吹く風。

10月30日金曜日の夕方。いつものように居酒屋のアルバイトである。

金曜日の夕方の居酒屋というのは忙しい。翌土曜日が休みだというお客が大挙してやってくるため、その対応に追われるからだ。

今日は立派な社会の労働者、明日は転じて家でダラダラ瘋癲(ふうてん)のように過ごしていたって構わない。

焼酎、ウイスキー、サワーはあちらのサーバーからどうぞ!

酔いつぶれるほどの、天頂から浴びるほどの酒が用意されている中、飲み放題の宣告を受け、お客の気分はハイテンションモードに突入!
翌日の心配が無くて、酒は無限にあって、肴はサザエやら牡蠣やらホンビノスやらホタテが控えている。

好き放題、飲み放題、騒ぎ放題の店内。

お客に出す食材を用意したり、テーブルまで行って案内をしたり、予約の電話を受けたり(←コレ、いま政府がやっているGo-To!ナントカでかなりややこしい。間違えて代金取りっぱぐれなど起こさないように注意!)といろいろ大変なのだが、お客の喜ぶ表情を見ながら、元気付けられながら、今日もありがたく働かせてもらっている。

微臭。

そんなこんなで今週金曜日も店は大繁盛。そして最後のお客も帰り、無事閉店。閉店後は後片付けが待っているのだが、金曜日の夜は翌土曜日の準備も兼ねているため、他の曜日と若干やることが異なってくる。それらを順番に一つ一つこなし、どうにかこうにか全て終わらせることが出来てさぁ時計を見れば!?

時刻は午前0時。
日付は変わって10月31日。
勤務先で迎えた日付変更。

外に出れば、
微風。
今日は?
微臭。

これは、自身の衣服に染み付いた魚介類の煙のことでは無くて、まわりの空気のこと。

静岡県東部、人口およそ18万人のまち沼津市。田園都市には町の風景と田舎の風景が混在する。町の風景としてはJR東海道線沼津駅前の商業地とそのまわりに散らばる大手企業の工場&住宅地。

田舎の風景としては海に隣接する地域(内浦・西浦・戸田)の漁村の風景、そこから山の急傾斜地を見上げればあっちの山もこっちの山もミカン畑。狩野川を挟んで海沿いには玉砂利の浜とクロマツの防砂林が続いていて、そこから内陸部に入り込んでいくと沼川を挟んで水田地帯が広がり、さらに行くと今度は愛鷹山山麓の茶畑。

これだけじゃ無い。まだまだある。

目には見えない田舎の風景

畜舎の匂いがする。

今日はこれが微かに匂う微臭程度。日によって全然匂わないときもあれば、強く匂うときもある。

沼津市は首都圏からの観光客も多い。私のような田舎者がその首都圏に出掛けたとき、立ち並ぶマンションや高層ビル群、その間をすり抜けるように進む鉄道網、下車すれば駅ビルなんだか商業施設なんだか境目のよくわからないエリアがあって、そこを当たり前のように行き来する人々。いつも思う。

よくこんなところに住んでるな。と。

でも逆にそんな首都圏に住む人々が、観光でこの地を訪れ、この匂いを嗅いだらどんな反応を示すのか?

生まれてこの方、(もしかしたら!)これを嗅いだことの無い平成二桁生まれの子たちもこれからはもう立派な社会人だ。
近くのコンビニエンスストアに駆け込んで、

「外で妙な匂いがします!」

くらいだったら良いけれど、

「すみません、警察ですか?外で刺激臭がします!」

なんてことにはならない?

ん~、夜では写らない。

最近、教えられたこと。

全然匂いがしなかったり、微かに匂ったり、強く匂ったりが日によって異なるのは何故か?

