質の底でヒラキが形成されている。

川石の球面は上面も下面も区別なく白い。石が転がったことにより、向きは天も地も無くなってしまったようだ。

もともとは左岸寄りであった流程の位置は変わりなく。対して流程の位置以外、川岸のなかでは流されてきた石が溜って、溜った石と石のあいだに砂が乗って陸地が形成されている。

陸地は足を乗せても崩れず、歩きやすい面が出来ている。この上に乗って歌ったりすることも考えれば、立ち位置の選択肢がひろがった。

主堤水裏
石がごっそりと流されている。
ここもかなり石が流されている。

大石の上に乗る

堤体前、立ち位置として設定したのは主堤から44.5ヤードの位置。

たしか・・・、

たしか、この大石は動いていないはず。

流れに踏ん張り、この場に留まり続けたか?記憶に微かに残る大石は豪雨に耐えきることが出来たのか?

大石の上に乗った。

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

気持ち良く鳴ってくれている。

落水ノイズとのバランスが良い。

堤体前の空間に響く音は堤体本体の落水、堤体より下流の落ち込み、瀬の三者によって支配されているが、その中に声を入れていって、音は壊されながらも残ってくれている。

たしかに堤体前はノイズでうるさい。しかし、声はきちんとその中に残って存在感を示している。

水の生み出すノイズと人間の声。

けっして「しっかり聞いてやれば・・・。」というほどの頑張りあってのことではなく、聞き流すように、イージーに聞くことができる。

水が鳴っていて、歌い手自身の声も鳴っていて、非常に心地よい空間が作られている。

この大石はたしか前からここにあったはず。
レーザー距離計のようす
方位はほぼ真北
微風
須津渓谷橋

ときに・・・、

この日は午後5時まで堤体前で過ごした。

豪雨の爪痕がのこる堤体前でのゲームとなった。

この音楽は水という自然物にかかわっているとともに、水そのものが川という、やはり自然物とともにあるのだということを認識する機会となった。

自然物である以上、演奏施設として人間が思ったようにすべてをコントロールすることはできない。目の前に用意された状況に人間側が対応することとなる。

ときに神経質に。

ときに楽観的に。

この日の場合は、非常に楽観的に堤体前を楽しませてもらった。

水の生み出すノイズの中で人間の声が響く、理想的な力関係の中で遊ぶことができた。

声を入れていけばすんなりと音が響いてくれる、やさしい堤体前で音楽を楽しんだ。

立ち位置は大石の上。

歌い手は考え、工夫する。

ざる菊園(小田原市久野)

どこへ行くにも自家用車ばかり。

近所のスーパーへ食料品を買いに行くとき。コンビニへ行くとき。外食へ行くとき。公園に行くとき。

もちろん歌える堤体さがし。砂防ダム等堤体類に出かけるときも自家用車の利用は欠かせない。

これが無くなってしまえばどこへも出かけられなくなってしまう。それどころか、ただの日常生活ですらままならなくなってしまうだろう。

自家用車があって、運転免許があって、好きなタイミングでどこへも出かけることができるからこそ、いまの生活が成り立っているといえる。

小田原駅東口

慣れぬ列車移動

11月17日、午前7時、神奈川県小田原市栄町。小田原駅東口。

まずは電車に乗る前に、食糧の確保。東口エスカレーターに乗り、駅3階の東西自由通路(アークロード)へ。

JR東海道線改札口のすぐ左側「駅弁屋和」にて弁当を購入する。

午前7時15分、駅3階通路を「伊豆箱根鉄道大雄山線」乗り場方向へ。

エスカレーターを使って2階まで降りると、大雄山線の改札口と切符売り場に到着。

自動販売機にて「飯田岡駅」までの切符を購入し、改札口より入場するとすでに停まっていた大雄山行きの列車に乗り込んだ。

始発駅でよかった。

慣れぬ列車移動。

普段やっている自家用車の移動と大きく異なるのは、乗りまちがいが出来ないということ。

あっ、間違ったな・・・。

ミスに気がついた段階で、すぐにUターンして引き返せるのが車移動の便利なところ。

電車のとき。バスのとき。しかし、これら公共交通機関に乗車してしまえばそうもいかなくなる。次の停車駅まで乗ってから降車し、引き返すための車両に乗り換えなくてはならない。

これが大なり小なり時間のロス。

ロスは田舎へ行けば行くほど、電車やバスの本数が減るためその幅も大きくなる。

絶対にミス出来ない。という訳ではないが、貴重な旅の時間である。楽しみを減らさないためにも正確な判断をし、安全な乗車に努めたいものだ。

小田原!の力強い文字。
駅弁屋和
大雄山線乗り場へ向かう。
伊豆箱根鉄道大雄山線
飯田岡駅へ

激坂!

午前7時34分、伊豆箱根鉄道大雄山線「飯田岡駅」にて降車。

小じんまりとした無人駅を出て、駅舎の出口とは反対側。西側を目指した。

駅のすぐ横「飯田岡第2踏切」をわたり、神奈川県道74号線に架かる歩道橋をわたると、住所は小田原市北ノ窪。

眼前には明らかな登り坂。

登り坂の以前にも以後にも見えている住宅街。しかし高級感が出てきた。

「○○台ニュータウン」

そんな呼び名が適当そうな坂道。いや、

激坂!

やれやれ・・・。

先ほど「正確な判断」やら「安全な乗車」やらウソブいたことを反省。

今はいい。こういうことは。

しかし!

自分自身もやがてはジジイに。運転免許証返納のそのときがくる。

公共交通機関オンリーの時代が待っているわけで、そこで老人の頭で正確な判断をし、安全な乗車を行い、降車後に待つニュータウンの激坂を登る場面が、今後の人生において待っているということだ。

歩くスピードは遅く、持てる荷物は今よりも減っているだろう。

ヨチヨチ歩きの老人のすぐとなりを猛然とかっ飛ばす地元車両。

ちなみに初段では書かなかったが、本日は自作メガホンの入ったバッグとウエーダーをくくりつけた背負子をせおった状態で歩いている。

どう考えても、老人には優しくない旅。

目的の堤体までたどり着くための旅。駅から駅への移動(もしくはバス停からバス停への移動)。それだけでも大変なことなのに、駅を出たらそのあとに坂道が待っている。

背負子をせおった老人の坂道あるき。見ていて心許ないことこの上ないであろう。

もし坂の途中で力尽きて倒れていたら・・・、人々はどう思う。

なんだコイツ。と?

世の中に迷惑をかけないためにも、自分自身しっかり堤体までたどり着くためにも、普段からそれ相応の体力をつけておかなければならないのだろうか?!

飯田岡第2踏切
うっ、坂だ!
激坂!
黄色!(エンジェルトランペット)
なんとか「おだわら諏訪の原公園」楠坂口までたどり着いた。

紅葉のいい時期に

午前8時05分、「おだわら諏訪の原公園」楠坂口。

北ノ窪の激坂を登り、なんとかここまでやって来ることができた。

これからの行程としてはまず公園内で朝食をとる。朝食はさきほど小田原駅にて購入した弁当。

朝食のあとは公園内にて自由行動。

芝生の広場に寝転がるもよし。同、走りまわるもよし。ベンチに腰掛けぼんやりするもよし。光と風の体験遊具で遊ぶもよし。全長169メートルのローラーすべり台で遊ぶもよし。

なんでもよし。

紅葉もよし。

カツラ、ケヤキ、アキニレ、サクラ、ハゼノキ、ドウダンツツジ。

ネムノキは紅葉せず、ちょっとずつ葉を落としながら冬に向かう。エノキは寒さに強いらしく、まだしっかりと色付いていない。

紅葉を眺めていたらいつの間にか太陽が出てきた。

日曜日の市民公園。

本日は晴天なり。

色とりどりの葉をながめていると、元気な歓声が聞こえてきた。

秋風を切り裂く高い声と長袖の子供服。

広場の色とりどりは、あっという間に子どもたちにとって代わったのだった。

相模こゆるぎ茶めし
紅葉のいい時期に。ラッキー!
中央がカツラ、右端とおくにあるのがケヤキ。
街は小田原市北部、大井町、開成町など
こちらは丘の上にある多目的広場。
ここからはバスに乗って西を目指す。

ざる菊園へ

午前11時33分、おだわら諏訪の原公園バス停。

バス停よりバスに乗車し、さらに西を目指す。

午前11時37分、「ざる菊園前」にてバスを降車。バス停より来た道を20メートルほど折り返すと、ざる菊園に到着。

ここは、2年ほど前に堤体さがしをしていたとき、たまたま見つけたところだ。

まずは正門前。

手書きの看板には、

「どうぞ中にお入り下さい」とある。

こんな文言が並ぶにはわけがある。ここは個人のお宅であるということだ。

圧倒的な白の明るさにつつまれた。

玄関へとつづく坂道の両脇に光り輝く菊の白。ひとつひとつのこんもりと盛り上がる玉は2尺~3尺ほどもある。

菊の甘い香りをかぎつつ玄関の高さまであがると圧巻。

菊の玉、玉、玉。

少し高い位置から見下ろすように、色とりどりのざる菊を見ることができる。

母屋の裏側。ここにも祭壇状に並べられたざる菊が。祭壇のいちばん前には長椅子が並べられていて、記念撮影が出来るようになっている。

長椅子は畑を見下ろす場所にも設置されており、腰掛けながらのんびりと花を見ることができる。

菊の深みある色彩に、ざる菊のやわらかな曲線が合わさる。

見事な玉の数々。

のみならず、大きな丸桶にはしゃぼんだま液が用意されていて、子どもが遊べるようになっていたり、お茶やコーヒーを淹れてゆっくりしながら花を楽しむことができる。

花にも饗にも充実のざる菊園。まさに円満。

小田原市久野。鈴木邸。

老若男女、だれでも楽しむことができるよう配慮がなされた完全無欠のざる菊園であった。

まずは正門前。
圧巻!
玉、玉、玉!
小さな花が集まってひとつの玉ができている。
お茶やコーヒーはセルフサービス。
看板ワンコも何やら誇らしげだ。

堤体に向かう

午後0時17分、ざる菊園前バス停よりふたたびバスに乗車。

午後0時19分、「和留沢入口」にてバスを降車。

和留沢入口バス停から西へ50メートルほど歩くと上河原橋。上河原橋より久野川をのぞき込む。

異常なし。

久野川左岸に平行する道路に進路をとり、やはり西を目指す。

午後0時35分、日向林道の看板前を通過。

午後1時05分、峯自然園の前を通過。

午後1時15分、林道の分岐点に到着。林道が3本に分かれるうち一番左側「舟原林道」を選択。分岐点から50メートルほど歩けば入渓点。入渓点の目印はタイヤ。

釣り人が付けたような踏みあととともに、数本の廃タイヤが捨ててある。

せおっていた背負子を降ろし、入渓の準備。ここまで履いていたスニーカーからウエーダーに履き替える。

メガホンのバッグからは登山用ポールを取り出す。

アウターとして着ていた5Lサイズのレインウエアは脱ぐ。レインウエアはフローティングベストを隠すために着用していたものだ。

午後1時25分、入渓の準備を終えると、踏みあとにしたがって坂を降りる。ほどなくして久野川に降り立つことができた。

入渓直後には舟原林道の橋をくぐる。

くぐった直後には狭い水路状になった区間。これをこえると目的の堤体が姿をあらわした。

和留沢入口バス停と、奥にあるのが上河原橋
久野川に平行する道を行く。
「日向林道」という林道らしい。
林道の分岐点。いちばん左(舟原林道)を選択。
入渓点の目印。タイヤ。
入渓点より。
堤体前へ。

張り出す岩

午後1時50分、堤体前。(堤体名不明)

水はしっかりと流れている。11月ではあるが、夏の渓の水量と言ってよい。

主堤、副堤。2段構成になった堤体。副堤の下流には護床工区間(およそ8メートル)がつづき以降、浅トロ、瀬になったところで右岸側に岩が張り出す。

この右岸側に張り出した岩によって立ち位置が制限される。計測してみたところ、岩の上流すぐを立ち位置として41.5ヤードくらい。これより下流は岩の張り出しを避けるために左岸側に寄ることを余儀なくされる。結果、これだと堤体に対して“ななめ撃ち”の体勢になる。

ななめ撃ちを避けるため、まずは41.5ヤードの区間に入り込む。

堤体に対して正対する。響きが得られやすい立ち位置としての実績に豊富であるからだ。

張り出す岩は立ち位置に制限をもたらす。
主堤に対して正対できる最大距離。
水はしっかりと流れていた。
副堤は高さ2メートルほど。意外に高い。
堤体前河床のようす

キッチリ空間

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

鳴らない。

主堤、副堤の2段構成になった堤体本体でねらうのは、主堤の放水路天端すぐ下のあたり。

ちょうどレーザー距離計の+のマークを当てている付近に向かって声を入れている。

鳴らないことがわかったところで、こんどは声をあてる位置を変えてみる。

が、やはり響きを得ることが出来ない。

立ち位置を変えてみる。

これもダメ・・・。

左右両岸、護岸されていることによってつくられたキッチリとした空間は、一見すると音が簡単に響いてくれそうなのであるが、どうも上手くいかない。

堤体本体と左右両岸には固い護岸。

コンクリート製の固い物質でできた空間といえば「トンネル」のようなものがイメージできるところ。そこでワワワッ!と声を入れてみたならば、結果は言わずと知れていると思う。

