歌い手は考え、工夫する。

ざる菊園(小田原市久野)

どこへ行くにも自家用車ばかり。

近所のスーパーへ食料品を買いに行くとき。コンビニへ行くとき。外食へ行くとき。公園に行くとき。

もちろん歌える堤体さがし。砂防ダム等堤体類に出かけるときも自家用車の利用は欠かせない。

これが無くなってしまえばどこへも出かけられなくなってしまう。それどころか、ただの日常生活ですらままならなくなってしまうだろう。

自家用車があって、運転免許があって、好きなタイミングでどこへも出かけることができるからこそ、いまの生活が成り立っているといえる。

小田原駅東口

慣れぬ列車移動

11月17日、午前7時、神奈川県小田原市栄町。小田原駅東口。

まずは電車に乗る前に、食糧の確保。東口エスカレーターに乗り、駅3階の東西自由通路(アークロード)へ。

JR東海道線改札口のすぐ左側「駅弁屋和」にて弁当を購入する。

午前7時15分、駅3階通路を「伊豆箱根鉄道大雄山線」乗り場方向へ。

エスカレーターを使って2階まで降りると、大雄山線の改札口と切符売り場に到着。

自動販売機にて「飯田岡駅」までの切符を購入し、改札口より入場するとすでに停まっていた大雄山行きの列車に乗り込んだ。

始発駅でよかった。

慣れぬ列車移動。

普段やっている自家用車の移動と大きく異なるのは、乗りまちがいが出来ないということ。

あっ、間違ったな・・・。

ミスに気がついた段階で、すぐにUターンして引き返せるのが車移動の便利なところ。

電車のとき。バスのとき。しかし、これら公共交通機関に乗車してしまえばそうもいかなくなる。次の停車駅まで乗ってから降車し、引き返すための車両に乗り換えなくてはならない。

これが大なり小なり時間のロス。

ロスは田舎へ行けば行くほど、電車やバスの本数が減るためその幅も大きくなる。

絶対にミス出来ない。という訳ではないが、貴重な旅の時間である。楽しみを減らさないためにも正確な判断をし、安全な乗車に努めたいものだ。

小田原!の力強い文字。
駅弁屋和
大雄山線乗り場へ向かう。
伊豆箱根鉄道大雄山線
飯田岡駅へ

激坂!

午前7時34分、伊豆箱根鉄道大雄山線「飯田岡駅」にて降車。

小じんまりとした無人駅を出て、駅舎の出口とは反対側。西側を目指した。

駅のすぐ横「飯田岡第2踏切」をわたり、神奈川県道74号線に架かる歩道橋をわたると、住所は小田原市北ノ窪。

眼前には明らかな登り坂。

登り坂の以前にも以後にも見えている住宅街。しかし高級感が出てきた。

「○○台ニュータウン」

そんな呼び名が適当そうな坂道。いや、

激坂!

やれやれ・・・。

先ほど「正確な判断」やら「安全な乗車」やらウソブいたことを反省。

今はいい。こういうことは。

しかし!

自分自身もやがてはジジイに。運転免許証返納のそのときがくる。

公共交通機関オンリーの時代が待っているわけで、そこで老人の頭で正確な判断をし、安全な乗車を行い、降車後に待つニュータウンの激坂を登る場面が、今後の人生において待っているということだ。

歩くスピードは遅く、持てる荷物は今よりも減っているだろう。

ヨチヨチ歩きの老人のすぐとなりを猛然とかっ飛ばす地元車両。

ちなみに初段では書かなかったが、本日は自作メガホンの入ったバッグとウエーダーをくくりつけた背負子をせおった状態で歩いている。

どう考えても、老人には優しくない旅。

目的の堤体までたどり着くための旅。駅から駅への移動(もしくはバス停からバス停への移動)。それだけでも大変なことなのに、駅を出たらそのあとに坂道が待っている。

背負子をせおった老人の坂道あるき。見ていて心許ないことこの上ないであろう。

もし坂の途中で力尽きて倒れていたら・・・、人々はどう思う。

なんだコイツ。と?

世の中に迷惑をかけないためにも、自分自身しっかり堤体までたどり着くためにも、普段からそれ相応の体力をつけておかなければならないのだろうか?!