風。

やっぱりこれ。海に隣接する沼津市というのは、気象学的に言うと海陸風(かいりくふう)という風が吹く。
基本的には夜の風は山から海に向かって吹き下ろすのがセオリーとなっていて、畜舎の匂いもその海陸風によって山の上から運ばれてくる。

強く匂いのする日というのは気象学の教科書通りに自然現象が進行し、なおかつその風向きがぴったり合っているということ。

逆に匂いがしない日は海陸風がうまく吹かないような気圧配置になっていたり、風向きが幾らかずれているということ。

風を理論上では知っていた。しかし、それをリアルな台地の上でイメージすることにはまだまだ未熟であった。

最近、教えられたこと。
~海陸風でも日によって吹く方向が異なる。~

なので夕方、海陸風を探しに出掛けた。我入道海岸。
狩野川河口
港大橋から
黒瀬橋から
香貫大橋から
黄瀬川橋から

山の、堤体前を

牛様、酪農家様、ありがとう。

自身は砂防ダム音楽家。

音を扱うことについてプロでなければならない。
音は空気の振動だから、空気についてプロでなければならない。
空気について、「ただし、無風状態に限る。」といった、但し書きが果たして現実の山の環境中で通用するのかどうか?

???

これからは気温の低くなる季節を迎える。山の中では木も草も土も温度が低くなるし、谷沿いでは川の水が、石が、堤体本体が、渓畔林が低い温度で推移する。みんな冷たくなるというのだ。なのに、であるのに、

冬って、よく晴れる・・・。

太陽光がその低い温度で存在するものたちを急激に温める。すぐに温まってしまう比熱の小さいものと、太陽光が当たれど照らせどびくともしない比熱の大きなものが山の環境中には混在する。そうなればどうなるかといま考えているところ。

???どうなる?

山の、
堤体前を
吹く風。

河原小屋沢

そばとさぼうのセット

推理する楽しさ

10月26日午後1時、賀茂郡西伊豆町、入渓点となる仁科本谷林道入り口ゲート前で昼食の準備。
駐車スペースの一角には芝生が植えられていたので、そこに普段ウエーダーの収納として使っている大型ボックスを置き、折りたたみ椅子をセット。

同町内、仁科川河口近くのコンビニエンスストアで買ってきたザルそばとおでんを大型ボックスの上に広げる。さらに健取水場の青い看板が目印「わさびの駅」で購入してきたミネラルウォーターと煮卵も加わる。

まずは、ザルそばの麺をほぐすために少量のミネラルウォーターを加え、軽く混ぜ合わせる。そしてめんつゆを専用の容器に出せばあっという間に準備完了。さっそく麺に箸をつける。

うまい。

ザルそばの麺はさすが大手コンビニチェーンの製品といった感じ。いつ食べても間違いなくうまい。もう10月も下旬になってしまったが、まだまだ屋外でこれが食べられるほどの暖かさは残っている。

※仁科川源流域のせせらぎを聞きながら錦秋前の山の昼食を楽しんだ。

※地理院地図の表記に従い、「仁科川」とした。呼び名が合計3コあり。詳しくは、以下本文にて。

天城深層水で麺をほぐす
この日の昼食。おでんのたまごは、
こちらから。
仁科本谷林道入り口ゲート
Go-To!ゴミバコキャンペーン

スダジイ

昼食を終えて、入渓。と、その前にわさびの駅で教えてもらった宮ヶ原・天神社のスダジイの見学に行くことに。

ザルそば、おでんの容器、残り汁などをまとめ、大型ボックス、折りたたみ椅子を車に積み込み、わさびの駅に向かう。そのままわさびの駅まえを通過し、200メートルほど走ると宮ヶ原公民館と防災無線の鉄塔が見えてくる。

車はそのあたりの道幅の広くなった所、かつ民家の真ん前を避けられるところを選び抜いて駐車し、神社に向かって歩いた。神社の前には西伊豆町教育委員会の名で案内の塔が立っており、塔を見つけたらそのまま南のほうに向かって小道に入る。