ところが、ちょっとした話し声でさえもよく響いてくれるような空間のイメージは、全くこの場には適用しないのであった。

堤体前主要ノイズ箇所。
右岸側護岸
左岸側護岸
鳴らない堤体前。無風。両者の関連性は?
堤体はほぼ真西の方位。

歌い手として得る一日とは

結局、この日は午後4時半まで堤体前で過ごした。

今回は、コンクリートの固い物質に囲われた空間の中で音楽を試みたのであったが、残念ながら響きを得ることは出来なかった。

堤体前の環境として一見簡単そうに思える空間も、実際に声を入れてみると上手くいかないケースがあるのだということを認識させられた日となった。

上手くいかない場合にどうするか。

立ち位置を変える。

道具を変える。

道具の使い方を変える。

環境の変化を待つ。

響きが得られそうな曲を選ぶ。

歌い手自身の頭で考えたことをまずは試してみる。試してみることで、良い結果に結びつくことがあるかもしれない。

これまでの自分自身の経験をもとに、あの場所ではこうだった。こうした。と、思い出しながら同様のことをやってみた。

しかし、芳しい結果は得られず。

万策尽きる。とはよく言ったもの。「尽きる」なのだから、成功している訳ではないが、ほんとうに万もの策略を持って堤体前に向かうことが出来ればこんなにも心強いものはない。

メソード。これもいろいろな業界でよく言われること。「方法・方式」を意味する言葉である。方法、方式にしたがって声を入れていけば、必ず響きが得られるという魔法は、その開発のときが待たれる。

やはり、まだまだこの音楽は未知の部分が多い。

堤体前まで苦労して行って、いざ歌ってみたときに全く響きが得られなかったでは楽しくない。楽しくない思いをしたくないから、歌い手は考え、工夫する。

考え、工夫することの楽しさ。

それは得られたかもしれない・・・。

楽しくない。を起源として、

楽しい。をやらせてもらった。

いろいろ試行錯誤させてもらい、楽しませてもらった。と、すれば有意義な一日であったといえよう。

試行錯誤。楽しませてもらった。
堤体前にちょこんと。
ちょこんと生えていた木はアカメガシワ。
ヤマグワ
ネムノキ

正確な予想

南巨摩郡富士川町箱原

駐車スペースをどうするか。

いろいろな目的地に行くときに、毎回どこに車を停めるのかということに迷う。

目的地とは堤体のことであったり、観光施設であったり、店であったり。

行き先が観光施設や店であったら、専用駐車場にそのまま駐車すればよい。

対して、行き先が堤体の場合。行き先が堤体の場合は、駐車スペースについて、ほとんどの場合が道路上となる。

堤体といえば、山間地域の交通量少ないところにあるもの。ならば車を通過させる。車を駐める。いずれの場合にしても、あまり競争のようにはならない。

たいていのところは路上駐車というものにあまりシビアでは無く、お好きな場所へどうぞという感が強い。

事業主や省庁が管理するような区域であれば、この限りではない。しかし山間地域全般、道路というものに対してはどこもおおむね寛容で、駐車禁止エリアのようなものは少ない印象を受ける。

自由に停められる場所が多い。

自由の許すかぎりの範囲で、法(刑事)、民事ともに犯さないような場所に停めることが出来ればよいであろう。

では実際、車を停めるときにどうするのか。

いちばんに目指すものといえば、堤体の至近に車を停めること。

堤体至近に車を停めることが出来れば、車を降車したあとの「歩き」の行程を最小限に抑えることができる。

なるべく歩く距離を少なくして、楽をしてやろうという算段だ。

まず、道路をよく見る。

道路をよく見て、車がきちんとすれ違えるような場所を見つける。

もちろんこれは堤体至近がいい。できる限り堤体に近い場所で。

そして、その見つけたところ道幅ギリギリに車を進入させ、駐車する。駐車ができたら車を降りて確認する。

後続する車両、すれ違う車両が問題なく通行できるような状況になっていれば、駐車は完了だ。

10月27日、あさは晴れ。その後はくもりの天気に。

超短編小説〔盗橙〕

10月27日、午前9時。山梨県南巨摩郡富士川町箱原。

やはり今回も駐車場所に迷った。

迷った末、車は大柳川右岸の未舗装区間に駐車することに。ここは集落の外れのような場所だ。

たとえばこんな話し・・・。

〔盗橙〕

ある町に一本の柿の木があった。

季節は秋。

柿の木は跳ねるような枝に、瑞々しい、ずっしりとした実を付けている。

ある朝のこと。

朝日を受けて橙に光る柿の実。

橙の明かり。その明かりに吸い寄せられるように一人の男がやってきた。

男は寒いのか、上着に来ているジャンパーのポケットに手を突っ込んでいる。

寒いわけはない。きょうは朝とはいえ、すでに気温が21.4度もある。

男は柿の木の下に立つと、何かを注視するように遠くを見ながら、小さく独りごとを言っている。

金襖子が虫を食む瞬間はとても早いらしい。

突然、男は自分の頭上にある橙に手を掛け、腕の力で引きよせるようにその実を枝ごと強引に引っ張った。と、次の瞬間には力強く実を手折ったのだった。

男は、鋭く引きよせた腕をジャンパーのポケットに仕舞い込む。

近くに停めてある車のハザードランプが光った。男の車だ。

男は静かに歩み出すと、次の瞬間にはもうすでに運転席の中にいた。

車のエンジンが掛かり、走り出す車。

男の車の後部座席には、横一列きれいに並べられたコンテナと、満杯の柿の実が同乗していたのであった。



駐車スペース選びというのは正確な予想が必要であると考える。

単に車がきちんとすれ違えるようになっていれば良いというものではない。

地域住民の気持ちを読むこと。その場に置かれている車を見て、その地域に住む人々がなんと思うのかを予想する。

正確な予想は難しい。

自分自身にとっては毎日乗って見慣れている自家用車であっても、地域住民にとっては見慣れない車。不審車両が停められているという判断を下されてしまうかもしれない。

怪しい車に間違われないために。

できる限りの努力。

集落の外れに駐車した。

こちらが午前中行きたかったところ。
網にバケツにプラケース。電池式のポンプも。
アブラハヤ
アブラハヤほか。
こんな狭い水路にいる。
午前中いっぱいは魚捕りをして遊んだ。

大柳川の谷に分け入る

午後0時。

柿ドロボウではなく、この日は魚捕りに出かけていたのだった。

午前中いっぱい遊んだ魚捕り。

午後0時半、富士川町箱原を出発。

石鹸か?ハンドソープか?

自家用車のハンドルを握る手からは猛烈な匂いがしている。

これは異臭騒ぎに該当するような匂いではない。幼少期にはよく嗅いでいた匂いだ。

手にべっとりと付いたアブラハヤのぬめりを嗅ぎながら、大柳川の谷に分け入った。

午後1時。富士川町かじかの湯に到着。

真っ先にトイレへと駆け込んだ。

ハンドソープだった。

流水で匂いが消えるまでしっかりと手を洗った。

富士川町かじかの湯
あったー!
なにやらウマそうなのを発見。
ほんとうにウマかった。
地元の観光情報もゲット!

本日は新規開拓

午後1時50分、かじかの湯を出発。

申し遅れた。今日の堤体は、新規開拓の堤体だ。

なるべく早くに到着して、現場の状況をいち早く把握したいという思いがある。かじかの湯はたしかに建物内に入った。しかし、浴場ののれんはくぐっていない。ハンドソープで手を洗ったことと、昼食を摂っただけ。これで充分。先を急いだ。

午後2時、「十谷入口」バス停前を通過。

午後2時5分、つくたべかん前を通過。ここは当地域の伝統食「みみ」が出されることで有名らしい。今回はお預けとなったが、また機会を見てぜひ訪問してみたい。

午後2時10分、民宿「山の湯」まえを通過。

午後2時15分、林道五開茂倉線林道ゲート前に到着。

カラフルな風ぐるまがクルクル
「十谷入口」バス停前
つくたべかん前
民宿「山の湯」まえ
林道ゲート前

着衣のもの足りなさ

車から降りて入渓の準備。

川へ立ち入る際に必要なウエーダー。ウエーダーはどのタイミングで履くかということを考える。

この場ですぐに履き替えるというのが一つの作戦。

もう一つの作戦は、まずとにかく靴を履いたまま堤体に向かう。肝心のウエーダーはアルミ製の背負子にくくりつけてせおい、堤体の直前にたどり着いたタイミングで履き替えるというもの。

目指す堤体は、林道ゲートよりおよそ1.5キロ歩いたあたりにある。

測ってみれば気温は17.2度。肌感覚的にはTシャツ1枚でちょっと寒いくらいだ。

この場でウエーダーに履き替えることにした。

但しこれも条件つき。

上半身は半袖のまま行くこと。何となく想像できるのが、上半身長袖を着たあとに待っている大汗ダラダラの展開。ちょっと寒いと感じる着衣のもの足りなさ。しかしそれを歩行運動にともなう体温上昇によって補完することが狙いだ。

ほか、フローティングベスト、ヘルメット、動物よけのホイッスル等を身につけ、さらに登山用ポールを片手に握ったところで準備完了。

午後2時35分、林道ゲートを越えたところで歩きをスタート。

林道はゲートから500メートルくらいの区間で針葉樹の下を歩く。500メートルを越えたあたりで堤体(堤体名不明)の堆積地を見下ろすようにあるき、それと同時に木は広葉樹に変化する。

林道のカーブに差しかかる手前では動物よけのホイッスルを吹く。吹き方については目下研究中である。

ところどころ紅葉で色づく木々を見ながら目的の堤体を目指した。

午後3時25分、林道と大柳川が平行する地点にて堤体(堤体名不明)を発見。

前半は針葉樹の下を歩く。
途中から空が開けた。
ガマズミ
ところどころには紅葉している木が。
こちらはマルバアオダモ
目的の堤体を発見。

扇子状に広がっていく空間

林道ガードレール下およそ20メートルのところに大柳川の河床があり、そこから上流100メートルほどに堤体。堤体は二段構成で、上段は目視で分かるほど方位が反時計回りにズレている。

両者が副堤、主堤の関係であるのかは定かではない。しかし、距離的にもほとんど離れていないことと、左右両岸、岩壁でひとまとめに覆われていることからすると、二基一組と考えて声を入れていくのが妥当といえそうだ。

堤体二基をまるまる飲み込むほど岩壁は鈍角にもり上がり、上層部分には渓畔林を配している。

いちばん下には狭い水路。そこから上に行くにしたがって扇子状に広がっていく空間。空間は最後、広葉樹の枝葉によって天井が仕立てられ、適度に空からの光を遮断する。

難点が唯一。唯一、下段側の一基の放水路天端に割れが見られる。

放水路天端の下流カドが割れてしまっていて、その部分に左右両岸側から水が集まるように流れ込んでしまっている。

割れの影響として、本来湛水で帯状に落ちるはずの水が、棒状に変化してしまっている。

堤体前が全体的ににぎやかということもあり、棒状放水によるノイズ面での影響はほとんど感じられないが、落水そのものの見ためとして、暴れるように落ちていく様が決して美しいとは言い難い。

地面につかまりながら慎重に降りる。
堤体前へ。
下段側の堤体は、中央部分が割れて水が集まっている。
距離(下段側の堤体。)
距離(上段側の堤体。)
風は微風が断続的に吹いた。

予想は・・・、

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

良く鳴る。

両岸にもり上がる岩壁は、入れた声を素早く返してくれる。

声をしっかり拾ってくれ、

拾った声を失わないで返してくれる堤体前ができ上がっている。

空間は水のノイズでにぎやかな状態であるのに、そのなかで声を響かせて歌をしっかり歌うことができる。

空間の扇子の芯の部分について、その狭くしぼられた水路にともなう激流ノイズでは、中できちんと声が響いてくれるという不思議。

大きな岩壁の中に転がり込んで、入れた声のすべてがノイズに飲み込まれてしまうくらいの状況を予想したのであったが、予想は外れた。

声を入れたときに、響き作りをアシストしてくれる岩壁が左右両岸に待っていてくれたのである。

白く泡立っているあたりは、かなりのノイズであるのだが・・・。
右岸側
左岸側
渓畔林によってもたらされるのは天井。

正確な予想ができるようになると

結局、この日は午後5時まで堤体前で過ごした。

とにかく今回は、堤体前の見ためから受ける印象と、実際声を入れてみた時とのギャップが大きい堤体であった。

あちこちの堤体に出掛け、歌うという行為を繰り返していても、まだまだわからないことが多い。

砂防ダム音楽家という専門であるならば、堤体前における響き作りについて、その時どのような展開が待っているのかを判別できるスキルが必要であると日々感じている。もちろんこれは、実際声を入れてみてということではなく、その堤体前の様子を見ただけで結果を予想できるスキルということである。

正確な予想ができるようになれば、

新たに待つ世界。

響くのか?響かないのか?