飯田岡第2踏切
うっ、坂だ!
激坂!
黄色!(エンジェルトランペット)
なんとか「おだわら諏訪の原公園」楠坂口までたどり着いた。

紅葉のいい時期に

午前8時05分、「おだわら諏訪の原公園」楠坂口。

北ノ窪の激坂を登り、なんとかここまでやって来ることができた。

これからの行程としてはまず公園内で朝食をとる。朝食はさきほど小田原駅にて購入した弁当。

朝食のあとは公園内にて自由行動。

芝生の広場に寝転がるもよし。同、走りまわるもよし。ベンチに腰掛けぼんやりするもよし。光と風の体験遊具で遊ぶもよし。全長169メートルのローラーすべり台で遊ぶもよし。

なんでもよし。

紅葉もよし。

カツラ、ケヤキ、アキニレ、サクラ、ハゼノキ、ドウダンツツジ。

ネムノキは紅葉せず、ちょっとずつ葉を落としながら冬に向かう。エノキは寒さに強いらしく、まだしっかりと色付いていない。

紅葉を眺めていたらいつの間にか太陽が出てきた。

日曜日の市民公園。

本日は晴天なり。

色とりどりの葉をながめていると、元気な歓声が聞こえてきた。

秋風を切り裂く高い声と長袖の子供服。

広場の色とりどりは、あっという間に子どもたちにとって代わったのだった。

相模こゆるぎ茶めし
紅葉のいい時期に。ラッキー!
中央がカツラ、右端とおくにあるのがケヤキ。
街は小田原市北部、大井町、開成町など
こちらは丘の上にある多目的広場。
ここからはバスに乗って西を目指す。