すぐに現れる神社の鳥居と石段を登り始めると、巨木の存在が確認できた。巨木の樹種、スダジイは石段を登りきって右側すぐのあたりに。幹は非常に力強く、太く、スポーツマンの手足に浮き出る筋繊維のような彫りを伴って高くのびている。

自身の頭のてっぺんが水平になるくらい首を曲げてもその葉が確認できるにはほど遠く、したがって幹の低いところから出ているひこばえの葉を観察する。ひこばえの葉がやたらと大きく見えるのは遠近の差でも何でもなくて、どうやら巨木の低いところほど大きな葉が付くことになっているようだ。

実際、幹の中段あたりから出ているひこばえの葉は中くらい、木の枝先、つまり一番高いところに位置する木の葉はどれも小さい。
低いところには大きな葉が付いて、上に行くにしたがって小さくなっていく。

上は光合成に対して余裕綽々だから小さくても良い。下は影になりやすく、光合成に対して必死だから大きな葉を付けないといけないといったところか?
木は何百年いきていても意識はしっかりしているようである。この地に根を下ろして村人の生を何世代も見守り続けてきたようだ。そしてそれは、これからも続くことなのであろう。

宮ヶ原・天神社のスダジイ
ひこばえを観察する。
幹を観察する。
昭和八年拾月 石段改築記念碑 こちらも見事。

呼び名が3コ

スダジイの見学を終え、再び登ってきた石段を降り、車に乗り込む。再び仁科本谷林道入り口ゲートを目指す。途中、名郷橋を渡って以降は仁科川の流れを右下に見ることになるのだが、今日はしっかりと水が流れている。

今日は・・・、というのはこれから冬のシーズンにかけてこのあたりが伏流することを言っている。このあたりは別名「音無川」と名が付くほど季節によっては水が無くなってしまうのだ。水は見えている川石よりもさらに低いところを流れる伏流水となって下流へとつづく。

そして面白いのが、伏流が起こるのはこの名郷橋(本谷川起点の看板有り。合計で呼び名が3コあることが発覚!)の周辺であるということ。これまで仁科川と県道59号線は、近くなったり遠くなったりしながらも概ね並行するように続いて来たのだが、県道59号線が東進から西進に変わるヘアピンカーブのあたりを境に両者は離ればなれになってしまう。

県道59号線にだけ沿って走るハイカーは「源流域」の「非常に乏しい流れ(というより伏流)」を見て、

あぁ、源流域ともなるとこんなものなのか・・・。

という思いに陥ってしまう!?のかもしれないが、実際のところはもう太平洋なのに地平線に沈む夕日を見せてしまう西伊豆町のこれまたスーパーイリュージョン・自然現象完全フェイクであって、県道59号線のヘアピンカーブを曲がらずに仁科川と並行するように続く林道に入っていくと、いつの間にかちゃんとせせらぎを鳴らす仁科川に再び会うことが出来る。

なかなか面白い現象だと思うのだがいかがであろうか?

当日の県道59号線と仁科川

グリーンモンスター

仁科本谷林道入り口ゲート前に到着。準備を整え、目指す谷に体の正面を向ける。地理院地図上の流れは2本。北東方向に川上を見る仁科川本流と南東方向に川上を見る一本の沢。過去に、前者には入ったことがあったので、後者を選んだ。

新規開拓の遡行。未知の領域に入っていくことになるのだが、恐怖心は無い。そこがスズメバチの激戦区であったとしても、今はもうその心配はしなくていいのだ。

午後2時半。まずは仁科川本流の流れを横断する。川石にはピンク色のスプレーで矢印がマーキングされていた。そのままマーキングに従って川を横断し、そこから続く廃道おぼしき道を進む。道は当初、沢と離れていたが進むにつれて接近。一基目の堤体を前に出会うことが出来た。

伏流。

水が流れていない。すぐに頭をよぎるのは先ほどの名郷橋周辺のこと。季節によっては伏流するはずの川にはしっかりと水が流れていた。全体的にいえば今は“川に水が流れているシーズン”のはずである。