正確な予想ができるようになりたい。そのもととなるのは観察力。

水がどう流れている。

木がどう生えている。

岩がどうなっている。

風がどう吹いている。

いろいろなものをよく観察することで、予想が正確になる。予想が正確になるということは、予想が当たるようになるということ。

予想が当たる。このことは堤体の音楽の新たな楽しみに繋がるのではないだろうか。

その領域に到達するために。

堤体前に立って歌うことが楽しく、さらにプラスして、予想が当たるという新たな楽しみが待っているはずだ。

こうして見ていても、鳴ったという事実が信じがたい。
ヤマツツジ
チドリノキ
ミズナラ
ヤマボウシ

大好き河津町!vol.23

小さな湖

10月13日、午前8時。荻ノ入川砂防ダム横駐車スペース。

この日のために用意した虫捕り網と虫かごを車内から取り出し、ウエーダーを履いて堆積地に向かう。

気温は日なた27.7度、日かげ21.5度。

予報では今日一日晴れるらしい。

さわやかな秋晴れの一日に期待しつつ、積み上げられた土砂で出来たスロープを降りた。

荻ノ入川砂防ダムの堆積地

堆積地に立つ

午前8時すぎ、荻ノ入川砂防ダムの堆積地。

ほぼ真っ平らに見える堆積地は、わずかな傾斜があり上流から下流に向かって水が流れている。

川のほぼ中央にできた瀬から、堤体方向にむかって流れる水。

流れが堤体区間に差し掛かるだいぶ前では、川は右岸側に分流し小さな湖を形成している。

通常、湖は静まりかえる。だが、上流に出来た瀬と、天端から一気に流れ落ちる水によって生じたノイズで辺りは騒がしい。

情景と音にミスマッチな湖。

しかし、そのような光景を見てほくそ笑んだ人物とは自身のこと。

湖の水。と、上流から下流へ途切れることなく流れる水。両者は堤体本体を通過する区間、しっかりと放水路天端を覆い込むように流れている。

天端の下流にできたカドまでは鏡のような水面。しかし、カドを越えた瞬間、マジックのように消息を絶つ水。水は下に向かって落ち、景色の中から突如として消える。

これは堆積地に立ち、堤体本体側を向いていると見える光景。

だが、このような状況を当たり前に思ってはいけない。

今回おとずれている荻ノ入川砂防ダムのような重力コンクリート式の堤体は、ほとんどの場合「水抜き」と呼ばれる穴が堤体本体に付いている。

上流より流れてきた川の水はすべて堤体の放水路天端上を通過するのではなく、そのうち幾らかを水抜きによって逃がしている。

問題となるのはその逃がしている水の割合で、上流より流れてきた水の全量。つまり100パーセントを水抜きによって通過させている堤体というのが多く存在する。

透過型と呼ばれる形式の堰堤・砂防ダム。その通常稼働状況を見ているといってよいが、放水路天端上を覆い込むように流れる(湛水という。)ときと、こういった場合とでは落水によるノイズに大きく違いが生じる。

・水が堤体の放水路天端上を湛水し、通過している場合。

・水が全量水抜き(水抜きの穴は通常、2個以上複数ついている。)にて堤体を通過している場合。

水が堤体区間を通過するときの2つのパターン。歌い手として、いま現在、堤体と堤体区間を通過する水との関係が、この2つのパターンいずれの状態であるのかをしっかり予測した上で堤体前に立つようにしたい。

理由は、落水により生じるノイズに大きく違いがあるから。

・音の発生周期の違い。

・音の周波数の違い。

・音の発生場所の違い。

ノイズという音環境の違いのみならず、落水そのものの見ための違いがあることを加味すれば、歌い手の心情におよぼす影響として、その差はさらに大きいものだということがわかる。

落水の状況を予測すること。予測にはその堤体の過去の訪問歴を用いるほか、グーグルマップの航空写真でも確認することができる。(確認できる場合がある。)

そして落水の状況がある程度予測できた後に、堤体選択の段階に移ることが出来る。

軽いノイズ、重いノイズ。

やわらかいノイズ、かたいノイズ。

弱いノイズ、屈強なノイズ。

いずれの音。どんな音がノイズとして欲しいのか?

どういった音環境のなかで音楽を楽しみたいのか?

堤体をおとずれる計画段階のうちから歌い手自身の理想をイメージし、それに見合った堤体を選び出すことから旅ははじまる。

堤体本体側を向いていると見える風景
銘板
左が全量水抜きから抜けている場合、右が湛水の場合。
透過する水では棒状放水。湛水では帯状に放水。

気持ちに余裕

午後0時。

午前中いっぱいは虫捕りをして遊んだ。やはり予報に違わぬ晴天の空のもと、残り少ない暖かな季節の空気を感じながら、堤体の堆積地に立って遊ぶことが出来た。

こんな風に余裕でいられるのも、水がしっかりと放水路天端を覆い込むように流れているその光景を確実にその目で確認しているからである。

午後0時半、昼食のため堆積地を上がることに。ふたたび積み上げられた土砂で出来たスロープを登り、駐車スペースへ。

持ち出した虫捕り網と虫かごを車に積み込み、ウエーダーから靴に履き替えエンジンをかける。

車を河津七滝の温泉街に向けた。

虫捕り網と虫かご
オオカマキリ
ミヤマアカネ
モンシロチョウ
カナヘビ

出合茶屋へ

午後1時10分、河津七滝・町営駐車場まえ。

この日は3連休の中日ということもあり、町営駐車場まえは駐車待ちの車で渋滞状態。「満車」と書かれた立て看板。さらに赤い棒を持ったガードマンが立って、駐車場へと上がる坂の前にて車を誘導している。

午後1時20分、渋滞をクリアしなんとか駐車マスに車を停めることが出来た。車を降りて出合茶屋に向かう。

午後1時25分、出合茶屋に到着。しかし、店は“オーダーストップ”とのこと。とりあえず店員に確認し、いったん店を出ることにした。

この日は、昼食後に初景滝まえで記念撮影を予定していた。しかし、店のオーダーストップを受け、予定変更。急きょそちらへ向かうことにした。

午後2時、初景滝まえに到着。無事、記念撮影をすることができた。

午後2時20分、ふたたび出合茶屋へ。テラス席にて昼食をとる。このタイミングで食事が出来たのはおよそ1時間前に店に来たとき、しっかり店員に確認したからである。郷に入りては郷にしたがう。店員の話はよく聞く。ネット情報には16時閉店とあるが、宛てにしないでまずは自分の口でしっかり尋ねるようにしたい。

出合茶屋
猪汁わさび丼セット
初景滝まえ
11月20日は滝まつり。
おすすめは出合茶屋!

転ばぬ先の杖

午後3時半、ふたたび荻ノ入川砂防ダム横駐車スペースに戻った。
車から降りて入渓の準備。靴からウエーダーに履き替え、上半身にはフローティングベストを纏う。

本日の重要アイテムとしては片手に携える登山用ポール。荻ノ入川砂防ダムの下流部は流路形状に直線的で流れが衰えにくい。さらに、川底に沈む乱形スリのような石はフェルト底のウエーダーであってもかなり滑りやすい。

“転ばぬ先の杖”である登山用ポールの補助を受けることで、より安定性高く川の中を歩くことが出来る。

午後3時50分、荻ノ入川砂防ダム横の林道から堤体前に向かって斜面を降りる。斜面には踏み跡がついている。釣り人や野生動物によって付けられた踏み跡だ。

午後3時55分に堤体前着。

放水路天端を湛水する水。
湛水することで横一線、帯状になって落ちる。
放水路天端の下流カドに隙間ができている。
北西向きの堤体。

「瀬」とは

水はたっぷりと流れている。

今、この場所に降りてくる前、堤体のほぼ真横から水が放水路天端の底を切って空中に投げ出される様子を確認してから来ている。

天端の下流カドに隙間ができていた。それほど水の流れは厚い。

水タタキに落ちてからの水はいったん側壁護岸のなかにプールされる。プール内にはノイズ要因となるような瀬は一切見られない。瀬がはじまるのは主堤から50ヤード下ってからの区間。

建設重機タイヤサイズ大の石が転がる区間は、減水時には蛇行。しかし、本日ほど水量が多ければ、頭の低い石については丸ごと飲み込むようにして水は流れる。

川の流路は直線的になり、また、石を飲み込んだすぐ下流にはピンポイントで水の落ち込みができる。そして落ち込みができた場所にはノイズが発生。

ノイズの発生源が多数見られる。それらを複数まとめて面になった場所が「瀬」である。

足元からの騒がしさは保証された。渓流区間のノイズのなかで鳴らす音楽の楽しみをじっくり堪能できることが期待される。

果たして?

荻ノ入川のたっぷりとした水の流れに対して、人の声で響きが作り出せるかどうか?

これから実際、声を入れてみて検証することとなる。

堤体前のようす
堤体前にできた瀬
スギ
タブノキ
ケヤキ
両岸のスギが高く、光をしっかりと遮断してくれている。

声は渓畔林を迂回する

自作メガホンをセットし声を入れてみる。

一番最初に立ち位置として選んだのは堤体から78.8ヤードの地点。

鳴らない。

やや右岸寄り。水面に露出した石の上から挑んでみたが、全く声が響いている感じがしない。

立ち位置のすぐななめ後ろでは、この堤体前で最も有力な瀬がノイズを放っている。やはり影響力は相当大きいようで、迫ってきていている音によって自身の耳は耳栓状態になってしまっている。

歌っているにも関わらず、その声が響きとして聞き取れない。立ち位置を変えてみる。

次に立った場所は堤体から87ヤードの位置。

主要な瀬よりも下流側に立った。ふたたび声を入れてみる。

堤体前に広がるノイズ。その音のデカさ。しかし、そんななかで声は残ってちゃんと響いている。

両岸には渓畔林。

堤体前の直線的な空間のなかで響く声は、歌い手の口から放たれて広く横(両岸側)を迂回している。

声が渓畔林に当たっている。とくに左岸側は勾配がスローで林密度も高すぎない針葉樹の林。いかにも風通しの良さそうな林のなかに声がスムーズに入っていく印象が強い。

ノイズの強かった瀬。
右岸側
左岸側
最初に立った位置が78.8ヤード。
風は吹いたり、止まったりという展開。

変化する堤体前

結局、午後6時まで堤体前で遊んだ。

この日は、一日のほとんど多くの時間を荻ノ入川砂防ダムとともに過ごした。印象的だった出来事といえば、朝一番の堤体本体のインスペクション。

堤体の放水路天端をしっかりと湛水する水。その様子を見てとることが出来て安心した。

じつは今回おとずれた荻ノ入川砂防ダムについて、今春にはすでに来ていて、そのときには水は湛水していなかった。水は堤体本体に設けられた10ヵ所の水抜きから全て抜けきっている状態で、穴から棒状放水したのち、下の水タタキに向かって激しく打ちつけている光景を目の当たりにしていたのだった。

それから季節が過ぎ、春から秋へ。

この10月までの間に当地では台風を筆頭に多くの雨が降り、それに伴って多くの土砂が堤体上流の堆積地に供給された。結果、現在は堤体本体について水が湛水しやすい状態が形成されている。

自身好みのことをいえば、いま現在の放水路天端から湛水している状況というのが、ノイズの質についても、落水そのものの見ためにおいても心惹かれる堤体のすがたである。自分自身に嗜好があるなか、今回はそのような状況のなかで歌えて非常にラッキーであった。

変化する堤体前。

やはり、自然を相手にしている以上「運」がつきものであるということを忘れてはならない。

水の量、風の吹き方・強さ、渓畔林の葉の量、つる性植物、草本、天気、太陽の位置。太陽の位置が変わるならば堤体前の明るさも変化する。あとは滅多に変わらないけれど石が動いて渓相が変わったり、護岸が崩れたり、斜面が崩れたり、倒木が生じたりする。

つねに状況が変化するなかで、まずは自分自身が歌いたいと思うような堤体前に立つことが出来てよかった。

この川については今後、冬に向かって徐々に降水量が減り、水の量も減少の一途をたどるであろう。

そうすればまた、堤体通過時の水が棒状放水の状態に戻ってしまうことも十分に考えられる。

湛水する堤体で遊びたいならば今がチャンス。

歌のプレーヤーにとっていちばん好きな堤体に出会うために。演奏施設となる堤体前の「いま」を予測したのち、実際に現地をおとずれてみたい。

この秋のシーズン。良い状態の良い堤体で良い歌を。すばらしきミュージックライフが展開されることをを祈っている。

78.8ヤードの立ち位置。さすがにノイズ源が近すぎる。

透明人間

ドイツトウヒの木。勝沼中央公園にて。

ドイツ・リートというジャンルが好きなもので、堤体前で歌うのは専らドイツ・リートである。

したがって歌で扱う言語はすべてドイツ語。

これが難しい。

一つ一つの名詞に性が付くこと。男性名詞、女性名詞、中性名詞のうちいずれか一つ。

名詞にいずれかの性が付くことが分かったところで、冠詞が格によって変化すること。

同様に、名詞にいずれかの性が付くことが分かったところで、つづく動詞、形容詞が人称や格によって変化すること。

名詞の性によって変化した冠詞はさらに前置詞にくっついて融合形をなすこと。

複合語を理解すること。

この言語の難しさのなぜを一つ、二つ、と挙げていくと止まらなくなってしまう。

歌曲の元になった詩が一体なにを言わんとしているのか?詩が伝えようとする想いや情景を理解したいという願望あってはじめた語学学習も、目下休止中という状況である。

今まで自分が歌ったことのない歌に取りかかるときだけ、あらためて単語を理解しようと翻訳アプリの結果に注視したりはする。

おおざっぱに詩を解釈しようと程度には頑張るけれども、例えばドイツ語検定のような認定試験を通じて、語学基礎能力全般を向上させようといった取り組みには全くもって疎くなってしまった。そもそも、

ドイツ語が出来るようになりたいか?

という問いに対して自分自身、明快に「はい。」と返事が出来るような性格には到底、おもえない。苦悩するのは、出来るようになりたいか?という問いに対して単純回答すればいいところしかし、前述した言いわけのような文句を脳内再生あれやこれやといちいち応戦してしまうことにある。

こういったところは自信満々、「はい。」とすっきり返事ができる人のほうが清々しくてよい。今現在どれだけこの言語の語学力を有しているか如何にかかわらず、そういった人はすごいと思うし、ならばすでにこれは才能持ちであると言ってよいのではないかとも思う。

語学が出来るようになりたいという願望をしっかり学びの機会へとつなげられる人。

学びへの意欲という才能。

簡単なようであって、しかし、誰もが持っているわけではないもの。

意欲というたったそれだけのこと。しかし持ち合わせるのは容易でない。

うらやましき才能である。

勝沼中央公園

勝沼中央公園

9月7日、午前8時。山梨県甲州市勝沼町、勝沼中央公園。

ここは中央公園というだけあってちょっと広めな公園。

公園といえば公園樹。公園樹といえば樹木観察。樹木観察といえば図鑑。

図鑑を持って樹木の同定にスタート!

