
今回は深夜便ということで堤体に向かった。
この時期ならではの朝のゲームに挑むためである。
出発地点は健康ランド。
健康ランドを発ち、堤体に向かう。
途中にはさまざまな関門が。しかし、これも旅の楽しさ。
堤体前で歌うことだけを楽しみとして切り取るのではなく、やはり全体を通して良かったと言えるような旅がしたい。
砂防ダムの音楽だ。これはゲームだ!
まずは楽しむことを目標に。
歌える堤体さがしの旅。深夜便に出発した。

燃料を入れる
午前1時05分、静岡県静岡市清水区西久保。
セルフサービスのガソリンスタンド。
車は?
ガソリンを入れてやればいい。
人間は?
きょうは健康ランド発。温泉もサウナももうキッチリ済ませた状態である。
あとはウマいものさえ胃袋に収めれば・・・、完璧な仕上がりである。
あ~、ラーメン食いてぇ―
夜闇に光る看板が眩しい。
ガソリンスタンドから見えるラーメン屋の看板。
いや、だめだ。
燃料は車だけで十分。人間用の燃料は今は入れられない。
食べたらきっと眠くなる。
これはれっきとした旅だ。
健康ランドからの帰りがけではあるものの、本職の「遊び」に出かける旅である。軽んじることなく、あとあと、きちんと評価ができるような内容にしなくてはならない。
たしかに帰りがけという状況。ホントのホントに本気なのか?と言われれば無理がある。無理があるのだが、いまは梅雨の時期。おかげさまで本日は運良く快晴の朝をむかえられるという予報だ。
時期は夏至の頃で、
堤体は東向きで、
晴れていて、
雲がない空で、
水はしっかり流れていて、
堤体はある程度高さのある方が良くて。
ことに太陽の方向を直接向くようなゲームではいろいろな条件をそろえなければならず、実現のための確率が下がる。
堤体本体は動いたり、向きを変えたりしないから、候補にあげた堤体のなかから選ぶだけでいい。ただ、天気であるとか、いまは何月であるとかいった条件は、堤体前に立つべき「いつ」と照らし合わせてみて噛み合わなくなる可能性が出てくるため、思い立ったときに。とか、暇が出来たときに。というタイミングでは、実現させることがなかなか難しい。
より絞り込んだ計画のなかで実現させていく、少し面倒なタイプのゲームである。
ただ、そんな面倒があるなか、今回は運良く条件が揃った。どうやら、朝のゲームが実現できそうなのである。
これは千載一遇のチャンス。
逃がすことができない。
ならば、こんなところで仮眠をとっていて、ヤラかすようなことがあってはならないのだ。そんなことが起きでもしたら今夏以降のワンシーズン、まるまる後悔するような未来が待っている。
ここはひとつ「欲」に耐えるかたちで乗り越えたい。乗り越えたその先にはきっと大きな報酬が待っているはずだ。
給油を済ませ、ふたたび車に乗り込んだ。
よし、ここから!
健康ランドを出てからまだ5キロしか進んでいない。
先を急いだ。

辺境への入り口
午前1時20分、国道1号線を経由し、東名高速道路「清水インターチェンジ」へ。
料金所を通過し、東京方面の看板にしたがう。
ややあって現れた「清水ジャンクション」では、中部横断自動車道・新東名高速道路方面へ。
清水いはらインターチェンジを通過し、新清水ジャンクションからは中部横断自動車道へ接続。
中部横断道路に入って4本目のトンネル「樽峠トンネル」にて山梨県に入る。
富沢本線料金所、富沢インターチェンジ、南部インターチェンジ、身延山インターチェンジを通過する。
「次だ。」
上八木沢トンネルをぬけ、下部温泉早川インターチェンジにて中部横断自動車道を下りる。
山梨県道9号線を北上し、波高島トンネルまえの丁字路を左折。富山橋をわたり、600メートルほど走ったところで「上沢」の信号交差点に到着。
ピリッと。
緊張の。
上沢の信号。
ここを直進で突破すれば、山梨県道37号線(南アルプス街道)への旅路ということになる。
以降は山梨県南巨摩郡早川町奈良田へとつづくおよそ35キロの一本みち。
走るに難しいことは無い。道はしっかりしている。途中にはトイレもある。飲み水にも困らないだろう。
ただ唯一の難点。
店が無い。
具体的には深夜営業のコンビニ。
上沢の信号を右折する。この道を300メートルも走ればセブンイレブンがあるからだ。
ここならば深夜でも営業している。
辺境への入り口。その突破をまえに、夜の補給基地へ。
午前2時15分、セブンイレブン身延下山店に到着。朝と昼用、2食分の食料を買いこみ、再び車に乗り込んだ。

