西沢リベンジ

彩甲斐公園

山梨市三富川浦、笛吹川上流西沢の堤体にチャレンジしたのはおよそ4ヶ月前のこと。(山のタコ焼き屋

当日は堤体を湛水する水が太陽光によって照らされるという、視覚上の特長に触れながら日没前ゲームをおこなった。

堤体の方角と時間ごとの太陽。両者の位置関係を考えながら、計画的に歩いて現場に立つことが出来たことにより、魅力的な状態にある堤体に接することができた。

堤体の見た目。ということに関しては、少ない時間ではあったが満喫できたと思う。

では今回は、さらに響きの面について楽しむことが出来るよう挑んでみたい。

前回上手くいかなかったことについてのリベンジ砂防ダム行脚となる。

彩甲斐公園の四阿
トチノキ
トチノキの冬芽
肉眼ではうっすらと富士山が。(画像では×だった。)

彩甲斐公園

2月10日、午前8時45分。山梨市牧丘町、彩甲斐公園。

長い階段を登りきり、丘の上にある四阿へ。四阿からは、うっすらと富士山が見える。

雪。

今週月曜日となる2月5日から翌6日にかけて山梨県内では全域で雪が降った。ここはだいぶ日当たりが良いようであるが、ところどころ公園の芝生の上に雪が残っている。

本日入渓する笛吹川上流の西沢は、現在地よりもさらに500メートル以上も標高が高い地点。

雪はさらに深くなるに違いない。

雪見のゲームになることは確かだ。

準備はしてきたつもり。

果たして・・・、どうなるか?

午前9時20分、階段を降りて下にある道の駅「花かげの郷まきおか」へ。

花かげの郷まきおかにて朝食を摂る。さらに昼食用にとパンを購入した。

道の駅「花かげの郷まきおか」
朝食に摂った「山菜そば」
こちらは豚の角煮が入ったちまき
昼食用にパンも購入。

国道140号線

午前10時、トイレを借りたのち車に乗り込む。花かげの郷まきおかを出発し、国道140号線を雁坂トンネル方面へ。

笛吹川の流れに平行する道をひたすら登り続ける。

空は快晴だ。歌うには好都合と言えそうな青空が広がっていて心地よい。空からの光は山の斜面の雪に反射し、山村の風景を照らしている。

除雪されきった、剥き出しになって乾いたアスファルト面をスタッドレスタイヤで吸いつくように登りつづけた。

午前10時半、広瀬ダム・広瀬湖に到着。湖面はやはり数日前に降ったと思われる雪でほぼ全面隙間無く覆われている。

午前11時に西沢渓谷市営駐車場に到着した。

広瀬ダム・広瀬湖
しっかり除雪された道を行く。
「道の駅みとみ」前もこのとおり。
日かげは雪が溶けにくい。油断せず。

2つのアイテム

午前11時、車から降りて入渓の準備。

本日は、雪の日仕様ということで2つのアイテムを用意した。

まず、1つ目は貼るカイロ。貼るカイロの使用箇所は足の甲。足の甲側から足を温めるため、これを靴下に貼り付けた。

2つ目は、サングラス。

眩しさを軽減するアイテムである。

歌うという行為について、集中力をもって取り組みたいというのは毎回の願いだ。過去の経験からすれば、集中力を失うことの最大要因は明るい場所に立つこと。

屋外という環境下、しかし案外暗いところというのは見つかるもので、日常的にはそういった場所を立ち位置にしながら歌うことに取り組んでいる。

しかし、今回の場合は季節が冬で、落葉樹の葉がすべて散って失われてしまっていること。また、地面や堤体本体に降り積もった雪の影響で、堤体前がかなり明るくなってしまっていることが予想される。問題の解決策として、歌い手側から直接、視覚上の刺激を軽減させてしまおうということでサングラスを用意した。

ほか、ウエーダー、レインジャケット、フローティングベスト、ヘルメットなどの装備はいつも通り。

スタート時の気温は9度ほど。とりあえずは堤体前で歌うときの装いで。取りも直さず静止状態と同じ格好で歩き始めることとした。もし、途中で暑くなってしまったら歩くことを一旦ストップして、レインジャケットの中に着ている長袖シャツやフリースを脱ぐようにしたい。せっかく苦労して堤体前にたどり着いた折、大汗で濡れた着衣によって直ちに撤収ということになれば全てが水の泡だ。

快晴の空の下スタート。
貼るカイロの使用例。
これで雪からの冷えも怖くない。
サングラス

歩きをスタート

午前11時15分、西沢渓谷市営駐車場から歩きをスタート。

不動小屋前の道路は除雪されていた。さて、これはどうしたものかと疑問に思いつつ雪が除けられている道を歩いていると、西沢渓谷散策路入り口のゲート手前にて工事看板を発見。

