土肥で桜が咲いた。その一報を受けたのは、昨年末の大晦日のこと。
年も明け、さらにおよそ3週間経って日付は1月20日。いよいよ土肥桜まつりが開幕となった。
開幕初日となる20日(土曜日)翌21日(日曜日)は残念ながら雨天となってしまったが、その翌週となる27日、28日は両日ともに好天に恵まれるという。
そういえば、しばらくご無沙汰であった土地。伊豆市土肥。
せっかくの機会を逃すべからずということで、急遽土肥ゆきを決定した次第である。
道の駅伊豆月ヶ瀬へ
1月28日、午前9時。場所は伊豆市月ヶ瀬。
本日のゲームプランは、土肥山川の本流に入る。設定した時間帯は夕方。時間はまだまだたっぷり余裕がある。
とりあえずは、うまい朝食にありつこうということで「道の駅伊豆月ヶ瀬」へ。オープンと同時に入った建物内。しかし、入ることが許されたのは2階の土産物売り場のスペースだけ。
それより階下おりたところにある、リバーサイドレストラン「月ヶ瀬テラスキッチン」へは、午前10時にならないと入店することが出来ないという。
仕方なく、建物の南側にある芝生広場にて待つこととした。
自販機コーナー横にある屋外階段から下へ降り、芝生広場へ。地図上俯瞰してみれば、伊豆縦貫道、矢熊大橋に覆われているあたりは橋桁の下とそのまわりにテニスコート2面分くらいの広場があり、芝生が張られている。
ベンチを発見!
腰掛けてみた。
おっと。
あまりよく確認してから座らなかったが、これは屋外据え付けのベンチ。
自爆無し。
こういったものに座るときは、ちゃんと雨水や夜露で濡れていないか、確認してから座らなければならない。
心配した・・・。のはそれもそのはず。空はどんよりしている。やや重苦しい雲は、いかにも湿り気を帯びている。予報では今日は晴れときどき曇りとのことだ。
水滴がピシャリピシャリと降ってきた・・・。だが、これはすぐに止んだ。
かすかな不安。
屋外でやるのが砂防ダムの音楽だ。空のご機嫌によって、遊びの内容に変化が生じる不安は常につきまとう。狙い通りの天候に恵まれて、いい思いをするときもあれば、うまくいかなくて下唇を嚙み続け、帰ることもある。
天気に一喜一憂させられる。それが常だ。
今日は、白じゃなくて青がいい。青空の下で歌いたい。
いよいよレストランへ
午前10時、テラスキッチンの開店時刻。さきほど降りてきた屋外階段をふたたび登ってから正面玄関に入り、建物内へ。野菜、果物はじめ土産物各種が置いてあるこのフロアが2階。つまり、2階フロアに玄関があるということだ。そして、フロアのおよそ南側、横幅の広い階段をおりると、1階にあるリバーサイドレストラン「月ヶ瀬テラスキッチン」に行くことができる。
ここは狩野川のほとりにほど近い、屋外ウッドデッキに通じるドアもあって外に出ることができる。しかし、いまは冬。川側の側面、ほぼ全面ガラスに覆われた、まるで外とつながっているような広い空間は、全ドアがすべてしっかり閉じられており、風の吹き込む余地はない。完全なる室内は暖房で暖かい。
心地よい河原の風に吹かれるのは、春以降の季節に期待したい。
オーダーは券売機の食券にて。食券購入後、ほどなくして出来上がったのが「しいたけカツカレー」。
カレーがうまい。しいたけもうまい!
