梅ヶ島のいちじつの思い出

今回は静岡市まで足を延ばした。

8月19日。翌日は8月20日。いよいよ8月が今年も20の大台に突入である。この20の大台に達した時から以降10日間ほどは今年の8月はどうだった、どうだったとやたらと振り返る不思議な自分が毎年いるのであるが、もう丁年をとっくに過ぎいい年した自分である。ダメな、ろくでもなかったこれまでの期間を取り返せとばかりに、今からでも遅くは無い、挽回するのだ。小学生の頃より様々な社会的権利を与えられているではないか。頭を使え。と自分に言い聞かせ、8月の残り約10日間を濃密に過ごそうとするのである。いやはや、こんなにも8月という月にこだわるのはどう考えてみてもその小学生の頃から、最終学歴である高校3年時に与えられた夏休みの影響であるように思えて他ならない。学校生活という管理された空間から、どうぞご自由に、というフリーランスの空間に放たれた自分。その自分がこの1ヶ月のあいだしっかりと予定を立て、その日その日やるべき課題を確実にこなし、そしてまた翌日を迎えるという日々の繰り返しがしっかり出来ていたかということをしきりに振り返ったりするのである。そしてそういった癖が昔、学生時代に付いてしまったらしく8月という期間に対してやたら充実感だの思い出だのを求める自分がいる。8月。他と何ら変わりないただの1ヶ月間なのになにか特別なもののようにして扱う自分がいて、しかもそれが質の高いもので無かったとすると自己嫌悪に陥ったり、そうなるまいと焦ったりするなんとも落ち着きの無い今日この頃なのである。

防護柵

ということで、やっぱり焦った。なにか、この夏休み期間(ではないのだが・・・)のうちになにか思い出を作ろうと。せっかくの機会、たまには伊豆半島以外のところに行こう。ということになり、静岡市北東部の梅ヶ島を目指すことにした。
8月19日。午前7時に自宅を出て、まずは新東名高速道路、駿河湾沼津SAにあるスマートICに向かう。久々の活躍となるETC車載器は大丈夫なのかという心配をよそにETCゲートのバーは難なく上昇し、スマートICを通過する。新東名に乗るとともに、まずは新静岡ICを目指す。と、ここですぐに異変を感じる。高速道路の一番外側の白線さらにすぐの所に、延々とガードレールと高さ2メートルほどのネットが伸びていて、運転するのに非常に抵抗を感じるのだ。―ニホンジカか?―この駿河湾沼津SA付近は道路そのものが愛鷹山のすそのに接するように出来ていて、ニホンジカが頻繁に見られる区間である。近くのゴルフ場付近にいる個体などはもはや住民票取得レベルに一般化しているが、最初はそのニホンジカの道路侵入を防ぐ防護柵なのかと思っていた。しかしそれはどうやら違うようで、これらの柵は本年4月より着手している新東名の6車線化工事の現場作業員、作業車両用の防護柵であることがすぐにわかった。高速道路会社によれば8月21日より制限速度を一部区間80km/hに設定してドライバーの安全面に配慮するようであるが、それでも一般道の制限速度60km/hをゆうに超える速さで防護柵からそれほど離れていないところをビュンと行くのは若干の怖さがある。オリンピックという祭典を前にしたその関連事業で、死傷者が発生するなどということがくれぐれも起きないようにとこれには願うばかりであり、そしてまた、運転に自信が無い方においては、新東名の利用そのものを控えた方が良いのではと感じたので、ここに記して発信しておきたい。

