2023年、12月29日。歌い納めの地として選んだのは修善寺。
修善寺温泉街、五葉館まえの坂道を上がっていき修善寺梅林駐車場についたのは午前10時のこと。
駐車場から歩いて梅林に向かう。
百花の魁。
ウメは一番最初に咲く花らしい。
一番最初に咲くと聞いては、縁起がよい。
本格的な遊宴は、まだ2ヶ月も先のことだが、果たして?伊豆半島は冬の季節にも異常に緩む日があるのだから期待が持てる。そして、競合のサクラに関してはすでに半島のあちこちから発見の報が届いている。こちらにもきっとチャンスはあるだろう。
年明け前の初花探し。
暖かさにいち早く反応した木を見つけ出して、楽しませてもらおう。一年の締めくくりとして。
静かな場所
午前10時すぎ、梅林駐車場より500メートルの移動にて梅林に到着。
すでに日は高い。枝だけ裸になったウメの木々を太陽の直射が照らしている。
さっそく花を探す。と、難無く見つけることに成功したのはウメのつぼみ。視界に溢れるウメの枝の混雑のなかに、紅や白の玉が散乱している。
ゴツゴツとしたウメの枝とは対照的なつぼみの玉。花といういちばん華やかな姿にはならないが、色という地点にはもうすでに行きついていて、十分に存在感を示している。
今この瞬間に見られるつぼみの色の美しさと、これから迎える絶頂への期待感。これはある意味、無敵ですらある。
人間に例えれば、明るい未来を抱えた学生くらいの頃か?
自分自身もそうでありたいと思う。今年も来年も。
ふと、上を見上げた。
先ほどから、鳥が鳴いている。したがって、無音では無い。
無音では無いけれども、ここは本当に静かだ。
そういえばたしか、あれはコゲラという鳥だ。
コゲラが鳴くだけ。あとは時折、上空のもの凄く高くを飛行機が走る音がする。
師走の空は地上に同じく忙しいのだろうか?
ここに来るのだったら、対照的に静かだ。目に見るもの、耳で聞くもの。肌感覚的にも今日は暖かい。
腹が減ってきた。温泉街まで降りよう。
隠れる
午前11時半、修善寺梅林のうち東側にあたる東梅林より温泉街に歩いて向かう。スギの木立の下に引かれた、温泉街へとつづく道を下ってゆく。
およそ15分ほどの歩きで安達氏の墓。さらに静岡県道18号線のガードをくぐってから民家地帯の坂道を下っていき、10分ほどで温泉街へ。温泉街の道に出たら東に少し歩いて、場所は新井旅館の向かい、甘泉楼。
甘泉楼の「伊豆十三夜」にて十三夜焼きを四つ購入。二つはたった今、昼ご飯がわりに食べる用で、もう二つは入渓時に携えるためのものだ。
店で商品を受け取ったのち、店の横をチョロチョロ流れている「猿の手湯」へ。ここでしっかり手を洗う。手を洗い終えたら、とりあえずまた来た道をもどる。
そして、おあつらえ向きな路地を見つけたら、隠れる。
しっかり隠れられたことを確認したのち、十三夜焼きの入った袋を開ける。
隠れて食べる。十三夜焼きは。隠れて食べなきゃいけないのは、食べ方がちょっと特殊だから。普通に食べるなら店先にあるベンチで食べれば良い。
と、いうわけでおすすめのちょい足しをご紹介。画像は小倉でやっているのだけれど、アップルジャムカスタード入りでやったのはさらに美味かった。
水系を同じにする川
午後1時、梅林駐車場に戻ってきたのち、車に乗り込む。
本日、入渓するのは湯舟川。道は単純で戸田峠に向かって西進してから、広域基幹林道達磨山線を南進するルート。
戸田峠に向かう道では、「修善寺虹の郷」・「伊豆国際カントリークラブ」前を通過。梅林駐車場より4.9キロ走って「広域基幹林道達磨山線」入り口。ここから、南進してちょうど1キロ、三ツ石橋にて車を停車した。
車から降りて、三ツ石橋より北又川の様子をうかがう。北又川は、本日入渓する湯舟川とは下流にて合流する、つまり水系を同じにする川だ。
源頭の違いこそあるが、地理的にも近い本川の水量を参考にしたい。いずれの川についても、ここのところの晴天続きによる極端な減水が心配だ。
三ツ石橋から修善寺川第一堰堤を確認すると、かろうじて湛水している。三本の筋を作って水は極めて静かに落ちている。率直な感想を言えばゲームをするのにこれではノイズが弱すぎる。これぐらいだと、響き作りが簡単に行えてしまい、堤体前で歌う楽しさに物足りなさが生じてくる。
一抹の不安。