ざる菊園へ

午前11時33分、おだわら諏訪の原公園バス停。

バス停よりバスに乗車し、さらに西を目指す。

午前11時37分、「ざる菊園前」にてバスを降車。バス停より来た道を20メートルほど折り返すと、ざる菊園に到着。

ここは、2年ほど前に堤体さがしをしていたとき、たまたま見つけたところだ。

まずは正門前。

手書きの看板には、

「どうぞ中にお入り下さい」とある。

こんな文言が並ぶにはわけがある。ここは個人のお宅であるということだ。

圧倒的な白の明るさにつつまれた。

玄関へとつづく坂道の両脇に光り輝く菊の白。ひとつひとつのこんもりと盛り上がる玉は2尺~3尺ほどもある。

菊の甘い香りをかぎつつ玄関の高さまであがると圧巻。

菊の玉、玉、玉。

少し高い位置から見下ろすように、色とりどりのざる菊を見ることができる。

母屋の裏側。ここにも祭壇状に並べられたざる菊が。祭壇のいちばん前には長椅子が並べられていて、記念撮影が出来るようになっている。

長椅子は畑を見下ろす場所にも設置されており、腰掛けながらのんびりと花を見ることができる。

菊の深みある色彩に、ざる菊のやわらかな曲線が合わさる。

見事な玉の数々。

のみならず、大きな丸桶にはしゃぼんだま液が用意されていて、子どもが遊べるようになっていたり、お茶やコーヒーを淹れてゆっくりしながら花を楽しむことができる。

花にも饗にも充実のざる菊園。まさに円満。

小田原市久野。鈴木邸。

老若男女、だれでも楽しむことができるよう配慮がなされた完全無欠のざる菊園であった。

まずは正門前。
圧巻!
玉、玉、玉!
小さな花が集まってひとつの玉ができている。
お茶やコーヒーはセルフサービス。
看板ワンコも何やら誇らしげだ。

堤体に向かう

午後0時17分、ざる菊園前バス停よりふたたびバスに乗車。

午後0時19分、「和留沢入口」にてバスを降車。

和留沢入口バス停から西へ50メートルほど歩くと上河原橋。上河原橋より久野川をのぞき込む。

異常なし。

久野川左岸に平行する道路に進路をとり、やはり西を目指す。

午後0時35分、日向林道の看板前を通過。

午後1時05分、峯自然園の前を通過。

午後1時15分、林道の分岐点に到着。林道が3本に分かれるうち一番左側「舟原林道」を選択。分岐点から50メートルほど歩けば入渓点。入渓点の目印はタイヤ。

釣り人が付けたような踏みあととともに、数本の廃タイヤが捨ててある。

せおっていた背負子を降ろし、入渓の準備。ここまで履いていたスニーカーからウエーダーに履き替える。

メガホンのバッグからは登山用ポールを取り出す。

アウターとして着ていた5Lサイズのレインウエアは脱ぐ。レインウエアはフローティングベストを隠すために着用していたものだ。

午後1時25分、入渓の準備を終えると、踏みあとにしたがって坂を降りる。ほどなくして久野川に降り立つことができた。

入渓直後には舟原林道の橋をくぐる。

くぐった直後には狭い水路状になった区間。これをこえると目的の堤体が姿をあらわした。

和留沢入口バス停と、奥にあるのが上河原橋
久野川に平行する道を行く。
「日向林道」という林道らしい。
林道の分岐点。いちばん左(舟原林道)を選択。
入渓点の目印。タイヤ。
入渓点より。
堤体前へ。

張り出す岩

午後1時50分、堤体前。(堤体名不明)

水はしっかりと流れている。11月ではあるが、夏の渓の水量と言ってよい。

主堤、副堤。2段構成になった堤体。副堤の下流には護床工区間(およそ8メートル)がつづき以降、浅トロ、瀬になったところで右岸側に岩が張り出す。

この右岸側に張り出した岩によって立ち位置が制限される。計測してみたところ、岩の上流すぐを立ち位置として41.5ヤードくらい。これより下流は岩の張り出しを避けるために左岸側に寄ることを余儀なくされる。結果、これだと堤体に対して“ななめ撃ち”の体勢になる。

ななめ撃ちを避けるため、まずは41.5ヤードの区間に入り込む。

堤体に対して正対する。響きが得られやすい立ち位置としての実績に豊富であるからだ。

張り出す岩は立ち位置に制限をもたらす。
主堤に対して正対できる最大距離。
水はしっかりと流れていた。
副堤は高さ2メートルほど。意外に高い。
堤体前河床のようす

キッチリ空間

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

鳴らない。

主堤、副堤の2段構成になった堤体本体でねらうのは、主堤の放水路天端すぐ下のあたり。

ちょうどレーザー距離計の+のマークを当てている付近に向かって声を入れている。

鳴らないことがわかったところで、こんどは声をあてる位置を変えてみる。

が、やはり響きを得ることが出来ない。

立ち位置を変えてみる。

これもダメ・・・。

左右両岸、護岸されていることによってつくられたキッチリとした空間は、一見すると音が簡単に響いてくれそうなのであるが、どうも上手くいかない。

堤体本体と左右両岸には固い護岸。

コンクリート製の固い物質でできた空間といえば「トンネル」のようなものがイメージできるところ。そこでワワワッ!と声を入れてみたならば、結果は言わずと知れていると思う。

ところが、ちょっとした話し声でさえもよく響いてくれるような空間のイメージは、全くこの場には適用しないのであった。

堤体前主要ノイズ箇所。
右岸側護岸
左岸側護岸
鳴らない堤体前。無風。両者の関連性は?
堤体はほぼ真西の方位。

歌い手として得る一日とは

結局、この日は午後4時半まで堤体前で過ごした。

今回は、コンクリートの固い物質に囲われた空間の中で音楽を試みたのであったが、残念ながら響きを得ることは出来なかった。

堤体前の環境として一見簡単そうに思える空間も、実際に声を入れてみると上手くいかないケースがあるのだということを認識させられた日となった。

上手くいかない場合にどうするか。

立ち位置を変える。

道具を変える。

道具の使い方を変える。

環境の変化を待つ。

響きが得られそうな曲を選ぶ。

歌い手自身の頭で考えたことをまずは試してみる。試してみることで、良い結果に結びつくことがあるかもしれない。

これまでの自分自身の経験をもとに、あの場所ではこうだった。こうした。と、思い出しながら同様のことをやってみた。

しかし、芳しい結果は得られず。

万策尽きる。とはよく言ったもの。「尽きる」なのだから、成功している訳ではないが、ほんとうに万もの策略を持って堤体前に向かうことが出来ればこんなにも心強いものはない。

