夕日の滝

神聖なる滝に敬意を表して、画像は掲載しないこととした。

今回の行き先であるが、「夕日の滝」なる名瀑があるところだという。神奈川県の西部には名川、酒匂川が流れているがその酒匂川以西のなだらかな丘陵地~山地にかけて位置する自治体に南足柄市(ほかに足柄上郡開成町)がある。

市は富士フイルムやアサヒビールなどの製造業が有名で、それらの製造工程にはどうやらきれいな水というものが欠かせないらしい。そういった市の主力産業を支えるきれいな水が欠かせないところで、また生活水源として市内各地の湧水ほか、当ブログで最近熱くなっている金時山以北、以南の尾根に端を発する各河川(狩川、内川、上総川など)からの清らかな水の供給があるようである。

夕日の滝に関しては南足柄市北西部の山中を下る「内川」の一部となっていて、地理院地図によればこの夕日の滝より上流部にいくつかの二重線が見られる。

滝の近くと聞いて張り切ったというのは言うまでも無い。

これまで静岡県東部を中心に各地の砂防ダムを見てきたが、概して滝の近くでは魅力的な堤体に出会っている。縦に長くて、水がドカン!と落ちていて、水質も大変クリアなものに数多く出会ってきている気がするのは勘違いでは無いはずだ。

当地の男たちは大きな落差の滝に対抗して「自分たちも!」と堤体を建立するのであろうか?地殻変動はじめとしたスケールの大きな“大地の動き”によって作られた自然物をまるで友達が砂遊びで作った山の大きさよろしくライバル視して、人間としての威厳を見せたいと大変な労力と莫大な資金を投じて、大きな滝に負けず劣らずの堤体を作り上げるようである。

大の大人が、砂遊びじゃあるまい・・・。と一般人はあきれるかもしれないが、これを現代の遊びに利用しない手は無いと思っている。山中に作り忘れ去られた、巨大壁を前に今日も歌うことでその必要意義は土砂災害防止だけでは無いのだということを確認し、次の世代に前向きな形で砂防ダムを繋げていきたいと思っている“どうせあるなら楽しんじゃおう派”の意見の記入欄として、当ブログを今後も続けていこうと思っている。

林道入り口。金時山登山道入り口でもある。

ハッピーマンデー

2月24日午前10時15分。林道入り口にちょこんと置いてある柵の横を通過する。駐車場はこの柵の手前側4フロアに分割する形であるのでいずれかに停めればいいはず。そんなところで、この日私は一番下のフロアに駐車した。(いずれも駐車料金は無料。)上の3フロアはなんとなく有料のキャンプ場および宿泊施設sotosotodaysCAMPGROUNDSの利用者優先かな?と思ったためである。

この日はハッピーマンデー。前日からの宿泊客おぼしき家族連れなどでけっこう賑わっていた。その賑わいを横目に林道入口を通過。このときもうすでに夕日の滝は見終わったあと。落差23メートルの滝はなかなか見応えがあった。

滝の余韻に浸りながら、林道を進む。決して荒れすぎているともいえないが、平穏とも言えない感じの林道。崩落ヵ所多数で軽四駆自動車でも通行不可、モトクロスバイクなら通行可能といったところか。崩落によって道幅の狭くなっている箇所が点在する。

林道入り口から15分。最初の堤体を発見。小躍りしたくなるようなサイズ感だったがとりあえずキープということでさらに上を目指した。

早くも堤体を発見。

四阿が付いている。

最初の堤体のもう一つ上の堤体が珍しかった。なんと四阿が付いている。これまであちこち堤体を見てきたが、堤体の真横に四阿があるのを見たのは今回が初めて。砂防事業、もしくは治山事業として堤体セットで整備されたのか?見た感じでは四阿は後付けという感じでかなり新しい。堤体近くということで湿気が多いため塗装はしっかりとしているが、耐久性はどうか?