樹の名前を知ること。樹の名前を知ることといえば、普段フィールドで行っていることと同じだ。

自身が堤体前、もしくはそこにたどり着くまでのあいだに見た樹木について、その名が分からないときには図鑑を開いてどんな樹か?と調べるようにしている。(ただし、これは時間に余裕があるときだけ。)

これが砂防ダム音楽家にとって本当に必要なスキルなのかどうかはわからない。そもそも、歌うために堤体前に立つこと。その大義は遊びであり、遊びという絶対的決まりに照らし合わせてやっていいことなのか、ダメなのか?そこは慎重に判断されなければならないはずだ。

学問やりに来ました。勉強しに来ました。みたいなことを現場で言うのがそもそも嫌だ。

植物学は不要。

したがって、堤体前に繋がる日常生活の樹木。たとえば公園樹や街路樹、庭木などを用いて樹木に造詣を深めること。予備学習として、公園に生える木を観察したりする行為は基本的に必要ないといえる。

つまりのところ必要ないことをやっているということ。必要ないとしながらも続けているのは、

学びへの意欲?

木を見ると、この木はなんという木なのか知りたくなる。

観察の場所を変えるたびにいろいろな木と出会う。

あの場所にあった同じ木がここにもあるという偶然に出会ったり、似たような木なのだけれど生育する温度帯の違いで、異なる種類であったりすることがおもしろい。

例えば、使用している図鑑の著者が北海道で撮影したという写真の葉と同じものを山梨で見つけたりすることがおもしろい。

もちろん、今まで見たことの無かった新しい木に出会うことはめちゃくちゃ楽しい。

いろいろな木が知りたいという願望を学びの機会へとつなげられている。

・・・、

才能か?

南エリアはシラカシ並木。
勝沼中学校側はミニ学習林の様相。
ちょっとした遊具もある。
トイレは最新機種に入替え済みで新しい。
勝沼中央公民館側のトウカエデ並木。

慶千庵

午前10時50分、勝沼中央公園を離れ、昼食に向かうことにした。

気温35度。猛烈な暑さのなか選んだ昼食は「ほうとう」。(暑さに負けないように、温かいものを食べよう!)

中央公園ちかくに「慶千庵」という店があることをスマートフォンで調べ、歩いて向かうことにした。

午前11時10分、慶千庵に到着。店の門をくぐり抜け中に入ると、すでにヒトダカリ状態ができあがっていた。

店の姐さんが客の名を呼んでいる。どうやらこの店は入り口のところにウエイティングボードがあるらしく、さっそく記帳しに行ったのであるが、驚いた。

入り口玄関のすぐ横に氏名を書くバインダーがちょこんと置かれている。

バインダーの紙には罫線マスで区切られた紙が挟まっている。また、罫線マスの一番左側には1~20の番号が振られていている。問題は、もうすでに16までの数字が氏名で埋まっているということだ。

17の右に「モリヤマ」と記入し、待つことに。

やれやれ・・・、

この待ち時間が飽きなかった。門から玄関までの通路は30メートルほど。その通路と両サイドは見事な庭である。庭というのだからもちろん木もある。

木のことは先ほど中央公園で一区切りやってきたつもりであったが・・・。

結局ここでまた“再スタート”することになり、脳を活性化され、適度な疲労感とともに時間をつぶすことになった。おかげで腹が減った!

その後は名を呼ばれ、無事ほうとうにも逢りつくことができた。

店を退店する際、依然として多い来客には心底びっくりしたが、逆を言えばそれだけ大勢の人が、この見事な庭に接しているということ。味にも見映えにも儲けさせてくれる店であった。

昼食は慶千庵へ。
大きなウメの木
ナルコラン
ヤブラン
カリブラコア?
かぼちゃほうとう

堤体に向かう

午後0時20分、堤体に向かう。

慶千庵の門を出て、南へ200メートルほど歩いた。目の前には本日入渓する日川。ぶどう橋より日川の様子をチェックする。

異常なし。

ぶどう橋より再び慶千庵の店の前を通って、勝沼中央公園駐車場(勝沼中央公民館駐車場)へ向かう。

午後1時10分、勝沼中央公民館駐車場にて車に乗り込み駐車場を出庫。「勝沼地域総合局入口」信号交差点から旧甲州街道を東へ。

午後1時20分、「柏尾」三叉路より国道20号線に連絡し東京方面へ。

午後1時半、国道20号線「景徳院入口」信号より左折し、山梨県道218号線に入る。

山梨県道218号線にしたがって進み、砥草庵まえ、日川渓谷レジャーセンターまえ、天目トンネルなどを通過。

午後1時45分、やまと天目山温泉の日帰り入浴施設入り口にある「天目橋」のさらにもう一本上流側「六本杉橋」をわたってから700メートルで天目山駐車場。(ここはトイレがある。)

天目山駐車場からは4.1キロの行程。天目山荘、高山荘、嵯峨塩館といった民宿・旅館の前を経由して到着するのは川に降りられるスロープの入り口。当日はスロープに立ち入り禁止の紙が貼られたバリケードがあったため、さらに100メートルほど進んで道幅の広くなったところに車を駐車した。

ぶどう橋
ぶどう橋から日川
堤体に向かう。
山梨県道218号線を行く。
日川に沿って山道を登ってゆく。

観察センター

午後2時、車から降りて入渓の準備・・・、いや、眠い!

やっぱり今日は頭を使いすぎている。頭の中にある樹木名を取り出したり、また取り入れたり。名をすでに知っている樹木であっても、図鑑に書かれた生態のことを読んだりしていて、さすがに疲れた。

木を見ることは楽しいのだけれど、やっぱりあれこれ頭を使うので疲れる。ここだけはどうしても避けて通れない難しいところだ。

車のシートをリクライニングにし、午睡をむさぼった。

午後2時20分、むくっと起き上がり入渓の準備。

車の後部ドアを開け、バックルストッカーからウエーダーを取り出す。おもむろにウエーダーに履き替えると、履いていたスニーカーを車内へ。

空を見ると曇っている。

夏山はいつだって安心できない。履いていた靴ぐらい干してから出発したいところであるが、突然雨が降ってくることもあるので空には見せられない。隠してから行く。

午後2時50分、ウエーダー以外の装備も整ったところで出発。まずは道路を歩いて銘板を撮りに向かう。

山梨県道218号線の道路路肩沿いには谷から生えた木々の枝葉がちょうど同じ高さで延びている。あれやこれや樹木の観察センター状態になってしまっていて、ここでついつい足が止まる。

ん?

なんとよくよく見てみれば、ブナとイヌブナという二つの似て非なるものが揃って展示されているという偶然が!ホントにこれが自然散布によるものなのかどうか疑いたくなるくらい優秀な観察センターである。

午後3時20分、銘板の撮影と観察センターの見学を終え、いよいよ谷を降りるときが来た。

谷は登山用ポールの補助を借りながら降下する。目に見えているルートを行くこと、大きな石には決して乗らないことを条件にあせらずゆっくり行けば誰にだって降りられそうな坂だ。とにかくあせらずゆっくり・・・。

寸刻、下り坂と格闘したのち河原まで降りることが出来た。

銘板
道路の高さと枝葉の高さがちょうど良い。
もはや観察センター状態に。ミズナラ。
ブナ
イヌブナ

ゴー!

午後3時半、川を見て驚いた。激流。

当地点からおよそ3キロ上流には上日川ダム。川の様子から察するに本日は上日川ダムのゲートが開いている。しかも、暫く水を貯めてからの解放であることが目の前の状況から推察される。

放水路天端から落ちる水によって発生する、爆音ならぬ瀑音があたりを包んでいる。

ゴー!

とも

ドー!

ともつかない音によって。

いや、音というよりも空気の振動そのものに全身が包まれているような感覚に近い。

全身に迫ってくる震動は、耳には音の耳栓を嵌めたように作用している。

これでは堤体前を鳴らすとか、鳴らさないとかそういうレベルの話しには到底ならないだろう。無理だ。

河床の洗掘にともなって側面崩れたあたりは若干えぐれていて、音が和らぐか?と思い対岸に移ってみた。しかし、全くそのような効果は得られなかった。

これはダメだろう?

とにかく、今日は歌って空間を鳴らせるような状況にはない。

上流より襲来する水の多さを眺めつつ、途方に暮れる。

嵯峨塩4号堰堤

どうにもならない状況

午後3時40分、自作メガホンをセットし声を入れてみる。

すでに歌う前からどうにもならない状況であることはわかりきっているところ、それでもやってみようという気持ちが失われず準備をしてみた。

声を入れてみる。

が、

やっぱり・・・、鳴らない。

声を発する楽しさは得られていようか?とりあえずは声が出せている。大いなる相手を前にして。

歌うという行為そのものはいつも通り出来ている。

しかしいつもと違うのは、音が鳴らないという状況。と、鳴らない状況をつくっている原因が、圧倒的な水の量にあるということ。

たしかに鳴らない。しかし鳴らないけれど歌えなくなるわけではない。

北方系。日が堤体を直接照らさない時間が良さそう。
高い堤体では長めに距離を取る。
空気は程よく動いている。
強い流れ。下流側。

これはもったいない?

結局、この日は午後5時半まで堤体前で過ごした。

いやはや、こんなタイミングで現場を訪れることになろうとは思ってもみなかった。

ノイズ・・・、というより空気の振動に全身が包まれているような環境で声を入れていくという体験が出来たことはよかった。

しかし、声を入れるからには響きとして音が還ってくるような状況の方がありがたい。

これが、通常、音楽的な楽しみかた。

プラス!

では、与えられた状況下そこから遊びを作り出すという工夫ができるかどうかが、今後の課題なのではないかと思った。

歌えなくなるわけではない。ということが再確認できたなかで、ならばその状況で歌い手が持ちうる限りの能力を用いて、道具の力も借りて、こんな日でもゲームとして成立させていけるかどうか。

物理的なもの、精神的なもの。解決にはどちらが必要か?もしくは両者ともに必要なのか?

演奏施設である堤体前を無駄なく使えているか?

歌い手自身、堤体前がときに遊びのベースを違った形で提供してくれることに気がついていなかったらこれはもったいない。こういった状況下でいかに遊べるようにするかもプレーヤー側は問われているかもしれない。

激流の日であった。

無理だ。ダメだと言った。しかし、

もしかしたら逃してしまった大いなるチャンスだったかもしれない?!

学びへの意欲という才能。

とは、冒頭のはなし。自分じゃ絶対に無理だと思ったことをやってのける人がいるのもまた世の中のおもしろさ。たのもしさ。

ならば、常にもっともっと上に人物がいることを想定して挑まなければならない。こういった状況下で声を入れていくような音楽というのが未来の世の中にはあるのかもしれないということを忘れず。

ここで遊べない。という事実に何となくさせているのは、その「情報」をつくっている「時代」というたったそれだけのこと。

損をするべからず。

チャンスを逃すべからず。

こんな場所でさえ遊べてしまう透明人間の存在をその背中を追いかけてみたい。

透明人間を追いかけよ。
サワシバ
コハウチワカエデ
シナノキ
バッコヤナギ

北杜市へ

山梨県立フラワーセンターハイジの村

今回は山梨県峡北地方、北杜市へ出かけてみた。

北杜市といえば八ヶ岳が有名だ。八ヶ岳南麓に広がる自然豊かな地域は、観光スポットの多い非常に魅力的なフィールドである。

そして今回、事前に入手した情報によればいまの時期は「明野のヒマワリ」が当地の名物であるという。

ヒマワリといえば黄色に咲く大輪の花を思い浮かべるところ。広大な畑に咲いている大輪のお花見とあっては大きく期待感が持てる。一面に広がるヒマワリの大海原を夢見て北杜市へと車を走らせた。

北杜市明野へ

明野サンフラワーフェス

8月16日、午前9時15分。北杜市明野サンフラワーフェス駐車場。

なんと雨が降っている。

この日は台風7号が千葉県沖に接近中ということで、午前中はあまり良くない予報であった。

ひとまずは車内待機を決め込み、カールーフに当たる雨粒を聞くことに。

雨に加えて風も。しかし、風はさほど強くないようである。駐車場に何人かいる係員の人たちは透明なレインコートを着てせっせと車の誘導に精を出している。と、そこへ入場してきた車からは到着するや否やさっそく傘を差し、元気よく畑の方へ飛び出していく人らがいる。

外へは出ようと思えば出られるくらい。

けっして弱いとはいえない雨で、かといって激しすぎるわけでもない。

今ここに来るまでには長い登り坂を上がってきた。そして、八ヶ岳山麓の小さな丘にまでようやくたどり着いたという安心感。

妙に金持ち気分になって留まる精神的余裕。快適性優先の車内で過ごす。

午前10時。雨が小康状態になってきたため車外に出てみた。

視界は良い。

うす雲に覆われた空は太陽を遮り、その雲は遠く川(釜無川)の対岸、鳳凰三山、アサヨ峰、甲斐駒ヶ岳といった山の頂を隠すように延びている。群青色の山に雲の白いライトが当たって、少し色褪せたようになっている様子がはっきりと見える。

色褪せた山を見つつ、引き寄せられつつ。

フラワーフェス駐車場を横断すれば一気に視界が開けた。

一面のヒマワリ畑。

下の畑まで降りられるスロープを近くに見つけ、さっそく下まで降りてみる。

丈は成人の身長ほど。また、それより高いものでは2メートルほどのところに掲げられた花もある。ヒマワリ以外の草花は一切植えられていない単一圃場だ。それがまるで壁のようになって連なっている。

壁のすき間からは、またその奥に植えられた花が顔をのぞかせる。

目の前にも奥にも黄色いヒマワリ。

目線を上げてもジャンプしても全てヒマワリの花。

よくこの場所にこれほど多くのヒマワリを持ってきたと。もちろんそのときの経過は明らかではない。しかしながら、よく見れば一輪一輪の花はまるでそのマスクが異なっている。花の中央部、筒状花と呼ばれるところの咲き具合が一本一本異なっているからだ。

さらに筒状花は咲き具合が違うのと同時に、それを円形ひとまとめにして、出っ張り形状がまた一本一本違っている。

きれいな球体のようなもの、真っ平らに近いもの、途中一回だけ波打つもの。

栄養状態の似通った条件で育つとなりあう花たち。気象条件的に近い環境で育った花たち。それでもなぜか似ても似つかず皆全てが違っているという不思議。

個性がある。

さらにご丁寧にも、吹いている風は花をユラユラ揺らしてくれていて、手前側にある顔も奥側にある顔もまんべんなくその違いを見させてくれる。

一面のヒマワリ畑
高いのは目立つ。
まん中の円形(筒状花)の感じが一本一本ちがっている。
風はおよそ2メートルほど。
来客者用の椅子席も用意されている。
トイレもしっかりしたものが用意されている。

ハイジの村へ

午前11時40分、車に乗り込んだ。

向かう先は「山梨県立フラワーセンターハイジの村」。

フラワーフェス駐車場を出発し、茅ヶ岳広域農道を韮崎市方面へ。すると、ものの100メートル走っただけでハイジの村入り口に到着。

そして入り口看板から坂を上がっていったところにある第一駐車場に向かうと、あっという間に到着することができた。

駐車マスに車を置きエントランスへ。

エントランスでは多くのツバメが入場を出迎えてくれた。入場料を支払い中へと入る。

入ってすぐの広場には剪定されたバラをはじめ、多くの花苗が並べられている。

前に来たときもこんなだったっけ?