メソード。これもいろいろな業界でよく言われること。「方法・方式」を意味する言葉である。方法、方式にしたがって声を入れていけば、必ず響きが得られるという魔法は、その開発のときが待たれる。

やはり、まだまだこの音楽は未知の部分が多い。

堤体前まで苦労して行って、いざ歌ってみたときに全く響きが得られなかったでは楽しくない。楽しくない思いをしたくないから、歌い手は考え、工夫する。

考え、工夫することの楽しさ。

それは得られたかもしれない・・・。

楽しくない。を起源として、

楽しい。をやらせてもらった。

いろいろ試行錯誤させてもらい、楽しませてもらった。と、すれば有意義な一日であったといえよう。

試行錯誤。楽しませてもらった。
堤体前にちょこんと。
ちょこんと生えていた木はアカメガシワ。
ヤマグワ
ネムノキ

正確な予想

南巨摩郡富士川町箱原

駐車スペースをどうするか。

いろいろな目的地に行くときに、毎回どこに車を停めるのかということに迷う。

目的地とは堤体のことであったり、観光施設であったり、店であったり。

行き先が観光施設や店であったら、専用駐車場にそのまま駐車すればよい。

対して、行き先が堤体の場合。行き先が堤体の場合は、駐車スペースについて、ほとんどの場合が道路上となる。

堤体といえば、山間地域の交通量少ないところにあるもの。ならば車を通過させる。車を駐める。いずれの場合にしても、あまり競争のようにはならない。

たいていのところは路上駐車というものにあまりシビアでは無く、お好きな場所へどうぞという感が強い。

事業主や省庁が管理するような区域であれば、この限りではない。しかし山間地域全般、道路というものに対してはどこもおおむね寛容で、駐車禁止エリアのようなものは少ない印象を受ける。