砂防ダム、治山ダムを「見る」ものとして意識していることがわかる。ここに立ち入ってどうぞご覧ください、休憩してください。という意図で作られている。四阿の下流側にはヤマザクラの木が2本植えられていて、花のつぼみは今にももうはじけてしまいそうだ。

ここで背中に携えていた昼食を取り出し、しばしの食事休憩。水叩きに打ちつける落水の音を聞きながらにぎりめしを貪った。それにしてもまさか砂防ダム行脚をしていて、その堤体の真横で昼食のとれるところが用意されてるとは全くもって想像していなかった。

いつも通り堤体前に入って、
ふと上を見上げると、
四阿を発見。
溜まるエネルギー。

好適なところを発見。

さらに上流域の堤体も見てきた。内川はこの四阿のある堤体よりさらに上流側にちょっと低めの堰堤が1本あって、さらに上に行くと二俣がある。直進と左俣に分かれ、いずれもそのあと堤高3メートル程度の堰堤が現れるが、気に入ったのは左俣側。分岐すぐの堰堤を巻いたところがなだらかな丘のようになっていてその中央部分をチョロチョロよりも少し多いぐらいの水が流れている。

なだらかな丘が形成されているのは先ほど巻いた堰堤による効果で、滞留土砂で作られた小公園(しょうこうえん)のようになっており、左右を取り巻く渓畔林もあいまって大変に心地よい。この空間を作り上げた上と下には“堰堤”という自然界には存在しない“異物”があるが、その両者間は(植林ではあるものの)樹木や石といった自然物で形成されているため、そのりきみの無さ、まさに自然体がこの場所にはある。

水量的にも荒々しさが無く、かなり静かであって、でも堤体は生きていて落水による音を主張してくれる。音楽的には静かな曲から盛り上がる曲まで幅広く楽しめると思うので、砂防ダムの音楽をやるにはかなり好適な場所であると思う。

ここはかなり良かった。

ポスターを発見

午後2時すぎ。歌い終えて件の好適なところを出発した。分岐までまずは戻り、それから下流側へと歩を進めた。目指したのは一番最初に見つけてキープしておいた堤体。気を引き締めて堤体前まで降り、見上げるとかなり大きな砂防ダムであることが改めてわかる。

落差23メートルの名瀑に対抗して大きなものを作りたくなってしまったのか?

堤高は10メートルクラス。放水路天端から落水地点までの距離は7メートルといったところか?23メートルに対して7メートルでは、差がありすぎるように感じるかもしれないが、世の中の堰堤、砂防ダムと呼ばれる河川構造物の標準から見れば十分大きいクラスに入ると思う。
水は先般の分岐からの、つまり二方向からの合計となるので豊富だ。流れ下った先にある夕日の滝では※滝行を行ったりするそうであるが、にわかに信じがたい。

先ほどの堰堤を「静」とすればこちらは「動」と対比することができると思う。盛り上がるタイプの曲を歌ったり、歌い手別でいえばパワーのある方向けといったところになるだろう。ここでも小一時間歌った。

午後3時に退渓。再び崩落気味で狭くなった林道を歩き、駐車場まで戻った。すると、先ほどは掲示されていなかったポスターを発見。来月は夕日の滝前の広場でイベントが開催されるようである。

水の落ちるとこにはやっぱり人が来るのか・・・

滝自体久しぶりで、そもそも人を寄せ付けるような魅力を持った物質を相手にしていたのだということを忘れていた。公園が整備されていればイベントを催したりすることも出来るのだと納得。
「2020年3月21日(土)9:00~夕日の滝広場へキッチンカーやショップの搬入が開始されます!車両が入りますのでご注意ください。」と。

