目ん玉バッチリ

8月26日午前0時、目が覚めた。

寝巻からベルトの通ったズボンに履き替え、自宅を抜け出す。

車のエンジンを掛ける。

駐車場から出庫し、沼津市内、山に向かって坂を登る。まだ電気の点いている住居が何軒もある。受験勉強か?

子どもの数が随分と増えたなぁ・・・。

外を出歩く者はいないか?

幸い、歩行者、自転車は見あたらない。猫の心配だけすれば良い。

坂を登りきると明るかった。足高のアンナバンの上を一台の乗用車が転がる。

ETCは無言であった。いつもカードのことには口うるさいのに。

時速100キロの制限速度になり、嬉々としたのもつかの間、辺りはいちめんトロ箱の世界になった。

トロ箱の世界を右に左に逃げながら進んだ。ちょっと調子に乗って。けっして捕らえられることはなかった。だが、いつの間にやらそのトロ箱同士で出来た部屋に迷い込んでしまい、抜け出すことが出来なくなってしまった。

魚は自分の体の何倍も大きいトロ箱の壁に囲まれながら、逃げ道を探した。しかし、それは無かった。以降しばらくは状況かわらず。

続く膠着状態。

魚の脳で悩むのか?

悩まなければいけないのか?と、ここで急に左が明るくなりコースをフェードアウト。

あぁ、よかった・・・。

その後、フードコートまで歩いて。

券売機でチケットを買い、震える小機をもらってしばらく待った。

ようやく出てきて口にすることが出来たのは午前1時。

深夜のカレーうどんは格別だった。

東名高速道路足柄サービスエリア上り線

冷房はかけない派

ようやく寝惚けまなこから立ち直ることが出来た。
カレーうどん完食後、サービスエリア周辺をウロウロ。カブトムシがいるかな?と思って常夜灯のまわりを探し回ったが見つけることが出来ず、やることも無くなり、車に戻ることにした。

!!!車に戻るとびっくり。こちらは普通乗用車。その隣には5トンくらいのトラックが乗用車の駐車スペース5台分くらいを利用して、真横を向くように駐車している。

どうやら、大型車両駐車スペースが埋まっていてはじき出された車がやむなくこちらに進出してきている様子。当然ながら中には人がいるようで、アイドリングしながら、車内ではおそらく冷房をかけて寝ているようだ。

こんなことが日常茶飯事なのか?

気にせず、こちらも睡眠を取ることにした。さほど暑さも感じなかったので冷房は使わず上着を一枚かけてアイマスクをし、シートに身を預けたのが午前2時過ぎ。

はやおき

午前6時50分、車内の暑さに目が覚めた。もう外ではセミが鳴いている?ようであるが、その音もガラガラと鳴り続ける隣のトラックのアイドリング音によってかき消されている。

取り敢えずは車を降りてトイレに行き、そのあとコンビニに立ち寄ろうかと思うもテナントのレストランが朝定食をやっているようだったのでそちらに立ち入り、「足柄はやおき定食」をいただく。

こちらの“はやおき定食”であるが、どうやら午前10時までオーダーが可能な様子。早起きした人も、別段そうでなかった人もその恩恵に浴することが出来るようなのだがとうてい私自身、

はやおき

したなんて自覚は無くて、

まだオッケーですか?

と尋ねたくなった。
太陽熱に蒸された車内でやっと目覚めさせられた。のであったから。むしろ寝坊したくらいに思っていた。

まだまだ寝ぼけた舌に定食の味噌汁が沁みる。

ETCで退場

車に戻ると時刻は午前8時。ドアを開けるとマイカーの車内はさらに暑くなっていた。

この場から逃げよう。

半夜世話になった駐車マスを外れ、通路上に引かれた矢印の線と案内板に従う。
案内板はみどりと紫があるうち紫に従うこととし、レーンに合流してくる車両に注意しながら進み続けた。

さてゲート越えであるが、本来午前1時前には通過となるはずのところおよそ7時間以上も遅れてしまっている。ゲートには監視カメラとスピーカーが付いていて、遠隔でやりとりができるところ、オペレーターにツッ込まれてしまうかとドキドキしたが(あちらもいろいろ忙しいであろう。不正通行の監視等で。)何事も無く通過。通行料金は深夜に入場したため割引が適用されていた。

一般道に出てからは東を目指した。昼の太陽光同然のそれから一刻も早く逃れるには一番近い山が良いはずだ。

JR御殿場線桑木踏切を渡り、直後の新金時橋も越える。山久荘前の丁字路を左折し、金時向平橋を渡るとあまり見通しの良くない山道に入り、それでも進んだ先に現れたのがギャツビイゴルフクラブ。
そのクラブハウス直前。従業員駐車場の裏に金時山登山道入り口となる未舗装道路があってそこをガラガラ音を立てながら進むと、

ありえないくらいの暗がりにゴール!

