山のタコ焼き屋

堤体は方角に応じ時間設定をして入るとよい。

秋めいてきた。
自宅のある沼津市も最高気温25度以下の日が多くなり、日中でも過ごしやすい日が増えてきた。
今回は日中のゲームを紹介しようと思う。

こちらは夕方、日没前に遊ぶのとは違い、太陽の向きを気にしながらのゲームとなる。真東方向から南向きの方角を経て真西向きまでの堤体で楽しむことが出来るタイプの遊びだ。

この方角ならば午前中とかこの方角ならば午後とか、入るべき時間が限定されているところに面倒臭さのようなものを感じるかもしれないが、太陽の光がどちらから当たるかをしっかりとマネジメントすることで、歌に対する集中力をグッと上げることが出来る。

より魅力的な時間の堤体に接するためにも、最も理想的な立ち位置に立つためにも、堤体の方角に応じて現場に入る時間を設定していきたい。

では、今回入った堤体の方位は262度。西南西向きの堤体であったのだが果たして・・・?!

広瀬ダム

広瀬ダムへ

10月17日、午前9時。山梨市三富川浦、広瀬ダム。
ロックフィルダムの頂上に設けられた管理用道路を歩く。気温は18.7度。
日の光を遮るものが何もない管理道路上は、日なたとはいえ長袖を着ていないと寒い。

さらに風も多少吹いていたので、風よけにとレインジャケットを着こんでから芝生広場に向かう。
ローラーゲートの塔、管理事務所の前を通りすぎ芝生広場へ。

芝生はきれいな緑色。垂直にそびえ立つケヤキの色はまあまあ黄色。イロハモミジは緑から赤へと移行期間中。サクラ、シラカバは完全な色彩変化を前にしてパラパラと落葉を始めている。クリ、トチノキ、フサザクラはピクリともせずきれいに緑色。色鮮やかに見頃を迎えているのはリョウブ、ニシキギ、ドウダンツツジ・・・。

結論。今が見頃かどうかと聞かれれば・・・、

「樹種によります。」ということになる。

前半戦。

前半戦と言うのが適切ではないかと思う。
紅葉シーズン前半戦のダムサイトを歩いた。

広瀬湖
四阿
紅葉はまだ前半戦。
芝生広場を上から。

道の駅みとみ

午前10時半、車を走らせてやってきたのは「道の駅みとみ」。
建物はアーチ型のダイナミックな屋根に覆われた比較的大型の道の駅だ。
そのダイナミックな屋根の上はるか向こうには、木賊山(とくさやま標高2468メートル)と鶏冠山(とさかやま標高2115メートル)が見える。

車を降りて建物に向かう観光客はその美しき山体に目を奪われ、みな一様にスマートフォンを取り出しては写真を撮る。
自身もご多分に漏れず、やはりスマートフォンを山に向けて、道の駅の建物ともども写真に収めた。

そしてトイレを利用させてもらったのち、入渓前の腹ごしらえ。
建物の店先にある看板からメニューを選んでいると、あっちの看板とこっちの看板で書かれているメニューの内容に違いがあることに気がついた。

なんと!この道の駅には2軒の食堂があるようだ。今だかつてこのような道の駅は記憶にないと思う。
2軒分の豊富なメニューの中から吟味させてもらって選んだのは「富士桜ポークカツ定食」。

食味はカツ本体、もちろんこの上なく美味かったのだが、嬉しいことに青ぶどうが付いてきた。皮までまるごと食べられたこの青ぶどうはいわゆるシャインマスカットなのではないかと思われるところ、その美味さには感動した。

果物王国、山梨県にて偶然にもたらされたラッキー。さい先がよい。

道の駅みとみ
富士桜ポークカツ定食
道の駅内
ジャンボかぼちゃが並んでいた。
さすがは果物王国。

西沢渓谷・市営駐車場へ

食後は道の駅の食堂以外の部分、観光情報コーナーや土産物店などを散策。
そして正午に道の駅を出発。

車を走らせて5分とかからない距離で、西沢渓谷・市営駐車場に到着。

本日はこの西沢渓谷・市営駐車場より歩きをスタートし、まずは散策路にしたがって行く予定。入渓は途中にあらわれる笛吹川支流の「ヌク沢」から。そしてヌク沢から笛吹川合流点に移ったのち、笛吹川を北西方向に遡行。西沢と東沢の出合にて西沢側に進路をとり、直後にあらわれる堤体に入るというのが予定のコースだ。

堤体の方位については前述の通り、西南西。午前中より入渓せず午後まで待ったのはこのため。

また、ヌク沢到着までの散策路の歩行については、距離が比較的長いためスニーカーを使用する。ウエーダーの着用についてはヌク沢からとなるため、現地までは背負子にウエーダーを搭載し、持ち運ぶこととした。

西沢渓谷・市営駐車場

堤体前へ

午後12時30分、西沢渓谷・市営駐車場を出発。
ドライブイン不動小屋の前を通過し、国道140号線西沢大橋の巨大な鉄橋をくぐり抜ける。
鉄橋の下を過ぎてもなお日陰気味でまあまあ暗いのは、散策路を覆いこむようにして生える樹木類のおかげ。

イヌブナやホソエカエデ、サワグルミなどは寒さに強いから当たり前に思えるが、静岡県でも見慣れているヤマハンノキやトチノキなどもまだぜんぜん青々としている。

暑すぎず、寒すぎず。

これだけ樹木の葉がしっかりと残っていて、暗がりを作れるポテンシャルを持っているのならば、堤体前は演奏施設として最高の環境であるはずだ。また、それだけにとどまらず、緑に覆われた散策路をこうして歩き、堤体前まで向かうこのひとときもまた、じつに心地良い。

散策路のみどころの一つである「なれいの滝」を眺望する「なれい沢橋」も過ぎると大嶽山那賀都神社まえの分岐。立派な公衆トイレも設置されているこの分岐を直進すれば、ようやくヌク沢に到着することが出来る。

散策路の隅っこに背負子を降ろし、くくり付けていたウエーダーを外して、スニーカーから履き替える。
逆にいままで履いていたスニーカーを今度は背負子にくくり付け、ふたたび担ぎなおす。

いよいよヌク沢に向かって降りる。高低差はおよそ20メートルといったところか?
沢に向かって高度を下げる踏み跡がしっかり付いているのは、ヌク沢にある2基の谷止工のためとおもわれる。見るため、あるいは写真撮影のため沢へ降りる人がいるらしく、はっきりとした踏み跡が付いている。

踏み跡にしたがったおかげもあり、たやすくヌク沢まで降りることが出来た。やはり谷止工を写真撮影したのち、笛吹川との合流点に向かう。笛吹川の合流点へは目と鼻の先の距離ほどしかないため、こちらもすぐに降り立つことができた。

笛吹川に出てからは、川の流路形状にしたがっておおよそ北西方向にすすむ。平均して大玉スイカくらいの石がゴロゴロしている中を転ばないように注意しながら進み、東沢、西沢の出合にて西沢を選択。そして出合より100メートルもないくらいの距離を進むとようやく目的の堤体前に出ることができた。

樹木の下を歩いて行くのが気持ちいい。
サワグルミ
イヌブナ
ヌク沢の谷止工
こちらは東沢の堤体と二俣吊橋。
笛吹川。(ヌク沢との出合付近。)
思わず立ち止まる。木はナナカマド。
目的の堤体へ(堤体名不明。)

記憶に思っていたそれより・・・、

腕時計に目をやると時刻は午後の2時。予定では市営駐車場より30~40分の行程にて堤体前着で、1時ちょうどから1時10分ころにはこの場に立っている算段であった。
しかしながら行程途中の道くさ(多くは植物の観察。)に時間を費やしてしまい、到着が遅れてしまった。

本日えらんだのは、おおよそ真西方向を向く堤体であるから、通常午後の2時くらいでもぜんぜん遅すぎることは無いはずである。しかしながら、記憶に思っていたそれよりも全然違う景色が目の前には広がっており、堤体の上、遠く向こうの山の山体は右岸側に向かって大きくせり出している。

北半球に位置する日本という国では、通常(通常という言い方も変かもしれないが?)、太陽は左から右に向かって放物線を描くように移動する。そのことを理解した上でいよいよ落ち着き持っていられなくなっているのは、放物線が正午を過ぎているため下降の動きに入っていて、今にもせり出した山の山体に吸い込まれてしまいそうな状態だからだ。

太陽の直射日光が失われてしまってはもはや粗鹵迂遠。

いや、例えるならばもうすっかり冷めてしまったタコ焼きを売る屋台の惰性的営業に近い。
声を掛ければそれなりにお客を楽しませてくれるかもしれないが、扱っている商品の品質から見れば、やはりそこは“それなり”のものを受けて終止する。店主のせっかくの楽しいトークも商品によるマイナスが大きく、全体的には残念ながら評価が下がってしまうということになる。

急いでメガホンをセットし声を入れてみる。

鳴らない。

立ち位置の選択性が高く、前にうしろに声を出す場所を変更することが出来る。うしろに下がれば、堤体まで声が届きにくくなる。逆に前に出れば、声のはね返るスピードに耳が追いつかず響きとして声を聞くことが出来なくなる。

うしろに下がったり、前に出てみたり・・・。立ち位置を変えてみては声を入れていくも、芳しい結果が得られない。

時間が無い。(午後2時撮影。)
冬至をおよそ2ヵ月後に控え、太陽の高度が下がり気味なのも要因。(日没が早い。)
放水路天端
もはや吸い込まれる寸前。(午後2時50分撮影。)

堤体の持つ生命感

その後も立ち位置の変更、メガホンパーツの変更、メガホンの持つ向きの変更などいろいろやってみたが、これといってはっきりとした響きを得られることは出来なかった。

仮説にしかならないが、もう少し水が落ち着いてくれれば落水のノイズと声とのバランスが良くなり、歌い手自身、負けず劣らずの感覚のなかで声を発していくことが出来るのではないかと思う。

あとは堤体前における風。この日はほぼ無風という条件の中でやったが、これが前から後ろからもっとビュービュー吹いて、堤体本体、またその向こうの景色の奥先まで声を送り届けてくれたなら、もっと違う結果があったのではないかと思う。

逆に良かった点を上げるならば、山の山体に太陽が吸い込まれるまでの間、堤体を湛水する水に太陽の光があたって光る様子を見て楽しむことが出来た。

太陽の光があたるところ。

逆に影になって暗いところ。

両者の明暗の差を歌い手がひとつの視野の中に取り込むことで、堤体の持つ生命感のようなものを感じとることが出来た。(おいしい思いは出来なかったが、タコ焼き屋のイイ香りを嗅ぐくらいまでだったらなんとか出来たと思う。)

山の山体に太陽が吸い込まれていったのは午後2時55分頃のこと。それまでは響かないながらも声を入れていくという行為を試みて、以降1時間ほどはメガホンを置き、堤体周辺の渓畔林の様子を見てまわった。堤体前をあとにしたのは午後4時前のことであった。

~90ヤードで、河床もほぼフラット。立ち位置の選択性が高い。
午後2時12分撮影。
午後2時52分撮影。
退渓時に撮影。リベンジを誓ったのは言うまでも無い。

福井県小浜市・大飯郡おおい町

今回は福井県小浜市・大飯郡おおい町でのエピソード

9月2日午前10時半、まずは小浜港川崎の岸壁へ。

遊覧船の乗船券はさきほど購入したばかりだ。午前9時半の始発便はすでに出港済みということで第2便の11時発の船を待つあいだ船の写真を撮ったり、岸壁で釣り糸を垂れる人の様子をうかがうことにした。

木で出来た自作であろう竿掛けに乗る長さ5メートルほどの磯竿と大型のスピニングリール。道具は随分と年季がが入ったものだ。そこから深い緑色の海に向かって垂直に消えていく釣り糸。何を狙っているのであろうか?

となりの人と談笑しながら竿先を見つめる釣り人。

Tシャツにサンダルという出立ちで、その人のものかは不明だが背後には1台のママチャリが置かれている。

岸壁は遊覧船乗り場の桟橋近く。

船への乗船を待つ観光客。釣り人。1台のママチャリ。

ともに一つの港の風景として同居する。

ふと、桟橋のほうを見ると乗客が船に乗り始めていた。鞄から乗船券を出し、入り口ゲートにて提示する。

桟橋を経て船に乗り込んだ。

いざ、出港!