頑張ろう。砂防ダムだって、可能性は無限大なはず。

※この日は滝行が開催されていないことを確認した上で入渓した。

イベントは3月21日に開催される。
もう春でっせ~
ミヤマシキミ
一番最初に見つけた堤体。

林道大沢線

林道入り口。重機は前回も見ていたのだった。

画像は、前回入ることの無かった大沢川の林道入り口である。足柄峠から約4.0キロメートル下りてきた地点にあるゲートだが、気になったため今回はこちらに入ってみることに。見えづらいが画像右端にある林道名は「林道大沢線」である。地理院地図を用いて俯瞰すればすでに明らかであるが、ゲート入り口すぐには名前にある「大沢(大沢川)」を見ることは出来ない。本日はここから1キロも無いくらい、ぐねぐねに曲がった林道を歩き、とりあえずは大沢川に出会ってからという感じで始めてみようと思った。
2月20日、午前。ゲート左端のすき間から林道内に入る。直後には2台のグラップルがお出迎え。

そういえば前回、ここに来た時、もうしばらくは入れないか?と思っていた。ここに重機が置いてあるということは、今現在この林道が何らかの作業中であることを意味しているのだと勘ぐったからである。前回は、すでに書いたとおり午前中に結構な雨が降っていたので、その雨に影響されて現場が作業中止になり、停車中の重機を見たのだと思いこんでいたのだった。

それでは、通常の晴天時にここに来ればくだんの重機は絶賛稼働中で、砂防ダム音楽などというレジャーの人間はたちまち排除されてしまうのだろう、と考えていたが、当日はご覧の通り休止中。どうやら今日このタイミングにおいては林道内に立ち入っていくことはできそうである。

ででーん!とグラップルが2台。

二重線の連続

ゲートから歩きはじめて15分ほどで、水のしっかりと流れている沢に出会うことが出来た。間違いない、これが大沢川だ。しかも地理院地図には描かれていなかった橋も見つけることができたため、ここから下流方向にも楽々進んでいくことが出来る。

下流側に行くか?上流側に行くか?

今一度地理院地図を見てみると、上流側には二重線の連続がある。これは階段工の可能性ありということで、今回は下流方向に歩くことにした。砂防ダム音楽家の悲しい性(さが)とでも言おうか、やはり日常的に大きな堤体を目指してしまうものなのである。階段工もときには大変見事なものに出会うことがあり、こちらも決して無視は出来ないが、はっきりと本堤だけ、もしくは本堤+副堤だけでドーン!と構えている堤体がやはり好きなのである。

大きな堤体に期待感を抱きながら歩を進める。

地図には描かれていなかった橋

林道大沢線の印象

林道大沢線の印象。なんて偉そうに書いてしまったが、これはもうお隣りの滝沢川沿いの林道とあまり違いは無い。今回もいろいろ画像を撮ってきたが、見ていただいてのとおりである。

今回、この大沢線を下流の基点までフルに歩いてきて、林道上への倒木、土砂の流出、林道そのものの洗掘など多数見てきた。酷い、というよりは前回の滝沢川含め、これが当地の山の“個性”なのかなと思った。決して優しいばかりで無く、荒れるときは荒れる。人間とは平穏に共存していくことが出来ない難しい山だと思ったのだが、別にそれが嫌であるとか、改良しろとかいう風には思わない。

当地に居住しているわけでも無い、全くの“よそ者”ならではの極めて楽観的な言い分に聞こえるかもしれないが、このような個性に触れることが出来て正直、幸せを感じた。林道の決して短くは無い区間の洗掘から判断して、これを仮に全面復旧するとすれば莫大な労力を要するであろう。

そんなことをする必要があるだろうか?きれいさっぱり改良しました!という林道でも河川構造物でも、とても残念なところを今までいくつも目にしてきている。物理的に通れるだとか、スムーズに流れるだとかいうことも確かに大事であるとは思うが、人の心に対して不安感を与えるような、近寄りがたい雰囲気を醸し出すような山こそ排除していくべきだと思っている。

土砂災害が全く起らない完全体の山など要らないし、作る必要も無い。

大沢川沿いには車の走れない極めて不便な林道が続いていることがわかった。でもそれはこの山の個性から発揮される極めて素直な道の姿であって、その姿に感動を覚える人は結構いるのかもしれない。少なくとも、私にとってはいい思い出が出来たのだということをここに記しておきたい。