ここは何ヶ月か前に来たことがある。冬だったと思う。そのときには雪が降っていて、誰もお客がいないようなときであった。

花はなにも咲いておらず、ヤギの小屋に行けばヤギは怪我の療養中とのことで会うことが出来ず、ゆいいつ元気にしていた魚にエサやりをして帰ってきたことを覚えている。

魚の池に行こう。

さて、どこにあったっけ?

入場券と一緒にもらった地図を見ながら魚の池(虹の池)に向かう。記憶の中に微かに残っている情景とくらべれば、今は圧倒的にみどりが多い。足もとに生える草も、頭上を覆っている木々も色濃く立派な葉を付けている。セミの鳴き声がすごいが、これも冬に来たときには無かったものだ。

園内の坂を下って行く。するとようやく虹の池に到着することが出来た。

池の前に設置してある自動販売機に100円玉を投入する。さらに矢印の書かれたダイヤルを回してやると、最中に包まれた鯉用のエサ(ペレット)が落ちてきた。自動販売機から最中を取り出し、桟橋に向かう。

魚といえど脳は学習能力に満ちている。人が桟橋に乗っただけでいろいろ理解するようで、水面にワラワラと寄ってきた。

さっそく最中をちぎって池に投入すると一気に活性が上がった。水面に鯉が集まりすぎて、陸地が出来ている。陸地のド真ん中にエサを落としてやると競ってエサを取りに行く。

他方、ちょっと離れたところの水面に投げ入れてやれば、そこに向かって一目散突進してくる。他の魚に取られないよう焦って突っ込んでくる。は、いいが焦って空振り・・・。

そしてエサを落とさないでいると。

「はよぅ」

とばかり、水面でパクパクねだってくる。

まったくかわいいヤツらだ。やっぱ魚が一番だ。魚は裏切らない。

今日もまた魚にエサをやった。

魚に遊んでもらった。

次に来たときにはもっとウマそうなものをご馳走してあげよ。ペレットじゃなくて熊太郎とかバイオぶどう虫とか。

魚との再会を誓い、池をあとにした。

エントランスで迎えてくれたツバメ。
虹の池に向かう。
虹の池に到着。
ワラワラと集まってきた。
エサを投げ入れるとこのありさま。
はいよ~
ここの池にはニジマスも泳いでいる。

堤体に向かう

午後2時、ハイジの村を出発。堤体に向かう。

まずはハイジの村駐車場から茅ヶ岳広域農道に出てフラワーフェス駐車場に再入場する。

そういえば朝からなにも食べていない。

フラワーフェス駐車場に出店していた八ヶ岳スモークの店でくんせいのセットを購入。これをキッチンカーのすぐ横、特設で用意されたテーブル席で食べようとしたら、しかし風が少し強くなってきた。

これはせっかくの食事を風で飛ばされてしまっては堪らないので、車内へと避難することにし、再度ヒマワリ畑に降りて風を測ってから車内へと戻った。

ようやくの食事。

車外から見ると依然としてフラワーフェス駐車場には車両が入場してくる。午後になっても活気は衰えていない。台風接近中という予報であるものの、当地へやってくる人たちにとってはあまり気にならない情報のようである。

花に対する欲望には勝てず?

各々、冷静に分析した結果と思う。台風といえどその低気圧の中心は、遠くここより直線距離にて200キロメートル以上も離れたところの海上にあるという話しだ。まったく影響が無いかといえば、午前中より吹く風のとおりであるが、それによって欲望を我慢しなければいけないほどの天災が控えているわけでもない。

気象条件に関するワードに対して、冷静な判断をすることが求められているだろう。

八ヶ岳スモークのセットを完食し、車を発進させた。茅ヶ岳広域農道を北進する。

午後3時15分、朱色欄干の橋「孫女橋」を渡って道は丁字路に。右折し、みずがき湖方面に向かう。

午後3時半、みずがき湖のすぐ手前まで来た。みずがき湖ビジターセンター前の丁字路で右折。塩川トンネルをくぐり、通仙峡トンネルを迂回(通行止めのため)。その後、日影橋、東橋の二本の橋をわたると、道は増富ラジウム温泉の旅館街に入る。

そのまま旅館街を通過し、塩川の流れを縫うように遡っていくと「みずがき山リーゼンヒュッテ」前。このリーゼンヒュッテ前からさらに400メートルほど進むと三叉路が現れるので左折し、700メートルほど坂を登った。

午後4時15分、本日の目的地である「人神橋(ひとがみはし)」に到着。

八ヶ岳スモーク
くんせいのセット
再び計測するとやはり強くなっていた。
堤体に向かう。
孫女橋と丁字路
増富ラジウム温泉峡付近
塩川の流れを縫うように遡る。
堤体と人神橋

金山沢荒廃砂防ダム

外は雨が降っている。この雨はつい数分前から降りはじめたものだ。

レインジャケットをはおり、車外に出る。

ウエーダーを履き、フローティングベストを着用する。ほかヘルメット、グローブ、登山用ポールなどはいつも通り。

さて、本日は人神橋の上流およそ80ヤード上流にある堤体で歌う。

堤体名は「金山沢荒廃砂防ダム」。ここは橋の上から直接堤体に向かって歌うこともでき、また沢に降りて下から歌って楽しむこともできる。

二通りの楽しみ方ができる優秀な堤体だ。では二通りの選択肢の中から本日は沢に降りて歌うことを選択。橋の下流側に向かう。

人神橋の下流側すぐの道路から土手を伝って金山沢に入り、橋の下をくぐる。するとすぐに堤体前に立つことが出来た。

堤体を見上げる。

主堤と副堤。二段構成になった堤体は目立った欠損なども無く、きれいに左右バランス良く水が落ちている。

降雨による著しい増水は見られない。水は透きとおっていて、その下に敷かれた黄土の砂れき上を歩く感触が心地よい。

新雪を踏むような柔らかさが気持ち良く、しかし途端に水が濁ってしまうのであるが、その濁りも川上から絶え間なくつづく新しい水によってすぐに払われてくれる。

そして、気持ち良いものといえば底質のほか、頭上を覆う渓畔林もまた。左右両岸、高さ5メートル以上はあろうかという高い護岸の上には渓畔林が伐られること無く残されている。

樹木の構成の大部分はヤマハンノキ。この木々が堤体前の暗がり作りに大きく貢献している。

立ち位置正面には堤体本体。左右は高い護岸によってできた壁。頭上には渓畔林の枝葉によってできた屋根。

歌うための部屋はすでに出来上がっている。

あとは実際、声を入れて楽しむだけだ。

金山沢荒廃砂防ダム
金山沢荒廃砂防ダムを下から。
右岸側(壁)
左岸側(壁)
屋根となる渓畔林

特徴的な響き

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

全く響いている感じが得られないので立ち位置を変えてみる。

ここで選び直した立ち位置は堤体からおよそ60ヤードの地点。下がれるところまで下がってみた。これより後ろに下がることは出来ない。堤体に対して“ななめ撃ち”に声を入れることになるからだ。

川が護岸もろとも大きく左岸側に向かってカーブしている。しかし堤体より下流すぐのところ、60ヤード以内の立ち位置に入れば問題ない。堤体に対して真正面に正対することを意識すれば、これが最大限とることのできる距離なのである。

再び声を入れてみると、なんとか。どうにか。響いてくれた。

左右の護岸に覆われた内側、外側では響きを聞くことが出来ない。

響きを聞くことができるのは堤体の放水路天端向こうにある堆積地の方と、自身の背後に控えている人神橋からである。

堤体本体に接触した声はそのまま跳ね返って橋まで届いている。

響いているのは前と後ろだけ。

横はほとんど響いている感じがしない。

距離は最も下がってこれくらい。
これはときおりビューッと吹く風。無風の時間が長い。
北方系。日中は反射の光がキツいか?
銘板その1
銘板その2

事故れないということ

結局この日は午後6時半まで堤体前で過ごした。

雨の中のゲームであったところ、思いのほか楽しむことが出来た。雨中のゲーム、霧中のゲームでは空を覆う雲等の影響によって空間が白っぽく、明るくなることが厄介なのであるが、今回はそういった類いの光りにほとんど悩まされることがなかった。

立ち位置の左右には高さ5メートル以上の高い護岸があり、これが効果的に働いてくれたとおもう。

横方向からの光の侵入。雨中のゲーム、霧中のゲームでは最も避けて通りたい物質を高い壁は見事に断絶してくれた。響きの面では不自由を食った面もあるところ、堤体前の暗がり作りという点では大きなアドバンテージを与えてもらった。

ゲームは天気という与えられた条件のなかで行うという特性上、管理制御の効かないことにも接することとなる。そのなかで堤体選びからはじまるゲームプランがあり、あとは入渓の時間調整であったり、明るさ調整であったりという、逆に管理制御できるものによって遊びの質を上げていくことができる。

また、今回もまたフラッシュフラッド(鉄砲水)対策をおこなった上で入渓することが出来た。こちらは難しく考えず、渓行ツールとして準備が万全にできていれば良いというもの。フローティングベストとヘルメット。

着ているだけでよい。被っているだけでよい。

また、この日は台風7号接近というワードがニュースを駆けめぐるなか山へ出かけた。よくよく分析してみれば当地とは直線距離で200キロメートル以上も離れたところに台風の目があり、暴風域よりさらに外側、強風域は神奈川県東部まで。

さらに台風本体より西側に、本日おとずれたエリアは位置している。台風の描く円のうち左側半分は可航半円だという論もあるなかで冷静に分析してもらった上で、ここへやってきている。

だからこそ、絶対に事故れないということ。

あ~、あの人ったら台風の日になんて行くから・・・。

残念ながら便乗して、一つのワードでまとめにかかるのが世間だ。遠く東の海上で起きている事象に対して、それを取り消すということは出来ない。なんの日に行ったのかと論ずれば、やはり当人は台風の日に山へ向かったのだと言われてしまう。

台風の日の山の事故。ということにされてしまう。

この日は、いつも以上に慎重に慎重に歩かせてもらった。道路のアスファルトの上を歩くとき、金山沢へ入渓する直前、土手を歩くとき、また入渓をしてから。もちろん例によって“転ばぬさきの杖”、登山用ポールを使用した渓行を行ったことは言うまでもない。

こういう日だから。ということでは無いけれども装備は万全に!

