
良き演奏施設を創造するとき、その一部はプレーヤーによって作られると言ったらワクワクしないだろうか?
演奏施設となる砂防ダム等堤体類が、プレーヤー自身の力量によって変えられる。
そんなことが、
砂防ダムの音楽なら、
出来てしまう。
演奏施設というものに対し、つねに受け身になる必要が無い。
良き演奏施設を作り上げること。
そこで歌うこと。
プレーヤー自身のために歌うこと。
嫌な場所で無理して歌わないこと。
どれもが実現できる。
それも、
プレーヤー自身の力で。
プレーヤー自身の力で実現できるから、ゲーム性がある。
やっぱりこの音楽はゲームなのだ。
ゲームであり、
楽しみであり、
やっぱりやめられないものなのだ。

忘れ物
10月31日、午前11時10分、山梨県山梨市落合。ベイシア山梨店。
いつもより少し時間が押し気味なのはここに来るまえ、すでに山にいたから。山は近くの山。「ほったらかし温泉」と「フルーツ公園」で遊んできていた。
その途中、
あっ。
と、気がついたところで考えた。
土曜日。
本日は土曜日である。
自宅のある甲斐市に戻るにはまぁ、キツいか?距離的なことをいえば20キロも無いくらい。決して遠すぎるわけでもない。問題は、山梨県の県庁所在地「甲府」をはさんだ向こうに甲斐市があるということ。
もう昼間の渋滞は始まっている・・・。
忘れ物などは本来、あってはいけなかったのだ。自家用車での移動だから、取りには戻れる。しかし、この場から戻るには、これからの旅の行程を変えなければいけなくなる。それに本日は、山での泊まりを予定しているのだから・・・。
忘れ物とは、スマートフォンの充電タップ。
肝心の、不可欠の、というか現代ツールにおいて、これほどまでに重要であるものを忘れてしまっていてはどうにもならない。日頃はシガーソケットタイプの充電器を車内に備えている。
車に乗っているあいだの充電ならお手の物。車両本体が充電器のような感覚で充電できる。しかしこれでは(車から)降りてからの状態で充電ができない。
大事な通信機器のこと。それにもかかわらず、すっかり安心しきっていたのだった。
名湯と公園のことばかり考えていて?!
抜けていたなぁ。
まぁ。
まぁ、よかったとも。
山へ行く前の、食料も手に入ったことだし。
買ったタップなんぞ、差し込み口が3つも付いているではないか!
それから・・・、
向かいのうどん屋でウマいのが食えたことも!



最終○○○?!
午後0時15分。さぁ、山に向かおう。
ベイシア山梨店の駐車場を出発。山梨県道314号線を西へ進み「上岩下ランプ」より国道140号線に乗る。
信号の無い快速道路。
山梨市東の「岩手ランプ」までは自動車専用道路のイチヨンマル。非常に走りやすい。
午前0時25分、岩手ランプを通過。
岩手ランプ通過後は、歩道に、街路樹に。多少、生活道路っぽい道になった。
それでも「雁坂みち」の看板が示すとおり、この道は山梨県と埼玉県をつなぐ越境道路。信号機はところどころにあるものの、その数は少なめでやはり走りやすい。
午後0時35分、山梨市牧丘町窪平。
牧丘トンネルをくぐって室伏トンネルの手前。乙女高原、琴川ダム、杣口の案内標識を見たところで左折。ほどなくして現れた誉農園まえの丁字路では右折し、山梨県道219号線をのぼってゆく。
午後0時40分、山梨市牧丘町杣口。最終自販機まえ。
最終ガソリンスタンドとか、最終コンビニエンスストアなら聞いたことがあるが、こちらは“最終自販機”とのこと。
国道140号線から離れてまだ2キロちょっとしか登ってきていない。しかしながら、これ以上先は飲料程度すら手に入らない僻地が待っているというのか?!
眠気覚ましのコーヒーを買い、ふたたび車に乗り込んだ。
午後0時55分、鳥之口橋に到着。