ビュービュー

遊覧船は定刻通り午前11時に出港した。

船は座席数42席。総トン数19トン。航海速力は24ノット(時速約44キロ)。高速船だ。

船酔いはしない自信があったが、ブリッジからの立ち見を選択。揺れは座席室よりも大きくなるが、風をさえぎる遮蔽物が無いため船酔いしやすいかどうかということに関して言えばこちらはデメリットばかりでない。

なんて思っていられたのは出航前でのこと。

風が強すぎた。

船が航走することによって生じる風に、とてつもない風圧を受ける。おそらくは小さな子どもや年寄りなどは立っていられないほどの強い風だ。軽くて小さな持ち物(スマートフォン)などはとくに注意が必要。誤ってその手を離れた折りには、ブリッジ上には残っておらず海に向かってダイブするであろう。

船は小浜湾北部に突き出た岬に向かって航走。

というより爆走!(感覚的には。)

ビュービューと風を受けながら、船が切り裂く海水の曳き波を見ながら、たしかにこれは非日常のアトラクションだと思いながら、手すりに掴まりつつ耐え続けた。

小一時間。船はようやく岩場付近に到着し、ドリフト(漂泊)をはじめた。

景色は断崖絶壁の岩壁。波の浸食作用によって出来たというその岩壁は雄大で、のみならずその上を彩る風衝樹形の木々も見事である。

断崖絶壁の岩壁と風衝樹形の木々をセットで楽しむ。

ややあって、船は再び前進をはじめる。そして次の名所が近づくと再びドリフトに切り替え,、鑑賞する間が与えられる。

船は航行とドリフトをくり返しながら進んだ。

途中、「蘇洞門」では近くの桟橋に着岸。乗客全員が桟橋に降り、おもいおもい写真撮影などに興じた。

その後は再び乗客を収容し、桟橋を出発。正午に小浜港へと戻った。

小浜市内。画像左寄りのグレーの建物が小浜市役所。
これも小浜市内。こうのとり大橋が見える。
巨大な岩壁を多数見ることが出来る。
蘇洞門近くでは桟橋より上陸させてもらえる。

南川を上流部へ

小浜港に帰港してからは周辺を散策。昼食は遊覧船乗り場反対側にある市場の食堂で摂った。昼食後は本日入渓する予定の河川をチェックするため「大手橋」へ移動。

大手橋から南川の様子をうかがう。

異常なし。

その後は、小浜郵便局、雲城水(名水百選)、台場浜公園などを散策したのち車に乗り込んだ。

午後2時、国道162号線に乗って南川上流部を目指す。途中、「名田庄大橋」にて自治体名は大飯郡おおい町へ。なおも南川に沿って進み続けると、午後3時に「道の駅名田庄」に到着。

五右衛門は「若狭小浜お魚センター」内にある。
五右衛門の刺身定食
大手橋と南川。大手橋は工事中であった。
小浜郵便局(名水百選の雲城水はこの建物のすぐ横にある。)
道の駅名田庄
へへっ。

湖畔好きには・・・、

道の駅名田庄ではトイレと休憩を挟んだのち午後4時に再出発。

ここから先は南川第1堰堤、野鹿谷堰堤、野鹿の滝、頭巾山登山口とつづく。

まずは10分ほど走って南川第1堰堤。この堤体は水通しの穴が無く、水をかなり貯めている。当日は放水路天端ギリギリの高さまで水が貯まっていて、その不思議をネットで調べたら小水力発電装置併設ということであった。

実質的に貯水ダムとして機能する堰堤を境に上流部は見わたす限り水面で、深さに関しても午前中に小浜港の岸壁から見たそれと全く変わらないほどの深い緑。何といっても貯水池独特の静まりかえった雰囲気が秀逸であった。

堤体本体より林道を奥に200メートルほど進めば、駐車場が設けられているため静かな湖畔の雰囲気を楽しみたい人はこのあたりで過ごすのが良いであろう。

道の駅名田庄からは県道771号線を使う。
南川第1堰堤(画像左端、白く突き出たコンクリート中に水力発電の配管が走る。)
南川第1堰堤。水表側。

渓流好きには

もっとガラガラに鳴る、渓流区間に触れたいならば林道をさらに進む。南川第1堰堤より1キロほど進んだ先にある分岐を左折。

野鹿谷に沿って10分ほど走れば野鹿の滝入り口看板前。それより5分手前には今回の目的地である野鹿谷堰堤を見ることが出来る。

入渓点は堤体本体より林道をさらに200メートルほど下がったあたり。ちょうど林道が野鹿谷に向かって大きく突き出たあたりで、カーブミラーが1本立っている。

車はそのカーブミラー付近の道幅の広くなったところに置いた。

時刻は午後5時15分。入渓の準備を済ませ、川に立ち入る。

林道をさらに奥へ。
野鹿の滝
入渓点となるカーブミラー

川の水量、渓畔林、渓相などは事前に林道から確認済みである。川石やデコボコしたナメに苔が乗っているのは、この渓が比較的洪水時でも安定している証拠であろう。涵養機能の高い山からの水ということだ。

入渓点からものの5分程度歩いて、堤体本体を確認。さらに5分ほど歩いて堤体前に到着。

堤体は、主堤、副堤の二段構え。

渓畔林はケヤキを中心に、イタヤカエデ類、チドリノキ、シラキ、イロハモミジなど。堤体により近いところのケヤキにはフジがよく絡んでいて、左岸側、右岸側の隔たりを繋げるようにしてビロ~ンと蔓を伸ばしている。

入渓点近くにて。
堤体が見えた!(画像右上。)
堤体が見えてからも焦らず進む。
堤体前に到着。

空白地帯

堤体前の立ち位置は左岸側に立った。ただし、その左岸側。とはいっても、正面目の前にはかなり右岸側寄りになった堤体本体の姿がある。

川が幾分カーブしているため、必然的に限定された立ち位置であるが、幸いにも堤長の直線より直角の交点延長線上には立てている。

距離的にはおよそ41ヤードほどの位置に立つことが出来た。

早速、自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

立ち位置のすぐ左岸側には壁状と言うまでに切り立った斜面がある。ここは無理をせず、正面、またそれより右岸側に向かって声を入れていく。

右岸側の視界の先にはスギの高い木が数本、堤体完成後に自然に生えてきたであろうケヤキ、ゴロゴロと無造作に放置された捨て石、その捨て石には何十年分ものあいだスギの枯れ葉が降り積もり、その隙間をぬってシダがガシャガシャと生えている。

ゴミの投棄などは無く(ナイス!)、しかしながら美しく整備されたとは言い難いこの右岸側のちょっと高くなったところに声を入れていくとよく響いていることがわかる。

空気の動きで言えば、ほぼ無風という条件下、なぜこれほどまでに良い結果が得られているかと疑問を呈せば、その答えは堤体前に広がるノイズの空白地帯にあるような気がする。

主堤より水叩きに向かって落ちる水。水叩きより副堤の天端上を通過し、天然の石組みに向かって落ちる水。

なんとこの堤体前周辺で聞くノイズの発生源はこの2ヵ所に絞られている。そこから下流を見れば、ちょっと深めの淵があり、それが徐々に浅くなって細いヒラキになる。

この淵+ヒラキの区間がおよそ35ヤード。重要なのはその区間に大きな石などが入って段差が出来ていないこと。段差が出来ればその場所に落水が発生し、たちまちノイズの発生源となってしまう。

上方より水中を見渡せば、渓魚の好きそうな水のヨレは確認できるが、それはそれは大層静か~にヨレている。

歌い手としては前述の2ヵ所のノイズを敵として戦えばよい状況にあり、渓畔林のもたらす反響板効果を使えば、水量豊富な落水相手でもしっかりと響きを作り出すことが出来る。

南西向きの堤体は午後型。
当日、風はほとんど吹かなかった。
距離は41.4ヤード。
遮られながらもチラリと見えるのがまた良い。
左岸側
右岸側。見ためは悪くも響きは良い。
この空白地帯が効いた!

退渓

結局この日は午後6時半まで夕方ゲームということで歌を楽しんだ。

水量豊富な落水相手のゲームであったが、当地に偶然もたらされた自然環境の中で、偶然にも良い形で響き作りをさせてもらえ、大満足の結果となった。

歌える堤体さがしをしていく中でノイズの大小はあまり気にするべきでは無いということを再確認した旅であった。

どんな堤体でもまずは歌ってみるという基本を忘れず、また次の堤体に挑んでいきたい。

ノイズの大小はあまり気にするべきでは無い。

シェアサイクルを発見した話

今回は山梨県南巨摩郡南部町でのエピソード

日々、砂防ダムはじめ堤体類にでかけ歌うことをライフワークとしているが、この行為のメリットとして電気も水道も使わないということが上げられるとおもう。

登山やキャンプといった他のアウトドアレジャーがそうであるように、砂防ダムの音楽というはかなり環境に対する負荷が少ない遊びであると言えるのではないか?

山、森林、渓流といった再生可能エネルギーに囲まれる環境の中で遊ぶことによって失われるものはほとんど無い。ゆいいつ問題があるとすれば「堤体前」と呼んでいる演奏場所までの道のりにおいて、なんらかの内燃機関を利用していることだ。

内燃機関を利用する。つまり、自動車をはじめとした移動手段を用いることによって枯渇性のエネルギーを使ってしまっている。

堤体前に立って歌うことそのものには環境負荷が認められないのに、そこにたどり着くまでの行程において、環境負荷の生じるようなことを行ってしまっているということだ。

より完璧に近いものを考える時、そういった部分まで排除できればさらに理想型なのではないか?

今回は、そんな環境負荷の理想型を求めるプレイヤーのための可能性として、山梨県南巨摩(みなみこま)郡南部町でのエピソードを紹介しようとおもう。

JR身延線内船駅

辛抱たまらず

スタート地点はJR身延線内船(うつぶな)駅まえ。

8月5日、時刻は午後2時。

非常によく晴れている。

夏の直射日光がチリチリ照り付けていて、どうしようもない暑さだ。と、

鳴きまくるセミ。
暑さにさらに追い打ちをかける。

内船駅の駅舎とは反対側、東のほうにはすぐ山が控えていて見事なみどりを見せる山体もセミの鳴き声がすごい。

多くはミンミンゼミとアブラゼミ。

肌に照りつける太陽光線のみならず、耳から射してくる聴覚刺激に辛抱たまらず駅舎に逃げ込んだ。

内船駅駅舎内

無人駅にて

駅は無人駅だ。一日の利用客数は129人ほどだという。(2018年データ。乗車人員のみ。Wikipediaより。)

切符も買わずに避暑目的でウロつくのも気が悪く、待合室内の自動販売機にてスポーツドリンクを買い、堪らず一気に流し込む。

クーラー・・・、など付いているはずもない小さな待合室のおかげで強い日差しからは逃れることが出来たが、依然として暑い。
換気用に開放された待合室の窓からはこれまたセミの鳴き声が襲ってきていて、窓辺にて絶賛監視作業中の女郎蜘蛛にあいつらをなんとかしてくれと懇願する。

本日は南俣川に夕方ゲームで入る予定で到着したが、ちょっと早すぎたか?