再び車に乗り込む。三ツ石橋からさらに3.1キロほど走って湯舟川にかかる「牧場橋」。牧場橋手前の左折路から東へ進入。湯舟川の流れを追いかけるように林道を2.3キロ下ると、入渓点のある「湯舟川ふれあい公園」に到着した。
入渓する。
午後2時半、準備をととのえ、湯舟川第6床固工(湯舟川ふれあい公園内)上流のススキの切れ目から入渓する。
入渓点を見るかぎり、水が著しく減水している様子は無い。第6床固工の上流すぐにあるスコリアっぽいナメは、今日も元気に水が流れている。
川の転石は大小入り混じり。堰堤公園が出来るより昔、湯舟川がどんな渓相の川であったのかが知りたくなる。
不思議に思えること。それは当地が、水源である達磨山の山頂から4.0キロと離れない直線距離にあるにもかかわらず、上流域とは思えないほどの川幅を持ってしまっているということだ。
もともとはもっとスリムで、深いエゴを伴うような荒々しい渓であったのでは無いかと想像できる。
これは修善寺という一流温泉地との古くからの関わりのなかで、相当な歳月にかかる河川改修工事が行われてきたのでは?という予想からでもある。
手を入れるならば、最終的には遊べる川になってほしいというのが願いだ。広く一般市民が訪れ、楽しい休日を過ごせるような川であることが望ましい。その場所が大切な遊び場として認識されたときこそ、人は最大の思考と最大の体力をもって真剣に川と接することができるようになると思う。
立ち位置の決め方
午後2時40分、堤体前に到着。堤体名は湯舟川第二堰堤。
水は堤体水裏に薄く、左右バランス良く落ちている。心配された減水も無事クリアしており、ホッと胸をなでおろす。
川は堤体下流およそ40~50ヤードで左岸側に向かってカーブしている。それ以上の遠い距離から声を入れていくのは「ななめ撃ち」であり、響き作りには良くない。
しっかりその範囲内を立ち位置に決め、自作メガホンにて声を入れてみる。
音はかなりしっかり良く鳴っている。
左右両岸は葉を落とした落葉樹の渓畔林。右岸側はそのさらにもう一枚外側にスギ林。堤体本体周辺はイロハモミジが多い。
堤体は副堤一番低いところから主堤の放水路天端まで7~8メートルほど。この高さは前回エピソードにある戸田大川の堤体と同一であるが、今回の湯舟川のほうが断然、音が逃げていく環境にある。(①~④は比較する点。)
①川幅の広さは副堤の着水地点よりさらに広くなっていること。
②①より外側の部分。左右両岸の、かつてワサビ農家の作業スペースとして使われていた部分について渓畔林が刈られていること。
③川幅直近に音を囲い込むような崖が無いこと。(左右両岸側)
④音を囲い込むような崖が無いこと。(堤体本体より上流側)
①~④について、特にこの場所を難所にしているのが①~③に掲げた部分。渓畔林を構成する樹木が左右両岸に見られるものの、それらは川幅直近では無くて一段階スペースを空けて外側に立っている。
堤体前の空間が横にダダ広く、歌い手からの直線距離としても渓畔林が遠くなる。反響板効果を得たいのだから、出来れば渓畔林は左右で近く、コンパクトにあってほしい。
湯舟川第二堰堤の過去のエピソードを見れば、2022年の5月に来ている。そのときは雨後の増水という条件下で歌って、堤体前が鳴らないことをがっかり嘆いていることが読み取れる。
なぜ、今日は鳴っているのか?
なぜ、今日は鳴っているのか?と考えれば水量が関連しているのでは。というのが予想。
ここのところの、晴天続きによる減水によってノイズの大きさや数(発生箇所)がかなり少なくなっている。これは堤体本体もそうであるし、それより下流の転石が転がる区間においても同様だ。
ひとつの転石を境にして上流側と下流側で激しく水位が変化するのは、断続的に上流側から水が供給されているとき。
上流側から押し迫って来る水が多ければ水位変化は激しい。逆にそれが無ければ水位変化は乏しい。水位変化に乏しい、つまり水の落下に疎い渓ではノイズは少なめ。水は転石の接地面近くを静かに撫でるように通過するだけだ。
昨年5月のリベンジを達成した。良い意味では。
弱いノイズ相手に圧勝してしまっている。悪い意味では。
難所である。という元々の判断があるので、今回は素直にリベンジを達成した良い日として捉えたい。
夕焼けの美しいフィナーレを待つことも考えたが、今日はこれくらいにしておこうということで早めに退渓することに。
午後4時、下流に向けて歩き始めた。2023年最後のゲームは良い日となった。