
初夏。
初夏といえば渓畔林。
渓畔林が最大化するこの時期は、
部屋に行く。
壁だって、天井だってある部屋に
入りに行く。
朝のうちから支度して、
ヒュッと潜り込んでみる。
あまり無理はできない時期なのだけれど、
そこらへんもちょっと工夫して、
しっかり楽しめるように、
楽しんでいい季節に変えられるように、
堤体前の部屋に行ってきた。

草木だったら
初夏。
草木だったら、
なんでもグングン、
グングン育っているものだと思い込んでいた・・・。
6月22日午前6時、山梨県北杜市明野町、明野サンフラワーフェス2025会場。
今年のサンフラワーフェスの開幕は7月19日(土)。
およそ1ヵ月後にオープンをひかえ、ヒマワリの株がどれくらいになったかと様子を見に来た。
半ばもうすでにいい感じでヒマワリ畑が出来あがっているものだと思い込んでいた。
作る人、見る人。もうお互い用意は出来ているよね。なんて、きわめて楽観的な気分とともに現地入りしたのである。
30センチ、40センチ、50センチ。中ぐらいに成長したヒマワリの苗が風でユラユラ揺れるすがたを想像し・・・、
あとは花が付くのを待つばかり。花なしヒマワリに埋め尽くされた畑の姿を思い描いていたのだった。
ので、
ド肝を抜かれた。
いや、きれいにはなっていた。さすがは日本人の仕事だと思った。
きれいに耕された、ヒマワリの畑。
土作りは間違いなく完了している。
さらに。
現状を知るヒントがないものかとあたりをウロウロしていると、手動播種機を見つけることができた。
!!!
なんと植え付け前!
メイン会場となる「ハイジの村」まえの1区画と農村公園会場の全区画が播種前。メイン会場西側の2区画と北側の2区画は植え付け済みという状況。
すべてが播種前という段階ではないが、一番生育状況がすすんでいるメイン会場北側の2区画でさえ、まだまだ膝下程度にも満たない小さな株だ。
昨年、この地を訪問してみたときには背丈をうわまわるほどのデカぶつたちと、大輪の花からなるヒマワリ畑を楽しませてもらっている。
日付は8月16日のことであったので、単純計算ここから2ヵ月ほど月日が経った頃の出来事。2ヵ月という期間。しかしそれでも2ヵ月。まったく遠い未来のはなしという感じもしない。
北杜市のみならず山梨県を代表する夏の観光イベントである「明野サンフラワーフェス」。なのにこの閑散というか、余裕しゃくしゃくというか、落ち着きぶりには驚かされた。もちろんこれは花の生産技術上、まったく問題なくやれるという戦略あっての植え付け時期設定なのであろう。
見ているこちらがドキドキさせられる状況。それはもちろん期待感の大きさあってのことだ。
公営施設「ハイジの村(山梨県フラワーセンター)」、民間では周辺の飲食施設、宿泊施設、観光農園。会場内におけるキッチンカー出店、広くは山梨県峡北地方全体の入客増につながる大事な夏の観光イベントである。
それにしてもまぁ、大胆だなぁ・・・、
盛況のときをまえに、今は着々と準備がすすんでいるという見方が正しいようだ。