ここが一番涼しくて、太陽光を避けられるのだけれどそのままグイグイと突き進んで針公混公林、谷川に向かって斜めに伸びるコナラの大木前で車を停めた。

まだ寝ている。

車から降りると木々のすき間から金時川の砂防ダムが確認出来た。

入渓の準備を整え、さっそく谷の様子をうかがう。堤体前の谷は急斜面でなおかつ、岸際には浮石がゴロゴロしている。ここをすぐに降りてしまうのは危険と判断し、いったん下流側にそのまま向かうことにした。

針公混交林、だけれどほとんどスギという木々の下を谷川の法肩に沿うようにして歩く。するとほどなくして川面まで安全に降りられそうな斜面を発見することが出来、それを伝って下まで降りた。ようやくの入渓。
そして再び下流まで下がってきた分を取り戻すように遡行すると、堤体前に出た。

やっぱりまだ寝ている。

時刻は午前9時前。
先ほどまで足柄サービスエリアでマイカーを熱され、ここまで逃げてきたことが嘘のよう。
堤体は副堤の側壁護岸の一部にはカケラ程度に日が当たっているが、それ以外の本堤天端、水裏、副堤天端、水裏、そして落水すべてにまだ太陽の日が当たっていない。

起きるのを待とうか?

堤体全景。午前8時50分頃。

残暑の疲れに要注意!

堤体の放水路天端上の水に太陽の日が当たり始めたのは午前9時20分頃。

Vメガホンをセットし声を出し始める。

あるのは「違和感」の三文字。

放水路天端上の水が主役であってほしいのに、副堤の側壁護岸のほうが強くギラギラと光っている。視界内にある堤体において明らかに、
「光っていてほしいところ」

「影になっていてほしいところ」のバランスが悪い。

これでは楽しめないと光る側壁護岸が見えなくなるようにするための移動。立ち位置を変える。自分自身の目と側壁護岸の間に大石が一つ挟まるようにして対処した。すると側壁護岸の光をみごと死角に封じ込めることに成功。

これで解決!

以降は午前10時半頃まで休んだりまた声を出したりでちょっとダラダラしながら歌を楽しんだ。そして退渓後は林道沿いに生える樹木を同定し、全く暑くない車内に戻ってやはり冷房をつけること無く昼寝をしたあと山を降りたのが午後1時。

目ん玉バッチリで帰りの高速路を走り抜けた。

ダンコウバイ
ウリカエデ
キブシ
高木のミズキは林道上から至近撮影。
平行四辺形(懐かし。)に光るのが側壁護岸
堤体全景。午前9時50分頃。

吊り橋

船原川

8月20日は船原川に入った。

朝5時、伊豆市月ヶ瀬にある下船原トンネルのアーチをくぐり、延長わずか208メートルの暗がりを抜けると下船原の平(たいら)地区に出ることができた。

直後の左手には、船原川に架かる吊り橋。

トンネル含めこの道が出来てからおよそ1年7ヵ月。それより以前、旧道の「出口」三叉路から平地区へ進んでいた頃には、ここに吊り橋があるなんて知る由も無かったが、新道の開通によるルート変更では、今まで見ることが出来なかった景色が顔を出した。

とりあえずは今日もその前を通過。

朝一番のチャンス前という時間、入渓点に急いだ。
そこからおよそ2キロ先にある船原桟道橋ちょく前でハンドルを左に切り湯端橋を渡る。旧船原ホテル裏の堰堤前に到着したのが午前5時すぎ。

そそくさと準備を済ませ、入渓し、歌を楽しんだのち退渓したのが午前8時すぎ。

湯端橋

気になっていた吊り橋に

今日は行って見てみるか?