やめられない。

結局、歩きに関しては林道大沢線基点を越えて東名高速上り線高架下の通行止め看板(前回見た地点)まで行ったあと折り返して、再び最初のゲートまで戻った。途中、看板を見つけて「遊女の滝」に下りたり、歌は滝から数えて2つ上流側の堤体で楽しんだりした。

堤体を前に音楽をしに行っているのだけれど、やっぱり楽しみはそれだけでは無いということが再確認出来た砂防ダム行脚となった。その場所に行くまでに色々なものを見たり、感じたりすることの出来る楽しさがこの音楽にはある。練習室やホールで歌うのではこういったことはなかなか味わえないのではないか?

こうなると砂防ダムの音楽はやめられない。

画像奥の堤体による河床低下も一因
ゴロゴロ
洗掘中の林道
こちらの堤体前もご覧のとおり
30年以上経って未だ河床が安定しないということ。
大沢川

ヒキガエル

今日は足柄SAからスタート。

今日(2月13日)は足柄SAからスタート。

午前中は雨が降っていた。それも昨日の夜から断続的にである。午後からは雨がやんで、一転晴れるというので足柄SA下り線に待機していたのだった。

祈るような思いとともに迎えた午後0時。空は予報通り、突然、快晴となった。前回、寒沢川と金時川に入っているが、今回は金時川のさらに北側のエリアを攻めるつもりで来ている。天気が回復してくれたことで、気分的には少し楽になった。

これならば目的地までのドライブだけでも楽しむことは出来そうである。問題があるとすればそこから先で、午前中まで元気に降っていた雨の影響をうけ、渓行が思ったように出来ないのではないかという不安を抱えている。

足柄SAを出発。桑木の集落に向かって坂を下り、JR御殿場線を見る。いったん桑木踏切をわたり、直後の新金時橋前で車を停車。橋から鮎沢川の様子をうかがうと、水量はそれほどではないものの水が濁っている。やはり渓行は厳しいか?それならば路上から谷止工相手に歌おうかと考える。

―沢を歩くのが危険というならば、沢に降りなければ良い。―

川をチェックしたあと、1枚画像を撮った。鮎沢川は金時山山麓北側を回り込んで酒匂川となり、最後相模湾に流れ出す静岡→神奈川の越境河川である。水の流れとしては県境に向かっているので不思議な画が撮れた。川が山の方向に向かって流れているように見える。

鮎沢川

コースの一部

新金時橋前を出発し、JR御殿場線に寄り添うようなかたちで北に向かって車を走らせる。前回、行脚した金時川より北側には順番に、山沢川、地蔵堂川、滝沢川、大沢川といった川が控える。どれも流れに太さの無い、川というよりは沢に近い程度のものであることは地理院地図の情報からすでに明らかであるが、期待感は決して低いものでは無い。

新規開拓では何が起るかわからないはずだ。

であるから、本当は山沢川に入らなくてはいけなかった。しかし今回はパスすることに。地理院地図を見れば川の流域の大部分がギャツビーゴルフクラブにかかっていて、これはもはやコースの一部というような体で描かれている。別に遠慮することも無いと思ったが、雨後で渓行出来ない可能性ありという点含めて鑑みるとここは素通りするのが吉と判断して通過した。

さらに北に向かって走り、地蔵堂川を目指す。

足柄峠

地蔵堂川へはJR御殿場線の竹之下踏切を渡り、直後に現れる看板のとおり「足柄山古道」経由で進む予定であった。しかし、その看板前の丁字路、足柄山古道方面には「林道通行止め」の看板が。
それならばと、もう一つの地蔵堂川ルートである県道78号線ルートを使おうと右折したのだが、その先のY字分岐でもこれまた全面通行止の文字。

どうやら、地蔵堂川へは入れないようである。こちらの川もパスすることに。

少し焦りながら次に選んだのが県道365号線のルート。地図上に沢は全く描かれていないが、この道は静岡、神奈川両県の県境「足柄峠」へと続く重要なルートのため、谷止工が見つけられるかもしれないという思いで登り始めた。ここでは結局、一番上の足柄峠まで登って、しかし谷止工発見とはならなかったが、峠から下りてきて約4.0キロ地点に大沢川、滝沢川へと続く入り口をそれぞれ発見した。