条件さえそろえば・・・、
橋の上流に堤体。堤体は琴川堰堤。
橋の高さに対する堤体の高さ。両者のバランスがいい。
これだったら橋の上から歌える。
樹木に囲まれた周辺環境もなかなかのもの。左右両岸ともに樹林帯になっていて光の侵入が抑えられている。やや旺盛すぎるか?というくらいの河床内の樹木を整備すれば、なかなかいい感じの堤体前が出来上がるのではないだろうか?
ただ、唯一惜しいのは鳥之口橋の交通量。さきほど通過してきた最終自販機の「最終」がウソのように車の往来がけっこう多い。
橋の上に立っていると、なんとまぁ頻繁に車がやってくる。
この先、さらに奥には山梨―長野県県境の大弛峠、山梨県道206号線(塩平窪平線)、水ヶ森林道、荒川林道が控えている。
ツーリスト、登山者、現場作業員など多くの車が往来する橋の上に立ち続けるのは、なかなか勇気のいること。いや、それはこちら目線のことであって、相手にとってはただただ迷惑、不快、危険行為でしかない。
あきらかにもっと交通量の少ない橋であったならば「遊べる」ところなのだが、現状、この場で立ちっぱなしは不可能といった感じ。
橋から堤体までの距離が60メートルという数値的なものも良くて、それだけに交通量のことが痛い。
条件さえそろえば・・・、といったところか?
午後1時35分、ふたたび車に乗り込み、山梨県道219号線をのぼってゆく。
午後2時05分、山梨県道219号線の最高地点。眼前にならぶ看板には鳥居峠広場、琴川ダム湖岸広場・展望広場の文字。
そのまま看板の前を通り過ぎ、坂を下ってゆく。
午後2時10分、予約を入れておいた宿舎「金峰山荘」に到着した。







自由行動!
金峰山荘にて宿泊の受付。
受付・・・、とはいっても本日~明日にかけて利用する部屋であったり、食堂の場所であったり、風呂の場所であったりの説明を受けただけ。
そのほかは、夕飯の時間と翌日の朝食の時間、風呂は食事のまえにするか、あとにするかを確認してもらったくらい。
非常に、簡素な、簡潔な受付であった。
受付を済ませたあとには、ふたたび車に乗り込んだ。
ここからは・・・、
自由行動!
あらかじめ、本日は入渓しないと決めていた。
夕方に堤体前に入って遊ぶのは夕方ゲーム。
その最大の魅力は、夜のとばりが下りる前、迫りくる夜闇に対する緊張感のなかで歌うこと。
暗闇になったらゲームをやめなければならない。
ゲーム終了の刻が迫るなか、歌うも歌わずもそこはプレーヤー次第。
ただ、やっぱり期限というか締め切りのようなものがあるとやりたくなる。
演奏施設である堤体前が失われるそのときを前に歌っておきたくなる。
そして自分自身の好きな光量を待てるのもまた、夕方ゲームの良さ。
あたりが徐々に暗くなっていくなかで、自分のいちばん好きなタイミングで歌える。
いちばん好きな明るさで。
いちばん好きな暗さで。
「歌う」という行為に対してどれだけ没頭できるか。そこをテーマにするならば、光量を視覚情報をコントロールできる夕方ゲームはやはり強い。
夕方ゲーム最強説を云ってもいいくらい。それくらい夕方という時間帯は強い。
だが、あえて今回はそこを外してみることにした。
この音楽の研究者ならば、夕方以外の時間帯にももっと多く実践を積んでおく必要があると考えたからだ。
午前中、朝の早い時間帯、正午、午後、夕方、夜、といろいろな時間帯に堤体前に入る。夕方ゲームの素晴らしさを知った上で、それ以外の時間帯も試してみる。
良い時間帯は良い時間帯として。しかし固執せず、あらゆるやり方を試してみる。
演奏施設として最大、魅力的な時間を知るために。