歌い手はみなアスリートと同じくチャレンジャーだ。勇気を持って挑むチャレンジャーが馬鹿にされるようなことがあってはならないはずだ。

歌いやすい堤体だった。
ヤマハンノキ
カツラ
シラカバ
オニグルミ

本日もまた道の駅からスタート

日帰り入浴施設。庭付き。

今や日本中にある道の駅。

大きなものから小さなものまで全国にあるものを全て合わせれば※1,213ヵ所にものぼるという。

道の駅といえば土産物の販売、農産物の直売、地元産食材を使用したレストラン、観光案内所、広々としたトイレなど、その土地を訪れる者にとって便利で頼れる、そして何よりもワクワク感をあたえてくれる非常に重要な観光施設である。

では、今回おとずれた道の駅はなんと温泉付きらしい。しかもトップ画像にあるようなテーブルセット付き、ちょっと雰囲気のある庭までついた日帰り入浴施設であるという。

ひとっ風呂浴びるまえに、あるいは風呂から上がったあとに、気持ちの良い風にあたることができる。

木の下のベンチに腰掛け、ゆっくりすることができる。さらに、樹木の放つ新鮮な空気を大きく吸い込んで全身に取り入れることができる。

この地に来ることさえ出来れば・・・。

葉で溢れる木の下で鮮烈な緑に染まってみる。気持ちの良い風に吹かれてみる。たまにはそんな休日があってもいいかもしれない。

※Wikipediaより引用

「ふれあい橋」と道の駅たばやま(中央奥)

道の駅たばやまへ

7月13日、午前9時。山梨県北都留郡丹波山村「道の駅たばやま」へ。

日帰り入浴施設「のめこい湯」は午前10時より営業開始であるという。施設のオープンを待つあいだ、冒頭のテーブルセットの置かれた庭で過ごす。

植えられている木はイロハモミジ。

この植えられた木々の下に潜り込めば分かること。それは一枚一枚の葉がとても小さなものであるということだ。そして葉はうすく、一枚だけでは光を透過してしまっている。

しかしながら、これは枝につく葉の枚数が非常に多いためしっかりと天を覆いこんでいる。

葉の重なっているところの緑、葉の重なっていないところの緑。

印影をはっきりとするダークなところ。光り輝く明るいところ。

どちらも甲乙つけがたい緑だ。しかも樹高が高すぎず背丈に近いことから親しみやすい木である。

午前10時、のめこい湯のオープンに合わせて入館した。館内では入浴を満喫したあと食事を摂ったり、休憩室でゴロ寝をしたりして過ごした。

イロハモミジの木の下へ
中央プロペラ状のものは種
見上げてみる。
ダークなところも。
奥にある建物が「のめこい湯」

ささら獅子舞

午後0時50分、のめこい湯を退館。道の駅たばやまの駐車場に戻り、車を発進させる。

本日向かう堤体の・・・、とは逆方向。西に進路をとった。

向かった先は住所にして丹波山村奥秋。奥秋にある「子の神社」へ。じつはこの日、丹波山村は祭礼の日であるという。

祭りの名は「祇園祭」。その祇園祭では「ささら獅子舞」の奉納があるというので見学に向かうことにした。

午後1時20分、丹波山村役場駐車場に車を停め、歩いて子の神社に向かう。丹波山村役場から子の神社までは歩いて10分ほど。

子の神社に到着するとほどなくして社殿の前がにぎやかになった。

初めて見るささら獅子舞。

激しい舞が観衆を圧倒する。それがすさまじく体力勝負であることは自明の理だ。油単と獅子頭に隠された舞い手の表情はうかがい知ることが出来ないが、それらを頭に乗せ、生じる暑さもまた大きな負荷となっていることだろう。

「いいぞ!」

舞い手を担当する若い衆に、お囃し役の兄貴衆から激励の声が飛ぶ。

午後2時10分、場所を移して丹波山村奥秋「嶋崎油店」から丹波山村役場前を経由し熊野神社へ向かう道は「道中岡崎」と呼ばれるささら獅子舞一行の行列歩き。

午後2時20分、道中岡崎が熊野神社に到着。ここでは舞い「白刃」の奉納。

剣士役も加わり、舞いが披露される。

やはりここでも激しく、躍動感あふれる舞いが演ぜられ観衆を魅了する。舞い手の厳然とした振りに対して演目時間は限定的なのかと思えばそれはまったくの誤解で、太鼓と篠笛による伴奏は容赦なくつづいた。

一観衆として舞いに魅了されつつも、舞い手の残り体力が心配になってきた。

ハラハラしながら見つづけたのち、ようやく舞いは結びをむかえた。

熊野神社での白刃。その舞いはほぼ途中休憩なく続けられ29分にも及んだのだった。

青竹を高跳びのごとく飛び越えた!(子の神社まえ)
晴天。舞い手にかかる負担は容赦ない。
道中岡崎(丹波山村役場まえ)
道中岡崎を追いかけ熊野神社へ
熊野神社では「白刃」が奉納された。
ラストはまさに体力勝負。
花笠が手に持つささらはパーカッションの役割。
五穀豊穣、家内安全。奉納の意義は深い。

堤体に向かう

午後3時15分、ささら獅子舞の激しい舞いを脳裏に残しつつ熊野神社を出発。丹波山村役場まで戻り、駐車してある車に乗り込む。本日向かう堤体は丹波山村の最主要河川である丹波川の支流「後山川」に設置された堤体(堤体名不明)だ。

国道411号線大菩薩ラインを東進する。丹波小学校まえ、小室バス停(甲武キャンプ村入口)、滝口第二洞門、サヲウラ登山口などを経由。丹波山村役場から5.3キロほど走った地点には後山川にかかる「親川橋」。

親川橋の手前には車1台ほどが停められる駐車スペース。しかし、ここはすでに先行者が陣取っていたためUターン。200メートルほど来た道を戻って丹波川沿いにある駐車スペースに車を停めた。

午後3時45分、入渓の準備。足もとはウエーダーで固め、上半身は接触冷感素材の長袖を着る。曇天の空は少し怪しい様子であったため、レインジャケットをバッグに押し込んだ。

ほか、計器類をたくさん詰め込んだフローティングベスト、ヘルメット、グローブ、登山用ポールなどはいつも通り。

午後4時05分、やはり200メートルほど戻ってきた道を取り返し、親川橋へ。親川橋はわたらず、そのまま橋の西詰にある林道入口より林道に入った。

午後4時10分、林道(ここは林道といってもわずか200メートルほどしかない。)から後山川の河原に到着。さらに後山川の上流に堤体を確認した。

午後4時15分に堤体前着。

国道411号線大菩薩ラインを東進する。
道の駅たばやまを上から。
滝口第二洞門
親川橋
丹波川沿いにある駐車スペースに車を停めた。

躍動感

水は堤体を湛水。非常に勢いよく流れている。上流からの圧力が相当なものであるらしく放水路天端の底を切った瞬間、水は投げ出されるように下に向かって落ちている。

さらに落差の小さい副堤では、その見え方がより顕著なものとなる。同じく天端の底を切ってからの落下運動に水平方向への慣性が反発する。ただ落ちるのではなく、大きく飛距離をかせぐように、ジャンプするように水は落ちている。

主堤を落ちる水。副堤を落ちる水。

水という物質が自然法則にのっとって落ちているというだけなのに、これはどう見ても生命を宿した生き物のように見えてくる。

生き物のようであり、さらに言えば躍動感あふれるその姿から連想するのはつい数時間前に見てきたささら獅子舞のことだ。

本日のゲームはチャレンジになるだろう。勢いがよくて、エネルギッシュで、多少荒っぽい後山川の流れに歌で挑戦してみたい。

後山川の堤体
水は投げ出されるように
立ち位置は80ヤード≦付近に立ちたいのだが明るすぎた。
無風であったりときおりいい風が吹いたりという展開。
ガーン!機種によってバラバラ。(湿度計測)

シナノキの下に入る

設定した立ち位置は主堤からおよそ70ヤードの地点。シナノキの枝が後山川の流れに向かって伸びていて、微かに暗がりを形成している。

自作メガホンをセットし声を入れてみる。

意外にもよく鳴っている。

堤体本体と左右両岸、早い勾配の坂。三面に出来た壁の内外で声がよく響いている。落水の発するノイズは水の勢いに見合って決して弱いものではない。しかしながら、不思議とその非常に騒がしい環境のなかで声は鳴っている。

目の前に課題として突きつけられているノイズ。

歌い手として発する声。

両者が混じり合っている印象は薄く、独立して響いている感が強いが、やはり勢いある流れを目の当たりにしつつその中で声が響かせられている現状を体感し、気分が高揚する。

歌っているうちにみるみる気分が良くなっていくことがわかった。

あとはこの明るさだけか?

よく鳴ってくれる堤体前であった。

堤体との理想的な距離

結局、この日は午後7時まで堤体前で過ごした。

今回は非常に勢いのある流れを相手に歌った。再認識したこととして、水の勢い、強い流れであるとか、分厚い流れであるとかいったものを目の当たりにした時点ではまだ響きが出せるかどうかといったことを判断してはいけないということ。

実際に歌ってみて、響きを聞くことの大切さ。

ファーストインプレッション(第一印象)ではもっと難しい展開が待っているかな?と思ったが、予想に反してよく鳴ってくれる堤体前であった。

惜しむらくは、堤体前の空間が若干明るめなところ。やはり今回も立ち位置を設定する段階で渓畔林による暗がりを探ったが、樹木の途切れるゾーンが堤体前に見受けられたことが残念であった。

主堤からおよそ70ヤードという距離はそれが理想だったというのではなく、暗がり欲しさにやむを得ず決めた立ち位置である。

堤体の規模、落ちる水の規模から言って出来ることならもっと遠くから声を入れたかった。

響きが良くとも、結局のところ歌い手が音楽に没頭し、のめり込んでいけるような状態に持って行けないと楽しくない。明るさは敵で暗がりが味方となる。

夕刻の暗がりに期待し、夜を迎える直前まで粘ったが堤体前はメリハリなく闇に落ちていくだけであった。落水が光を持っているだけに暗がりもそれに対応できる充実したものが欲しいところである。

しかし、学びの多い堤体であったことは事実だ。何といっても勢いある流れを相手に響きが出せたことは自信につながったし、歌っているそのときは気分も高まった。

今回、堤体前を鳴らすことが出来たことについてはいい思い出として心に仕舞っておきたい。次回、ここを訪れたときにはまた今日とは違う環境で挑むことになる。

そのときには今日以上に良いゲームが出来るようにしたい。水が減った状況で挑むのか、増えた状況で挑むのか、気温は、天気は、湿度は、渓畔林は?

あのささら獅子舞の日はよかったのになぁ~

なんてことにならないように。

そう思うと砂防ダムって一期一会なんだなぁ。と思う。

一回一回、堤体前を訪れる機会はどんな状況であろうと大切にして行かなければならないと思った次第である。

堤体前へはスニーカーでもエントリーできる。
しかし水際に近づくのであればフェルト底が必須となる。
渓畔林も全くダメというわけではないが
ちょうど立ち位置の頭上で途切れてしまっている。
シナノキ
ウワミズザクラ
アワブキ
ケヤキ

大好き河津町!vol.22

こちらはKawaZooで買った土産。

歌える堤体さがしに出掛けること。

歌える堤体さがしに出掛けることは、山へ出掛けることと同義だ。

そして、山へ出掛けることは、そのさきで様々な生き物に出会うことを含んでいる。

林道を横切る動物。飛び立つ鳥。水中を走る魚。じっと構えている植物。

山で歌う音楽家は思ってもみず、様々な生き物に出会うことができる。

思ってもみず。

なかでも特に印象的なのがヤツとの遭遇である。

石が動いた!

体感型カエル館KawaZoo

KawaZooへ

6月22日、午前10時。まずは河津七滝温泉、河津町町営駐車場から歩いて3分、KawaZooへ。

看板には「体感型カエル館KawaZoo」とあるのでこちらが正式名称のようだ。

開館は午前10時。きょうは一番乗りで入館した。

ここは、カエルを専門にする博物館。展示は室内と室外に分かれている。

受付にて入館料を払い、まずは室内の展示スペースへ。

室内の展示スペースには小型の水槽が幾つも並んでおり、それぞれの水槽には種類ごとにカエルが展示されている。水槽の一つを覗いてみれば、中には砂が敷かれ、観葉植物が置かれ、流木が配置され・・・。さながら熱帯魚の飼育水槽のようであるが、中には水が張っておらずポッカリ空間があいている。

そして人間側の歩く通路は若干暗めで、対してカエルの棲んでいる各水槽は観察がしやすいようライトアップされている。

このライトアップという条件に対しては全体的に見ると様々で、あるカエルは水槽のガラスギリギリのところまで出てきて“大サービス”してくれたり、あるカエルは流木の奥向こうの死角に隠れてまったく出てきてくれなかったりする。

奥に籠もって出てきてくれないカエルばかりだったら全くカエル博物館の体を成さないところであるが、そこは大サービス勢の奮闘ガンバリもあって見応えのある施設になっている。

まぁ、籠もっていて出てこれないヤツらにもいろいろ事情があるのであろう。人生いろいろ。会社もいろいろ。カエル生もいろいろ。

常に明るく元気よく表舞台で生きられるとは限らない。いいときもあれば悪いときもある。

人間どもにスマートフォンで撮影され、もてあそばれることに対してプライドが許さないのかもしれない。あるいは施設が閉館したあとの夜遊びダンスパーティーで暴れまくって、昼間は眠たいのかもしれない。
はたまた夜は飼育員がいないのをいいことに格闘技大会とか相撲大会をしているのかもしれない。

カエル社会にもいろいろ事情があるであろう。そのなかでダメなやつはそっとしておいてやるのが優しさだ。くれぐれも水槽のガラスをバンバン叩いて起こしてやろうなんてことはやってはならない。

午前11時、かわって屋外の展示スペースへ。

四角く囲われた通路の中心には田圃と同様の環境が再現されている。ここは在来種のカエルが放たれていて、それらをすぐ間近で見ることができるというコーナーだ。

ここでは本日のお目当てであるアズマヒキガエルを探してみることに。

う~ん・・・。

石が動いた!

とはいかなかった。

とうのお目当て、アズマヒキガエルのことを見つけられなかったのだ。渓を歩いていれば比較的よく出会う馴染みあるカエルであっただけに少し残念であった。

屋内の展示スペース
マダラヤドクガエル
アイゾメヤドクガエル
ジュウジメドクアマガエル
マダガスカルキンイロガエル
ウーパールーパーにも会える

水量チェックに向かう

11時15分、KawaZooを出る。さて、本日向かう堤体は小川No.1コンクリート堰堤。KawaZooより北西方向に向かう道を4.5キロほど行ったところにある。

では、そちらに向かう前に河川のチェックということでKawaZooにほど近い出合滝の様子を見にいくことにした。

KawaZooから北西方向に100メートルほど歩けば初景橋。その初景橋の手前には出合滝に向かう階段がある。

階段を降りて行くとすぐに河原に到着することができた。河原といってもサンダルを脱いで水浴びができるような感じではなく、太い樹木調の手すりが据え付けられた観覧用の道が滝へとつづく。

もっともここは遊歩道であり、また河津本谷川の轟音を伴った激しい渓流区間のすぐ横を歩く。この激しい流れを見たら大抵の人はそれで満足するのではないか?