時刻はまだ午後2時すぎ。

近くを流れる富士川土手まで行き、河原を流れる風に当たりに行くことにした。

内船駅のホーム

ほぼ駅前

内船駅駅舎を出て5分ほど歩く。すると富士川の土手に到着。同時には土手に隣り合うかたちで建つ温泉施設を発見した。
施設の名は「森のなかの温泉 なんぶの湯」という。どうやら日帰り温泉施設のようだ。

これはこれは災い転じて何とやら。本日の退渓後のお楽しみはここにすることにしよう。

調べてみると、営業は午後9時まで行っている様子。地元民の利用も考え(地元民は地元民料金で。)結構おそくまでやっているようである。

ほほう。

と、ここで不意に駐車場内に設置された駐輪場に目がいった。普通の駐輪場とは異なった、ちょっと変わった雰囲気に気づいてすかさず歩み寄る。

水色のストレートハンドルの付いた24インチほどの自転車が3台。さらに同径クラスでママチャリが1台。全て電動アシスト式の自転車だ。

これらのすぐ横に設置された看板によれば、置いてあるのはシェアサイクル用に用意された自転車で、ネットで申し込みをすれば24時間いつでも利用可能ということである。

おぉ。

こちらは砂防ダム訪問きっかけでこの場所に来た。本日ここから入る南俣川の入渓点までは、距離的に10キロとかからないはずである。(計測した結果、5.5キロだった。)駅から徒歩で5分程度、つまりほぼ駅前という立地条件にて自転車が借りられるとなれば、これは完全に自家用車不使用というかたちでゲーム展開することも可能なのではないか?!

今回、図らずもほぼ駅前出発のシェアサイクルを発見することが出来た。

どうしようか?

考えた。

今日ここから、このシェアサイクルに乗って入渓点まで行き、ゲームを楽しんできてまたこの場所に帰ってくる。

もしくは、

事前に計画していたとおり、自家用車にて移動を全てやってしまうというやり方。

う~ん・・・。

後者。

目の前には森のなかの温泉とやらがある。建物の入り口には「なんぶの湯」と書かれたのれん。のれんは「おいでよ!おいでよ!」と風に靡きながらこちらに囁いている。

どうしようか?

のれんが言うなら・・・、仕方ない。

午後9時の閉館時刻に間に合わなくなってしまってはのれんに申し訳が立たないため、ここはひとつ自家用車での移動を選択することとした。

のれんよ!また後で会うこととしよう。

森のなかの温泉なんぶの湯 駐車場

西俣川堰堤

というわけで、のれんがしゃべるなどということがあろうはずも無く、正直いって温泉の魅力に負けた。

自転車利用での完全自家用車不使用におけるゲームは、また日を改めてレポートすることとしたい。

この後はなんぶの湯の駐車場を出て富士川の土手、南部橋などを散策。戸栗川(今回入渓する南俣川の下流部の呼称)は富士川との合流点よりチェック。さらに今月15日に行われるという「南部の火祭り」の準備の様子を見たあと車に乗り込んだ。時刻は午後4時。まずは再びなんぶの湯まえの駐車場へ。

自家用車のトリップメーターを0にして出発。前述の通り、5.5キロほど走って、午後4時半に入渓点より少し上流にある鍋島橋に到着。

鍋島橋に来たのは、この周辺道幅の広くなったところが駐車スペースであるということと、鍋島橋の橋上から※西俣川堰堤をのぞむことが出来るからである。

ちなみにこの日は土曜日。

西俣川堰堤下流の堆積地にはリクライニングチェアーを広げた夕涼みの一団が陣取っていた。
じつはこの西俣川堰堤と鍋島橋、ここからわずか500メートル圏内には「十枚荘温泉」「山下荘」の二軒の宿泊施設がある。

察するに、夕涼みをしていたのはその宿泊施設のお客のようで、夕食時間か?午後5時前になるときれいさっぱりリクライニングチェアーを畳み、そそくさと撤収していった。

ふぅ。

こちらはようやくといった感じで、その西俣川堰堤にレンズを向けたく退去するのを待っていた。

無事、歴史的河川構造物と言っても過言では無い巨体をデジカメで収録。それではと、入渓の準備に取りかかる。

※西俣川堰堤について、
(堰堤高17.0メートル、堰堤長41.04メートル、堰堤型式アーチ式、天端処理工法 張石工、工事年月日 昭和26年7月~昭和29年3月 山海堂刊 砂防ダム大鑑より。)

富士川土手から南部橋をのぞむ。
富士川と戸栗川の合流点
8月15日は南部の火祭り
西俣川堰堤。鍋島橋から。
西俣川堰堤。別角度から。
アーチ式の堰堤だ。
入渓点。画像右端(鍋島橋)から下が西俣川、中央左寄りが南俣川

浸かる。

入渓点は鍋島橋下流の西俣川と南俣川の出合。時刻は午後5時15分。入渓する。

依然として暑い。

上着には接触冷感タイプの長袖を着ているが、それでも蒸すような暑さがまとわりつく。
入渓して間もなく、ちょっと深くなった淵を見つけて膝上まで浸かる。
ウエーダー越しに川水による冷却をする。

このとき測って気温は26度ほど。だいぶ下がってきている。しかしながら、渓に転がる石の上を歩いて遡行していると、再び暑さに襲われてしまい、都度タイミングを図ってはちょっと深めの淵に逃げ込む。

いやいや、きびしいな。

歌うときの環境として暑さは大敵である。避暑目的で夕方ゲームを計画したところ、まだまだ暑いというのであればこれでも設定時刻が早いのか?疑問が湧いてくる。

う~ん・・・。

ふと、上を意識して聞いてみる。

ヒグラシだ。アブラゼミも鳴いている。

鳴くセミの変化に少しホッとする。肌に感じる暑さにはまだまだ苦しめられたが、聴覚的には確実に“下降”を伝える温度センサーの知らせがあった。

勇気づけられ遡行をつづける。

堤体前には午後5時半に到着。

暑さがまとわりつくなか遡行する。
吊橋をくぐって進む。
熱が溜まってきたら川水に浸かって冷やす。
堤体(堤体名不明)に到着。

まとわりつきながら

水はきれいに降りていた。

放水路天端全体からとはいかないものの、左岸側に片寄るかたちで堤体水裏にまとわりつきながらサラサラと水叩きに向かって降りている。

ここ1~2週間ぐらいは静岡県はほとんど目立って雨の降る日が無かった晴天つづき。こちら山梨県はどうであったか?でもやはりこの様子から察するに、あまりこちらも降らなかったのではないかという推察。

降りる水はもちろん自然の厳しさを含んでいるが、この荒々しさのほとんど無い甘い柔和な水叩きへのダイブは音楽の演奏環境としてかなり理想的だ。

堤体水裏を湛水で降りる水は泡をまとっていてそれらが光を反射する。夕刻という時間も合ってそれらの光の反射は強すぎることがない。適度というレベルの範囲だ。

そして光に対して影の部分。堤体本体は経年により黒ずみ、両岸には針葉樹主体のそり立つ渓畔林。堤体本体の向こうにも高い斜壁の針葉樹林が見える。全体的にはサイド方向にも向こう側にも針葉樹の森が控えることによって、歌い手の立ち位置を取り囲むようにして影の部分が形成されている。

さらに影の部分からは、ノイズが供給される。堤体本体を降りる水から供給。そこから今度は水平方向には石を叩く水の音。渓畔林にはヒグラシがいて、アブラゼミがいて、こちらもノイズを供給。

ノイズ環境のど真ん中に置かれた歌い手はこれらの音を聞き、圧迫を受け、歌をうたおうというやる気をくすぐられる。

堤体前には長いヒラキがある。
そのため立ち位置はこのぐらいまで設定可能。
当日は60ヤード付近に立った。
セミの鳴く渓畔林。

危うく別世界に・・・、

結局この日は夕刻の時間、午後7時まで堤体前で歌を楽しんだ。

堤体前を取り囲む影の部分によってできる「黒」に、空色もそれに反射する川の水色もみんな時間の経過とともに徐々に近づいていき、やがてはその境目がわからなくなるほどまでに暗くなった。

それでも依然としてノイズを供給しつづける水の音、セミたちの声。
まだまだ歌は楽しめそうだ。
しかし、今日はこれから温泉が待っている。

ふと我に返った。

危ない危ない、あまりにも理想的な堤体前環境に心酔してしまい、帰れなくなるところだった。

最後に一曲、本当に本当に短い曲を歌ってから撤収の準備をはじめる。

この頃になると、あんなにも肌に服にまとわりついていた夏の暑さはいつの間にか無くなっていた。あるのは、夕刻の涼しさ、最後うたいきった充実感、依然として我の気持ちを誘惑し続ける堤体前空間のノイズ。

気持ちを強く持って帰るという決心。下流に向かって歩みはじめた。

退渓の歩きでは淵に浸かったりすることもなく帰ってくることが出来た。

天端が割れたりすること無くカドがきれいなこともポイント高し。
南東向きの堤体は本来ならば午前型。
しかし頭上がこれでは(真夏の)午前中には入れない。
実際に声を出しながら立ち位置を決めていく。
風は無くとも響きは良かった。
よーし、今日はあの枯木に向かって歌おう!
危うく別世界に連れていかれるところだった?!

尾鷲の空〈2日目〉

熊野古道関連のパンフレット

2日目は前日に見つけていた堤体に入ることに。
場所は真砂川にかかる「真砂大橋」より上流にある堤体だ。

まずは、いきなり現地に入る前にちょっと寄り道。
前日の夜に行った「みえ尾鷲海洋深層水のお風呂・夢古堂の湯」にて、たまたま手にしたパンフレットに「熊野古道」のことが書かれており、その熊野古道が真砂川に比較的近いルートをたどっていることが分かったため、一部をすこし覘いてみることにした。

午前8時20分、熊野古道巡礼者用の目印として建立されたという石碑の前からスタート。

尾鷲三田火力発電所の石油タンク跡を横目に見つつ、山道を進む。

500メートルほど進んで車を降りる。そして、見つけた石碑。

こちらは熊野古道遭難者の供養碑だという。

供養碑の前からは山道(車両では入っていくことが出来ない。)が始まっておりハイカー向けの案内板が設置されている。

案内板には先ほどのスタート地点から八鬼山峠(627メートル)を越えて、三木里湾沿岸道路に至るまでを「八鬼山道」として紹介。また、この八鬼山道について西国第一の難所として紹介しているあたりは昨日手にしたパンフレットとの共通項で、山越えにかかる所要時間を総合計すれば4時間20分にもなるという。

眼前にあるものは決して簡単なレジャーフィールドでは無いということを説明する案内板。
その精神は自身がこれから行う渓行にも徹底させる必要があると感じた。
観光インフラに近いところで不穏な伝説を作ってしまうことは絶対にあってはならない。

安全渓行祈願の意で合掌し、ふたたび車に乗り込んだ。

供養碑まえのようす
熊野古道の一部「八鬼山道」
真砂川に沿ってすすむ。(画像左端)
クサギの良い香りが漂っていた。
八鬼山トンネル

もうひとつの堤体

入渓点へ向かう。入渓点となる真砂大橋付近に行くためには供養碑の前から道なりに進めばよい。

8時50分、入渓点近くに到着。車を降りて入渓の準備を済ませる。

午前9時、真砂大橋南詰めの八鬼山トンネル入り口前より真砂川に入渓する。するとこの入渓点がいきなりの堤体前。
昨日の時点でも、そして先ほどまでの時点でも、あまりよく把握できていなかった深い藪のすぐ先には、目的とする堤体が目と鼻の先の距離にあったのだ。

堤高はおよそ4~5メートルほど。昨日見たとおり湛水していて、放水路天端より横一列いっせいに落ちている。水量的には多すぎず少なすぎずといったところで、堤体水裏に水が張り付いていられる程度、白泡をコロコロ転がしながらややゆったりとしたスピードにて落水している。

この一基に決めてしまってもよい。

しかし、ひとつ気になったことがある。(後述。)

ここはひとまずキープということにして、もう一つ上流側の堤体も見てみることにした。もう一つ上流側の堤体については、グーグルマップの航空写真にて確認済みであった。

上空からの写真で捉えられるほど渓畔林に乏しい堤体ではあるが、とにもかくにもまずは見てみようということで下流側の堤体を巻き、上流側の堤体前に。

下流側の堤体

どちらにするか迷う

午前9時半、上流側の堤体前へ。堤高は下流側の堤体とほぼ同規模。方位は169度で全く同じとした。二基の堤体は平行になるように設計されたようだ。

湛水する水の量はややこちらの方が少なめで、下流側の堤体にあったコロコロと転がるような白泡が見られない。流下する水の何割かは堤体基礎部分よりさらに低いところから伏流して抜けているのだろう。

ほか、演奏施設としての評価はつぎの通り。

①鳥瞰図上、放水路天端長さ中央より直角線上に立ち位置が確保できる。

②堤体前にキンボール大の転石が転がっており、水はその間を縫って流下している。またそれらを流下していく時に小さな落ち込みが出来、その一つ一つよりノイズが発生している。

③立ち位置、またその付近頭上には覆いかぶさるような渓畔林の枝葉を見ることは出来ない。したがって、ガラ空きになった川の中央付近の上空は(ゲームの設定時間である)午前11時頃になれば、ほぼ真上から直射日光を浴びることが予想される。

①はポジティブな内容。②③はネガティブな内容。

ひざ上程度の深さの淵に浸かり、暑さをしのぎながらしばし考えた。

上流側、下流側、どちらの堤体に入るか?