サファリパーク
午前2時25分、ふたたび上沢の信号まで戻ってきた。
いやはや、先ほどとは気分がちがう。食料を手に入れただけでこんなにも余裕綽々、気分上々になれるのか?
上沢の信号を右折し、山梨県道37号線へ。
5.3キロほど走ると「早川町」の看板。山梨県南巨摩郡早川町に入った。
おっ。と・・・。
鹿が横断したのだ。ニホンジカ。角が生えていないので雌の鹿であろうか?
山梨県道37号線は長い長い道が延々とつづく。そのため焦ってしまいがちだが、運転は慎重に。鹿が突然、道路を横断することがあるためスピードの出し過ぎは禁物である。
シカが多い。
ならば!
スピードを落としてジワジワ走ればサファリパークのように・・・、ならなくもない?
何てったって、シカによっては逃げることすらしない個体もいるくらいだ。
もう全く人慣れしてしまっているのか?道端に留まったまま、こちら(車)が走り去るのをじっと待つような有り様なのである。
コラ!野良猫だってもうちょっとちゃんと逃げるぞ!
怒鳴りつけなどしたら、逆にシカに怒られそうだ。オマエら誰の道路だと思っているのだと。
夜の時間帯はシカの専用道路と言っても過言でないくらい。郷に入りてはシカにしたがう。ではないが、人間という立場はもはや当地においては劣勢にすら感じられる。それくらいシカが多い。いっそ、サファリパーク気分を味わいたいなんていう人は徐行運転による夜ドライブをどうぞ!
車は早川町大原野まで走った。(ここは上沢の信号からおよそ21キロほど走った地点。)
画像Aの看板をこえて200メートルで右折。つづら折りのカーブを8個越えると、正面に林道入り口があらわれた。
午前3時20分、早川町大原野の林道入り口に到着。車は林道入り口の端に置いた。





入渓の準備
午前4時半、車から降りて入渓の準備。
ウエーダー、ライフジャケット、登山用ポールなどはいつもの通り。今日は、堤体前の照度を測りたいので環境測定器を持ち込むことにした。
メーカーはマザーツール。型番はLM-8102。
あとは三脚。環境測定器は三脚に固定して使用する。このことによって、同一場所における照度の変化を計測することができる。
早朝、すでに懐中電灯がなくても視界が確保できるほど明るくなっている。だが、これ以降には日の出を控えている。日の出をむかえることによって、空間はさらに明るくなることであろう。
明らかな変化が起こるであろうことが予想される。ならば、どれだけ変化したのかということを数値によって一目瞭然、わかるようにすることが狙いだ。
環境測定器の利用によって、客観的な評価ができるようになるだろう。
さらに数値の変化を記録する専用のビデオカメラも用意。こちらは、照度の変化を克明に記録するためのもの。データを残すための準備も抜かりない。
午前5時05分、入渓の準備を済ませ出発。林道入り口に置かれているバリケード横を越え、あるいて行く。
バリケード直後にはカーブミラー。道は左側に向かってカーブしている。
車を置いた位置からは見ることが出来なかったが、林道はすぐに山側の法面が崩落していた。
かなり時間の経った崩落で、直す気力みたいなものは微塵も感じられない。
崩れたら崩れたまんま。こんなところはこのまま廃道にしてしまおうかというくらいの扱いである。
幸い、人でも動物でも余裕を持って往来できるほどの幅があって、歩くのには困らなかった。
崩落によって山盛りになったガレに乗り、林道をすすんだ。
午前5時15分、林道が開けた。林道が開けた下方にはブルドーザーで成形した盛り土の土地が見える。さらに、盛り土の斜面より下がったところには川が。
盛り土を降りて川へ。川は小砂利を基調とする緩やかなチャラ瀬区間。一目見て堤体あるいは滝の堆積地だとわかる。
下流方向を向く。
堤体の袖天端を確認することができた。
堆積地を下流側に向かって歩き、左岸側袖天端に乗ると堤体の外側へ。ちょうど堤体の外側付け根部分には水裏側へと降下できるハシゴと鉄製階段が付いていた。
そのままハシゴと鉄製階段をありがたく利用させてもらい降下すると、堤体副堤上の護岸に到着。
さらに下流にすすんで、今度はハシゴも階段も無いガレ場をつたって副堤分の段差を降りた。
午前5時25分、新宮川第二ダムの堤体前に到着。