遊歩道沿いは低くも高くも生える植物によって小庭のような趣。これは大変に心地よい。

午前11時25分、出合滝に到着。

ここで河津本谷川、荻ノ入川ともに水量豊かなことを確認。小川については荻ノ入川に流れ込む支流で、ここ出合滝よりおよそ2.5キロ上流に合流点がある。

小川に対する印象は“湧き水の川”といったところで、河津町指定有形文化財である煉瓦の洞遺跡あたりが年中、水が流れている状態で見ることができる。

問題はそれよりもさらに上流部で、ある地点より先は年中ほとんど水が流れていない。

流れのもととなっているのはワサビ田最上流部に見られる湧き水で、そこから上流部が伏流区間だ。(年中ほとんど水が流れていない区間。)そして当の小川No.1コンクリート堰堤もその伏流区間のうちに存在している。

しかし本日のこの出合滝周辺の水量を見るかぎりはいい予感がする。いい予感とは水が多いこと。水が多いということは、伏流状態が打開されている可能性が高い。

伏流区間といえど、降雨によってもたらされた水が地下水として処理しきれなくなった場合には状況が一変する。地表水、つまり川となった姿でわれわれ人間の目で見ることができるようになるのだ。

ここ一週間のうちにだいぶ雨が降ったことが大きい。あとは実際に上流部に行って現実がどうなっているかである。

さきほど降りてきた階段をかけ上がり初景橋前の道路に戻った。そしてそのまま目と鼻の先にある出合茶屋へ。出合茶屋では入渓前の軽食を摂った。

遊歩道を歩いて出合滝に向かう。
出合滝
ムクロジを見つけた。
イシガケチョウ
出合茶屋
出合茶屋のクリームあんみつ

堤体に向かう

午後0時20分、出合茶屋を出て町営駐車場にもどり車に乗り込む。目指すは小川No.1コンクリート堰堤である。

エンジンをかけ出発。

初景橋、前之川橋、河津七滝オートキャンプ場まえを通過。道はオートキャンプ場を過ぎると林道の様相を呈す。さらに奥へすすみ、河津国際スポーツビレッジまえ、沼ノ川橋、煉瓦の洞遺跡看板前などを経由。

午後1時10分、小川No.1コンクリート堰堤近くの駐車スペースに到着した。(駐車は堤体よりも上流側へ。下流側はワサビ田の農家さんがワサビ田の管理に利用するため。)

車から降りて堤体を確認する。堤体は林道のすぐ真横、斜面を見下ろしたその先に見ることができる。案に違わず堤体上流部、下流部ともにしっかりと水が流れ、川が形成されていることが確認できた。

よし。

そして立ち位置となる堤体下流部は河床がかなり下がったところにあることも確認。林道から見た高低差では、おおよそ20メートル下といったところか。はるか先に見える川底は白っぽく苔も生えていない。

大きな石がゴロゴロと転がる川の流路形状は蜿蜒とし、落ち込みを伴いながら下流へと続いている。

水慣れしない川である印象が強いゆえなのか、渓に荒っぽさを感じる。もちろんそういった感覚はこちら側の勝手な解釈であり、実際は自然法則にのっとった水の物理的移動が起きているだけだ。

初景橋
煉瓦の洞遺跡の看板にしたがい左折する
林道を奥へ
林道下にはワサビ田を見ることができる。
林道、堤体横に到着。

上級者向け?

午後1時50分、堤体前に下りる。

やはり林道上で見た時と同様、全体的に荒っぽいという印象。

おそらくはこれより上流部、普段は伏流している区間が降水に対してかなり強いのではないかということが考えられる。雨が比較的大量に降っても大地がそれを伏流水として処理してしまうため、洪水といった現象がなかなか起きづらい。

小石や砂利の供給に乏しく、また大石は一度固定されてしまうとそのあと数年~数十年にわたって永遠その位置から動くことが無い。

渓には大きな石がゴロゴロと転がり、そのあいだを縫うように水は流れ、または落ち込みを作って下流へとつづく。視覚面においても音響面においても非常に騒がしい渓といった印象を受ける。

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

鳴らない。

騒がしい渓であるからといった理由も考えられようが、音が響かない理由はそれだけではない気がする。

鳴ってくれる堤体前というのは、たとえ騒がしくてもその環境のなかで声が響いてくれる。大きなノイズに音を壊されながらも、しかし音が残ってくれるようなイメージだ。

そしてそんな場所こそ最も魅力的な堤体前と言えるのだが。

どうであろうか?今、頑張って鳴らそうとしているこの堤体前は声が残るというより、とにかく抜けていくイメージが強い。物体、たとえば石とか壁とか樹木とか声がモノにあたって返ってくるという感覚が全くといっていいほど得られない。

天に向かって長く伸びた樹木は、堤体前の空間をポッカリ拡げている。それを原因とするのかどうかはわからないものの、全体としてみれば下は荒れている河床、上は高すぎる樹冠の樹木類で、音を響かせようとする歌い手に寄り添ってくれるような要素に乏しい。

上級者向けの堤体なのか?

堤体前は荒っぽいという印象。
風が弱い。
荒れる渓では立ち位置の制約が多い。
ほぼ真西を向く堤体だ。
堤体前は56年の歴史をもつ。
樹冠位置が高い
頭上は全天を覆う渓畔林

あれこれ試したが・・・、

結局この日は午後4時半まであれこれ試しながら粘ったものの、堤体前を鳴らすことは出来なかった。季節限定で堤体を湛水する水が見られたこと。また、全天を覆う渓畔林の樹冠の下で歌えたことは大変に心地よかったが、歌い手として堤体前に来て響きを楽しむというところまでには至らなかった。

もちろん、こういったことはいつ来ても同じようになるかどうかはわからない。日を改めてチャレンジすればそのときには風も違う、温度(気温)も違う、湿度も違う、川の水量も違うというすべてが異なった環境下でのゲームとなる。

いいときに来ればもっと簡単に鳴ってくれる堤体前かもしれない。

しかし今日はダメであった。

ゲームは一旅人でもある歌い手に対して必ずしも良い条件を用意してくれるとは限らない。自身、そこに難しさがあると思うし、またそれが魅力なのでもあると思う。

しかし今日は運が無い日みたいであったから(お目当てのカエルが見られなかったことも。)次回来たときには運の良い日でいい思いをしたいものである。

堤体前の騒がしさを耳に残し、退渓した。

粘ったが解決の糸口は見つからなかった。
オオバヤシャブシ
スギ
ウラジロガシ
タブノキ

夏至といえば・・・、

今回は常連さんにはお馴染みのあのゲームです。

夏至が近づいてきた。

この時期は退勤後のゲームがおもしろい。

会社の就業時間が終わってから入渓し、あたりが暗闇に包まれる直前、日没前まで歌って帰ってくるという遊びだ。

山に行き、渓に立ち入って歌うという行為。

「この日に行こう!」と何日も前から計画を立てつつ各種手配を済ませる。さらにツールも用意して当日をむかえるというのが通常のやり方であるが、退勤後のゲームはもっと本能的で衝動的だ。

「この日に行こう!」は、多くの場合ない。

「よし、今日は!」といった感じで、急遽その日に行くことを決定して行動にうつす。

会社帰り。今日だけはメシのことも風呂のことも忘れて山にでかけよう!

そして渓に立ち入り、堤体前に立ってみる。

堤体前に立ってみる。

で、一体なにをすればいいの?

???

そう。この遊びの特殊性はそこにある。

少しでも歌うことを意識して出掛けているのならば、堤体前に立ってみて歌えないということはまあ、まず少ないだろう。

それはとくに良い堤体の前に立ったとき。

ここでいう良い堤体とは「歌える堤体?」という問いに対して最適解を出せる堤体のこと。

良い堤体は歌う気がなくてもその場所に立ってノイズを聞いていると、自然と歌えるようになってしまう。なぜなら良い堤体はロケーションやノイズそのものが歌うことを誘ってくれるから。

そんなに・・・、今日は。というような時も。

歌いたくて歌いたくてしょうが無いようなモチベーションの高いときも。

「こんなに歌うつもりじゃなかったのに・・・。」

ときにはそんな入渓前の人の気持ちを180度ひっくり返してくれるような驚異の状況に遭遇することさえあるくらいだ。

まずは堤体前に立ってみて!

自分自身が知らなかった自分自身に出会い、びっくりなんてことがあるかもしれない。

歌って気持ちよくなって、また翌日から元気よく働けるように準備しよう。

「三島沢地工業団地案内図」前

工業団地発。退勤後のゲーム

6月14日。本日のスタート地点は静岡県三島市「三島沢地工業団地案内図」前。

正直いってここは今まであまり来たことが無かった場所。日没前のゲームを提案するのにスタート地点をどこか決定する必要があったが、国の運営基盤を支える製造業へのリスペクトも込めて今回はこちらをスタート地点とすることとした。

午後4時50分にスタート。場所は三島市東部、山の中腹に設けられた工業団地。一級河川「沢地川」に沿って走る一本の道は三島市市街地へつづく主要道路。

静岡県道でも三島市道でもないこの道は三島市市街地のなかでも中心部・JR三島駅方面に向かって一直線に下りて行くことができる非常に重要な、なおかつ最短ルートの道である。

それはまさに「集中化」という言葉があてはまるような状態だった。

道路は勤務を終えたであろう方々の帰宅ラッシュ。

車、車、車の次にまた車。

渋滞というまでの現象は見られないものの、通勤目的とみられる車が非常に多く、車列状態を形成していたのだった。

まるでオイルタイマーから生み出された油粒がコロコロと坂を転げ落ちるように。次から次へと一本道に車がつづく。

これではこちらは邪魔になってしまっているだけではないか。軽い気持ちで来るんじゃ無かった・・・。

帰宅ラッシュの車の車列に割りこみ、何事も無かったように坂道を下った。

申し訳ないなということと一つ社会勉強になったなという気持ちを得たスタートとなった。

オイルタイマー

箱根峠をこえ神奈川へ

午後5時10分、三島市加茂インターチェンジより伊豆縦貫道へ。下田・伊豆市方面を選択し、伊豆縦貫道に上がる。

午後5時15分、三島塚原・箱根出口の看板にしたがい伊豆縦貫道を外れる。外れた先には三島塚原インターチェンジの信号交差点。交差点を左折すると道は国道1号線となった。

国道1号線に乗ってからは箱根峠への道をひたすら登りつづける。

さらに細分化された名称としては、三ツ谷バイパス、笹原山中バイパスの二つの区間を経由。箱根峠を通過したのは午後5時45分のこと。

午後6時前、国道1号線箱根新道「黒岩橋」を通過。通過直後には下り車線側に見慣れた駐車スペースがある。車はその駐車スペースに停車させた。

三島塚原インターチェンジの信号交差点。左端は伊豆フルーツパーク。
やさしく走ろう。たとえ急いでいようとも。
ドラゴンキャッスル
山中城2号トンネル
駐車スペース

逃げる相手は必死

午後6時、車から降りて入渓の準備。ウエーダー、フローティングベスト、ヘルメットを装着するとともに谷沿いを吹き下ろす冷涼な風が吹くことも考え、レインジャケットを着用。また、手にはグローブをはめ、登山用のポールを1本握った。

午後6時15分、本日入渓する須雲川の床固工区間の堤体に向かって林道の坂をおりてゆく。樹木の葉に覆われた林道はかなりの暗さ。そしてこれを画像に収めようとデジタルカメラでの撮影を試みたが、手ブレのような画像になってしまいうまく撮ることができない。

解決策として携えていた三脚をとりだし、わずかにもカメラが動かないように固定してやるとなんとか撮影することが出来た。

肉眼ではいろいろなものが捉えられているのに、カメラにとってはすでに営業時間ギリギリのようである。

午後6時20分、床固工すぐ横の護岸帯に到着。

!!!

ひときわ大きな茶色の物体が激しく動き回る光景が目に飛び込んできた。

茶色の物体の正体はニホンジカ。

こちらはハンターじゃないのだよ。という眼差しを投げかけるもシカはかなり動揺しておりあちこち動き回っている。

しなやかな足の筋肉で川水をドボンドボンと蹴りながら、床固工の区間を上流へ下流へと必死に逃げ回る。全体が側壁護岸に囲われた床固工区間であるため、簡単にはその外に出られないようだ。

こちらは驚きとともに見つめていたが、ついには覚悟を決めたようで川岸向こうの高さ2.5メートルほどの側壁護岸に向かって大ジャンプ。すると、前足2本だけが護岸上に着地。あとの後ろ足2本は宙ぶらりんの状態になり、躯の大部分はまだ護岸の下に向かって重力で引っ張られている。これでは落下してしまいそうな危うい状況だ。

しかし、なんとか宙ぶらりんになったところから2本の後ろ足をつかって護岸のほぼ垂直になった壁を捉えると、そこから何度も壁を蹴りつづけ、どうにか護岸上にあがることに成功。そして直後には林の奥へと消えていった。

申し訳ないなということと一つシカの逞しさを勉強したという複雑な気持ちとともに入渓点着。

落ち着いたところで高さ2.5メートルほどの側壁護岸をおりる。

2.5メートルでは少々高すぎるため、石が置かれていてもうちょっとイージーになった高さ2.0メートルほどのところより河原に降り、堤体前着。

堤体に向かうまでの林道。
逃げ回るシカ
堤体前へ

優秀な堤体前

午後6時25分、とくに焦るわけでも無く。(ここまで写真撮影によってかなりの時間を消費していた。撮影が無ければ推定30分は早く到着できていたはずだ。)

しかしまぁ、こんなもんだろうといった感じ。

刻一刻と迫りくる暗闇に対する余裕であるが、唯一すでに難しくなってきている写真撮影についてはなるべく早いうちに済ませておこうということでカメラを手にとった。

床固工区間の頭上はほぼ全面、落葉樹のみどりに覆われている。歌うときの目標物とする堤体より下流50ヤードくらいは川の中央にギャップ(樹冠の切れ目)があり、空から光が差し込んでいる。