午前10時50分、食事を終えると2階の土産物コーナーへ。
お目当ては清森堂の小麦まんじゅう。透明なプラケースに入れられた、こがね色したまん丸団子は3個入り。蓋が開いてしまったら大変だから、テープで縛って持って行く。わざわざテープで縛る手間をもってしてまで行く先はもちろん堤体前。渓行に携えるのはお気に入りの菓子だ。
ほか、昼メシ用に下山養魚場のあまご蒲焼弁当なども購入。食べ物をしっかりと用意することができた。これで安心して船原トンネルを越えることが出来るだろう。
2つのプラン
午前11時40分、道の駅伊豆月ヶ瀬を出発。
国道136号線、下船原トンネルをくぐり抜け、ニコニコ顔の赤鬼に見送られながら伊豆極楽苑前を通過。さらに高根神社、セブンイレブン、船原館前などを通過。
さて、ここからの行程で用意したのが2パターン。
1つは、船原温泉の日帰り温泉施設「湯治場ほたる」に立ち寄り、温泉入浴と昼食の弁当ほか菓子類をいただくというプラン。日帰り温泉施設に食べ物を持ち込んでいいのか?という疑問には、
なにか食べたいものがあれば必ず持ち込んでください。と、お答えしよう。
ここは、食堂の無い施設。食べ物の持ち込みは公式にOK。お湯を沸かせるポットや電子レンジの備え付けもある。比較的、長い時間滞在する予定があるならば事前にいろいろ買い込んでから入館するようにしたい。
そしてもう1つのプランは、天城ふるさと広場駐車場。
こちらは、湯治場ほたるよりさらに1.5キロ船原トンネル方面に走ったところにある。
なんでもない、ただのちょっと小高い丘の上に作られた、いわゆる「スポーツ公園」のたぐいの施設であるが、広い駐車場があったり、きれいに整美されたトイレや、芝生広場があったりする気持ちのいいところだ。
冬なので車内で過ごすことになるが、人目を気にせず、まったりとした時間を過ごすことが出来るとあって、こちらもかなり魅力的だ。
まぁ、暖かいので・・・、
天城ふるさと広場にしよう。
正午、天城ふるさと広場駐車場へ。
運転席のシートをリクライニングにし、ダラ~ンと腰掛ける。
駐車場のすぐとなりはテニスコート。テニスコートの向こうは野球場。テニスコートは本日一般開放のようで、テニスを楽しむ数名の集まりが1組。
野球場はリトルリーグの試合が行われているようだ。
小中学生の歓声と金属バットの快音を聞きながら微睡みにふける。弁当はちゃんと用意していたけれど、ついさきほど食べたばかりのカレーがまだ胃袋の中で元気なので、遠慮することとした。
車窓のガラス越しに見える空色を気にしながらウトウトする。
土肥山川第3堰堤へ
午後1時15分、ウトウトから起きる。車のエンジンをかけ、天城ふるさと広場駐車場を出発。
小高い丘の坂を下ってふたたび国道136号線に戻り、船原トンネル方面へ曲がる。曲がったところからは、ほとんど上り坂の道を4.9キロほど走って船原トンネルへ。そのまま船原トンネルを抜けると、道はいよいよ伊豆市土肥エリアに入る。
船原トンネルを抜けてからは、およそ5.6キロほどの下り坂。急なところではスピードの出し過ぎに注意しながら進んだ。
午後1時50分、旧国道136号線に移るため右折にて進入。さらに300メートルほど走って昭和橋。昭和橋はわたらずに土肥山川左岸に沿う林道に逸れる。林道に入ってから200メートルで猿橋。猿橋をわたりきり、600メートルすすむと右手側に橋があらわれる。橋の名は萩尾橋。
この萩尾橋が入渓点となるため、車から降りて準備をととのえる。
午後2時50分、土肥山川に入渓。
入渓後は、水苔気味の渓に足を滑らせないようにしながら慎重に遡行。途中、植物を見たり、写真を撮ったりしながら遡行し、通常スピードの倍くらいの時間をかけて歩いた。
午後3時20分、目的の堤体「土肥山川第3堰堤」に到着した。
見た目から予想すること