そんな中での伏流。ならばこの沢は恐らく四季を通じてほとんど水が流れないそれであるということ。台風通過前後や梅雨時期などには流れている姿を見ることが出来るのかもしれないが、一年のほとんどは伏流で推移しているということが予想できた。

その事実を裏付けるかのように現れたのが二基目の堤体(冒頭の画像)。堤体の水裏にびっしりとコケを生やしたグリーンモンスターであった。

一日を通じてほとんど太陽の直射日光が当たらない、落水によって泥を被らないなどの好条件がそろわなければここまで綺麗なグリーンは見ることが出来ないであろう。
少なくとも直近数ヶ月~数年程度にその状態がつづいた結果が「色」の濃さとなって現れている。

矢印に従う
サンショ沢、大入沢との文字が。
一基目の堤体

丸腰の相手

歌うより前にふと堤体を巻いて水表側を見てみる。

満杯になった滞留土砂。

大雨時にはやはり砂防インフラとして機能しているということか?

年毎による砂防機能の発動回数が気になる。

取り付けられた銘板を見れば、堤体の建造は昭和57年。
およそ38年の歳月のうちに大規模な土砂の移動は何回おきているのであろうか?0回では無いことは満杯になった滞留土砂が物語っている。過去には、何回かそれがあって、でもここ最近はご無沙汰なのだということをこんどは堤体水裏のコケが物語っている。

一つの堤体が受けた境遇をまわりに転がるヒントを拾っていきながら推理していく。そんなことが何とも楽しい。

堤体に向かって声を出すと当然ながらガンガン声が響いた。落水などによって抗ってくることも無い堤体を相手に歌って何が楽しいかといえば、そっくりそのまま落水の無い状態での響きを確認できることが楽しい。

通常、落水という「武器」を持った相手と戦うことを砂防ダム音楽の主旨としているから、それらを全く身につけない丸腰の相手を前にして、事前に研究をしておくのは非常に有意義なことであるのだということが最近わかってきた。

これは戦いの序章で有り、でも今日の日の砂防ダム音楽を楽しんでいるということなのである。

途中休憩などを挟みながら午後4時までゲームをし、15分ほどの行程で駐車していた車まで戻った。そのあと、西伊豆町の大浜まで走って水平線に沈む夕日を眺めたのち、町営温泉施設の「なぎさの湯」に浸かって温まった体のまま、「茶房ぱぴよん」に立ち寄り夕食をいただく。

頼んだメニューは煮込み磯そば。

一日の締めくくりは本日2食目のそばと、茶房(さぼう)のセットで迎えた。

なぎさの湯
ぱぴよん
煮込み磯そば
山本敬三郎氏は第44~46代静岡県知事
アカメガシワ
堤体全景。

川金川

海名野橋

10月15日、賀茂郡西伊豆町仁科川沿いの県道59号線を大沢里方面に向かって走っていた時のこと。時刻は午前9時。
仁科川に架かる橋としては河口から数えて3本目となる「海名野橋」。その海名野橋の手前には道路に引かれた白線と、仁科川に沿うように設けられたガードレールが続いていて、両者の間に幅1メートル程度の比較的ひろくなったスペースがあった。

普通乗用車を駐車するには、少々窮屈(白線より内側にはみ出してしまう。)な幅。しかしそれ以下の車両については強引に駐車できてしまいそうなくらいに確保されている。そのスペースに老人の座るシニアカーが停車し、なにやら川のほうを覗き込んでいたのだった。

道路から川本体までは数メートルの落差があって、これは転落事故でも起きているのかと想像に背筋をヒヤリとさせたのだったが、自身も車を停車して道路を跨ぎ、確認に急ぐと河原には4人ほどの人がいて、椅子に腰掛ける姿が目に入ってきた。

手にはしっかりと釣竿が握られていて、目の前のチャラ瀬に何度も何度も仕掛けを振り込んでいる。流す浮子を見つめる目は真剣そのもの。時折その握った釣竿を反対側の手に渡しかえて今度は柄杓を持ち、やおら撒きエサをまいてはまた釣竿に持ち替える。