大沢川の入り口はがっちりゲートで閉鎖されていたため進入出来なかったが、そこからちょっと降りたところにある滝沢川入り口には入ることができる状態であった。

―よし、行こう。―

林道に入ってからは、滝沢川に沿うようなかたちで降りていくことができた。降り始めてすぐにわかったのが、かなり森が傷んでいるということ。土砂崩れの復旧跡はあちこちに見られ、どちらかと言えばその復旧跡の壁のすき間をかろうじて通り抜けている感じ。林道本体が沢からの浸食を受けている箇所があったりして、ヒヤヒヤしながら坂を降りた。

上流部に堰堤を見つけることが出来たが、伏流していたためその後は大して期待していなかった。だが・・・、

地蔵堂川には入れず
滝沢川の伏流していた堰堤

だが・・・、

堤体は突然現れた。それは林道脇の土砂崩れ跡が見られなくなり始めた頃のことであった。高さは堤高10メートル程度といったところか?ちゃんと落水も見られる。

悩んだ・・・。というのもここまで降りてくる時に林道から、その脇の滝沢川から酷い土砂崩れ痕を見ていたからだ。気分的にどうも乗り気になれなかった。

ここはいったん「キープ」という判断で、次の堤体を目指すことに。一本東側を流れる大沢川に下から入ろうということで、駿河小山駅前まで降りて800メートルほど東進。入り口には「遊女の滝」の看板があり、かなり整備された道を走れるのでは?と期待したが、まもなく現れた東名高速道路上り線の高架下で、またしても「通行止め」の看板。沢の感じとしてもかなり荒れている様子。

あきらめて滝沢川に戻ることにした・・・。

発見時に撮影。

用水路にふと目をやると

先ほどキープした滝沢川の堤体まで戻った。堤体付近には駐車スペースが無かったため、堤体前を通過しさらに100メートルほど上流の道幅の広くなった所に車を置いた。
車を降りる。
すると、堤体の方から動物の鳴き声がする。普段よく聞くニホンジカの「キャン!」というものではない。断続的に「ケケケケ!」と鳴いているのだ。
―ははぁ、竹の節間同士が擦れる音だなこれは。だましやがって!・・・―

準備を済ませ、堤体に向かって歩く。林道沿いの用水路にふと目をやると、水たまりの中でなにかがピュッと逃げた。イワナかと思ってその逃げたあたりをウォーキングポールで突いてやると足の生えたイワナが下手くそな泳ぎでズズズッと水たまりの反対側に突進した。

ヒキガエルだった・・・。1匹の。

やれやれと用水路を見限り、その後堤体上に到着。

ヒキガエルだった・・・。おびただしい数の。

おびただしい数の。

冬眠から覚めて

たしかにもう立春を9日ほど過ぎ、暦の上では春である。それにしたってまだ2月。寒くて朝おきるのがつらい日もある。屋内だってそんなであるのに、ここは屋外、自然の中。冬眠から目覚めて、元気に鳴きまくっている猛者達のその姿には唖然となった。携えていた温度計で計測してみれば気温15度、水温は10度という条件下での出来事であった。

ヒキガエルの画像を撮り終え、今度は自分が歌うため堤体下に降りる。ヒキガエルたちの旺盛に鳴く姿に触発されてこちらも俄然やる気が出てきた。

選んだ曲はシューベルト作曲のDie schöne Müllerinから数曲。この曲集は私のなかでは冬限定。水車職人の娘に片思いした青年がその自身の溢れる気持ちを表現した詩から曲が出来ている。今年はどれだけこの曲集を歌うのだろうか?と期待して迎えた冬であったが、意外にも出番が少なかった。