無理のないゲームプランを
午前7時、サンフラワーフェス会場を出発。
茅ヶ岳広域農道を北進し、山梨県道23号線へ。「孫め橋」の丁字路で左折し、中央自動車道須玉インターチェンジ方面に向かう。
目指したのは「すき家」。言わずと知れた牛丼チェーンである。
この日の前日となる6月21日は夏至。太陽の高度がもっとも上がり、さらに照度が最大となる季節だ。
まぶしいまぶしい季節。一年のうちで最もまぶしい季節なのだ。
良いか悪いかは人しだい。
まったくこれがへっちゃらだという人にはどうでもいい話し。
一年のうちのピークに対して、すべての人がそれに対応できるのかどうかというところに問題を感じる。
もうこれがほんとにダメな人。そんな人に対して、屋外での遊びを提案するときには対策を講じる必要があると感じている。
野外の明るさが一年のうちで最大になるということを考慮した上で、ゲームプランを完成させるようにしたい。
つまり「牛丼チェーン」なのだ。
牛丼チェーンに行こう!
牛丼を食べよう!
牛丼で体力つけよう!
体力で乗り切ろう!
牛丼屋が無いほど攻めた地域に行ってはいけない。
とくにメンタルを削られているのならば絶対に無理をしてはいけない。
無理に無理を重ねれば破綻することは目に見えている。
この時期だけでも堤体選びにあたっては出来るだけ無理のないようにしたい。
歌い手自身が得意としている地域に出かけたり、普段から身近に接している店がある場所に出かけるなどして、心理的に有利に旅を進めるようにしたい。
極端なチャレンジは禁物。出来ることなら守りの姿勢で、心的負担の少ない旅を心がける。
堤体への旅がつらかった。苦痛であった。という後日談はこちらとしてもあまり聞きたくない感想なのである。
ある意味我慢の季節でもある。この初夏のまぶしい季節。
いい場所に行きたい。だれしも。しかし、無理のないゲームプランを。






堤体に向かう
午前8時20分、すき家141号北杜須玉店を出発。堤体に向かう。
来た道をもどり、ふたたび孫め橋の丁字路へ。直進し、山梨県道23号線にてみずがき湖方面へ向かう。
午前9時05分、みずがき湖まえの分岐を右折。塩川トンネルをくぐり、通仙峡トンネルを迂回(通行止めのため)。東進する。
午前9時15分、「日影大橋」より本日入渓する本谷川のようすをチェック。
異常なし。
ふたたび車に乗り込み、さらに東進。増富ラジウム温泉峡へ。「東橋」をわたったところでは増富無料駐車場。ここは無料駐車場のほか、公衆トイレと周辺施設を記した案内図がある。
増富ラジウム温泉の旅館街、「湯橋」も通過し、本谷川の流れを縫うように遡っていくと「みずがき山リーゼンヒュッテ」前。このリーゼンヒュッテ前からさらに400メートルほど進むと三叉路があらわれる。
左折では本谷釜瀬林道、直進では観音峠大野山林道。直進を選択し、ちょうど1キロ走る。1キロ走ったところに現れるのが「木賊橋」。
木賊橋をわたって50メートル程度すすむと右折箇所があらわれるので右折。土の道を走る。
午前10時、土の道の道幅のひろくなったところに車を駐車した。









木々の葉に覆われた空間
車から降りて入渓の準備をする。
気温は18.4度。
駐車スペースとなった土の道は、頭上が木々の葉に覆われていて涼しい。これには1,340メートル(当地点)という標高のおかげもある。
上半身には接触冷感素材の長袖を。下半身にはウエーダーを履いた。
午前10時15分、準備を済ませて入渓点に向かう。
めずらしく入渓点に向かってまっすぐ道が伸びている。堤体をつくるときに出来た作業道なのだろうか。
こういった廃道も多くはパイオニアツリー(先駆性樹種)によって塞がれてしまうことが多い。しかし、この北杜市旧須玉町界隈はアウトドアフィールドとして旧にも現にも非常に人気の高いエリア。そのためか、廃道も簡単には塞がらない。
車のタイヤによって踏み固められ、人の足によって踏み固められ、現役の道としての体を成している。
廃道を道なりにすすむとドボン!渓に入った。
水の冷たさはとくに感じなかった。先ほどからずっと木々の葉に覆われた空間を歩いていたからであろう。
入渓点から見上げる上流もまた木々に満ちている。水にみどりになんとも美しい渓相だ。
美渓。ただそんな景色も一長一短。下は石がゴロゴロしていて歩きにくい。
転ばぬ先の・・・、上陸。入渓早々に上陸してしまった。河岸をあるいたほうが安全で早い。水に浸からずとも涼しさが保てるならば歩むべきは陸路一択だ。
途中、それでも陸路がとぎれる箇所があり。ならば入水。滑りやすい水底をフェルト底ががっちりとらえてくれるので安心して歩くことができた。
午前10時半、堤体前に到着した。