午前10時半、下流側の堤体前に戻ることに決め移動。足元に注意しながら進み、下流側の堤体前に戻ってくることが出来た。

上流側の堤体。日除けになるものが何も無い。
しかし堤体との距離はしっかり確保できる。
堤体水裏をごく薄く覆う程度の湛水
淵に浸かって暑さをしのぐ。

ななめ方向から

午前10時50分、自作メガホンをセットし声を入れてみる。

予想通りの響きの悪さ。前項の①に示した「鳥瞰図上、放水路天端長さ中央より直角線上に立ち位置が確保できる。」が出来ていないのが原因と思われる。

端的に言えば、堤体に対してななめ方向から声を入れているということ。経験上これが本当に響かない立ち位置の設定方法。

逆に堤体に対して真正面に立つことを必須とするなら、およそ30ヤードという距離にてじつはこれを実践することが出来る。しかし今度は真正面に立てているものの、堤体との距離が近すぎて、歌い手自身の耳で響きをうまく聞き取ることが出来なくなってしまう。

前述のひとつ気になったこと。とはこのこと。

残念ながら、このような立地条件において響き作りをすることはかなり困難なことなのである。

数値的には良いのだけれど残念!斜め方向から計測した値。
真正面から計るとこれくらいが限界。
上流側の堤体、下流側の堤体それぞれの鳥瞰図
立ち位置が護岸工によって制限されてしまった。

感謝!

堤体前で午後1時頃まで過ごした。

その間ゆいいつ良かったことといえば、堤体前にて渓畔林の木陰の下に入り、真夏の太陽の下でも快適に過ごせたことであろう。

今日の尾鷲の空は、前日と打って変わって見事な快晴となった。その中で、渓畔林の木陰の下に入り、まずは快適に過ごすことが出来たということについて一定程度評価することはできると思う。

日々、歌える堤体探しのようなことをやっているが、まず意識するのはとにかくプレーヤー自身が気持ちよく歌える環境を見つけ出すことである。

歌い手を真夏に直射日光が照らすような堤体前をどう評価するのか?

たとえ響き作りに有利な環境であったとしても、やはり音楽そのものを楽しめないようであっては演奏施設として本末転倒であると思う。

プレーヤーが心から歌にのめり込むような堤体前。

そんな場所を見つけたくて、次の堤体探しにまた出掛けるだろう。

2日間にわたり私に学びを与えてくれた三重県尾鷲市の自然に感謝し、本エピソードの結びとしたい。

風速計
2日目は一転して快晴に。
ウツギにクズ。だけれど立派な木陰。
立ち位置から堤体の見え方
まずは、歌ってみる。
1日目、2日目、堤体の位置図

尾鷲の空〈1日目〉

今回は三重県尾鷲市へ。

7月22日午前7時、暑さで目が覚めた。場所は駐車場の車内。NEXCO中日本奥伊勢パーキングエリアだ。

尾鷲市までは残り40キロほど。あとちょっとの距離。

前日より前乗りを決め込んで高速道をひた走っていたが、同じ三重県内のゴール目前にて猛烈な睡魔に襲われてしまい仮眠をとっていたのだった。眠りに就いた時刻はたしか午前5時頃であったか?

トイレに立ち寄ったあとふたたび車に乗り込む。

まぁ、晴れるなら・・・、晴れるならいい日になるであろう・・・。

奥伊勢パーキングエリアを出て、紀勢自動車道を三瀬トンネル、船木トンネルと抜けていく。
午前7時50分に有料区間の最終地点「大紀本線料金所」を通過。駒トンネル、芦谷トンネルとつづく。

その後、紀勢荷坂トンネルを出る・・・。

!!!!

なんと突然の土砂降り雨!

おいおいおい・・・。

本日は新規開拓の地でのゲーム。新規開拓。なのにまさかの雨の日対応?!いや、なにも出来なくなるぞ最悪は。

今回、スケジュールとして用意できた日数は2日間。この2日間のなかで尾鷲市内でなんとかイイ感じの堤体を見つけ出し、歌って帰るというのが今回の新規開拓の旅での目標だ。

入れる堤体の数、自由度といった観点でいえば、天気は晴れ、もしくは曇りであってくれるほうが断然ありがたい。

行動範囲の可能性を小さくしてしまわないため、とにもかくにも空には穏やかであって欲しいというのが切なる願いだ。

急きょ雨降り画像を撮るために、紀北パーキングエリアに立ち寄る。すると、土砂降りだった雨が小雨に変わってくれた。

再出発し、残り4本のトンネルも抜ける。
自治体名はようやく北むろ郡紀北町→尾鷲市へ。直後の尾鷲北インターチェンジをおりて一般道へ。

暑さで目が覚めた。
おっ、今日は快晴か?
花を撮って余裕こいていたら・・・、
このあり様。

タグの折り目

まずは・・・、地図を買いに行こう。

今回は地図がまだ用意できていない。地理院地図2万5千分の1は、通常書店にて購入するものだが、これが購入できるのは一般的に入った店の県内分まで。静岡県住みの自身の場合、静岡県内を西から東まで全て在庫している書店だったら二重マルクラス。そこからさらに隣県である愛知、山梨、神奈川のいずれかが置いてあれば花マル。いや、宝石箱レベル!

店舗の場所によって購入できる地図の範囲が限られているというわけだ。

ちなみに、あらかじめ日本地図センターの通販サイトにて購入すれば、日本全国どこの地域のものでもおよそ1週間ほどで自宅に到着。

あらかじめ。そう、本来ならばあらかじめ・・・。

すべて完璧主義に済ませておきさえすればこのようなことにはならない。

―わたくしはねぇ、モリヤマくん、旅行前の準備じゃ下着に付いたタグの折り目の向きまできちんと管理しているのだよ。―

一度でいいからそんなことが言えるような几帳面な性格になってみたい。(ん?几帳面かどうかは関係ないって?)

尾鷲北インターチェンジ降りたところのモニュメント

地図を買う

ということで、ズボラが招いたのか?お呼ばれされたのか?午前9時、尾鷲市内の書店「川崎尚古堂」へ。

無事、「尾鷲」「引本浦」「賀田」の3枚の地図を購入。

店を出て、近くのコンビニの駐車場へ。

朝食を購入したあと、食事がてら、作戦がてら車内で過ごす。
地理院地図を読んでみて、尾鷲市内の地形に関する印象はつぎのとおり。①~③

①尾鷲市はひとつの自治体として主要な川が1本というより、細かい複数の川が紀伊半島東海岸熊野灘に向かって流れている。

②地図中に複数ある山のピークのうち最も高いのは高峰山の1045メートル。(さらに西側、奈良県県境に1150.5メートル、1131メートル、1077.1メートルのピークを確認。いずれも山名記載なし。こちらは補助的に利用した地理院地図電子版にて。)

③②の高峰山から至近の海岸線までは直線距離にして7キロメートルほど。山体はかなり切り立っていて、1045メートルのピークから一気に海まで流れ落ちるような川の流程。

川崎尚古堂

コンビニを出発

午前10時半、コンビニを出発し尾鷲市内中心部を流れる中川の上流へ向かう。すぐに「中川堰堤」を見つけることができた。また、この堤体は水通しから落水する透過型機能中の状態であることも確認。

いったん保留とし、次の堤体に向かう。

次に向かったのは尾鷲市街より南西側のエリア。国道42号線とほぼ並行する矢ノ川上流域に向かう。

午前11時15分、千仞橋(せんじんばし)北詰の林道入り口へ。残念ながらここでは「通行止」の看板。地理院地図によれば、この林道を進んだ先にひとつ堤体があるはずだが立入禁止の判定が下りた。

いったん登って来た坂を下りおり、こんどは矢ノ川支流の真砂川をチェック。国道311号線「真砂大橋」より上流側をみると、鬱蒼と生い茂る木々の葉の向こうに、湛水する堤体をかろうじて確認することが出来た。

この時、時刻は正午。空は曇天・・・、よりもさらに不安定で、いまにも雨が降りそうな状況。

地理院地図によれば、この堤体は真南よりもちょっと東に傾く方位。翌日のスケジュールも考えここはいったんキープすることにした。

いまにも雨が降りそうな空
矢ノ川
林道入り口にて通行止め
こちらは真砂川にかかる真砂大橋
藪の中に湛水する堤体を発見!(真砂大橋より)

タテヨコ方向

つぎに尾鷲市北部の川も見てみることに。

国道42号線を三重県総合庁舎尾鷲支所てまえで西進、国道425号線に乗り換えまずは上流部にあるクチスボダム・クチスボ貯水池に向かう。

ここまで尾鷲の山を実際見てみての感想であるが、地理院地図のとおり、やはり全体的に切り立っているなという印象。針葉樹の人工林で構成されるこんもりと盛り上がった山体は、伊豆半島、賀茂郡河津町の梨本とよく似ている。

これだけ縦方向に強い地形をしているならば、存在する堤体類もきっとタテヨコ方向ともに大きいものが現れてくれるだろうという期待感に自分自身安堵する。

反対に不安要素といえば、いまにも雨が降りそうな尾鷲の空。いや、正確にはもうすでにときおり雨がパラついている。雨はときおりパラパラ降っては止んだりのくり返し。

雨合羽を着るほどではないが、デジカメのレンズに付着した水滴をTシャツで拭いながら画像を撮りためていく。

午後2時半、クチスボダム・クチスボ貯水池に到着。発電用というダムの見学もそこそこにこのダムの水源となっているクチスボ谷の上流に向かう。

午後2時50分、クチスボ谷の奥地へ向かう林道の途中にて、本日二回目の立入禁止判定。これより奥にあるはずの堤体にはたどりつけず。
Uターンし、再びクチスボダムに戻ってきたのが午後3時10分。今度はクチスボダムのもうひとつの水源、又口川上流に向かう。

国道425号線をひた走る。
クチスボダム
クチスボ貯水池
クチスボ谷への入り口
立入禁止の看板

入渓へ

地理院地図のせきマークはまだいくつも確認できていた。又口川本流にもあるし、そこに流れ込む支沢にも谷止工をあらわした二重線が何個も描かれている。

これでは今日中にすべて回りきることは不可能だ。

掴み取りきれないほどの豊作が目の前にあることにようやく気づきつつ、止まること無く国道425号線をさらに奥地へ。又口川本流に描かれている堤体を目指した。

午後4時20分、目的の堤体近くに到着。すぐさま車を降りて入渓点さがし。生い茂る木々に阻まれ、渓まで降りるコースがうまくイメージできない。それに、国道からの直接的なアプローチは段差がきつすぎてかなり危険そうだ。
そこで、堤体下流側にある支沢からの入渓ではどうかと当該ヵ所を観察。

なんとか行けそうだ。

すぐに入渓の準備。ウエーダー、フローティングベスト、ヘルメットを装備。手には登山用のポールを1本握った。

おそるおそる支沢に入渓する。沢に転がる石はかなり安定している様子であったが、なるべくこれは踏まないように。登山用ポールを使いながらチョイスするコースはやや急斜面のスロープだ。

浮石かどうかもわからない石に己の全体重を任せるくらいだったら、やや急斜面の坂を降りていくほうがよっぽど安全だというのが持論。

なんとか支沢におりて橋をくぐり、支沢と又口川本流の出合へ。そこから少し遡ると堤体前に到着することが出来た。

国道425号線をさらに奥地へ。
入渓点とした支沢にかかる橋
橋をくぐって本流の出合へ向かう。

堤体は石積み堤

堤体は石積み堤。堤高は目測で4~5メートルくらい。湛水ではなく左右に設けられた水通しより落水する透過型機能中の堤体だ。

さきほどの入渓点さがしの時に、国道沿いに山積みになった土砂を確認している。これは供用開始時から水通しですべてを捌ききっているというわけでは無く、定期的に溜まった土砂を人の手で抜いているということだ。