画策していた
翌11月1日、午前6時50分。金峰山荘を出発。
入渓する川は近い。入渓する川は琴川ダムの流入河川である琴川。
入渓点は琴川の流入箇所(バックウォーター)である。
湖畔の宿泊施設と言っても過言ではない金峰山荘より、目と鼻の先ほどしかはなれていない入渓点。車を利用するまでも無く、歩いて向かえるほど距離的には近い。しかしながら、車を金峰山荘の駐車場に置きっぱなしにしておくわけにもいかないため、およそ400メートルだけの車両移動をした。
車は琴川ダム湖岸広場駐車場に駐車した。
車から降りて入渓の準備。
気温は3.8度。
もともと画策していたのはこうだった。
もともと画策していたのは金峰山荘の浴室シャワーから出てくること。もちろんこれは旅のメインイベントである堤体前での歌の、そのまえの「みそぎ」といった意味ではない。
シャワーで身体を温めることによって、高地の寒さに対応するためのアドバンテージを手に入れたかったのだ。
しっかり温まった体なら、真冬並みの寒さでも臆することなく外に出てこられるだろうと思っていた。ついぞ最近は、寒さに四苦八苦なおじさん肌になってしまったなどと考えながら、昭和生まれの使い込んだ頭でひねり出した作戦である。
しかしながら、結局のところは気合いだけで十分であった。気合いというただそれだけで猪突猛進、宿舎を出てくることができた。
あらかじめ調べておいた1464メートルという数値。数値は琴川ダムの標高である。午前7時すぎ。直面した気温は3.8度。気構えていたせいもあってか、なぜかそれほど寒くも感じなかった。
ウエーダーを履き、上半身には防風用のレインジャケット。フローティングベストとヘルメットの安全用具も装着。
ほか、登山用ポール。
登山用ポールはまさに「転ばぬ先の杖」。これがあるだけで、足が3本生えたようなもの。より安全に渓流歩きを楽しむことができる必須アイテムだ。
午前7時50分、準備を済ませ入渓点に向かう。
湖岸広場西側の階段をおり、湖畔遊歩道をあるくと琴川に到着。
琴川に入渓し、上流をめざす。
午前8時10分、柳平大橋の下を通過。
午前8時50分、堤高5メートルほどの治山ダムに到着。左岸側から巻いてさらに上流を目指した。
午前9時、柳平堰堤に到着。













柳平堰堤
湛水して落ちる水。
水は放水路天端の右岸側、帯状になって落ちる水が主で、ほかは左岸側の天端と水抜きから計三本、筋状に落ちている。
放水路天端の中央にはオノエヤナギが生えており、水の多く流れる右岸側とそうでない左岸側とに分断している。
右岸側を中心とした流れではあるが、左岸側の筋状の流れもしっかりと存在感を示していて、全体としてバランスが良い。筋状に落ちる三本の流れが左右の不均衡を打ち消すいい仕事をしている。
水は水タタキに向かって落ちる。
水タタキ・護岸区間は縦17メートル。水は水タタキ・護岸区間を落水の幅そのままに通り抜け、1メートル程度の落ち込みによって渓流区間にもどる。
渓流区間に戻った水はいったん中央右岸寄りに収束。のち、扇状に広がる。
渓流の勾配は全体的にスロー。落ち込みは数カ所見受けられるが、大きく水を集中させるような巨石の存在は無く、おだやかな落ち込みである。
流れを極端に圧縮させるような箇所がないため、どこでも好きなように歩ける。したがって、立ち位置の選択肢にすぐれた堤体前といえる。
水中の石は赤色のアカが乗っており、対して、陸地に転がる石はコケが付着している。陸地には落ち葉も多い。渓は安定渓の様相。ここ最近は大きな土石流なども無く、穏やかに経過しているようだ。

あることに気がつく
明るい。
堤体水裏を照らす太陽光。
琴川の入渓点からここまでおおよそ北の方向に向かって歩いてきた。
さて?
右岸側の水タタキ・護岸区間の切れ目にはスロープ状になったコンクリートの構造物。そのスロープから水タタキに乗って、堤体水裏の壁に行く。
ポケットから取り出したシルバーNo.3を左手で堤体本体に当て、コンパスの回転窓を右手でぐるりと回してやる。
ものの見事に「N」の文字は堤体の方向を向いた。
はぁ・・・。
ほぼ真北向きの柳平堰堤。ならば、堤体本体にコンパスを当てている背中側は南ということになる。
午前9時という時間。
これはもうあと1時間待てば。とか、あと2時間待てばとかいうやさしいものでは無い。以降は正午、さらにそのあと午後。長い時間にわたって堤体の水裏斜面は太陽光にさらされるということが決定している。
堤体水裏斜面に当たった太陽光は反射し、堤体前空間を明るくする。
明るいところで歌うことが好きかどうかは個人の好みによるところだが、自身にとっては非常に歌いづらいシチュエーションだ。
今日、この場に来られたこと。
これは部活動でも体育会系でも無く、遊びとしてやる音楽だ。
無理矢理、気持ちを奮い立たせるように声を張ることはできるかもしれないが、そのようなことをやるためにわざわざこの場所に来たのでは無い。
なんのために、今この場にいるのかを考えなくてはならない。
きちんと、歌いやすいように最適化された環境のなかで歌うこと。
ここで歌いました。という実績を作るための歌ではない。歌いやすい環境が整備されていて、そのなかでそっくりそのまま気持ちを委ねるような歌をやることが、まずは達成されていなければならない。
歌いやすい状況のなかで歌う。その観点からいえば、いま現在の状況というのは圧倒的に(歌うには)不利な状況といえる。