サワグルミの渓畔林
水は左右の放水路天端からほぼ均等にきれいに落ちている。水量としても多すぎず、少なすぎずといった感じで、アルファベットの「V」を何列も描くように、堤体水裏の斜面を転がり落ちている。
主堤からの水は副堤を経て、渓流区間に着水。以降は左岸側につくられた護岸に寄り添うかたちで下流へと続く。
川の流程と河岸は明確に分かれていて、左岸側3分の1ほどが川。右岸側3分の2が陸地。この陸地の上には密度の濃いサワグルミの渓畔林が形成されていて、その根によって土壌保持効果が発揮されている。
人工的かと見紛うほど立派な右岸側の陸地。石がゴロゴロしているのではなく、ちゃんと土が乗っかっているのだ。森林公園かと言ってもいいくらいの安定感が感じられる。





ノイズに支配され
自作メガホンをセットし声を入れてみる。
鳴らない。
セオリーにしたがい、主堤を正対できる立ち位置、左岸側を選んで声を入れてみるものの全くといっていいほど響きを得ることが出来ない。
立ち位置を変えてみる。
瀬のノイズから距離をとるため、右岸側の陸地に乗ってみる。しかし、ここでも響きを聞き取ることが出来ない。
難所なのか。
主堤、副堤からの落水ノイズが気になる。
堤体本体から発生したノイズが左右両岸の壁(護岸)の中であふれている。
左岸側3分の1を成す川と、のこり3分の2をなす陸地。両者ともノイズで支配されている感が強い。
横方向に音(ノイズ)が逃げてくれることは願っても叶わない。
垂直方向にはどうか。
サワグルミの枝葉によって歌い手の頭上はまるで天井のようになっている。
まさか・・・、とは思うものの、垂直方向にもノイズが逃げてくれない空間になってしまっているというのか?
左右のみならず上下にも囲われていて、非常に騒がしい空間のなかから声を発しているというのだろうか。





おもしろさは味わえた
結局この日は、午後3時まで堤体前で過ごした。
今回入った「本谷堰堤」は非常に豊かなサワグルミの渓畔林が見られるところ。木々の多さを求め当地にやってきたが、期待に違わぬみどりが自身を迎えてくれた。
また、左右両岸の護岸内のみならず、その外側においてもやはり豊かな渓畔林が形成されている堤体前であった。
太陽の光。そしてそれを遮る樹木の枝葉のなかでチャレンジ。屋外という条件のなかでおこなわれる音楽では、堤体前の景色は一年を通じて一定では無い。
冬ならば葉の付いていない樹木がほとんど(落葉樹)。しかし、春~初夏にかけては葉の量が最大化する季節。
堤体前がどんな場所であるのかという特徴を知り、その特徴を生かすかたちでゲームを展開できたことが良かった。
惜しむらくは響き。
今回は響きの面において上手くいかなかった。
左右両岸の護岸(壁)のなかは水により発生したノイズにあふれており、響き作りを困難なものにさせた。
ふだんは「良いもの」として認識している渓畔林の枝葉でさえ、その存在を半信半疑にさせるほどノイズの支配が大きかった。
これは逆に言えば、新たな仮説さえ生んでしまうほど充実した渓畔林のなかで音楽がやれたということ。
砂防ダム等堤体類を相手に音楽をしているが、堤体前の空間というのは音楽ホールやスタジオと大きく異なるもので無いと考えている。
歌い手の正面には音を当てるための壁があり、横を見れば壁があり、上を見れば天井がある。
渓流沿いにポッカリとできた部屋のなかで音楽を楽しむことができる。
そしてまた、ものごとが上手くいかないという問いをこの場所は与えてくれる。
響き。
声が響かないことに対する落胆と、それを解決しようとする人の頭脳。
簡単ではないときがある。反面、そんなときは挑戦するおもしろさがある。
音楽専用設計ではないからこそのスリル。
声が響かないこと。
おもしろさ。
そのおもしろさは味わえた、
ある初夏の日の出来事であった。






