戸田峠越えて反対側は?

前々回、伊豆市修善寺にある桂大師とその上流部の砂防ダムについて書かせていただいた。現場は、水が堤体下部を伏流する形で流れており、自分の理想とする音楽環境とは異なる、残念賞の砂防ダムであった。理想的な砂防ダムというのは、重力コンクリート式の不透過式砂防ダムで、水がいくらかジャバジャバ流れ落ちているようなところである。その水がジャバジャバ流れ落ちている音の環境の中で、どれだけ芸術家曲を歌えるのか?響きの面でいかにマネジメントできるのか、といったところに砂防ダム音楽の楽しみというものがあるわけで、水の流れないしんと静まりかえる、当地の現場環境は不十分と言わざるを得なかった。やはり、砂防ダムを目指していて落水のあるところに行かなければその楽しさは味わえない。―となると、さて、今回はどうしよう―ということになった。いろいろな候補地があげられたが、その中で戸田大川というキーワードが出てきた。戸田に行くこと、それはつまり湯舟川や桂大師を構える伊豆市修善寺と戸田峠をはさんで反対側に入ることを意味する。なぜ、戸田大川に決めたのかと言えば、伏流に関する調査がしたかったからである。伏流という現象が起きることの原因は様々であるが、その中の一因として水量不足があげられる。付近の山のピークでは達磨山の982メートルがあるが、単純に数値的なものから言えば低すぎることは無い。私の経験上、標高の低すぎる山というのは得てして伏流している場合が多い。逆に標高の高い山ほど水を豊かにたたえる能力を持っているものなのである。戸田峠(達磨山)をはさんで東側では残念な結果に終わったが、では、西側ではどうなのか?その辺の調査も含めて今回、戸田大川に入ることを決めた。

藤の花(当日撮影。)

へだといえば

戸田と言えば御浜岬や戸田湾、またそこで水揚げされるタカアシガニ、戸田温泉などが有名である。とくに自然現象で作り上げられた戸田湾はパッと地図を広げてみたとき、起伏のあれこれ多い伊豆半島の海岸線の中でも特徴的で目を引く。釣り雑誌等のメディアでも頻繁に取り上げられるなどしていたため、私も戸田という地名もその漢字の読み方も魚釣りを通して知った。やはり戸田と言えば海なわけでその山間地域はなかなか注目されることは無い。ところが・・・。である。この戸田の地を西伊豆の海岸線を通って訪れた方にはわからないであろうが、修善寺側との往来に戸田峠、つまり県道18号線を使ったと言う人ならばおわかりいただけるであろう。地図上で見た感じ、いかにも山道でウネウネとした区間がチョロっとが描かれているのだが、これがびっくりするほどの急坂なのである。スポーツカーなど馬力のある車でサラッと超えてしまったという方は何も感じなかったかもしれないが、軽自動車等、それほどパワーの強くない車でのこの戸田峠越えという物はなかなかつらい物なのである。わたしは以前、軽ワンボックスカーに乗っていて、そのときに初めてこの坂を登ったのだが、はっきりいってもう二度と同じ車ではやるまいと思った。上がれど上がれどいつになっても峠が現れず本当に面食らってしまった。あまりにもこの坂で得た衝撃が強すぎて、次の車の買い換え時に「戸田峠を余裕を持って超えられる車」と意識したほどなのである。

今そこにある砂防ダムを楽しんでいるだけ

そんな急峻な山稜をもつ当地なだけに土砂災害に関するリスクも相当に大きい地域であるということがいえる。この地域の山間部に局地的に大雨が降ったとすれば、山の斜面が急勾配である当地においては、その雨水が一気に下流部の戸田集落に押し寄せる。その一気に押し寄せる雨水はその猛烈な勢いによって土砂のみならず大型の石や大木を動かすだけの能力を含んでしまうがゆえに、それに対処するインフラとして河川には三面護岸や砂防ダムを含む大小の堰堤が構えられている。自然形成された御浜岬など景観に関して格別な配慮をしている海側と比べて、大雨という自然物理に対して、なにがなんでもということで景観や水中生物に対して何の配慮も無い形で臨む山側のこのような姿勢は皮肉にも思えるが、住宅等市民(村民)の財産を守るというそれぞれの建設当時の「思い」を考えれば、致し方ないのか?と思うのである。私自身においては、そういったインフラに対して賛成だとか反対だとかいうものは全くなくて、ただ、いまそこにある、現実的に建造されている砂防ダムというもの、また、その周辺空間において純粋に音楽を楽しんでいこう。ということなのである。

画像左中央部辺りから入渓する。
戸田村とある。
入渓点入ってすぐの堰堤

5月6日、

5月6日、今回は戸田大川の最上流部の砂防ダムに新規開拓ということで入った。前述の県道18号線を戸田集落側から修善寺方面へ走ると県道が戸田大川から外れる地点があるが、そのまま戸田大川沿いを行ける林道に向かって直進しそのまま道形に一般車両が入れるところまで上がっていく。すると、最後「雉ヶ尾橋」という橋のところに出られるのでその雉ヶ尾橋の手前の道幅が広くなったところに車を置く。橋の手前側に丸太置き場がありその丸太置き場を入渓点としてそこから上を目指す。ここは、かつて村民用の簡易水道の取水施設があったところでその名残が散見される。沢沿いの道も区間全域ではないものの一部カラースプレーで矢印がマーキングされたり、道を示すように土嚢袋が連続で置かれたりしている。そんなものを見ながら約30分ほど登ると画像にあるような砂防ダムに着くことが出来る。幅、高さともに5メートルほどのあまり大きな堤体では無いが、見ての通り渓畔林に色濃く覆われたところにあるため音は響かせやすい。光の面から見ても暗くなっており、しかしながら堤体本体の水通し部分は日の光を浴びて輝いており、気分的な安らぎを感じながら音楽を楽しむことが出来る。

矢印のマーキング。
砂防ダム手前は渓畔林によって暗くなっている。

やはり適度な降水量が必要

戸田峠をはさんで反対側、桂大師上流の砂防ダムは伏流であったが、ここはかろうじて、わずかながら、水通しを越流し落水する形で水は流れている。この感じだと、雨が数日降らなかった場合では伏流も考えられるが、当日は運良くギリギリ水が流れ落ちる状態の堤体を見ることが出来た。今年のゴールデンウィークはよく雨が降ったということもあり、このような状態の堤体に巡り会えた。雨の少ない冬期よりもこれからの時期ますます面白くなってくる場所であろうと思う。当地を訪れる際はくれぐれも安全装備でけがの無いよう登っていただきたい。

さらにもう一つ上に一基あるがこちらは明るめ。
サワガニがシーズンイン。


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