気になっていた件の吊り橋であるが、行って確かめてみることにした。来た道を戻るようにして東へ進む。「宝蔵院」という寺の前を通過すると3階建ての比較的大きな集合住宅があって、その集合住宅を過ぎたあたりが旧道との合流点。

左折し旧道に入ったら「原の前」バス停手前の右折道。

ここかな?

と、曲がってみるとビンゴ!新道をくぐり抜けられるガードを発見。陽はすでに高く、ジリジリと照りつけてくるので、そのガード下に車を停め、歩いて吊り橋に向かった。

橋は幅20メートル程度。桁がしっかりとしていてほとんど揺れることがない。橋の上から上流方向を見渡せば、新道を保護するようにガッシリ固められた護岸が並んでいる。また、立っている橋のほぼ真下には高さ1メートルにも満たない床固工が作られていて落水している。

それらがジリジリと照りつける太陽によって光る。

眩しい眩しいと言いながらガード下に駐車した車に逃げ込んだ。

吊り橋(伊豆市下船原平)
船原川は床固工が随所に見られる。
橋から上流方向を臨む。
新道からの吊り橋

ギャラリーの橋

吊り橋と言ったらねぇ・・・、やっぱり。

今度は別な橋、狩野川に架かる「松ヶ瀬橋」を目指すことにした。マツセ、マツセと気分が陽気になり、出口三叉路から道を間違えて国道414線を南下(正しくは北上する。)する。ようやく嵯峨沢館の前を通過する頃になって、

あっ・・・。

と気がついて嵯峨沢橋をそのまま渡り、市山の丁字路から北上。せっかくここまで来たのだからと“チョウズバの神様”こと「明徳寺」参道入り口にある茶屋に寄って草餅を買い、再出発。5キロほど走って松ヶ瀬橋前に到着。

到着したはいいが、今日は画像を撮ったりで暫時ここに留まる必要があるため車をしっかりとした所に停めなければならない。しかし、駐車スペースを見つけられず。困ったあげく近くにあったおとり鮎店の「旭水園」に駐車料金を払って停めるつもりで交渉したところなんと、

タダでいいよ!

と。

ありがたく駐車させてもらい、歩いて松ヶ瀬橋に向かった。橋にはものの数分で到着。ここはアユ釣りの名所で、吊り橋がそのギャラリーになるという不思議な場所。昼前の時間だったため丘に上がって休んでいる釣り人が多かったが、それでも川の中にはまだ数人のアユ師が残っていて竿を振っている。

こちらは、いったん橋から下がって近くの土手に腰掛ける。先ほどチョウズバの神様目前で購入した草餅を取り出してかぶり付く。

コンロの火で熱々にしてもらった草餅は、ここに来るまでの道のりの間にだいぶ熱が抜けてしまっているが、まだ温もり程度にはあたたかさが残っており、そのおかげか非常に甘く感じられる。表面の皮が固くなった感じも、真夏の暑さの中では張り付くような感じが無くて逆に心地よく、非常にさわやかな感触をを満喫することができた。

その後橋の上に戻ってしばらくのギャラリー。連掛けのアユが宙舞う瞬間に期待して見続けたが、どうやら渋いようで見るのは叶わず。退散することにした。旭水園まで戻り、お礼を言ってから駐車場をあとにした。

松ヶ瀬橋
下流側
上流側。黄色い建物は近藤鋼材、その隣が旭水園。
草餅

どうせならばと3本目

さて、どうせならばと3本目。
県道349号線を戻るように南下する。市山の丁字路まで戻って左折。国道414号線に切り替わるとまずは旧天城湯ヶ島支所前を通過。さらにひなと丸、浅田わさび店前などを通過し、簀子橋を渡って“奇跡の店”ことセブンイレブン天城湯ヶ島店に立ち寄る。

前々から気になっていて一度も買ったことがなかったアイスコールド・コカコーラを買い、試してみると確かに凍った。その場で飲むことは無く、店を出て次に向かったのはマルゼン精肉店。

イノシシコロッケは現在販売休止中ということで、和豚コロッケとホタテクリームコロッケを買い、店を出る。

そのままさらに南下をし、旧眠雲閣落合楼玄関前で右折し坂を下る。坂をズルズルくだり、瑞祥橋を渡り直後を左折。そこから100メートルも走れば吊り橋が姿を現す。車は橋を過ぎて少しのところに、道幅の広くなったところがあったためそちらに置いた。