おぉ。

見るに、撒きエサが通常のコマセ状になっていないことには自身の釣り歴からすぐに明らかになった。

どうも撒きエサは磯釣り師などが海で使う“オキアミ汁”をここでは使っている様子。磯釣り師が使うオキアミ汁は、クロダイやメジナに食わせるための撒きエサを外道であるコッパ(メジナの幼魚)などが貪り尽くしてしまうために使用する。文字通り“水増し”したオキアミ汁で撒きエサの節約を図るのであるが、この汁には狙いの魚を臭いでしっかりと集めつつ、しかし付けエサをしっかりと食わせるための満腹感は相手に対して与えないというメリットがあり、釣りの対象魚によっては非常に有効な手段として用いることが出来る。

ちなみにこの場所での対象魚とは鮎(アユ)のことだとも目視で確認。で、あるものだから・・・、面白い。清流の女王とも言われる魚は、はるか1万キロ以上も遠くの海域で採れた南極産冷凍オキアミに狂ってしまっていたのである。

橋の下には大量のアユが。

近くで見てみたく

釣りの様子を近くで見てみたくなり、河原に降りることにした。車を近くの駐車スペースに置き、ウエーダーを履く。釣り人らが腰掛けているあたりは水路を跨いだ中洲になったところで、最低でも長靴を履かなければ行けない。

海名野橋を渡ってから上流方向に少し歩き、河原に降りられるスロープから入渓する。スロープの降りたところには横浜ナンバーのRV車が停められていた。
川の活況を知る者は、なにもこの地域の人々に限ったことではないようである。

橋の下をくぐって水路も渡りきり、中洲に立った。ほぼ等間隔に腰掛けた釣り人たちは、小さな浮子の付いた仕掛けを振り込んでは流し、また振り込むという動作を繰り返している。そして時折、釣竿を柄杓に持ち替えてはオキアミ汁をまいて、また仕掛けを振り込む。仕掛けなどは微妙に違っているのかもしれないが、河原に並んだ4人全員がいちようにこの釣法で同じように動作を繰り返す。

釣果的には、わずか数分の間隔を置いて4人のうちの誰かの竿が曲がるという好調ぶり。15センチくらいの型を中心に、時折20センチオーバーの良型も混じる。
釣り人の一人に話を伺う。

「自分もやったらどうだ?」

私が話しかけた地元師はその仕掛けからエサから釣り方から親切丁寧に教えてくれた。何も隠すことなく堂々と。
どうやら川に限らず海にもしょっちゅう繰り出す太公望のようで、今シーズンはイサキを500キロほど釣ったとも語ってくれた。
田舎に暮らせば、リアルに釣りバカ日誌のハマちゃんのような生活が出来るのだと、非常に甘い匂いを嗅がせてくれる「粋な」地元師に出会うことが出来た。

これから一色枕状溶岩を見に行こうと思ってます。

「あぁ、でも大して面白くないよ。」とは地元師。

流す浮子を見つめる目は真剣そのもの。水底を這うように流れるオキアミを頭の中でイメージしているのかもしれない。邪魔はこれ以上せぬようにとその場を立ち去ることにした。

釣れたばかりのアユ
ビクの中はご覧の通り
のんびりと

奥川金橋

アユ釣り見学を終えたあとは仁科川沿いをドライブ。
仁科川第三発電所の放水路を見たり、同第二発電所の取水口を見たり、「健」の看板が目を引く「わさびの駅」を見学したりした。

そうこうしているうちに午前中の時間はあっという間に過ぎてしまい、迎えた正午。伊豆半島ジオパークの一つである「一色枕状溶岩」見学者用駐車場でヴェルナー作曲のHeidenröslein(正午の時報)を聞くこととなった。