歌に取りかかるまえの心情としてタイミングの悪さのようなものを感じていた。やっぱり砂防ダムというのは土砂が溜まって湛水していて、横一列高いところからガラガラ落ちている状態こそが一番美しいと感じているからだ。

土砂が抜かれる前にこの場所に来ることが出来ていたのならもっと良い状態の堤体に出会うことが出来ていたのにと、遠征先である当地にも関わらずただただそのタイミングを悔やんでいた。

又口川本流の堤体(堤体名不明)

まずは歌ってみる。

まずは歌ってみる。どんな堤体でも。

砂防ダム音楽家としての基本だ。

自作メガホンをセットし声を入れてみる。声が堤体の壁にはね返って鳴っているのがわかる。風は無風で自分の声をどこかに向かって送り届けてくれる様子ではないが、はっきりと響いているのがわかる。

そして声を壁打ち状態のようにして楽しめるのは、幾分ノイズが弱いということでもある。

横一列高いところから湛水で落ちていたならば、このようにはいかない。例えば高さ5メートル、横幅5メートルほどの落水に対して声を入れていくときには、かなりの分量、音が消失してしまう。具体的には、

①壁を伝っていく水(やわらかい物質)に対して声を入れていくこと。

②落水地点とその他からのノイズによって音としての振動が破壊されること。

①②の2つの理由によって、音が消失してしまう。

音が消失してしまわないように、響かせる場所を変更させる必要がでてくる。また、風が吹いている場合は自然発生的に響かせる場所の変更が行われる。

風速計
距離計
表面の凹凸が激しいためこちらは参考記録。

なにを頑張ったか?

今日のゲームでは響かせる場所の変更が必要なかった。いつもなら、たいてい響き作りがうまくいかずああでもない、こうでもないとなるところいろいろ試すわけであるが、そのような作業からは完全に開放されていた。

非常に簡単なシチュエーションの中で「余裕」のようなものが与えられ、その中で歌を楽しめたことは非常に有意義であった。そして、

堤体前にいざ自分が立ったとき、いかにそこから頑張ったか?

ということの本質は、

堤体前にいざ自分が立ったとき、いかにそこから頑張ったか?

であるということを感じた。

全くな~んの工夫も努力も「やらない。」ことを「頑張ったか?」が出来るかどうかも意外と大切なのかもしれない。

やらないことを頑張る。という行為によって確実に生まれた「気持ちのゆとり」。

自分自身砂防ダム音楽家としてやっていて、いつももっともっと多くの堤体に行きたいと思っているし、もっともっといろんな曲が知りたいと興味津々の状態でいられている。

根底にあるのは自分が砂防工学においても音楽学においても素人であるということだ。

予備知識には弱いが、やる気だけはあって、もっと知りたいもっと知りたいといつもワクワクしている。個人的には、気持ちのゆとりがあるからこそ、そのゆとりを埋めていくため、簡単には引かずやり続けていられているのだと分析している。

今日のゲーム展開と自身の経歴とでは、何か相通ずるものがあるような気がした。

この日は結局午後6時15分頃に退渓した。歌ったり休憩したりしながら少しづつ暗くなっていく夕暮れを感じながら、相も変わらずいまにも雨が降りそうな尾鷲の空をぼんやりと眺めながら堤体前で過ごしていた。

学びを与えてくれた堤体に感謝。
泉のような堤体前。
渓畔林も充実している。
聴衆がやってきた。
尾鷲の空をぼんやりと眺めていた。

ゲームを構成する一つの要素

伊豆市筏場

夜が明けない。

7月2日午前4時、場所は伊豆市筏場。

夏至をすぎてまだ10日ほどしか経っていないにも関わらず、空がまだこんなにも暗いのは夜半まで降り続いた雨の影響か?

車の助手席側は土地が開けているはずで、ならば山によって空からの光が遮断されているわけでも無いが。

片側1車線に広く改良された農道の左端に車を停め、夜が明けるのを待った。

ようやく。

ようやくデジカメでしっかり撮影出来そうな明るさになったのは、午前5時半すぎ。車を降りる。

開けた土地に広がるのは広大なワサビ田。きれいに四角く区切られた棚田が延々と連なり、その棚田ひとつひとつに生えるのはワサビの葉。黄変してしまっている葉が多く見られるのは、ここのところの優れない天気の影響か?

摘み取りの手を待つような状態のワサビ苗。

それは美しいとも言い難く・・・。

せっかく待ち望んだシャッターチャンスの不発に肩を落とし、ふたたび車に乗り込んだ。林道奥にある駐車スペースを目指す。

小嵐橋と両サイドに広がるワサビ田
小嵐橋から下流側のワサビ田
小嵐橋から上流側。黄変している葉が多かった。
林道の奥に向かう。(菜畑橋)

救世主となるか?

午前6時20分、林道奥の駐車スペースに到着。本日はここから林道を1.2キロほど歩いて堤体に向かう予定。

車から降りて準備をはじめた。フローティングベスト、ヘルメットを身につけるあたりはいつもと変わりない。いつもと違うことといえば、背負子を用意した。

林道を1.5キロほど歩いたのが、前回のエピソード「堰口川の朝ゲーム」でのこと。

歩きの行程としてはおよそ40分ほどであったが、そのあたりに大失敗を犯している。

まず・・・、とにかく暑い。

長く袋状に縫製された胴長靴の中では、通気性がすこぶる悪い。歩行運動によって温められた体の熱はウエーダー内で一切といっていいくらい抜けることができない。

かいた汗は多量の水分となって溜まり、不快感が高い。さらに抜けることがない体の熱によって、必要以上に体力を消耗してしまった。

さらに体力の消耗といえば、

歩きにくさ。

先端部分がレインブーツのように作られたウエーダーは若干の歩行困難が生じた。一歩・・・、二歩・・・、という程度の移動距離では“若干の”といったあたりを笑っていられるが、これを100メートル、1キロと長い距離に続けようとすればするほど感じる歩行性能の悪さ。

何故にスニーカーを持って来なかったんだ?

目的地にもスタート地点にも遠い林道の途中で大きく困り果てたとしてもあとの祭り。かといって裸足で歩くわけにもいかず・・・。

解決方法を探ったのは後日談。

果たして今日は?と用意したのは背負子。救世主となるか?

ウエーダーは背負子にくくりつけた。足元を固めるのはスニーカー。タウンユースの歩行となんら変わりない出立ちで、本日は林道歩きをスタートすることにした。

本日は背負子を用意!
メガホンの入ったバッグとウエーダーをくくりつける。
しっかりとした背当てが付いているので快適だ。

晴れる。

午前6時45分、林道歩きをスタート。

カーブが続く道を歩いていると日が出てきた。「晴れる。」と言っていた天気予報のとおりになりそうだ。

ゲーム内容は良くなるに違いない。

あとはいい風が欲しい。

スギの木立のあいだから降りてくる日の光を見ていると、なんとなくではあるが気温も上がっているような気がしてくる。

・・・、心には余裕しかない。

本日はウエーダーを履いていない。下半身を見ればズボンの裾口、くるぶしを覆う靴下、足先をがっちりサポートするスニーカーへと続く。

元気よく前に進もうと意識すればするほどに、ズボンの裾口からは新鮮な空気が外から内から出入りする。

前回のそれとは比べものにならないほどの快適性を手に入れた林道歩き。過去の自分自身に対して言えば優越感しかない。

途中、休憩を挟みながら歩き続け、入渓点には午前7時半に到着した。

林道は筏場国有林林地内。
日が出てきた。
途中、沢水の出るパイプを発見。
分岐は左へ。
唐沢橋

それが無くとも油断せず

入渓点となるのは「唐沢橋」。橋上から渓を覗き込む。

予想に反して全く水が流れていない。

渓の水が川石を叩くような音が一切せず、それゆえに先ほどまでの林道歩きでうすうす気づいてはいたが、沢が完全に伏流してしまっている。

橋の名前が唐沢=涸れ沢というあたりに、ちゃんと先人たちがこの沢の何たるかを説明してくれていたところ、それに反発して本日、降雨後に来てみたのだが全くもって意に介さず。天城山北陵に広がる当地は、多量の雨水を完全に地下水へと処理していたのだった。

入渓しよう。

背負っていた背負子を降ろし、スニーカーからウエーダーに履き替える。水が流れてもいない沢でいちいちウエーダーを履くのは、川石にびっしりと生えた苔で滑らないようにするためと、圧倒的に優れる防虫効果のため。

靴底に張られたフェルトによって、苔の生えた石に乗っても滑りにくい。また、足元を完全に袋状に覆いこむことで、肌にちょくせつ虫が付くことを物理的に防いでくれることができるとあって、ウエーダーを履くことの利便性は高い。

晴天による暑さはなんとかなるであろう。本日は前回と同様、午前中だけ遊んで帰るつもりであるし、ここの堤体は渓畔林が素晴らしいはずであるから、木陰によって直射日光から守ってもらえばいいだろう。

唐沢橋から上流側。水が流れていない。

やはり重要なのはアレ。

午前8時、水の無い沢に入渓する。

堤体は入渓直後に現れる。名称は「菜畑川第8号コンクリート谷止」。供用は昭和55年ということで、建設からは40年と少し経っている。

40年のあいだには上流から運ばれた土砂によって堆積地ができたり、下流側に洗掘ができたり、他所からの散布によって植物が生えてきたり、堤体本体や川石に苔が生えたりと様々な変化が起きている。

堤体だけが人の手によって作られた人工物で、そのあとまわりにあるものは全て自然物だ。堤体本体を中心として出来た自然物の変化を見ることが楽しい。

取り出して確かめるほどでもない無風の風を風速計で確かめてから、自作メガホンをセットし声を入れてみる。

自身の声に対抗してくるようなノイズは一切無く、ただただ反響板としてはたらく堤体本体と渓畔林に、声を入れてみては返って来てのくり返し。無抵抗な環境に対して声を入れていくことに起因する、物足りなさのようなものは正直無いとも言うことが出来ない。

そして、そんななかでも気づかされる無風による響きの悪さ。

声が森の深く向こうまで到達している感じがまったく見受けられない。非常に狭い範囲で響いているせいか、自身の耳までに到達するまでの時間も早く、響きとして声が聞き取りづらい。

これだったら水がガラガラ鳴っているような渓において、風もそれなりに吹いている状況下であるほうが歌を楽しみやすいはずだ。

左岸側
右岸側
堤体水裏
渓畔林の評価は全天。

全てがゲーム

全天を覆うほどの渓畔林の下、午前10時まで過ごした。

その間は断続的に晴れていたが、とくに目立って暑さを感じたりすることもなく過ごせた。

「暑い。」ということは経験上、歌う場所探しにおいて負の要因としてはたらく。歌いやすい場所というのは、出来るだけ気温が低く、また暗いところがいい。

たとえば気温の面、照度の面、両者を兼ね備えた場所を探すために自然界を駆け回ったとすれば、人は最終的に岩陰のような所に到達するはずだ。

大きな岩の塊の下に深いえぐれがあって、その中に人が入り込んだ時、最大の気温の低さ、最高の暗さを手に入れることが出来るであろう。

まるで建物の中にでも居るかのように。

一方、今回入った堤体前のように、「全天を覆うほどの渓畔林」というくらいでは、到底そのレベルに太刀打ちすることはできない。

しかしながら、堤体前の空間というのは堤体本体によって壁が出来ていたり、河床の洗掘作用によってサイド方向にも壁が出来ている。

上方には屋根となる渓畔林の樹冠があることから、これまた建物の中にでも居るような感覚で過ごすことができる。

さらにいえば、岩の塊のときには無かった「方位」という概念が存在することで、太陽の位置との関係を意識するようになり、その場所で「いつ過ごすのか?」といった計画性が生まれる。
このあたりは、直線を伴って設計された人工物であるところの恩恵が大きい。