ガチ通せんぼ

件の防護柵との接触も無く無事通行することが出来、新静岡インターで新東名を降りる。インターを降りてからは県道27号線をひたすら北上することになるため、案内標識に従って県道27号線方向に向かう。―腹が空いたなぁ・・・―ここでインター降りてすぐのところにあるコンビニに立ち寄り、腹ごしらえをする。時間は午前8時。店内はクーラーが効いていて涼しいが外はもう朝から猛暑のまっ只中。そんな暑さに打ち勝とうとして購入したカツカレーがうまい。食事を済ませると一路、梅ヶ島を目指す。と、すぐに、「林道豊岡梅ヶ島線通行止」の看板標識がありドキッとする。まさか・・・、と思ったのであるが、これは梅ヶ島以降、山梨方面に抜ける林道の通行止めを言っているのだということがわかりホッと胸をなで下ろす。このことは決して冗談を言っているのでは無い。過去には同じ静岡市内で“ガチ通せんぼ”を食らい、目的地に行けなかったことがあるからだ。あぁ良かったという思いとともに再び目的地の梅ヶ島行きに気持ちを切り替える。それからはあちこちの写真撮影を楽しみながら、約2時間ほどの行程で目的地に着くことが出来た。

玉機橋右岸
大河内郵便局
平野橋から上流側を見る
大河内橋(右側は建設中)
金山砂防ダムと金山トンネル
梅ヶ島温泉街

adelaide

画像にあるのが今回の目的地となった「湯の島第2砂防ダム」である。梅雨の間からの潤沢な降水量に支えられて、当日はご覧の通りドカンである。ある程度予想はしていたものの、前回来た時のその様子から比べれば違いは歴然。冬と夏では砂防ダムはこんなにも違うのだと驚いた。堤体より落下した水は激流となって、そのすぐ下にある滝に吸い込まれている。川の本流に入ってしまえばその激流の餌食になるばかりなので、しかしそれでもなるべく低くなったところ、岸際の大きめの石に寄りかかれるようになったところを選び歌を楽しむ。選曲は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベンのadelaide。ここのところの天候不順によって全然砂防ダムに来られていなかったということもあり、歌っていて楽しいことこの上ない。私の歌声を安倍川源流のドカンが呑み込んでいる。自然の大きさ、猛々しさを感じながら、落水のドカンによって発生した水しぶきを浴びながら、歌を楽しむことが出来た。堤体すぐ近くに停めた車の上には、それを覆うようにしてフサザクラの枝葉が伸びている。誘惑に負けてその木陰の下の車内で昼寝をする。そしてまた、ムクッと起きては歌を楽しむ。そんなこんなでこの場所で過ごしたのは3時間半ほどであった。

フサザクラ

湯元屋

午後2時前、歌を終えて湯の島第2砂防ダムを離れる。今日は直(ちょく)には帰らない。梅ヶ島温泉の茶屋「湯元屋」に寄ると決めていたのだ。店のすぐ裏にある駐車場に車を停め中に入る。安倍川のせせらぎと対岸の緑が心地よい。盆のハイシーズンが抜けたこともあって店内は空いていた。実は当日は天気予報が雨予報であったのでそのことも影響していたのかもしれない。おでん5本+冷やしとろろそば+温泉入浴締めて¥2,000円のセットをいただく。まずは食事を済ませ、そして入浴。中に人がいなくて、貸し切り状態だったので電気を消して(というより消えていた。)内湯を楽しむ。明かりとなるのは外から差し込む日の光だけ。普段、渓畔林のその下の暗さのことをくり返しくり返し説いている私であるが、温泉の湯に浸かる時までこのありさまである。嘲笑していただければ幸いだ。ちなみに露天風呂もあるのでそちらもおすすめしておきたい。温泉から上がり、湯元屋をあとにしたのは午後3時頃であった。
―さぁ、帰ろうか。―このとき雨が降っていたのだが、店のご主人が傘を貸してくれるとのこと。駐車場にある車まではそれほど離れていなかったのでありがとうを伝え、しかし傘はお断りし、今日これまでの充実感に襲われ、雨のシャワーに濡らされひとりニヤニヤしながら駐車場まで走り、車に飛び乗った。梅ヶ島のいちじつの思い出である。

絶望的にうまいおでん
湯元屋
2018年2月撮影。
当日撮影した「湯の島第2砂防ダム」

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