堤体を前にしてどんな曲を歌うかは事前に決めていることが無く、その時、その場所で得た気分によって選曲している。素晴らしいとわかっている曲であっても、そのときのシチュエーションに合致しなければパスすることとなる。気分で選んでいるので旧知でおとずれた堤体と新規開拓でおとずれた堤体ではやはり差が出てしまう。

もしかするとDie schöne Müllerinは新規開拓ならではの歌なのかもしれない。

今日は午前中まで雨が降り続いた。そんななかで堤体を前にして歌うことがまず出来た。そこを評価したい。しかも実際に滝沢川という川に来て、その土砂崩れ痕から一時やる気を失ってしまったが、なんとか取り戻すことが出来た。そんな自分自身がなれた、というのはやはりここで待ち構えてくれていたあの早起きヤツらのおかげだと思っている。

ヒキガエルたちに心から感謝したい。

よく見ると立派な脚をしている
こちらはホオノキの葉のじゅうたん。
水裏、側壁、水叩き
上流域の土砂崩れ痕
滝沢川

金時川

御殿場市内から見た富士山(御殿場市深沢)

2月3日。この日は、自宅のある沼津市から北を目指してハンドルを握った。行き先は御殿場方面。沼津市岡宮から始まる伊豆縦貫道にまずは入り、(伊豆縦貫道)長泉ICを目指す。今日は朝の出発が少し遅れてしまったせいもあってか、新東名長泉沼津インター過ぎてすぐの片側2車線→1車線合流地点は難なくクリアー出来た。

―最近、ここは大丈夫になったのか?―
この道を午前中走るのは久しぶりな気がする。もしかしたら、1年以上走っていないかもしれない。御殿場方面自体かなりご無沙汰となってしまっていたので、ここの名物渋滞が最近どうなのか把握できていない状況であった。

直後の長泉ICからは国道246号線に乗る。この先はずっと片側2車線の道が続いていて快適だ。空はさわやかな晴天で気分は上々である。

途中、御殿場市萩原で国道138号線に乗り換え、東名高速御殿場インター下をくぐったのち東山湖の土手を左手に見ながら進んだあと、深沢西の旧国道入り口にて右折。直後、左手に現れる林道入り口に車を置いた。

深沢西の信号

寒沢川

午前中は車を置いた所から寒沢川に入った。ここは、以前来たことのある場所なのだが、その時は何かのついでで立ち寄ったために装備が疎かで、堤体までたどり着く前に途中で断念している。かなりこぢんまりとした沢であるが、ここ数日間の晴天続きに冬場という条件下であっても水は途切れること無くしっかりと流れている。

実は自宅のある沼津市を中心として色んな川を見てきたが、同市以北の地域に関して私はかなり苦手意識が大きい。特に裾野市、御殿場市方面の沢に関しては溶岩層の多孔質部分(クリンカー)のはたらきによって、雨水がガンガン吸水されてしまうという特性があるため、せっかく現地に赴いたものの、
「沢が無い!」
という事態に何度も出くわしている。

この傾向が沼津市北部の愛鷹山から、山梨県の山中湖村ぐらいまで続いているため、いつしか、
「富士山麓はダメだ・・・。」
という苦手意識が生まれ、堤体を探したりすることそのものをあきらめてしまっていた。

そんななかで、でもこの冬の新規開拓のシーズンに御殿場方面でいいところを見つけておきたいな。ということで今回寒沢川を目指した。結果としては地理院地図にある“せき”マークは堤高5メートル程度の低い堰堤であるということが判明したが、流れる水も大変きれいで渓行の楽しさを味わえたと思う。川の上流には何か?があるようで、かなり整備された道を発見できたが余計なところでケガをするまい。ということで虻蜂取らず引き返した。

寒沢川

午後は金時川へ

寒沢川の低い堰堤では満足出来ず、午後は自治体界を跨いで駿東郡小山町に入ることにした。目指したのは金時川。こちらもやはり新規開拓で、地図で道を確認しながら向かうことになった。経由地として「ホテルGOLF」、「鮎沢川」、「紅葉橋」などが出てきたためそれらの位置をしっかり確認しながら進むと、直前の通過ポイント「ギャツビーゴルフクラブ」前に出ることが出来た。