つまりはゲーム性があるということだ。

この日入った堤体は水が完全に伏流してしまっていた。しかし、これはゲームを構成する一つの要素である。

今回、当地に降雨後に来れば地表水となった水が見られるのか?との予想(訪れようとする動機)があってこの場所に来たわけだし、実際に来てみて伏流する沢の姿を見るという予想外の出来事があり、音響ノイズの全くない無抵抗な堤体相手に歌ったり、その中でも無風という自然条件が歌い手に立ちはだかったりという一連の展開があった。

全てがゲームなのであると思う。計画→実行→現状把握→対処といった一連のゲーム展開がある。そして、予想もしていなかった状況が目の前に現れる「現状把握」の段階そのものは、ゲームのストーリー性を格段に高め、都度プレーヤーに対して大きな課題を与えてくれる。

予想の付かないことが目の前に起きていて、その事に対してこれまでの経験をもとに対処していく。また、技術でダメなら道具に頼る。

今回の経験がまた、自分にとってはプラスになっていくであろう。今後に展開する砂防ダムの音楽において、さらにゲームをおもしろいものにしていくためのヒントにしていきたい。

午前10時すぎ、爽快な気分とともに退渓。ふたたびウエーダーからスニーカーに履き替える。帰りの林道は行きと同様、快適性とともに歩み続けた。

菜畑川第8号コンクリート谷止
風速計。(暗いのでバックライトを使用。)
距離は36ヤード。
方位は149度。南東だ。
銘板
堤体前では予想も付かないゲーム展開が待っている。



堰口川の朝ゲーム

白田川

6月16日は賀茂郡東伊豆町を流れる白田川に。

時刻は午前6時半。まずは国道135号線白田橋。

白田橋近くの堤防柵に災害時用の表示看板を見つけた。描かれた文字には「ここの堤防高は海抜16.8メートル」とある。海が近い。

さて本日はこの海抜16.8メートルの地点から車に乗り込み、白田川(同100メートルのあたりから名称変わって堰口川)に沿って北西方向に走る。標高400メートルあたりの地点までが車での行程となり、以降は林道を約1.5キロほど歩いて堤体に向かう。

天気は快晴。風も山の方から3.3メートルほど吹いて期待感が持たれる。

水はここのところのグズついた天気により増水気味ではあるが、本日はここから比較的長い行程を経た先にある上流部に入るため、その点についてはどうにか解決されるであろう。

近くのセブンイレブンに寄ってトイレを借りたあと水を買い、車に乗り込んだ。

デカアマゴの存在を妄想する。
河津ウインドファームの風車はぐいぐい回っていた。
風速計。と、ロワジール熱川南。

期待感

午前7時すぎ、気になることがあっていったん車をおりる。

場所は標高200メートルを過ぎたあたり。針葉樹林に包まれるようにして続いていた林道の景色が突然開かれた。

目の前に飛び込んできたのは、広く伐採された土地と、今走っている林道から堰口川の河原へと降りられるコンクリート打設のスロープ。

ここは2年ほど前から続く、堤体の工事ヵ所だ。堤体名は堰口川第6堰堤。樹木の伐採、スロープ造成、堆積地の土砂の掘削を経て、今後は堤体の肉厚増しの工事が行われるのであろう。

遠くに小さく見える堰口川第6堰堤は、水通しの穴より勢いよく棒状放水しており、しかもその水が太陽の直射日光を受けていて、なんとも見るに無残だ。
この堤体の渓畔林となる針葉樹の木々も広く伐採されていて、堤体前空間としての魅力をかなり大きく失ってしまっている。

そのまま放っておけば美しいものにわざわざ手を加え、マイナスに転じてしまっているということが非常に惜しまれる。

堰堤というものに砂防の機能が担保されることは非常に重要であるということはわからなくも無い。しかし、これは一般市民が広く訪れ“見る対象”であると同時に、今後はレクリエーション施設として有効活用していくべきものだと考える自身にとっては、現状の段階をただ見ているというだけという立場ではあるものの、まだまだ改善の余地があるのでは無いかと考えられ、落胆の思いとともに密かに期待感を寄せている。

どうにか・・・、どうにか・・・、と願うこと。

それはみんなが遊びに来たくなるようなワクワクする河川構造物(堰堤)への生まれ変わりだ!

工事看板
コンクリート打設のスロープ
堰口川第6堰堤
堰口川第6堰堤。2017年3月撮影。

渡渉は2点。

ふたたび車に乗り込む。林道をさらに奥地へと進み7時45分、ひとまず車での目的地に到着。

早速、車をおりて入渓の準備をする。

入渓の準備を済ませ出発。そして降車地点からしばらく歩くこと40分、目的の堤体に到着した。(堤体名不明。)渓を確認する。

海抜16.8メートルの白田橋付近よりずいぶん上流に上がってきたつもりではあったが、これくらいではまだまだ源流の域には来られていないということが水量の多さからわかる。

川は堤体からの落水、そのあと堤体前の空間、ともに勢いよく流れている。

強い流れに足を取られないよう、チャラ瀬状に浅くなった区間を探し出し、渡渉する。渡渉時は必ず登山用のポールを使って体を保持し、片足+ポールの常時二点支持を意識しながら歩を進める。

流されるリスクが増幅するのは、片足一本だけで立った時で、この状態で上流からの強い水圧を受けてしまうと、その水圧に耐えきれなくなって転倒してしまう可能性が高まる。

片手に握ったポールを一本の足の代わりとして使い、常に片足とポールの二点が川底に着地している状態を作りながら歩いていく。

登山用ポールを使用しながら渡渉する。

この上ない暗がり

無事、対岸にたどり着くことが出来た。

渡渉は慎重にやらせてもらったが、ここからはやや急ぎ気味に支度をする。

風速を計測。風は断続的に吹いて1.9メートルほど。つづいて堤体からの距離を計測。距離はおよそ56ヤードほど。

自作メガホンをセットし声を入れてみる。

声は非常によく響く。

渓は大型重機のタイヤサイズくらいの石がゴロゴロしているが、その石の数自体はそれほど多いわけで無く、また全体的に河床勾配がゆるやかだ。立ち位置の前後にいくつか水の落ち込みが見られるが、増水気味なせいかあまり目立ってノイズを発生させている感じも見受けられ無い。

響き作りの障害となるような要素は意外と少ない様子。

また、声を響かせる側としては両サイドの壁が非常によく掘れていて、しかも鳥瞰図上ヒョウタン型に波打っている面が効果的にはたらいているのか、音が大変よく響く。

渓畔林もイヌシデ、イロハモミジ等見られるなか最も多いのはアラカシで、高木層の及ばなかった光のすき間をヒサカキ、イワガラミが埋める。したがって、上空からの光の遮断能力は相当に高く、この上ない暗がりを堤体前に形成している。

ヒョウタン型に波打つ崖
右岸側
午前8時50分頃の堤体。
渓畔林の樹冠がほぼ全天を埋め尽くす。
風速計
距離計(ニコン クールショットプロスタビライズド)
方位は3度

運が良かった

午前10時、堤体水裏を落ちる水の大部分を直射日光が照らすようになってきたためタイムアップ。

およそ1時間半、堤体前で過ごしたわけであるが、その間にしっかり歌が楽しめたことが何よりであった。

今回入った堤体はほぼ北向きであるため、より早く入渓することによって、さらに暗い空間において音楽を楽しむことが出来るであろう。反面、早起きがあまりに過ぎるとメンタルが追いつかず、音楽に“ノル”ことが出来にくくなってしまうのは難しいところだ。

部活動の朝練をしに来ているわけでは無いので、このあたりは自分自身のコンディションとよく相談しながら決めたいところであるが、今回はそのあたりの時間の調節がうまくいったような気がする。

また、水量に関して言えば今回はギリギリ荒れすぎない程度の条件で入渓出来、運が良かった。水の流れが横方向に大きくなる分には意外とノイズは大きくなりすぎないのだということが分かったし、比較的強い流れの中で登山用ポールを用いた渡渉の練習が出来たことは良い経験になった。

今回の経験をまた次回以降の堤体選びの参考にしていきたい。

堰口川の朝ゲームは大成功のうちに終わった。

退渓時に撮影。かなり緩んでいる。
退渓後のお楽しみは、
美ずきへ。
伊豆大島が見える。
評判のお店で頼んだのはカツカレー。
ガザニア
バーベナリギダ
ノウゼンカズラ

退勤後のゲーム2023

この見慣れた風景ともいったん区切りをつけることに

ホームアシストの皆様へ

大変お世話になりました。日々の業務において皆様のお力添えがあったからこそここまでやってくることが出来ました。今後は、この場で身につけたことを忘れず、砂防ダム音楽家という仕事を大成させられるよう全力を尽くす所存です。誠にありがとうございました。森山



2023年5月。人生の節目。

在籍期間5年1ヵ月という期間をもって、駿東郡清水町のホームセンター「エンチョーホームアシスト」を離れる事になった。

これまで同店舗では園芸用品担当ということで関わってきたが、今般、退職というかたちで職場を離れ、独立して生計を立てていくことに決めた。

心配する声も多くの方から受けたが、チャレンジしたいという気持ちの方が強い。

そもそもの発端は植物を勉強したいという、自分自身の身勝手な希望を受け入れてもらう形で実現したホームセンターでの仕事。

砂防ダムの音楽をより楽しむ上で、植物のことを知ることが欠かせない。
植物を学びたいという志望動機を出し、面接を受け、縁あってこの場で働かせてもらうことになったのがおよそ5年前のこと。

川を取り囲むようにして生える木々「渓畔林」は響きの反響板として機能したり、空間に暗がりを作って歌い手のメンタルに作用する働きがある。また、とくに落葉樹の木々は季節による変化があり、夏の非常に旺盛な期間、それを過ぎて秋の紅葉シーズン、冬期の落葉状態の中で感じられる生命感など、その魅力が尽きない。

同様のことは足元を飾る「草本(くさ)」にも言えることで、山行・渓行というものをただの堤体までの移動行為だけにさせず、時には観察の楽しみを与えてくれたり、時にはヤブという形で、行く者の冒険心をくすぐったりしてくれる。

砂防ダム音楽家として遊びを紹介しているわけだが、遊びを研究するというプロセスにおいて、圧倒的に欠かすことのできない植物に関してはこれまでも、そしてこれからも学びを続けていくことになるだろう。

清水町総合運動公園はみどり豊かな公園だ。

引き返すことはしない

つまり今回、恒久的な意味での“退勤”となった。

ゲームのことを書こう。

5月27日、午後5時前、開始は駿東郡清水町のエンチョーホームアシスト。まずは、その正面駐車場に出入りする道路挟んで反対側の清水町総合運動公園に立った。

この日は土曜日。土曜日なのだけれども、いつものごとく賑やかな運動公園。ここは静岡県東部地区最大クラスのショッピングセンター「サントムーン柿田川」至近の公園とあって、いつも賑やかだ。

公園ではたいていサッカーを楽しむ子ども~大人の姿が見られ、また最も多いのが公園をぐるっと一周、ウォーキング・ランニングする人たちの姿だ。

一方、こちらは山登り前の風観測。

公園の北東側にあるトイレの前に立ち、風速計をかざすと風速は最大で3.1メートルほど。およそ1分ほどの計測でこの値であるが、感想としてはもう少し粘って立ち続けることで、さらに数値が上がるのではないかというのが肌感覚だ。

風は西から吹いていて、地面から高く伸びるケヤキやユリノキの樹冠をときおり激しく揺らしている。

平地ではこの風であるが山はどうなのか?