石の多い区間
豊富な流れ。
堤体は二段構造。主堤プラス副堤の堤体である。水は主堤から副堤の水タタキへ落下したのち約20メートルの護岸区間を経て、副堤より落下する。
落下直後、渓流区間に戻った水は蛇行する。流れの抵抗物質となる石が転がっているため、直線的に流れ下ることができない。
流れは横スライド。
まっすぐ流れ下ることができるのは、水が石の頂部を越えられたときだけ。
そんな部分もところどころにはあって、水の落ち込みを発生させている。
石の存在によって複雑化させられた流れ。
石は大きなものでは、大型重機のタイヤサイズほどもある。これらは主に、両岸斜面より供給された「落石」なのではないか?
そのほとんどは角ばった形をしていて、上流から流れついたというよりは、短時間のうちに当該場所にあらわれたという感が強い。
銘板によれば堤体の完成年は昭和52(1977年)。
堤体の完成当初は、とくに河床低下にともなう斜面の削れが起きやすい。斜面の土が削れることによって、斜面上にあった石はその場に留まることができなくなり落下する。
石のひとつひとつはコケが乗っているので(落下からは)だいぶ長い年月が経っているようだ。
石の存在によって複雑化させられた流れはつい最近できたというものではなく、何十年と続いているのだろう。






日の出をむかえる
午前6時20分、自作メガホンをセットし、声を入れてみる。
声はまったくといっていいほど響いている感じがしない。
やはり堤体前。
石の存在。
複雑化させられた流れ。
流れによるノイズ。
ノイズ発生源はあちこちに点在し、しかも豊富な水量もあいまって非常に重たいノイズだ。
ノイズが重く。では、これに対抗するための手助けがほしい。
堤体前。両岸斜面は細く狭まった谷底から、一気に開放されていくような広角V字型の斜面。渓畔林を構成する木も多くて、一見すると音を還してくれる要素に非常に豊富な斜面にも思える。
しかし、実際その場に立ってみると、斜面や渓畔林の存在以上にとにかくノイズが大きい。
空間を支配する圧倒的なノイズ。
上流より絶え間なく供給される水が豊富で、さらに片時も隙がないとなれば、音のパワーバランスのなかで声だけを露呈させていくのはやはり難しいのか。
午前6時40分、日の出をむかえた。
堤体前空間は急激に明るくなった。
自然と声が出る。
ただただ自然と声が出る。
これは快楽なのか?
はたまたストレスなのか?
いや、
ただただ、
眩しい!
そこまで深く考えない。
快楽だのストレスだの、現段階ではよくわかっていないこと。ただ、言えるのは「歌う」その場の環境が急激に変化したということ。照度計の状況から、堤体前空間が急激に明るくなったことがわかる。(照度計の画像参照。)









きょうのゲームに対する印象
結局、この日は午前9時まで堤体前で過ごした。
堤体前の石の多さ。豊富な水量。両者によって生みだされる水の流れの複雑さ。
響きづくりを難しくさせる要素に多い堤体前であった。
音楽ひとつのためにわざわざ山へ出かけている。わざわざ山へ出かけて、道具も用意して、それなりの緊張感ももって入渓して、しかし響きが出ない。
こんなことは、よくあること。
堤体前に立てば、必ず響きが得られます・・・。と、ならないのがまた、砂防ダムの音楽の面白さ。
水の流れが生みだす自然の音に人間の声で抗ってみて、しかし、まったく歯が立たずにただただその場で時間だけが通り過ぎてゆくという無常。
そんな無常を突きつけられることがある。
ただ、今回はゲームの途中に日の出をむかえるという展開があった。
日の出をむかえたことによって、堤体前空間は急激に明るくなった。
眩しい!と感じるまでに。
空間としても明るくなっているし、水面や木の葉っぱが太陽の直射日光をうけて「輝き」を発するようになった。
信じるのは、こういった空間の明るさや「輝き」といったものがプレーヤーの心情に何かしらの影響を与えるのではないのか?ということ。
明るさの変化に並行して、ヒトの心理状態も何らかの変化をするのではないかという推論を持っている。そして、そういったものを砂防ダムの音楽が持つ優位性として、活かしていきたいとも思っている。
日の出による急激な明るさの変化。
そのことによるヒトの行動の変化。
「歌いづらくなった。」と感じる人も中にはいるのでは?
しかし、それもまた研究者としては興味深い出来事。
少なくとも、空間の明るさが急激に変化すること。そのことによって、プレーヤーの心境にも何らかの変化が及ぶ。そんなことが言えるようになるのでは?
明るさの急激な変化。
それが良い方に傾くのか?悪い方に傾くのか?
影響は人それぞれ違おうとも、明るさの急激な変化がプレーヤーの歌う。歌わない。に影響をおよぼすということが証明されれば、これは大きな発見であると思っている。
この日、森山自身においては圧倒的に歌いやすくなった。というのが所感。
これを狙って予定を組み立て、深夜便にてこの場にやって来た。
その甲斐あって。予定通りの・・・?高揚する気分とともに歌わせてもらうことができた。
これは、まさに日の出のおかげ。
健康ランド発、深夜便。
響きの面においては難しい展開が待っていたものの、ゲーム全体としては決して悪い印象もなく締めくくることができた。
いい朝をむかえられた。










































































































































































































































































































































































































































