道路から下へと続く階段を降り、橋に降り立つ。橋の規模は下船原よりは長く、しかし松ヶ瀬には及ばないくらい。前に渡った2本同様、安定していてほとんど揺れることが無い。そのかわり橋の中間で分けて西側と東側。西側には渓畔林による影が落ちていて涼を得ることが出来る。

依然として太陽の光がジリジリと照りつけていたため、これには助けられた。橋の東側に立てかけられていたハシゴを使って川岸に降り、川に転がる大石をジャンプして日陰のある西側へ移る。

やはり購入したコロッケを取り出し、川石の上に座って食す。コロッケの脂が美味い。ここは少し上流には水恋鳥広場という親水公園があるほどの清流。泳いだって問題ないくらいの水質を前に食すジャンクフード(←2個も食べるからこうなる・・・。)の脂に妙に安心感を得る。

あっという間に完食し、それから川岸をウロウロ。ゴロゴロ転がる川石の上を歩いていると視界の中をチョロッとしたヤツが横切った。これはこれは日光浴を邪魔してしまったと相手を植物に切り替える。橋のすぐ上流側にはタマアジサイが咲いていた。

真冬の一番寒い日を一年の基点と考えれば、この花の開花はその一年のちょうど折り返し地点。まだまだ暑い日は続くだろうが、これからは秋・冬に向かうことになる。夏を満喫した今日の日に感謝し、これからのシーズンの準備をしようということでもういいかと退渓することにした。その後はようやく帰路に。

吊り橋(伊豆市湯ヶ島大滝)
橋の半分は影が落ちる。
左が和豚コロッケ、右がホタテクリームコロッケ
チョロッとしたヤツ
タマアジサイ

35分。

今回のエピソードの最後にこの日の朝、旧船原ホテル裏での歌のことを書こうと思う。

やはり真夏のシーズン中にあった今回も時間帯にこだわった。画像Ⓐ~Ⓕまで用意したが、結論から先に言ってしまうと実際つかいものになったのはⒷ~Ⓕの間だけ。(早朝のチャンスタイムに関しては。)

Ⓐは日の光が当たる前。白く落水する水の形状を見ることができるが、これではもの足りない。もっと涼しいシーズン中であればこれでハマる時もあるが、外気温が24度もある中でのこれは温度感覚的に合わない。午前5時50分撮影。

Ⓑは日の光の照射範囲が山の上から降りてきて、ようやく落水の一部を照らしはじめた頃。指差す先がその状態になっている。
照射範囲は徐々に広くなるので、それを待てば良いと思う。午前6時40分撮影。

Ⓒ~Ⓔの状態。ここがいちばん楽しめるとき。
ⒸとⒹはよく見るとその違いが分かると思う。ⒸよりもⒹのほうが若干明るい。ⒹとⒺはほぼ同じ。撮影時間的には10分間の開きがあるが、Ⓔに関しては早朝のラストチャンス的な局面なので(焦ってはいないが)もう、そろそろかな?と思いながら歌っている。
Ⓒは6時46分(Ⓑ~Ⓒ間わずか6分でこの変化!)、Ⓓは6時57分、Ⓔは7時07分にそれぞれ撮影。

Ⓕであるが、チャンスタイム終了の状態。堤体から落ちる落水は魚屋に並ぶ魚たちのヌメりのような生々しい光でしかしながら鋭く輝く。この光をこの形状で見たのならば、歌を楽しむ時間は終わったと考えれば良い。以降の時間は、海水浴に行くなり観光施設に行くなりして有意義に過ごせば良いので別に残念がる必要は無い。Ⓕは7時15分に撮影。

まとめるとⒷ~Ⓕまでその間35分。決して長いとは言い切れない早朝のチャンスタイムであるが、夏の朝はやく、さわやかな気分の中で楽しむ歌は最高であった。気温条件的にも「寒い」ということが無く、快適に過ごせることも他のシーズンより魅力的であると付け加えたい。

山あいの川の中で、誰にも迷惑を掛けず歌う早朝の音楽の楽しさ。今しか出来ないその楽しさを満喫した朝であった。

横綱の右腕

白田川河口から相模湾を臨む。

8月13日午前4時50分。黎明の時、まずは賀茂郡東伊豆町、白田川河口右岸に立ち寄り川、海に挨拶。

本日はよろしくお願いします。

車に乗り込み、伊豆急行片瀬白田駅わきのガードレールをくぐり抜けクスノキの街路樹ならぶ駅前道路を抜けると、国道135号線白田信号へ。
赤信号が青に切り替わるのを待つ間、見るのは右手すぐにあるコンビニエンスストア。