安心することはできない。平地と山で風が異なるなんてことはしょっちゅうで、むしろ正直なところ縁起が悪いくらいだ。お互いが異なっていた。という経験が過去に多いから安心することができない。

しかし行くことはもうとっくに決めている。

決めているのだから、引き返すことはしない。想像を裏切る良き展開に期待し、車に乗り込んだ。

清水町総合運動公園での観測のようす

夕暮れのさわやかさ

午後5時、まずは車で国道1号線まで出て、箱根方面に向かう。

空にはまだ太陽があり、ロードサイドの店の看板を金色に照らしている。

ほぼ毎日のように利用している国道1号線は今日も多くの車で溢れている。土曜日ということもあって、明らかにレジャー目的のバイクツーリングの一団なども見受けられるが、この時間から午後6時~7時にかけては労働者の帰宅ラッシュの時間帯である。

そして眼前に見る夕暮れのさわやかさに反して知るのは様々な思い。

ハンドルを握る人たちの感情は決してポジィティブなものばかりでは無いはずだ。心には喜び、怒り、悲しみなど様々な感情が含まれていて、それが何百、何千、何万とごちゃ混ぜになる舞台、労働者たちの道路、それが国道1号線だ。

仕事をすることは決して容易では無いよなという気持ちが頭をよぎる。

・・・。

ところで我は何なのかと、ふと考える。

これは、退勤後の移動であってすなわち帰宅の動きとも言えるし、これから山に登って堤体に向かってゲームをしてくるという遊びのための動きでもある。

なんとも言えない類いの移動になってしまっているが、逆に幸せなのかなと思う。平穏な心で走り抜けていくことが出来る人間関係、環境に今日一日置かれていたというわけだ。とは言っても・・・、

こんな日ばかりじゃ無いはずだ。

単に運が良かったために手に入れられた平穏と言うこともできる。

怒りや悲しみに苛まれるときがある。

解決方法が求められるときがある。

音楽の力に頼るときがある。

行くところはやはりあの場所・・・。

先を急いだ。

箱根峠

忘れ物に注意する

しばらく山を登り続け、午後5時半に箱根峠を通過。標高846メートルの頂上を過ぎると、今度は車を箱根新道に向け、坂を下り始める。

そして箱根峠からおよそ4キロの道のりで黒岩橋。黒岩橋すぎて直後に現れる下り車線側には見慣れた駐車スペース。

駐車スペースには午後5時40分に到着した。

車から降りて、準備を始める。

急ぐ。

今日このシチュエーションにおいていつもと違うのは、時間的余裕があまり無いことだ。かつては4年ほど前に今回同様、退勤後にこの場所を訪れたことがあったが、その際は“水”を忘れてしまった。同地に来ることばかりに気を取られ、焦って、飲み水の確保を忘れてしまっていたのだ。

もちろんこの周辺には自動販売機などが無い。

その日は結局“川水を飲む”ことで喉の渇きを潤すという対処をした。

もうこんな極めてマヌケなミスはするまい。とは思ったのだが・・・。

なんとその後、またしてもやらかした!のだ。しかも同地で。それでも、その日は昼間だったので、いったん下ってきた坂を再び登り直して芦ノ湖湖畔、元箱根まで行き、自動販売機にて用事を済ませた。

ほかの場所に入るときはこんな事は無いのに。

同地はほとんど信号の無い(周辺では箱根峠の一基のみ。)スイスイ道路にて来ることができる。しかしながら、運転中の考え事のしすぎはどうやらほどほどにしておいたほうが良さそうである。

見慣れた駐車スペース

果たして・・・、

さて、今日はペットボトルに入った水をしっかりドリンクホルダーに差し込み、準備が整った。

肝心要の風は下(駿東郡清水町)よりも弱いようであるが、あまり気にはならない。こうなることは前述のようにある程度予想していたことであるし、なにより日没前のわずかな時間帯に歌えるというワクワク感が勝っていて、むしろどうでもいいぐらいの心緒になっていた。駐車スペースから下へ続く坂を下りる。

堤体前には午後6時に到着。現場は櫛状に落水する須雲川の水と、非常に旺盛な渓畔林のみどりでなんとも美しい。いつの間にか没してしまった太陽の余光はそれらを照らし、まるでみどりのトンネルの中にでもいるようだ。

早速、風速計を取り出して計測すると風は向かい風で1.2メートルほど。これも単なる風では無くて、鞍掛山、大観山といった頂から吹き下ろす冷涼な風だ。

さっそくメガホンをセットし声を入れてみる。

鳴る。

しかもめちゃくちゃ心地よく鳴る!

黒岩橋下流の堤体

予想のつかない場面

流れている水の音と声のボリュームのバランスが良いような気がする。

ここのところの砂防ダム行脚では自作メガホンの改良に重きを置いて堤体を選定していたため、比較的水量の多い、ドカンドカンと水が落ちるようなタイプのところによく出掛けていた。

そういった響かせづらい堤体を敢えて選ぶことで、仮に歌い手が響きづくりにおいて困難なシチュエーションに遭遇した時でも、道具によってその障害をクリアすることが出来るよう、プロトを鍛えるという意味で難所ばかりを選んでいた。

では、今日はなぜここを選んだのか?

今日この堤体を選んだのは単純に移動時間が少なくて済むからという理由からである。退勤後の日没前、わずかな時間のなかで楽しむ場所として、とにかく近場を選んだ。ただし、今日この川がどのような状態であるかといったことは全く予想をしてなくて、歌い手の声量と川のノイズのパワーバランスが極めて理想的な状態にあったのは全くの偶然。まぐれのことだ。

これは退渓後談になるが、自宅に帰って過去の画像と比較してみたところ、昨年の元日にこの場所に来たとき比較で、ほぼ水量に変わりが無いことがわかった。
ちなみに正月の渓と5月下旬の渓で水量がほぼ変わらないというのであれば、現在(5月下旬)の状態が減水気味だという可能性は非常に高い。

こういった全く予想のつかない場面に遭遇することもまたこの音楽の楽しみでもある。

結局、午後7時頃までのたった1時間ほどであったが、日が暮れるまでのあいだ堤体前で歌を楽しんだのだった。

追記

こういった遊びには、日没前のわずかな時間に音楽を楽しむという希少性のほか、前述の解決方法といった機能が(人によっては!)伴うということを付け加えておく。

平穏な心が手に入れられないとき。怒りや悲しみに苛まれるとき。それらの解決方法として、ゲームを利用していくという手がある。憶えのある方はぜひ試されてみてはいかがだろうか?何時でも怒り、悲しみといった感情はその日のうちに忘れ、翌日にはきれいさっぱり、新たな心で仕事が出来るよう準備したいものである。

退勤後のゲームによって多くの方が心身ともに健康になり、仕事で大きく活躍されることを祈っている。

渓畔林はフサザクラ、イロハモミジ、ケヤキ、コナラなど
右岸側のようす
穴からは適度に光が差し込む
昨年の元日の同所
若干、今回の方が多いか?
こちらも昨年元日に取得したデータ
当日の風
堤体までの距離
気持ちのいいゲームであった。

河原小屋沢

まずはテルメいづみ園前からスタート

今回は伊豆市南西部、猫越川支流河原小屋沢でのエピソードを書いてみようと思う。

5月18日、快晴の午前8時。まずは伊豆市湯ヶ島「テルメいづみ園」前にて、猫越川のようすをうかがう。
水量は5月らしくたっぷりと流れているのがわかる。夏モードの渓といったところだ。

川幅は冬の頃より広く、わずかばかりになった左岸のボサには二人ほどの釣り人が見える。振る竿は長く、さてはアマゴをエサで狙っているに違いない。
ゴロゴロと転がる大きな石の下流側には、水の落ち込みによってできた深い淵があり、そんなところにアマゴは着いているのであろう。

身を隠すのはアマゴに同じく人間の側もという関係性で、厚い層の水を隔ててなるべく気配を悟られぬように静かに釣りをしているのがわかる。

そう、静かに・・・、

無風。

今日もまた風が吹いてないではないか!

いづみ園前の二百枚橋は、桁から水面まで10メートルほどはあろうかというちょっと背の高い橋なのであるが、この高い橋の見晴し台の上に立っていて、吹き抜けていく風の存在がまったくといって感じることができない。

目立っておもて側に立ててあるわけでもないが、いづみ園のなんたるかを示した「日帰り温泉」ののぼりも揺れず靡かず。ピタリと止まったままで、まだまだこの時間は開店前ですよとでも言わんばかりの有様だ。

期待して家を出てきたはずであったが、風が吹いていないようであれば状態が良くない。
もう5月も中盤を過ぎて、いよいよ夏シーズンの幕開けに入った。今日はただの平凡な一日にあらず、スタートダッシュを成功させなければならない大切な日である。

なにがなんでも良い印象で終えたい。

ふたたび車に乗り込み上流を目指した。

猫越川。二百枚橋から。
二百枚橋
テルメいづみ園

二百枚橋から

二百枚橋から西へ400メートル。水抜橋を渡って丁字路を左折。それから道なりに2.5キロほど進んで猫越集落最南端の民家を過ぎると、道路はそのまま林間へ。林間入ってすぐのところに通行止めの看板が現れるので、車はその通行止め看板の手前、道幅の広くなったところに駐車した。

車を降りて入渓の準備をする。ウエーダーを履き、上半身にはフローティングベスト、自作メガホンを背負って、手には登山用のポールを握った。

車を駐車したすぐ下の谷には猫越川が流れている。本日入渓したいのは、この猫越川ではなく支流となる河原小屋沢だ。猫越川と河原小屋沢の合流点は現在地よりも下ったところにあるので、まずはいままで車で走ってきた道を戻るようにして進み、150メートルほど行ったところで右に折れる。

折れたすぐ先には「猫越川橋」を見ることが出来るので橋に向かって進む。

堤体までの道順

イロハモミジ

午前9時、猫越川橋をわたる。

相変わらず風が吹いていない。

橋の下からは何本もの木がニョキッと生えていて、それらの木の枝はちょうど橋の欄干の高さまで伸びて、手に取るようにして何の枝かと見て確かめることが出来る。

イロハモミジ、ヤマグワ、ヤマザクラ。橋の上に立つと位置的にはちょっと低くなるイロハモミジの数百の葉は、橋桁にベタベタ絡みつくようにして伸びている。

窮屈そうにに絡みつくその姿はじつに収まりが悪い。今この場所に風でも吹いてくれようものなら、この状況から解放されてユラユラ揺れたり身動きが取れるのであろうが、この無風ではそうもいかない。

次の風が来るまで辛抱だ。

橋を渡りきると道はS字カーブになる。このS字カーブを抜けるといよいよ河原小屋沢の谷の林道となる。林道にはちゃんと名前が付いていて「猫越支線林道」の看板を見つけることが出来る。

しばらく歩き、猫越川橋を渡ってからちょうど15分後の9時15分。目的の堤体に到着した。

猫越川橋その1
猫越川橋その2
猫越川橋その3
S字カーブ付近
猫越支線林道
空は快晴。
猫越支線林道から見た落水

とりあえず歌ってみる

本日入る堤体の名は「洞川No.9玉石コンクリート堰堤」。銘板によれば昭和40年に作られた堤体だという。まずは堆積地に乗って風を計測する。

無念にも風速計が示した値は0.0m/s。

堆積地を離れ、今度は堤体前に向かって慎重に降りる。堤体が美しい。
水は右岸側、左岸側ほぼ均等に湛水で落ちていて、池状になった落下地点には白泡を立てながらきれいに着水している。

さらに堤体前の空間は非常に旺盛な渓畔林に囲まれ、木々の葉が所狭しと付いて太陽の光を受けている。その割合は、上方見上げたときにほぼ全天という評価で、ゲームを行うのには最高の暗がりを形成している。

まぁ、とりあえず・・・。

とりあえずということでメガホンをセットし、声を入れてみる。

洞川NO.9玉石コンクリート堰堤

データ

声を入れてみる。つまり声を「入力」してみる。

声を入力しているという事実に間違いは無い。しかし、不満が残る。問題がある。なにが問題なのか?

問題は「入力」の結果がきちんと帰ってくることも無くどこかで消されてしまっているということだ。
こちらは酔っ払っているわけでは無い。気絶しているわけでも無い。しっかりとした意識の中で確実に声というデータを入力し続けているはず。であるが・・・。

どうやらその入力したデータは、消されに消されて相手に影響を与えることはおろか、ただのそのまま返送さえもしてもらえないという状態になっているのである。

これでは何をしに来ているのかわからないではないか!