そこから、金時山登山道の案内標識に従って進むと簡易水道施設が現れ、さらに少し進んだところで林道山側斜面の崩落に遭遇。これ以上車では進めないため、そこからは歩いて堤体を目指した。

崩落ヵ所から堤体までは歩いて5分ほどであった。堤高10メートルクラスの大型砂防ダムに歓喜。さっそく林道から沢まで降りる。沢に降りる前段階から河床が不安定なことが見て取れたため、最後水辺に降りる直前はかなり気を遣った。右岸側は針葉樹(スギ)、左岸側は広葉樹(?)によって出来た空間で、かなり明るい。

今の時期であれば、夕方の薄暗い時間が良いのではないかと思った。もうちょっと暖かくなって左岸側の渓畔林が回復してくれれば日中でもいけるかもしれない。明るすぎる環境の中、それでもなるべく暗い所をということで針葉樹の右岸側に寄って歌うと、なんとか楽しめた。

崩落に遭遇。

“怪しい記述”を目指した。

同地は15分ほどの早さでいったん退渓。再び林道まで上がり、もう一本上流にある“怪しい記述”を目指すことにした。通常、地理院地図は砂防ダム等を二重線マーク(前述の“せき”マーク)で示すが、時折どういうわけかそれを違う記述で表すことがある。どんな記述法かといえば一本線で表していた沢をある地点で突然広げたりする方法。

地図上には沢の途中に小さな湖のようなものが出来る。それが今いる砂防ダムより上流に確認出来ていたので行ってみることにした。

雨水によってかなり削られた林道に驚きながら進むと、目的の場所に到着。正体は巨大な鋼鉄製透過型砂防ダムであった。鋼鉄が小学校の体育館にある肋木(ろくぼく)のような形に仕上げられているのは、土砂を余計に貯留することを防ぐためであろう。排砂が必要なくなるという点において重力コンクリート式とは性格を異にする。メンテナンスフリーで人が来なくてもいいというメリット反面、ここまでの林道を見てわかる通り山林は放置されている。

いずれにせよ、これでは歌えない。

削れていると言うよりも穴が開いたに近い。
鋼鉄は肋木のような形状

今日は節分

来た道を折り返すようにして林道の(これはもはや)落とし穴に落ちないよう進み、車に戻った。その後、昨年3月にオープンしたはずの東名高速足柄SAスマートインターを確認しようということで、同所を目指した。鮎沢川に架かる新金時橋、JR御殿場線桑木踏切などを通過するとあっという間にSAに到着。

盛り土を固めて作った真新しいスマートインターは見事に仕事をしていた。有人の料金所と比べると実にシンプル。通行車両の運転手は、ETC車載器の作動音とともに虚しく開いたゲートを通過するのであろう。旅行での料金所通過を一つのイベントとして捉えるならば、近くの御殿場インターチェンジを使った方がいいかもしれない。

普段、伊豆中央道やら修善寺道路で現金決済をしているが、料金所の回収係も人という一つの立派なインフラなのかもしれないと思った。人が立っているかどうかで、その観光地の競争力に影響が出る。これは、普段勤めているホームセンターで上司からよく言われていることと似ている。その上司いわく小売業も人が立っているほうがよく売れるのだという。

腹も空いたので何か買って帰るか、と下り線側のSAに立ち寄ったらあの「柿次郎」が今日は恵方巻きを売っていた。そうか、今日は節分であったか!うまそうだったので、ついゲットしてしまったがよく考えなかった。
―フードコートじゃ恥ずかしくて食えない・・・、車中も見つかるかもしれん。―

足柄SAを出て、空腹に耐えながら帰路を走り続けたのだった。

足柄SAスマートインター(画像は下り線側)
柿次郎
柿次郎の恵方巻き
寒沢川の堰堤
金時川の砂防ダム