店は早朝の時間帯にもかかわらず、海水浴客の来店によって異様に賑わっている。

信号は青に切り替わり、上を目指して走り始める。本日入るのは、伊豆半島の東の横綱である白田川。その右腕の「堰口川(せきぐちがわ)」である。

東伊豆最強と恐れられるこの右腕の上流には堰堤銀座と硫黄坑、水力発電施設といった数多くの功績が刻まれ、その過去の栄光のみならず流れは一年通じて水量豊富、また大小の岩石でゴツゴツしていて表情豊か。隠そうにも隠せない“豪腕”は見る者を圧倒する。

今日は胸を借りる。じゃなくて、腕を借りる。ことになるのだが、くれぐれもぶっ飛ばされて死なないように注意したい。
なんでもこの東の横綱は昨秋、過去に類を見ないほどの大暴れしたというではないか。大暴れしすぎて自らの※両腕には無数の傷がいまだ完治せず残っているそうだが、その辺も気になっている。(これが人々に対する“報復行為”であるのならば、非常に申し訳なく思う。)

特別養護老人ホーム湯ヶ岡の郷、東京発電白田川発電所、東伊豆町白田浄水場前を抜けると入渓点の水路が現れた。

その位置を感じとして例えると、右腕の肩と上腕二頭筋の突き出しの間くらい。

※左腕側の流れは川久保川という。

欄干が新しくなっていた。(堰口橋)
橋から上流方向を見る。
これじゃあ半詰まり状態・・・。

カツカツ。

車から降りる。時刻は午前5時20分。海の方角からは、一段と明るい光が差し込んできているのがわかる。自分がいま立っているところにはまだまだという感じだが、川沿いに走る林道より内側の一部には、もう自然界最強の光が差し込んできていて、あまり太すぎることは無いスギの木の一部連中がすでに温まりはじめている。

アケボノに照らされるヒョロリたち。

いやいや、そんな悠長に見て楽しんでいる暇なんて無い。今日のテーマは「早朝に照らされる堤体の落水」である。
朝一番の暑すぎない気温条件のなか、スギと広葉樹の渓畔林に囲まれた環境下、光る落水を見ながら歌を楽しむつもりでここ堰口川までやってきたはずだ。

時間があまりにも押してしまうと、チャンスタイムを逃してしまうことになる。急がねばと準備をはじめる。と、

カツカツ。

カツカツ。

先ほどから我が愛車に頭を何度もぶつけているヤツがいる。アブだ。
好奇心旺盛なヤツで、夏場はどこに行ってもコイツはつきものだが、そんなにカツカツ、カツカツぶつからなくてもいいだろう。

早朝ぶつかり稽古か?

そろそろ相撲のくだりもやめたいと思っていたのに・・・!

でも会いに来てくれてありがとう。

時短

午前5時半。乾ききった水路をものの数分でクリアし、堰口川本流に出た。

左手側が上流、右手側が下流。
その下流側。初めて来た時、その美しさに感動したことを覚えている。

当時は、まだ入渓点なんて分かっていなかったからこれよりだいぶ下流の堰口川橋のあたりから入渓したのだった。

今はどうなっているかわからないがその時は、瀬と深い淵が連続するような渓で、ウエーダーでも行けそうなコースを右に左に選びながら上を目指して歩いた。

このあたりは堰口川全体として見れば最下流部。しかし、いわゆるボサ川とはならず石がデカいの小さいのゴロゴロしていて、両岸みどり豊かで清冽な流れの中の遡行を楽しむことができた。

とくに入渓点の水路と堰口川の合流するところの少し下流は、大型トラックほどもある大きな石とその落ち込みによって出来た深めの淵、それを取り巻くように転がる大きすぎない川石とでとても美しかったような記憶がある。

宮崎県の高千穂ってこんな感じ?

今は堤体前に入ることだけを目的として動いているから、新規開拓のその日以降はショートカットして堤体を目指すばかりという状況で、そのことによって「時短」を獲得している反面、美しい渓を歩く楽しさを忘れてしまっているかな?と思う。

知らぬが仏。知らなかったから仏。かつて時間を掛けて取り組んでいた頃と、今が違っているというところには残念さもある。

さあ、今日は?