しかし、それ以外は左右両岸の渓畔林より延びる枝と展葉する葉によって暗がりが形成されている。

本日は日没前のゲームである。通常と異なっているのは、上空より差し込む光が必ずしも悪にはならないということ。辺りすべてがまっ暗闇に包まれるその時間がタイムアップとなるため、その時間をなるべく遠ざけるためにも、光の進入経路はある程度確保されておきたい。歌に入り込むための暗がりと「ゲーム時間の延長」につながる明るさがバランス良くミックスされた、優秀な堤体前に来ることができた。

川の中央は適度に光が差し込む。
フサザクラ
オニイタヤ
イロハモミジ
オオバヤシャブシ

響かないときにやること

自作メガホンをセットし声を入れてみる。

レーザー距離計で計測した43ヤード付近は響かない。あせらず後退し、48ヤード付近に立ち位置を変えてから声を入れてやると、堤体手前、奥、側壁護岸外側の渓畔林でよく響いてくれた。

少し残念なことがあるとすれば、堤体より48ヤード付近は川のほぼ中央位置にキンボール大の大石が置かれていること。これではここを立ち位置とすることが出来ないため歌い手は右岸寄りもしくは左岸寄り、いずれかに立って歌うこととなる。

見た目の印象から左岸側を選び出して歌ってみたら安定して声が響いてくれた。風も1メートル毎秒程度、断続的に吹いてくれていてこれが響きの面においても快適性の面においても非常に心地よく作用してくれている。

川の中央にある大石を避けた水は足もとを流れ、特徴的にノイズを発生させているが、周囲の広い範囲で声がしっかり響いてくれているので、このノイズはあまり気にならない。むしろ、その決して弱くはないノイズを克服できたということが自分自身にとって充実感につながっていた。

自身、ちょっと難しいことをクリアできるようになると途端に気分がデカくなってしまうところは我ながら面白いと思った。

43ヤード付近は大石の上流側。
断続的に吹く風。
再掲。211度。
なるべくなら川の中央に立ちたい。

暗闇のなかで

結局この日は午後8時まで堤体前で遊んだ。照度計も持って入渓したのだったが、それよりも自分自身の目で見て感覚的に「日没前」と言えたのは午後7時半頃までのこと。以降30分間は暗闇の中で声を入れていくというゲーム内容に切り替わった。視覚情報が絶たれるなかで、響きに対してはより一層、明るいとき以上に集中して楽しむことが出来た。

渓という演奏場所に立って音楽を楽しんでいくためには何をすればよいか。

ノイズの音に包まれた環境下では歌い手自身が響きを聞き求めにいくことが大切なのではないかということを最近かんがえるようになった。

堤体とそのまわりの広い範囲に声を入れるというという行為。

声を入れるだけでなく、入れた声を索しにいくという感覚も大切にしていきたい。誰のためというわけでなく、自分自身が歌を楽しむために。

暗闇を見つめ、歌い、そして声を索して遊んだ。

ゲームは思い立った日が吉日。
さて、退渓後は場所を移して・・・、
小田原市内の日帰り入浴施設へ
ここは深夜営業をやっている店だ。
風呂上がりの一本。と、
豪華な食事。
これで明日以降も頑張れそうだ。

前日準備

今回は宿舎での前日準備からお届けする。

5月11日、午後7時。

午前中は宇久須川でゲーム、午後は西伊豆町堂ヶ島での観光を終え、宿舎に帰ってきたところ。

夕食と入浴もそこそこに部屋にもどる。

あすは伊豆市猫越川上流、河原小屋沢への入渓を予定している。それでは床に就くまえに前日準備ということで、ツールの確認を行うこととした。

普段、使用しているツール。by森山登真須

厚底シューズのように

ツールについてはおおよそ画像のとおり。

ウエーダー、レインジャケット、グローブなどのアパレルからフローティングベスト、ヘルメットなどの保護具。登山用ポールは歩行の補助に。他、現場でのコンディションを把握するための計器類、ICレコーダー、ビデオカメラ、図鑑、熊鈴、ヘッドライト、ホイッスル、緊急時に使うものなど。

砂防ダム等堤体類に到着すれば、お待ちかねの歌が待っている。堤体前にてしっかり声が入れられるようにするための補助器具、自作メガホンも忘れてはならない。

メガホンの収納にはテニスラケットのバッグを流用している。バッグはワンショルダー(片方の肩にかけるタイプ)で外装がナイロン製のもの。ワンショルダーの利点はヤブ漕ぎ時、樹木の回避能力に優れていること。

倒木等をくぐり抜けるとき、背中側にある収納部分をわき腹側にスライドすることで背中側のクリアランスを大きく確保できる。チェストバッグを背負っていては引っかかってしまって抜けられないような低い空間も、スルリと抜け進むことができる。

デメリットとしては肩掛けベルトが一本になるため、収納物による荷重の分散性能に劣るというところ。これについては、とにかく余計なものをなるべく持ち込まないことで解決を図っていきたい。フィールドでの経験をもとに、持ち込む収納物の最適化を日々進めている。

また、収納については上半身に着るフローティングベストも大きな役割を果たす。こちらは本来釣り用に開発されたもので、釣りの仕掛けを収納するためのポケットが複数個ついている。

フローティングベストは入渓後つねに身に着けている、さらに手の届くところにポケットが付いているという特性があるため、すぐに取り出して使いたいもの、使用頻度が高いものの収納に向いている。風速計や、堤体との距離を測ったりするのに必要なレーザー距離計については、こちらに入れておくのが便利だ。

収納力という性能、水に浮くという性能、固いものに当たった時に衝撃から守るという性能。いずれをとっても、フローティングベストを着ることの優位性は大きい。

従来言われてきた煩わしさ。独特の厚地によって足もとの視界が制限されるとか、夏期における暑苦しさといった理由から渓流師にはほとんど相手にされてこなかったフローティングベストであるが、自身は将来への期待も含めてこれを積極的に利用させてもらっている。

いつかはナイキ社が開発した厚底シューズのように、重量増、でも着用することによって歌い手のパフォーマンスが上がるようなベストの登場を待ち望んでいる。その待望の日を迎えるために、今から質量だけでも慣れておくのだという期待も込めて、このちょっとズッシリ詰め込んだ相棒を身に付け今日もまた渓に立ち込んでいる。

フローティングベスト。パーソナル・フローテーション・デバイス(PFD)とも。
計器類を持ち込む。他のアウトドア系遊びと大きく異なる点だ。
ICレコーダーと歌詞の書かれたカード。歌詞を忘れた時に困らないように。
高倍率のビデオカメラと図鑑。
緊急時に使うもの。右はポイズンリムーバー。

仁科峠を越える

翌5月12日午前6時半。宿舎となった西伊豆クリスタルビューホテルを出発。まずは昨日見て回ることの出来なかった賀茂郡西伊豆町宇久須の各所を巡ることに。

午前7時、まずは宇久須港すぐにある改築されたばかりの公衆トイレを見学&初利用。コンクリートの建屋で堅牢そうな頼もしいものが出来上がった。

午前7時10分、外観のみであるが「AGCミネラル株式会社伊豆事業所」の社屋を見学。風格滲む木造の社屋は、かつての国産板ガラスマテリアルの重要生産拠点。地元では旧社名である東海工業の名で親しまれている。

午前7時20分、黄金崎クリスタルパークまえを通過。宇久須隧道をくぐって黄金崎に向かう。

午前7時半、黄金崎近く「こがねすと駐車場」に到着。駿河湾の海に突き出る「馬ロック」や新しく完成したハートのモニュメントを見て過ごした。

午前8時には宇久須神社に到着。拝殿ではつるし雛が出迎えてくれた。もう少し暑くなった頃には地元特産のガラス風鈴が吊されることであろう。

午前8時10分、参拝を終えふたたび車に乗り込む。静岡県道410号線に沿って山を登り、仁科峠を目指す。

午前9時5分、仁科峠の少し手前「西天城高原牧場の家」にて遅めの朝食。朝食後は牧場の牛を見にいったりして過ごした。

午前10時15分に仁科峠(標高897メートル)を越えた。その仁科峠からは1.2キロ、標高にしておよそ120メートルほど下がると風早峠の丁字路。右折し、伊豆市湯ヶ島方面へ。

午前11時半、伊豆市湯ヶ島「持越川」に架かる水抜橋西詰丁字路へ。河原小屋沢へは水抜橋を渡らず直進となるが、トイレに行きたくなったため左折し水抜橋を渡る。そのまま1.7キロほど走って「天城ほたる館」まえ。鍵が掛かっているんじゃないかと心配された入口ドアは幸いにも施錠されておらず、無事に用をたすことができた。来月には観光客で本格稼働となるであろうトイレをありがたく使わせてもらった。

午前11時50分に水抜橋に戻り、進路を修正して河原小屋沢方面へ。丁字路より2.5キロほど進んで猫越集落最南端の民家を過ぎると、道はそのまま林間へ。林間に入ってすぐのところには通行止めの看板が現れ、車はその通行止め看板の手前、道幅の広くなったところに駐車した。

宇久須港
改築されたばかりの公衆トイレ
AGCミネラル株式会社伊豆事業所
黄金崎クリスタルパーク
黄金崎に向かう。
こがねすと駐車場まえ
馬ロック
仁科峠に向かう道。(静岡県道410号線)
宇久須神社
つるし雛。宇久須神社拝殿にて。
西天城高原牧場の家
牧場の家のなか
朝食。チーズ焼きカレー
朝食後の散歩
牧場の牛を見にいった。
宇久須の街並み。牧場の家から
仁科峠。手前側が賀茂郡西伊豆町、奥が伊豆市。

すぐにスタートができる

午後0時10分、車から降りて入渓の準備。

前日、宿舎にてセッティング済みのフローティングベストを身に付ける。フローティングベストのポケット、自作メガホンを入れたバッグにすべてが収納してあるので、それぞれ着用する&背負うことですぐにスタートができる。

午後0時25分、歩きの行程をスタート。目的地となる堤体「洞川No.9玉石コンクリート堰堤」は堤体のすぐ横に猫越支線林道が走っているため渓行区間はほぼゼロ。

午後0時35分に猫越川橋を通過。

午後0時45分に猫越支線林道上、目的の堤体すぐ横に到着。堤体本体すぐ下流の傾斜を慎重に降り、ようやく堤体前にたどり着いたのが午後0時55分のこと。

猫越川橋
猫越支線林道
ジャケツイバラ
コガクウツギ
マルバウツギ
クマノミズキ
堤体すぐ横に到着。

白泡の壁

前日の宇久須川同様、やはりこちらも春の堤体といった感じで水がたっぷりと流れている。

この水は三蓋山、長沢頭、手引頭といった山稜と、その支尾根を頂とする山からのものであるという。

地形図で見れば猫のひたい程度の面積である。大した範囲に見えないが、やはり数多の谷から供給され、持ちうる限りの集合体となった水はとめどなく行き、あるときはこの場所のように大きな落差を生じさせながら下流へとつづく。

大きな落差には光が交錯し、白泡の壁を作る。

壁は輝く。

渓畔林の生み出す暗がりの中からその白泡の壁を見ていると、その輝きはよりいっそう眩しいものになる。

眩しいものに対する思い。

興奮か。
不快か。
悲しみか。
平凡か。

自身は興奮していた。

メガホンをセットし声を入れてみる。

白泡の壁

歌ってみてさらに興奮が高まる

鳴る。歌ってみてさらに興奮が高まる。

歌っていたのはメンデルスゾーン。34の2番「Auf flügeln des Gesanges」。

Auf flügeln des Gesangesは冒頭の2ブロックだけ歌う。

Auf flügeln des Gesanges, Herzliebchen, trag ich dich fort,
Fort nach den fluren des Ganges, Dort weiß ich den schönsten Ort.まで。

この2ブロックだけを歌う。一回一回とくにこれといって歌い方を変えるわけでもない。しかし、立ち位置を変える。たったこれだけのことで響きが変わる。

あっちに行ったりこっちに行ったり。場所を変えながら声を入れていく作業を行う。

声を入れていく作業。それは遊び。

とにかく、まず堤体前に着いたらメガホンをセットして歌ってみる。立ち位置を変えればそれだけで響きが変化するからいろいろな場所で試してみる。遊びが最優先で、写真を撮ったり、計器類を用いて測ったりするのは後回しにしている。

堤体前で遊ぶのが一段落し、ようやくここでフローティングベストのポケットに手をかける。取り出して扱うのは堤体前のコンディションを計測する計器類。

計測を行う。計測・・・、これもまた遊びの一種。計測をして遊ぶ。

堤体を目標物としていろいろ立ち位置を変えてみる。
河原小屋沢の流れ
銘板
206度。南南西で午後型。
この距離は参考までに。
0.6メートル/秒の微風

最高の時間

結局この日は午後5時まで堤体前で過ごした。

通い慣れた伊豆の銘堤はいつもと変わらず最高の時間を与えてくれた。そして落葉樹の葉が出揃うこの5月上旬の期間は、他のシーズンでは味わえない強大な魅力に満ちている。

日照時間が長くなり、精神面に不調をきたす方もまた多いであろうこのシーズン。山へ出かけ、木々でつくられた暗がりの下で過ごしてみるのはいかがであろうか?木の下の暗がりという非日常空間の中で時間を過ごし、しかる後には新たな気持ちとともに社会生活へ戻ってゆくことが出来るかもしれない。

木は、山は、川は、いつもその場所で待っていてくれる。遠慮することは無いであろう。

そこに展開される自然物の恵みを受けながら、本当はもっともっと生きやすい世の中なのだということを知って、心身ともに健康に生きていくこと。それが多くの人に自由に出来るような時代の到来に期待している。

洞川No.9玉石コンクリート堰堤
木々が風でユラユラ揺れているときがチャンス!
コナラ
ミズメ
リョウブ
アカガシ
全天を覆う渓畔林