12月16日、沼津市戸田。
午前10時、食堂のオープンを待つ。
久々の戸田グルメである。期待感に体が前のめりになる。
躯を支えるのは港町の潮風にてやや風化している手すり。風化とはいっても表面がザラついているくらいで、脚はしっかりしている。
しっかりした脚で支えられつつ、静かに待つ。
海も空も穏やかだ。
海についてはこの地が戸田湾という湾内であるというところから。空については、気温の変化に乏しい空・・・。
曇天の。
寒さはあまり感じられない。気温は21.2度もある。
今日は、なのか?今日も、なのか?
まだ冬の季節を迎えるには早いようで、遠く対岸に控える山々の落葉樹は、未だに葉っぱを残してきれいに色付いている。
まさか、この時期に・・・。
砂防ダムを相手に遊びをやっている手前、屋外で過ごす機会に恵まれて、そのなかで想像だにしていなかった自然の変化に遭遇することは間々ある。
肯定的なことも。否定的なことも。
自身の場合は肯定的な場面に遭遇することが多いような気がする。
けっして悪いことばかりでは無いのだから、フィールドに出掛けることがやめられない。12月下旬に紅葉が見られるなんて思ってもみなかった幸運。
このあとに控える厳寒期。しかし、今日は晩秋のゲームが出来そうだ。
暑すぎず。寒すぎず。胃袋も絶好調。
そろそろのれんが掛かる頃だと、店に向けて車を走らせた。
魚重食堂
やってきたのは魚重食堂。
前からいちど来てみたいと思っていた店である。
沼津市戸田は戸田湾、さらに広くは駿河湾、太平洋に接している地域とあって、様々な食に接することが出来る。
飲食店の営業が盛んな地域で、それぞれの店が得意分野を持っている。カニ(タカアシガニ)が得意な店、生の魚が得意な店、揚げ物の魚が得意な店、深海魚が得意な店、加工食品の入った小鉢をたくさん出してくれる店、食べるばかりで無く抜群の眺望が用意されている店。
海産物が苦手だという人も、ステーキやハンバーグを用意してくれる店があるし、中華料理屋もある。
そう考えれば何でもある。
ちなみに、本日たずねる魚重食堂は深海魚料理を得意としている店だ。
時刻は午前11時05分。若干の緊張とともに店ののれんをくぐる。
意外にも先客はおらず、静かな店内に通してもらった。
ほとんど迷うことなく注文したのはゲホウ天丼と銀ザメの刺身。
店の姐さんから水、お茶はセルフだと教えられ、入り口すぐ横にある給茶機より、ちょっとぬるくした煎茶をいれて席にもどる。
席にもどる動線に続くのは後続の客。
店内が賑やかになってきた。次々に埋まってゆく座席を横目に見つつ、料理の出来上がりを待つ。
「ちょっと時間がかかる。」とあらかじめ伝えられたゲホウ天丼を待つあいだ、先に銀ザメの刺身が到着し、続いて後続の客らの料理が先に配膳された。
こちらはさっそく銀ザメの刺身(←これが食べられるのは割とラッキーらしい。)に先に箸をつける。
銀ザメの濃い味に感動しつつ、ゲホウ天丼の出来上がりを待つ。
ようやく、盆に乗った高く掲げられた椀が運ばれてきた。
後続の客らからは、冷やかし半分の喚声が上がるほどに高く掲げられたゲホウ天丼。
早速、頭の部分からいただいてみる。
頭は根魚系の素揚げにほぼ等しい。ほぼ、という程度の違いは根魚のそれよりも骨がだいぶ柔らかいことだ。たとえば同等サイズでカサゴだったら、噛み砕くのに相当な力が必要だと思うが、それよりはかなり容易いと思う。
そして身のほうはというと、淡泊な白身。他魚種との比較は無かったが、臭みも無く食べやすい。
味がしっかりしているあたりは、漁獲から調理されるまでにかかった時間がそれほど長くない証であろう。身焼けなどとは無縁の、新鮮な魚を口にすることが出来てよかった。
アカメガシワ
正午。魚重食堂を出て入渓点に向かう。