自由に停められる場所が多い。

自由の許すかぎりの範囲で、法(刑事)、民事ともに犯さないような場所に停めることが出来ればよいであろう。

では実際、車を停めるときにどうするのか。

いちばんに目指すものといえば、堤体の至近に車を停めること。

堤体至近に車を停めることが出来れば、車を降車したあとの「歩き」の行程を最小限に抑えることができる。

なるべく歩く距離を少なくして、楽をしてやろうという算段だ。

まず、道路をよく見る。

道路をよく見て、車がきちんとすれ違えるような場所を見つける。

もちろんこれは堤体至近がいい。できる限り堤体に近い場所で。

そして、その見つけたところ道幅ギリギリに車を進入させ、駐車する。駐車ができたら車を降りて確認する。

後続する車両、すれ違う車両が問題なく通行できるような状況になっていれば、駐車は完了だ。

10月27日、あさは晴れ。その後はくもりの天気に。

超短編小説〔盗橙〕

10月27日、午前9時。山梨県南巨摩郡富士川町箱原。

やはり今回も駐車場所に迷った。

迷った末、車は大柳川右岸の未舗装区間に駐車することに。ここは集落の外れのような場所だ。

たとえばこんな話し・・・。

〔盗橙〕

ある町に一本の柿の木があった。

季節は秋。

柿の木は跳ねるような枝に、瑞々しい、ずっしりとした実を付けている。

ある朝のこと。

朝日を受けて橙に光る柿の実。

橙の明かり。その明かりに吸い寄せられるように一人の男がやってきた。

男は寒いのか、上着に来ているジャンパーのポケットに手を突っ込んでいる。

寒いわけはない。きょうは朝とはいえ、すでに気温が21.4度もある。

男は柿の木の下に立つと、何かを注視するように遠くを見ながら、小さく独りごとを言っている。

金襖子が虫を食む瞬間はとても早いらしい。

突然、男は自分の頭上にある橙に手を掛け、腕の力で引きよせるようにその実を枝ごと強引に引っ張った。と、次の瞬間には力強く実を手折ったのだった。

男は、鋭く引きよせた腕をジャンパーのポケットに仕舞い込む。

近くに停めてある車のハザードランプが光った。男の車だ。

男は静かに歩み出すと、次の瞬間にはもうすでに運転席の中にいた。

車のエンジンが掛かり、走り出す車。

男の車の後部座席には、横一列きれいに並べられたコンテナと、満杯の柿の実が同乗していたのであった。



駐車スペース選びというのは正確な予想が必要であると考える。

単に車がきちんとすれ違えるようになっていれば良いというものではない。

地域住民の気持ちを読むこと。その場に置かれている車を見て、その地域に住む人々がなんと思うのかを予想する。

正確な予想は難しい。

自分自身にとっては毎日乗って見慣れている自家用車であっても、地域住民にとっては見慣れない車。不審車両が停められているという判断を下されてしまうかもしれない。

怪しい車に間違われないために。

できる限りの努力。

集落の外れに駐車した。

こちらが午前中行きたかったところ。
網にバケツにプラケース。電池式のポンプも。
アブラハヤ
アブラハヤほか。
こんな狭い水路にいる。
午前中いっぱいは魚捕りをして遊んだ。

大柳川の谷に分け入る

午後0時。

柿ドロボウではなく、この日は魚捕りに出かけていたのだった。

午前中いっぱい遊んだ魚捕り。

午後0時半、富士川町箱原を出発。

石鹸か?ハンドソープか?

自家用車のハンドルを握る手からは猛烈な匂いがしている。

これは異臭騒ぎに該当するような匂いではない。幼少期にはよく嗅いでいた匂いだ。

手にべっとりと付いたアブラハヤのぬめりを嗅ぎながら、大柳川の谷に分け入った。

午後1時。富士川町かじかの湯に到着。

真っ先にトイレへと駆け込んだ。

ハンドソープだった。

流水で匂いが消えるまでしっかりと手を洗った。

富士川町かじかの湯
あったー!
なにやらウマそうなのを発見。
ほんとうにウマかった。
地元の観光情報もゲット!

本日は新規開拓

午後1時50分、かじかの湯を出発。

申し遅れた。今日の堤体は、新規開拓の堤体だ。

なるべく早くに到着して、現場の状況をいち早く把握したいという思いがある。かじかの湯はたしかに建物内に入った。しかし、浴場ののれんはくぐっていない。ハンドソープで手を洗ったことと、昼食を摂っただけ。これで充分。先を急いだ。

午後2時、「十谷入口」バス停前を通過。

午後2時5分、つくたべかん前を通過。ここは当地域の伝統食「みみ」が出されることで有名らしい。今回はお預けとなったが、また機会を見てぜひ訪問してみたい。

午後2時10分、民宿「山の湯」まえを通過。

午後2時15分、林道五開茂倉線林道ゲート前に到着。

カラフルな風ぐるまがクルクル
「十谷入口」バス停前
つくたべかん前
民宿「山の湯」まえ
林道ゲート前

着衣のもの足りなさ

車から降りて入渓の準備。

川へ立ち入る際に必要なウエーダー。ウエーダーはどのタイミングで履くかということを考える。

この場ですぐに履き替えるというのが一つの作戦。

もう一つの作戦は、まずとにかく靴を履いたまま堤体に向かう。肝心のウエーダーはアルミ製の背負子にくくりつけてせおい、堤体の直前にたどり着いたタイミングで履き替えるというもの。

目指す堤体は、林道ゲートよりおよそ1.5キロ歩いたあたりにある。

測ってみれば気温は17.2度。肌感覚的にはTシャツ1枚でちょっと寒いくらいだ。

この場でウエーダーに履き替えることにした。

但しこれも条件つき。

上半身は半袖のまま行くこと。何となく想像できるのが、上半身長袖を着たあとに待っている大汗ダラダラの展開。ちょっと寒いと感じる着衣のもの足りなさ。しかしそれを歩行運動にともなう体温上昇によって補完することが狙いだ。

ほか、フローティングベスト、ヘルメット、動物よけのホイッスル等を身につけ、さらに登山用ポールを片手に握ったところで準備完了。

午後2時35分、林道ゲートを越えたところで歩きをスタート。

林道はゲートから500メートルくらいの区間で針葉樹の下を歩く。500メートルを越えたあたりで堤体(堤体名不明)の堆積地を見下ろすようにあるき、それと同時に木は広葉樹に変化する。