水は左右バランス良く湛水している。放水路天端に堆積物があるようで、その区間には水が少ない。代わって堆積物が無いところに避けられた水が集まっていて、それが数本、堤体水裏全体としては湛水する水が縞模様を描くように落ちている。
もしも水の落ち方が右に偏ったり、左に偏ったりすればかなり醜悪な見た目になるところであるが、そういった事態は奇跡的に回避されている。落ちる水は均整がとれていて、集中していない。機能的には、堤体より上流部にある水を数本の筋に分散させて落下しているので、局所的に大きいノイズが発生することを防いでいる。
堤体前の立ち位置は、およそ80ヤードまで設定可能。ここより下流には倒木の根があるため立つことが出来ない。また、大小入り交じりの石が転がる当地は、80ヤード以内の範囲にあっても足場とするには不向きな、立つのには困難な転石がある。立ち位置については一定程度の不便さが有り。
右岸側は上り下り不能な急崖。左岸側は作業道一本隔ててヒノキ林。両岸の不均一さがきわめて顕著であるため、音は左右で異なって響くことが見た目より予想される。
土肥山川第3堰堤(響き編)
午後3時半、堤体水裏を太陽が直接照らしている状態がクリアされたため、メガホンをセットし声を入れてみる。
声は響いている。
しかし、無風という条件であるせいか、堤体の堤高が高すぎるせいか、音の響いている範囲があまり広く感じられない。
左右両岸に展開する樹木の反響板効果は「いかにも。」といった感じであるが、その樹木で構成される林の中には、音が深く入り込んでいくような感覚が得られない。
まるで巨大な段ボールの箱に囲われて、その底面から一生懸命、箱の内側壁面に向かって声を入れているかのようだ。
たしかに響きは得られていることがわかる。しかしながら、その質においてはイマイチ物足りない気がする。
土肥山川第3堰堤(視覚編)
視覚の面においては、かなり魅力的な堤体であった。
当日、午後3時半に歌い始めてすぐに空が青を失った。(当日、午後3時半に歌い始めてすぐに空が“青色を”失った。)
青に変わって空に現れたのは白。
雲の影響である。天候面で朝から心配していた雲だ。
雲によって上から白く照らされることで、歌に入り込む集中力を失ってしまうのでは?というネガティブな思考が一瞬脳裏をよぎる。しかし、その思いはすぐに非現実であるということを知る。
河床に転がる大小の川石たち。
目の前に転がる川石は、どれもが赤錆びを乗せていて、その赤錆びの赤は堤体前の景色を一変させている。
夕刻、青色を失った空は白色に落ちたが、その白い光が河床に転がる赤錆びの乗った川石に降り注ぐ。降り注いだ光は白から赤へとって代わり、たちまち堤体前の空間を赤く染め上げてしまった。
唖然とするまでに見事に赤く染まり上がった堤体前。
さらに、冬季であるがゆえに草本類や落葉樹は緑色を無くしている。堤体前の赤に対してこれらは色彩面で反発しない。むしろ、枯れたススキの穂や、樹木の幹枝の肌色は赤色に対して加勢しており、赤に合わさってこちらも視覚に訴えてくる。
数多の赤に包まれる。
これはかつて無い体験。
また、かつて無い体験とともに得られたのは歌うことに対する集中力。
この場所に来る前には、悲観的な予想を持っていた。頭上に広く開けた空間から差し込む光。(特に白く、突き刺すような光。)その光によって、歌に対する集中力を大きく失ってしまうのではないかという予想。
しかし悲観的な予想を見事に裏切ったのは、他ならぬ土肥山川が持っている自然環境そのものであった。
結局、この日は午後5時過ぎ、宵を迎えるまで、堤体前の「赤」が確認できなくなる頃まで過ごした。
突如としてあらわれた、フィールドでの新たな発見。
環境に助けられて今日もいいゲームができた。
来てよかった!
1月28日、土肥山川にて。赤に包まれて歌う。
おまけ。