今日はここから約1.2キロの山道を歩いて堤体を目指す。その1.2キロの区間は特にゲートなどがあって車両封鎖されているわけでは無いのだけれど、山道が並行する川金川の渓谷美と付近に生える樹木の観察をじっくり行うことを目的として歩くことにした。

温度計を忘れてきてしまい気温は測ることが出来ないが、坂道を歩けばそれなりに暑くなるであろうことは予想できていたためウエーダーに半袖、その上にフローティングベスト、手にはウォーキングポールを握り、Vメガホンの入ったバックを背負った。さらに今回は前回の田沢川でほとんど活躍できなかったウエアラブルスピーカーを頭に装着。

もちろん今回こそはその実力を発揮してくれるものと期待しながらの装着であった。

一色枕状溶岩の見学者用駐車場前で一枚記念撮影をしてから歩きはじめる。川金川を左手に、山の切り立った斜面を右手に見ながら道は続く。
川沿いに生える木を見ていると全体的に多いのはやはりスギであるが、コナラも多い。

コナラはあまり幹の太くは無いスラッとしたものが多くて、これはどうやら人工的に植林されたもののようである。
針葉樹&広葉樹の人工林の下に延びる山道を歩き続けた。堤体直前地点にある「奥川金橋」には午後1時40分に到着。普通に歩いて来るよりもおそらく3倍以上の所要時間をかけて到着した。橋から川金川の谷を覗くと奥に堤体を1基確認することが出来る。

仁科川第三発電所
仁科川第二発電所(取水堰)
わさびの駅
見学者用駐車場から歩いてスタート

再検証してみると

この堤体が今回の目的地。そしてこの奥にさらにもう一基、堤体があるので今回はそちらも目指すこととする。
まずは手前側の一基。その堤体前に降り立つと、堤体までの距離が近すぎることがわかった。

堤体の水裏から最大離れようとしてせいぜい30メートルほど。これでは近すぎて良い響きを聞くことが出来ない。
実際声を出して確かめてみるとこれがまさに予想通りの結果で落胆した。

それではと今度は奥側の堤体へ向けて歩き出す。崩れかかっている斜面に注意しながら進み、一基目の堤体を巻くと2基目の堤体前に出ることができた。こちらはおおよそ100メートルほどの空間が確保されていて、その間で堤体までの距離を自由に設定することが出来る。

目測で水裏から40メートルほどの距離に立ち声を出してみると、こちらはうまく響いてくれていることがわかった。両岸とも比較的急な勾配が形成されていてとにかくその勾配の「上」に声を届けるようにして歌うのだが、期待通り山が響きを返してくれていることがわかった。

前回、不発だったウエアラブルスピーカーも見事に機能してくれていて非常に心地よい。上から降りてくる音(と言っても非常に速いものだが・・・。)を拾うのには、上だけに耳を澄ますように集中していたいのだ。それが出来ているという点で良かった。

この日は午後4時頃まで堤体前で過ごし、その後退渓。

さて、後日談になるのだが日付は10月19日。画像データの一部を誤って消去してしまったために再び当地を訪問することに。当日の天気は雨。画像撮影さえ出来れば十分であったが、やはり研究のために堤体前に立って声を出した。

対象とした堤体は1基目の堤体。奥川金橋の右岸側つけ根付近に立って声を出すと見事に響いてくれた。堤体本体からある程度の距離が確保されたことでようやく成果を上げることが出来たのだと思う。

これで1基目の堤体でも楽しめるのだということが、一応は(堤体が見え辛いのが難点。)確認できた。
砂防ダムの「どうせあるなら楽しんじゃおう派」としてはなるべく堤体を無駄にしなくていいようにと思っている。簡単にダメ!と言ってしまわないように検証はその時々でしっかりと行っていきたいものだと反省したのだった。

ハゼノキ
コクサギ
キブシ
奥川金橋
奥川金橋から堤体を臨む。(奥に見える白いものが落水。)
1基目の堤体
2基目の堤体
1基目の銘板。2基目は昭和41年完成。
一色枕状溶岩(再訪時)
奥川金橋の右岸側から(再訪時)