待ちによって解決された
午後2時10分、ようやく太陽が右岸側斜面の稜線(生えている樹木の樹冠)にかかりだした。
堤体水裏斜面は完全に影に覆われている。
ここまでは、堤体周辺の樹木観察をおこなったり、金峰山荘で仕立ててもらった弁当を食べたり、昼寝をしたりしていた。
まったくもって飽きずに堤体前で過ごしていた。
自作メガホンをセットし、立ち位置まであるく。
設定した距離は、堤体からおよそ40メートルの位置。
結果については、おおよそ5時間ほどの経過時間の中でうすうす気がついていた。
鳴らない。
メガホンに入れる声も空しく、鳴ってくれない堤体前。
堤体前の左右両岸の斜面は広角V字。音が反射するとか、音が溜まるとかいったイメージにはすこし遠い見た目で、開け過ぎているという印象。
堤体本体に一度あてた声が、拡散していきそのままススーッと抜けていく感じ。
それでも、ここは斜面上に木が多いため、音がその木々に引っかかる感じで働いてくれるのかと期待してみたのだった。
さらに自分自身もプレーヤーとして、堤体の壁に対してしっかりと声を入れられるよう工夫した。
左右両岸の勾配が遅く、立ち位置は堤体本体に限界まで接近するのがいいと判断して40メートル付近に設定。
しかし結果は、芳しいものではなかった。
ノイズが大きかったこともまた要因か?
とくに、水タタキ・護岸区間からの1メートル程度の落ち込みによるノイズが大きい。
声とノイズとのパワーバランスがうまくいっていない。
左右の両岸斜面、そこに生える木々をもっと効果的に利用することができれば善戦できたか?
鳴らせるだけの声は入れられていた可能性もある。
響きが得られなかったのは対抗するノイズの強度が高いことと、堤体前の環境をうまく利用できていないこと。そもそも空間形状として難易度の高い堤体前にいることなどが挙げられそうだ。








良き演奏施設はプレーヤーによって作られる
結局、この日は午後3時まで堤体前で過ごした。
堤体前に到着した午前9時ごろの早い時間帯では無く、実際、歌えたのは堤体前の明るさが最適化された午後2時以降のことであった。
この日に訪れた柳平堰堤のように、北向きの堤体というのは晴れている日の日中、ほとんど多くの場合、太陽光に直接さらされるという性質をもっている。
堤体に向かって進入した太陽光は、そのまま堤体水裏斜面の壁に当たり堤体前を明るく照らす。
プレーヤーから見て、堤体前には明るい空間が出来ている。
明るいところで歌うのが好きかどうかは個人の好みによるところ。明るいところで歌うのが好きという人にとってはこの時間帯が狙い目となる。
反面、自身のように暗くなったところ(ある程度、光量が抑えられたところ)で歌うのが好きな人にとっては、この時間は待ちの時間になる。
目安としては太陽が西に傾き、山の稜線に隠れるそのとき以降。堤体本体の水裏斜面が完全に影に覆われるときを待つ「待ち」の時間が必要になってくる。
明るいときに歌うのが正解なのか?暗いときに歌うのが正解なのか?
状況に対する正解・不正解は無い。なぜなら、それはプレーヤー自身が抱く好みに基づき決定されるのが最強であると考えるから。
明るい場所で歌うのが好きな人には、明るい場所が用意されていなければならない。
暗い場所で歌うのが好きな人には、暗い場所が用意されていなければならない。
堤体前は、他のだれのためででもない、プレーヤーのために与えられたステージだ。
自分自身のために歌うこと。
歌いづらい場面に遭遇したら、無理して歌わないこと。
良き演奏施設を創造するとき、その一部はプレーヤーによって作られる。
この日、自身においては堤体水裏斜面が完全に影に覆われる午後2時以降まで堤体前で待つことができた。
紅葉シーズン真っ只中の堤体前で、赤に、黄色に染まる葉っぱを見て過ごし、飽きることなく目的の状況を待つことができた。
「待った」というより「待たざるをえなかった」というのが、より正確な答えかもしれない。
いずれにしても、自分自身にとっては好適な条件のなか歌うことができ、よかった。響きの面においては恵まれなかったが、結果的には、悪い印象も無くゲームを終えることができたと思う。
























































































































































































































































































































































































































































































