あまり時間が無いことを思い出す。時短というメリットを無駄にしないよう堤体に向かって急ぎ気味に遡行し、目的地に到着したのが午前5時50分。

2017年3月撮影
冬~春むきの堤体なのかもしれない。

“まげ”にとは思いがけず

堤体を見てすぐに分かったのが、昨秋の大暴れ痕。

副堤の砂底の上に巨大なコンクリートの塊が2個、埋め込まれている。これが何の塊なのかはわからないが、運んできた川のパワーには驚いた。昨秋の大暴れの後半戦にあたる台風19号時には「氾濫注意情報」がラジオのアナウンサーによって何度も連呼されていたが、こういうことだったのかと納得。

美しき渓もその顔を豹変させる時があるのだと・・・。

副堤に上がって画像を撮ったりしたのち、朝日の到来を待つ。朝の6時台に落水を太陽の光が照らしてくれれば、きっと美しいに違いない。

天端右側(向かって左側)はもうすでに太陽の光が届いている。この光が徐々に天端左側(向かって右側)に移ってきてくれれば良いあんばいだ。

6時15分、30分、45分、7時・・・。

ダメ。

その後7時台も待っていると落水のところどころをスポットライトのように照らす光が差してきた。残念。

なんとも生々しい光である。それは相模湾の水面上ギリギリの水蒸気のなかを這うように透過してきた朝日の光とは種類が違う。

照らしているのは明確に昼の太陽の光に同じ。いまごろ海沿いでは海水浴客が「待ってました!」とばかりに大騒ぎしはじめている頃か?

こちらは後方、下流側を振り返れば堰口川と川久保川の合流点付近の山。太陽の光は横綱の頭部“まげ”のあたりに引っかかりながら、いまだに影を残しながら堤体の落水に届いている。

ここで真夏の朝うたうのは不可。

残念ながら、その事実を心得る。光の質に難があって、歌うという気になれなかったということだ。

鳴々・・・、

そんな中でも堤体そのものの頑丈、堅牢さには拍手。昨秋の大暴れのみならず幾度の大荒れにも放水路天端は壊れること無く、しっかりとしたエッジを残している。落水は周波数を低くすること無く響いており、左右に幅広く落ちる水の形状もあいまってその持ち味は生かされている。渓畔林も垂直方向の先には濃く、申し分ない。

これならば季節を改め、また時間帯も改めれば楽しめる堤体に激変するかもしれない。

収穫が何も無かったわけではなかった。その時季に現地に赴いて、見て聞いて知り得た情報もあったのである。
午前8時すぎには堤体前を離れた。帰りは大汗かきながら、しかし体で覚えた堤体のデータに(心の中では)ガッツポーズしながら退渓をした。

本日は稽古を付けていただきありがとうございました。金星は付きませんでしたが、東の横綱の片腕に挑戦できただけで幸せです。また、よろしくお願いします。

ごっつあんです。

美しかった副堤上も、
同じ画が撮れなくなってしまった。
重いヨォ・・・。
後方を見る。早朝の時間の太陽光が届かなかった。
イヌビワ
アオキ(葉が大きかった。)
フジ
堤体のカドはしっかり残っていた。
午前7時50分頃撮影したもの。

真夏のゲーム問題。解法のヒント

西伊豆町

真夏のゲーム問題。

天候、晴れ。気温、30度越え。セミが鳴いている。現場にたどり着くまでに紺碧の海と海盤車のように手足を広げて走り回る海水浴客を見ながら海岸線を走ってきた。

そりゃあもう、ドイツ歌曲やらアリアをこれから歌います。とはなかなかなりづらい。

そもそも暑さの中では熱中症という健康リスクの問題がまず出てくる。そして、それを(渓畔林の下に入るなどして)クリア出来たとしても、次に来る問題として、音楽の詩や曲の持っている世界とまわりの環境が全く合わないという問題が生じてくる。

ヨーロッパの音楽と日本の真夏、猛暑の相性の悪さ。

そんななかでも日々の生活を豊かにしていきたいとか、慢性ストレスを解消したいとか、自然環境の中から様々な学びを得ていきたいといった願望があるのならば、やはり砂防ダムの音楽は捨てるべきでは無い。