突かれながら、打たれながら

作る&体調不良で籠もった。

10月9日。外は台風14号通過前。体調不良もあって家に籠もった。
何をするかはもう決まっている。新しく導入するBluetoothスピーカーの初装着だ。

あらかじめ買っておいたBluetooth本体と通信販売で購入した帽子、手芸店で購入した綿テープなどの材料を集め、さらに裁縫セット、電気ミシンなども引っぱり出し制作の準備は万端。

あとはあったかいコタツがあれば完璧(作業台としても)なんだが・・・。

気が付けば、10月に入ってもう2週目。そしてその2週目も終わりに近づいている。日中の気温はここ一週間でぐっと下がり、気温を測ってみれば室内で19.5度。20度を下まわっている。

自身の服装もそうであるし、部屋の模様替えもそうであるし、そろそろ冬支度をしなければいけない。

今日は午前中~午後1時くらいまでは制作物づくりに時間を当てるこことし、そのあとは衣類や部屋まわりの冬準備にあてることで一日を過ごすことに決めた。(はずだった・・・。)

スピーカーはIPX4レベルの防水性も兼ね備える。

上。上。

さて、Bluetoothスピーカーであるが、今回は帽子に取り付ける。ご覧のような商品を用意したが、こちらは本来くびの後ろをまわして肩に掛けるようにして使う「ウエアラブルスピーカー」と呼ばれるものである。

ところで私自身、今年の6月にVメガホンを導入してから3ヵ月ほどが経った。音楽の楽しみ方はさらに幅広いものとなり、例えば声を発するときの「方向」には大きくこだわるようになった。

方向は多くのケースで「上」。

上を目指して歌うのはVメガホン導入前からのことであったが、導入以後は特に意識して取り組むようになった。

声を発するのも、上。
声を聞くのも、上。

そうしていく中で、伴奏の役割を果たしているBluetoothスピーカーが胸元にあるということだと、これがどうも都合が悪くなってきた。
声を発するという行動、声を聞くという行動、ついでに言うと視線の先には放水路天端や遠くの景色がある。

全ては自分の背丈よりも上にあるものを目指しているわけだが、それだけに伴奏の音だけが胸元という低い位置にポジションしているということが合わなくなってきていたのだった。

声を発するための「口」も、声を聞くための「耳」も、放水路天端・遠くの景色を見るための「目」も、全ては自身の「顔」という、つまり全身の一番高いところにあるのだから、Bluetoothスピーカーもなるべく高い位置で鳴ってくれるのがベストであると(仮説として)考えた上での変更。

制作にあたっては普段、裁縫道具なんて触りもしないものだから当然のごとく悪戦苦闘。それでもなんとか形にすることができて満足。これで次回の堤体が楽しみだ。

旧型。これを頭に乗せてやったりしてたので、必要性を感じていた。

やはり、・・・です。

午後1時半。自宅を出て車のエンジンを掛ける。さて、こんな急の寒さじゃあユニクロもニトリも人でいっぱいであろう・・・。それは良くない。
それに、何より

早く実戦で試してみたい!!

さきほど作ったばかりの制作物を持った体調不良者は、生活圏である沼津市を抜け、伊豆の国市、伊豆市と車を走らせた。
途中、やはり狩野川とコンタクトする場面が何度かあるのだけれど、それはそれはいかにも台風到来前で増水した川の姿を見ることになった。

まぁ、あそこなら入れるだろう・・・。

伊豆縦貫道は大平インターチェンジで降り、左折。田方南消防署前で右折。雨に叩かれながら県道349号線を南下し、しばらく走る。つい最近、社会問題が明らかになった柿木川であるがその川の出合も対岸から眺めつつ通過。そのまま雲金、矢熊と進み、田沢の集会所前、ヘアピンカーブのごとく折れる左折道で曲がり、坂を登った。