過去に経験した甘い思い出が蘇る。甘い思いをしたその日というのは、入力したデータというのがきちんと帰ってきていた。

ドカンドカンと絶え間なく落ち続ける落水相手でも、キリキリになりながら、それでもちゃんと帰ってくるものがあって自分の耳に届いていた。そして、そんな日というものは風速計を取り出して堤体に平行にかざすと、本体の羽根が勢いよくグルグル回っていたような記憶がある。

それではと風速計を取り出す。

・・・、

羽根はピタリと止まったままだ。

羽根はピタリと止まったまま。

出した答えは二つ

結局、正午前までのおよそ2時間、堤体前に立ち続けたが風の到来は無かった。

いったん退渓し、車に戻る。昼食を摂ったあと、考えにふける。一体どのようになれば堤体前で歌ったときに声を響かせられるのかと。
出した答えは二つ。

①風が吹くようになること。

②風が吹かないというコンディションのなかでもきちんと響かせられるメソッドを手に入れること。

①については、過去の甘い思い出からそのように変化することを期待したのだが、ただ、これについては自分自身の力ではどうすることも出来ない。風が吹くかどうかということについては自然が決めることなので、運に身を任せるほかない。

②が問題になってくる。②については考えればどうにか成りそうな気がしてくる。ここでいいアイデアが生まれて来さえすれば、それを使って円満解決で全てハッピーだ。風の無い日だってもう完全に困らなくて済むのである!

・・・。

深く考え込むが・・・。だめだ。

いろいろ考えたら疲れてきた。意識が遠のいていく・・・。

オニグルミ(猫越支線林道にて。)

Im Haine

午睡から覚めた。腕時計を見ると午後の1時40分。ふたたび準備をして猫越川橋に向かう。

!!!

風が吹いているのがわかる。猫越川の谷は間違いなく風が吹いている。

再び猫越川橋をわたる。再びS字カーブを抜けると河原小屋沢の谷へ。ここでも風が感じられた。

午後2時15分、堤体に到着。午後もまた、堆積地で風速を測ってから堤体前に降りる。太陽はもうすでにかなり左岸側に片寄ってしまっていたが、快晴であることは午前中と変わらない。

メガホンをセットし声を入れてみる。

目の前に対峙する堤体の落水は午前中のそれと比べてもほぼ変わっていないことが見てとれる。しかし、連続するノイズ音のなかにあって、わずかに自分自身の声が響いているのがわかる。

歌った曲は、シューベルトのIm Haine D.738。
この曲は、

Sonnestrahlenとか、

Durch die Tannenとか、

フレーズごとに―nenと、韻を踏むところに特徴があるが、まさにこの韻の部分を響きとして聞き取ることが出来る。
フレーズの後半部分が目立って聞き取れるというわけだが、逆に、

Durch dieとか、

Wie sieといったフレーズの前半部分については、午前中同様、うまく聞き取ることが出来ない。

詩の全ての部分を響きとして聞き取ることが出来ないのであるが、そんなことは私は気にしない。落水がドカンドカンと攻めてくるような音環境の中で、音楽をかろうじて形成させるこの遊びが堪らなく好きだ。

例えるなら、ネコとネズミのけんかぐらい違う。

ネズミは自分の体の何倍もあるネコから引っ掻かれ、噛みつかれ、パンチされで一方的な展開の戦いになっているが、そんななかでも自らの誇りと自信にかけて相手に飛びかかり、渾身のひと噛み!反撃に出るのだ。

一つの生命体として、精一杯やる生きざまを見せることに価値がある。

戦っているという感覚で挑めばよい。ドカンドカンと轟き続ける落水ノイズを受けながらも自分自身を表現することに、この音楽の醍醐味はある。

午前、午後くらいでは水量に変化は無い。

退渓

結局、午後4時ごろまでおよそ2時間弱ゲームして退渓することにした。まだまだ日没まで遊べる時間があったが、午後の状況変化の好転という感動体験により、たった2時間でお腹いっぱいになってしまった。

午前と午後、風が吹くか吹かないかで大げさに言えば天国と地獄を味わったわけだが、そんな風に自然の気まぐれでプレーヤーの活動を掻き乱されるのもまた、この音楽の楽しさなのである。

満足感とともに帰路に就いた。

風速計。堆積地にて。
風速計。堤体前にて。
方位は210度。
立ち位置からの距離
渓畔林のようす
全天を覆い尽くすほど葉の割合が高い。
右岸側のヒノキ林。これが響きの手助けとなる。
立ち位置の目印となるリョウブの木
リョウブの葉
立ち位置は堤体に対して直角に交わる位置がよい。

専門用語が無くて困っている。

水量豊富な水が、

専門用語が無くて困っている。

日々、砂防ダムに行ったことを当ブログであったりSNSに記しているが、ときどき自分が見てきたものを伝えるというプロセスにおいて、良い言い回しが無いのかと困ってしまうことがある。

とくに最近困っているのが、とりわけ水量の多い砂防ダムを形容するような言葉について。

水量豊富な水が・・・、とか、

大量の水が・・・、とか、

大水が落ちている・・・、とか。

一応、その状態を言い表すことは出来なくも無いが、もっとサラッと一語で言い表せる専門用語が無いのか?と困ってしまっている。

文節?と言ったか・・・、文章を書くときにその内容を細かく区切っていくと「文」よりは短く、「単語」よりは長い、言葉の区切りがあると中学で習ったような記憶がある。

目の前に見た光景をサラッと言い表したい。

できればそれも文節(しかも上記の3例は文節がそれぞれ2個づつになってしまっている。)より単語であることが望ましい。
とにかく短くシンプルに言い表して簡潔に伝えたいのだ。

「滑沢渓谷」バス停

「滑沢渓谷」バス停

砂防ダム行脚のことを書こう。

4月24日は伊豆市南部の狩野川上流域へ。

スタート地点としたのは東海バス「滑沢渓谷」バス停。バス停は国道414号線下田街道沿いに設置されている。自家用車にて行く場合はバス停すぐのところから横に折れる道があるのでそちらへ。

折れてすぐの地点は広場のようになっており、車を駐車した。

車から降りると渓行の準備をする。ウエーダーにフローティングベスト、手には登山用ポール、自作メガホンを携えてスタートした。

本日入る「本谷第2砂防ダム」であるが、現在地よりも北側にある。狩野川(本谷川)はちょうど現在地の広場とそれより北側にある「道の駅天城越え」に沿うような形で流れているが、本谷第2砂防ダムはちょうど両者の中間ほどの地点にある。

南側、つまり上流側から入って堆積地を歩き、堤体横を降りて下流側に立つというのが今回の順路だ。

広場のようす。車は向かって左側に停めた。
右側に停めないのは、突然作業が始まってしまっては大変だからだ。
バス停のあたりからスタートし、いったん南下する。

堆積地を歩く

午前9時、まずは観光客向けの車道でもある滑沢林道に沿っていったん南下し、入沢橋を渡る。渡って正面に現れる井上靖文学碑まえの丁字路を右に折れて、北上をはじめる。

ほどなくして現れる「滑沢橋」を渡り、直後「太郎杉」方向に向かうヘアピンカーブがあるので、そちらを逸れて狩野川に降りるスロープより入渓する。

スロープを完全に降りきると川はすでに堆積地の様相になる。石はせいぜい野球ボールからサッカーボールほどの大きさしか無く、ある程度そろっているのは通常の渓流区間とは異なるものだ。

こういった堆積地は長いところでは100メートル以上にもなるので、堤体探しをしている時のヒントになる。グーグルマップの航空写真では堆積地を先に見つけることで堤体があるかどうかの可能性を知ることが出来るからだ。

今回歩くことになった本谷第2砂防ダムの堆積地も南北に直線的で縦幅、横幅ともに広い。(伊豆半島の他河川比較。)さらに川の両サイドは入渓点にするには不都合なほどに切り立っていて、長く続いている。

角型の雨どい状に・・・、というより男性諸君であれば、「ミニ四駆のコースみたいだ。」といえばおわかりいただけるであろうか?

このミニ四駆のコースのようになった区間を風が吹き抜ける。川が蛇行したり、大きな石や木々が空間を遮るような渓と違って、ここはきわめて抵抗フリーに風が吹き抜ける。また、そんな日であることが理想的だ。

もちろん理由としては、吹き抜けた風が堤体下流側に立った時、音楽に好影響を及ぼすからである。

入沢橋
入沢橋から上流方向を臨む。
狩野川に降りるスロープ(坂)
下流側に向かって歩く。
直線的な堆積地
堆積地のサイドは崖状になっている。

冒頭の件

午前10時20分、堤体前(堤体下流側)に到着。

・・・。

話はここで冒頭の件に移る。水がドカンドカンと大量に落ちているのだがこれをうまく形容する単語が無い。

目の前に見た光景をサラッと言い表したいのだが・・・。

水量豊富な水が落ちている。。。

専門用語が無いことから生じる煩わしさ反面、初心者と経験者のあいだに無意味な隔たりを生みださないことは好意的とも・・・、

とれなくも無い?!

立ち位置を決め、赤外線距離計を使って堤体との距離をはかる。

71.6ヤード。

近すぎず、遠すぎず、これくらいがよいであろう。

堤体前に到着。
銘板
距離計が示す値は71.6ヤード。
持っている風速計では0.1メートルほどの微風は計測不能。
196度。南南西だ。
右岸側。微風を受けフサザクラがユラユラゆれている。
立ち位置後方には岩山がひとつ。
エゴノキの大木

1階フロアだけ

自作メガホンを組み立て、声を入れてみる。

予想通りの鳴りの悪さ・・・。

音が鳴りにくい環境であることはある程度予想していた。堤体前を吹き抜ける風が弱いことが気になる。
まったくの無風ではないものの、風速計で測ることの出来る数値の下限限界を超えるような微風であることが惜しい。

そしてこの微風については、どうやら発生源は堤体を落ちる水にあるようで、ならば非常に狭い範囲で吹いている風だ。

堤体横を降りてくる前に堆積地で風速を測ってきたが、そのときは無風であった。現在もきっと無風であろう。
こちらを建物の1階、堆積地を2階とすれば2階は無風。1階フロアだけ弱い弱い微風が吹いているような状況だ。

堆積地での風観測。
石の温度を測る。(堆積地にて)
水温を測る。(堆積地にて)
吹いている風のイメージ

今日は曇天

さらに、気になることがもう一つ。今日は曇天だ。

コンパスによる計測で水表側が南南西となる本谷第2砂防ダムはほぼ正午ころに歌い手、堤体、太陽が一直線上になる。
そのため、この日の砂防ダム行脚も堤体前に立つのが正午前後になるように計画し、実行した。

時間に気を使って予定を立てたつもりでいたが、結局はお目当ての太陽が出ておらず、全くもって無意味になってしまっている。

太陽光とその光を受けて輝く放水路天端。反して影で暗くなる堤体水裏と渓畔林の下。両者のメリハリついた明滅差が恋しい。

結局、2時間ほど風を待ちつつ歌ってみたり休んでみたりしたが、風のことについても太陽のことについても状況が好転することは無かった。

午後12時半、いったん退渓をする。

昼過ぎは天城グリーンガーデンに立ち寄った。
アマギシャクナゲ
ツクシシャクナゲ(筑紫石楠花)
少しであるがアマギツツジも。
こちらはサツキのなかま?

日没前に再チャレンジ

午後4時、状況の変化に期待し再度、本谷第2砂防ダムを目指した。風は相変わらずほとんど吹いていない状況であるが、果たしてここからの好転はあるのか?

堤体前には午後5時前に到着。風は相変わらず弱い微風にとどまっている。

再び自作メガホンをセットし声を入れてみる。

状況変わらず・・・。

自身の口から放たれた声は空気に押してもらえることも、引っ張ってもらえることも無くただただ水量豊富な落水の中に飲み込まれていくのであった。

たしかに空気は動いている。しかしながら、その押しや引きの強さ、質においては理想的と言える状況には無いようで、音楽を楽しむには至らなかった。

結局、日没まで粘ってゲームセット。

恒常的にいい状態でやらせてもらえないのがこの遊びの特徴でもあるのだが、今日もまた運には恵まれなかったのであった。

重い足どりで堆積地を歩き、帰路に就いた。

状況の好転に期待したのだが・・・。