工事看板の内容を見れば、散策路の奥にある橋を工事中だという。

業者の車両出入りがあるがゆえの、除雪であることを解した。また、本日これから歩くルートに工事中の橋が関与していないことも確認。ホッと胸をなでおろす。

散策路入り口のゲートを越え、なおも除雪された道を歩く。

午前11時55分に前回と同じ入渓点「ヌク沢」に到着。

およそ20メートルほどの高低差を降りてゆく。斜面の吹き溜まりに積もった雪は深さ30センチほど。うち上から20センチくらいは歩を進めるごとに足が潜って固定される。

登山用ポールの補助も得ながら、一歩一歩確実に足を潜らせながら斜面を降りきった。

ヌク沢に降りるとそのまま沢に立ち込み、下流側へ。

散策路入り口のゲートを越えたあたり
途中からは非除雪路に。
ヌク沢に向かって斜面を降りる。
ヌク沢。そのまま沢に立ち込み、下流側へ。

川の中を歩く

正午、ヌク沢、笛吹川の出合に到着。

立ち込みを続ける。

カラリと透き通った水の底に敷き詰められた川石。足を乗せてもいいものか、よく確認しながら歩を進める。

下の状態が一目瞭然で把握できるのは、川の中を歩いているとき。川の流路が蛇行しているような場所では川岸を横断し、最短ルートを踏むのが早いが、なにせ下がどうなっているのかわからない。

雪に埋もれたその下にある川石が安定しているのか、安定していないのか?

水の中も同様に、安定しているのかどうか?完全に掌握することは出来ないものの、石がどういう風に置かれているかとか、どのくらいの大きさの石であるとか、雪の積もった川岸よりもはるか多くのことを目で情報収集することができる。

源頭は2000メートルを超える山々からの豊富な雪代(雪解け水)。その分厚い流れに逆らって歩くのは気怠いことではあるが、今できる最も安全な渓行の方法はコレだと判断し川の中を歩いた。

午後12時半、東沢と西沢の合流点へ。西沢を選択し、直後に目的の堤体前にたどり着くことができた。

ヌク沢、笛吹川の出合
出合から笛吹川の上流側
雪の下がどうなっているのかがわからない。
鶏冠山
目的の堤体に到着。

瀬のノイズが強く

水は前回来たときよりも幾分減じている。

落水の幅も2割程度細くなったように感じる。スリムになった分、縦に長くなったように感じられるのがおもしろい。(もちろんこれは目の錯覚である。)

堤体より下流部の流れが左岸側に偏っているのは前回来たときと同じ。大小の石が混じって形成された段差が何段にも連なって瀬を形成している。そしてこの瀬がかなり騒がしい。

瀬が形成されている左岸側に対し、右岸側は雪の積もった川岸。

タテ、ヨコともに広い川岸に立ち入ることで、瀬の発するノイズからある程度逃れることは可能。しかし、やはりこの川岸地帯にはあまり立ち入りたくない。

騒がしい瀬の中から、少しでも静かなところを見つけて立ち位置とすることにした。

風速計
方位(再掲)
銘板
距離は55ヤード。

リベンジの結果は・・・、

堤体から55ヤード。瀬のノイズは弱めで、ちょうどバッコヤナギの木が倒れかかるように生えていたのでその下に入った。

葉の散った落葉樹であるが、なにも無いよりはマシであろう。ヤマブドウのつるが絡んでいて、枝の密度が濃い。少しでも暗いところに立ちたいので、このようなところは好都合だ。

自作メガホンをセットし声を入れてみる。

鳴らない。

銘板によれば、堤長は65メートル。目の錯覚でスリムに見えている堤体も、現実はかなり横幅が広い。

右岸の斜面が遠い・・・。

右岸の斜面が遠くて、渓畔林も遠くて、そこまで声を持って行くことが出来ていない。

そして右岸に声が届いていないからか?左岸側まで鳴っていないように感じる。

横幅広い空間のなかで、堤体のノイズが元気に鳴っているような状況。そこに何のあてもなくフラフラと声を入れていっても、全てが飲み込まれてしまう。響かせるためには、木でも土カベでもコンクリート壁でも、とにかく何でもいいから物理的に引っかかるモノの存在がほしいところだ。

何度も、声を入れることを試みる。

堤体前は無風という点からもタフコンディションであることがわかる。

過酷な環境下、頭上を覆った木々のおかげもあってか?歌には集中できていた。(持ってきたサングラスは試してみたけど、あまり好まなかったのですぐに外した。)

やはり「寒い」ということは、歌うという行為にとってプラスに働いている。

しかし。

足が冷えてしまった。

測ってみれば水温は1.2度。

貼るカイロの効果もあって、ここまで頑張ってこられたが、急激に足まわりが冷えてきた。さらに快晴だった空も曇りがちになってきた。腕時計の時刻を見れば午後3時。無念であるが、ここで歌をやめて引き返すことにした。

西沢リベンジは、

失敗。

メガホンをバッグに収納し、背中に背負う。

依然として鳴り続けている西沢の堤体に見送られながら堤体前をあとにした。

やはり立ち入らず。
瀬はノイズが強く。
バッコヤナギの木の下へ。
立ち位置から見た堤体
銘板の数字を見て、堤長の長さを実感した。
鳴らない。
水の冷たさにも敵わなかった。
負けたけど、いい戦いができた。