途中、田沢浄水場前で道路の一部が蛍光オレンジに染まっていてこれは何事かと驚いたのであったが、その上をちょいと見上げればキンモクセイの木。キンモクセイの花が派手に散らされてしまっていたのであった。

台風通過前、大地を叩く雨は決して弱くは無い。

田沢浄水場前のキンモクセイ

ジャラジャラ、ガラガラ

午後3時前、準備を整えいつものケヤキの木に向かう。ここは幅2メートルほどの水路に立ち入るとき、「木」に頼る。木は護岸の途中からニョキッと生えていて、それに足を掛けながら、幹に掴まりながら段差を降りるのだ。

水路に立つといつも以上に水が流れていることがわかる。台風通過前の降水で明らかに水量が増しており、その水が圧力を伴ってウエーダーのブーツを押してくる。音響的に言ってもかなりのお祭り騒ぎで、床止めに埋め込まれた割石のひとつひとつに水が絡まり、自然河川では瀬が発するようなジャラジャラともガラガラともつかない音をとても威勢よく、断続的に鳴らしている。

ケヤキの木から100メートルも遡れば堤体前だが、結局そこまで遡りきってもそのジャラジャラ、ガラガラは変わること無く、それどころか堤体の落水が床止めに直接打ち付ける(「水叩き」の)音がさらに加わり、非常ににぎやかな空間へ登場することとなった。

こんなんで本当に大丈夫か?

今日もお世話になります。
ジャラジャラ、ガラガラ
ヒノキの枝の下をくぐりながら進む。

台風通過前の渓

右岸側に落ちていた米俵サイズの石の上にVメガホンの入ったバックを降ろし、中身を取り出す。取り出したら組み立てて、取り敢えずは左脇に挟む。そして空いた右手で待望の!Bluetoothスピーカーの電源を入れ、さらに伴奏データの入ったボイスレコーダーも電源を入れる。
早速、ボイスレコーダーで「機器接続」してみると・・・?

ん?何も聞こえない・・・。

だが、どうやら機器接続は完了しているもよう。続いて曲を選び出して「再生」ボタンを押す。

何も聞こえない・・・。

スピーカーの右手側、ボリューム調整で「+」を押し続けるとようやくverborgenheit(フーゴ・ヴォルフ)が聞こえてきた。すかさず声を合わせてみると、

今度は全く響きが聞き取れない。

それも皆無!と言って良いほど。

これまでにこの堤体には何度も来ているが、こんなに響かないのは経験した覚えが無いというくらいのレベルの酷さ。スピーカーを被ることで、耳を傾けるのは上方向だけに集中できているというのにも関わらず、芳しい結果が返ってこない。

う~ん。原因は?

水が床止めの割石にぶつかる音が大きい。さらに水叩きの音も加わる。こういった音に自分自身の声が飲み込まれてしまっているからなのであろうか?うるさいことは確かだが、こんなにも響きが聞き取れないような音の力関係になったのは久しぶり。台風通過前の渓を完全にナメきっていた結果が出たか?

いやはや制作物のテストということで軽い気持ちで入った田沢川であったが、どんでん返しを食らうことになってしまった。自然界から放たれる音に完敗を喫するハメに。

こんなことがあるから砂防ダムの音楽はおもしろい。簡単に響きが作れるようだったらつまらない。

っていう、これが一つの醍醐味でもあるのだけれど・・・。

やはり全く声が響かないのではここまで来た甲斐が無いし、次の機会には苦手意識が残るような気がする。

午後4時、依然としてジャラジャラ、ガラガラ鳴り続ける水に耳を突かれながら、雨にも打たれながら敗戦の渓を後にした。

スピーカー正面から
スピーカー横から
インナーにはミドリ安全のINC-100を装着。
雨に対する耐候性は確認できた。
堤体前の床止め(護床工、帯工とも)
まだ紅葉には早い。(イロハモミジ)
堤体全景