林道のカーブに差しかかる手前では動物よけのホイッスルを吹く。吹き方については目下研究中である。

ところどころ紅葉で色づく木々を見ながら目的の堤体を目指した。

午後3時25分、林道と大柳川が平行する地点にて堤体(堤体名不明)を発見。

前半は針葉樹の下を歩く。
途中から空が開けた。
ガマズミ
ところどころには紅葉している木が。
こちらはマルバアオダモ
目的の堤体を発見。

扇子状に広がっていく空間

林道ガードレール下およそ20メートルのところに大柳川の河床があり、そこから上流100メートルほどに堤体。堤体は二段構成で、上段は目視で分かるほど方位が反時計回りにズレている。

両者が副堤、主堤の関係であるのかは定かではない。しかし、距離的にもほとんど離れていないことと、左右両岸、岩壁でひとまとめに覆われていることからすると、二基一組と考えて声を入れていくのが妥当といえそうだ。

堤体二基をまるまる飲み込むほど岩壁は鈍角にもり上がり、上層部分には渓畔林を配している。

いちばん下には狭い水路。そこから上に行くにしたがって扇子状に広がっていく空間。空間は最後、広葉樹の枝葉によって天井が仕立てられ、適度に空からの光を遮断する。

難点が唯一。唯一、下段側の一基の放水路天端に割れが見られる。

放水路天端の下流カドが割れてしまっていて、その部分に左右両岸側から水が集まるように流れ込んでしまっている。

割れの影響として、本来湛水で帯状に落ちるはずの水が、棒状に変化してしまっている。

堤体前が全体的ににぎやかということもあり、棒状放水によるノイズ面での影響はほとんど感じられないが、落水そのものの見ためとして、暴れるように落ちていく様が決して美しいとは言い難い。

地面につかまりながら慎重に降りる。
堤体前へ。
下段側の堤体は、中央部分が割れて水が集まっている。
距離(下段側の堤体。)
距離(上段側の堤体。)
風は微風が断続的に吹いた。

予想は・・・、

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

良く鳴る。

両岸にもり上がる岩壁は、入れた声を素早く返してくれる。

声をしっかり拾ってくれ、

拾った声を失わないで返してくれる堤体前ができ上がっている。

空間は水のノイズでにぎやかな状態であるのに、そのなかで声を響かせて歌をしっかり歌うことができる。

空間の扇子の芯の部分について、その狭くしぼられた水路にともなう激流ノイズでは、中できちんと声が響いてくれるという不思議。

大きな岩壁の中に転がり込んで、入れた声のすべてがノイズに飲み込まれてしまうくらいの状況を予想したのであったが、予想は外れた。

声を入れたときに、響き作りをアシストしてくれる岩壁が左右両岸に待っていてくれたのである。

白く泡立っているあたりは、かなりのノイズであるのだが・・・。
右岸側
左岸側
渓畔林によってもたらされるのは天井。

正確な予想ができるようになると

結局、この日は午後5時まで堤体前で過ごした。

とにかく今回は、堤体前の見ためから受ける印象と、実際声を入れてみた時とのギャップが大きい堤体であった。

あちこちの堤体に出掛け、歌うという行為を繰り返していても、まだまだわからないことが多い。

砂防ダム音楽家という専門であるならば、堤体前における響き作りについて、その時どのような展開が待っているのかを判別できるスキルが必要であると日々感じている。もちろんこれは、実際声を入れてみてということではなく、その堤体前の様子を見ただけで結果を予想できるスキルということである。

正確な予想ができるようになれば、

新たに待つ世界。

響くのか?響かないのか?

正確な予想ができるようになりたい。そのもととなるのは観察力。

水がどう流れている。

木がどう生えている。

岩がどうなっている。

風がどう吹いている。

いろいろなものをよく観察することで、予想が正確になる。予想が正確になるということは、予想が当たるようになるということ。

予想が当たる。このことは堤体の音楽の新たな楽しみに繋がるのではないだろうか。

その領域に到達するために。

堤体前に立って歌うことが楽しく、さらにプラスして、予想が当たるという新たな楽しみが待っているはずだ。

こうして見ていても、鳴ったという事実が信じがたい。
ヤマツツジ
チドリノキ
ミズナラ
ヤマボウシ