自分自身においては過去の経験から対策を打って現場に入るようにしている。人それぞれ感覚の違い、好みはあると思うが、真夏のゲームをどのように展開すればよいか?そのヒントになりそうなことを書いてみる。

宇久須港とテッポウユリ

光の強さは変わっていない。

まず自分自身の視界の中にあるもの。視界の中に映る景色。それらほとんどは「発光体」ではない。太陽の光や照明器具によって反射された光によって映し出された姿だということを今ここで思い返す。

海のあお、遠く沖合を航行する船、砂浜のしろ、濡れているけれど真っ黒に焼けた子どもの背中、どれもみんな写しているのは太陽の光。

太陽の光が全てを照らして、その全てが空間を伝わって、自分の目に届いて、「あぁ、海だな。」とか「あぁ、砂浜だな。」と認識をしているのだ。

向かう車の車窓から眺めた風景はどれもギラギラと光っていて、冷房の効いた車中からだと、

うわっ・・・、

と思ってしまうのであるが、よくよく考えればこれは(海岸線に関して言えば)冬の頃に見ていた景色と実はほとんど変わっていない。
冬の頃と変わっているのは地面の温度。太陽熱と地熱との間にいる自分自身がどうやら騙されてしまっているようなのである。

たしかに暑くはなっている、冬の頃より。でも、

光の強さは変わっていない。という事実。

これを強く認識することが大事。

宇久須港

見に行かなければ分からない

ギラギラと光る車外の風景を見て脳が、“ヤラれてしまっている”ところであるが、そんな脳でどんな対処法があるものかと考えてみる。
暑さ、つまり温度のことはいったんどこかに置いておいて「光」という要素に集中してみる。

まず光があること(光が存在していること)は変えることが出来ない。
それでは、そのまま為す術も無くギラギラする太陽光線を浴び続け、自分は干からびてしまえばいいのか?

否、そんなことは無い。光を、

①視野の中のできるだけ狭い範囲に閉じ込める。

もしくは、

②その光が勢力を増す前と後を狙う。

この二つの対処法がある。これらは、
砂防ダムというものを実際見に行ったことが無い人にとっては???だと思う。とくに①に関して。

砂防ダムをある程度見に行ったことがある人ならば、もしかしたら分かるかも?

ある程度という領域をこえて何本も行ったことがある人・・・、ではほとんどが分かると思う。

宇久須港

太陽が相手なので

天に向かって手を思いっきり突き出して、太陽の背中に付いている「照度調節ツマミ」を回してやって、明るさ調節をする・・・、なんてことがもちろん出来ない。

光の量、光の大きさは変えられないということ。

暑さはどうか?

暑さの元になった「熱量」という要素。

やっぱりこれも変えることが出来ない。

光も熱量も変えられない中でなにをやるの?

格段の気を使って対処する

光も熱量も変えられない中でやる事。

①堤体を見る「方角」を選ぶ。

②堤体を見る「時間帯」を選ぶ。

この二つ。

堤体というのは山奥の森の中で「方角(ほうがく)」という概念が通用する唯一の存在である。水平にピシッと型取りされた放水路天端による「直線(ちょくせん)」は自然界には存在しない正に不自然な人工物。このことは同時に、

「直線を引いた。森の中に。」

と言っているのと同じ。その直線に分度器をあてて90度を測って線を引き、それを方位磁針で計測してしまえば堤体の方角が一丁上がりとなる。

これは大発見。なぜなら、方角がわかった所でその次に考えられるのが、堤体と太陽との光の関係であるからだ。
この堤体はこの方角を向いているから、午前中はこんなふうに光が当たるし、午後はこんなふうに光が当たる。といったことが実際、現地に赴かなくても“おおよそ”地図上でわかってしまうようになる。

“おおよそ”としているのは、やま本体が落とす影であったり、太陽高度の季節変化があったりするためで、常に一定とはならないから念のため。

それらをだいたいで計算して、ベストタイミングのちょっと前に堤体前に入れたらというのが理想型。

で、入渓の計画を立てる。

春夏秋冬どんな季節でもそういった計算はある程度しておいた方が良いが、とくに音楽的に困難が生じやすい真夏の場合、そこに格段の気を使って対処する必要があるということを述べておきたい。

これらはもちろん、他ならぬ私自身がそのようにしているからだ。

宇久須川と松ヶ坂トンネル