まずは「戸田三叉路」。戸田三叉路という名の十字路???より東進。道は静岡県道18号線。この静岡県道18号線を3.2キロほど進むと戸田大川に架かる達磨橋。達磨橋はわたらずに戸田大川左岸側の林道に入る。
林道はいってすぐにはシキミ畑。さらに100メートルほどで戸田大川には堤高5メートルほどの堤体。
堤体があるものの、戸田大川の河床より林道のほうがかなり高い位置を走るのため走行に支障はない。但し、堤体の堆積地以降は高木層の木々の樹冠位置が高くなる影響で、道が若干暗くなる。
ツブラジイ、クスノキ、スギといった木々の樹冠が天面を覆うために形成される暗がりに見舞われていたところであったが、ここで新たな発見があった。
暗がりの下で黄色に輝く黄葉。アカメガシワだ。
アカメガシワといえば、荒れ地に生える先駆樹種(パイオニアツリー)の代表格。
この戸田大川の改修工事、もしくは大雨による撹乱によって当地に芽を吹いた一株は、今や大木となり、常緑樹の樹冠の下の暗がりで漏れるように降ってくる天からの光を受け黄色に輝いている。
こちらからは、下から見上げるようにして見ているのでは無く、上から見下ろすようにして見ている。立木相手であろうとも、林道のほうが少し高い位置にあるからだ。
葉裏側のちょっと控えめな黄色では無く、葉表側の鮮烈な黄色。
この一年、港町の潮風に、猛暑に耐え続けた一枚一枚の葉の逞しさ。力強い黄色は平凡ではない環境の中から生み出された賜物か?
想像だにしていなかった美しき自然の変化がまた、ここにあり。
看板が目印
午後12時半、場所は達磨橋から約300メートルほど林道はいったところ。
林道に三叉路があり、近くの道幅広くなったところに車を駐車した。
装備を纏い、入渓へ。入渓は「落石注意」の看板が目印。看板の裏の竹藪から戸田大川に向かって降りていく。
ほどなくして、川に降りることが出来た。
堤体は川に降りてすぐ上流に見ることが出来る。
堤体名は不明。副堤付きの堤体で、その副堤一番低いところから主堤の放水路天端までの高さが7~8メートルほど。袖天端はプラスで2メートル程度。さらに高いところにあるのが林道で、袖天端よりプラス1メートル程度。
したがって、堤体水裏側の河床から林道までの高低差はおよそ10~11メートルほどある。
当日の水量であるが、かなりの減水状態。かろうじて湛水できているほどしか水が流れていない。しかし、前日に雨が降っていることを考えると、これでもラッキーだったのかと思えてくる。
そして水について気になるのが左岸側の水抜き1カ所からの落水。
堤体水表側の堆積地に、水抜きを末端とする流路が出来ており、流れる水の多くが集まってしまっている。
集まった水は堤体水裏側においては下向きに、しかし棒状放水。副堤の水叩きに落水し、特に目立ってノイズを発生させている。
抱いたイメージ
午後1時、まずは試しに声を入れてみる。
問題は無く。極めてよく響いている。
堤体左岸側の棒状放水の水も特に気にはならない。
ここの堤体前は、音が溜まるような感覚をとくに得られる。
①河床が洗掘作用によってよく掘られていること。
②①に伴って、左右両岸垂直に近い角度で壁状になっていること。
③左岸はとくに高低差が大きく、林道までで10~11メートル。さらに、落石注意の崖上まで含めると河床からの高低差は20メートル以上。
④渓畔林においては高木の常緑樹が目立ち、樹高が20メートルほど。
①~④をまとめれば、下がる(掘られている)ところはとことん下がっているし、高いところにあるものは高いところにあるもので留まっている。
堤体前の縦方向に大きく変化する地形のなかで、その底辺部分から出した声については簡単には失われることがない。音は壁状に囲われた空間の中から逃げていくことが出来ず、徐々に解き放たれていくようなイメージ。
良いイメージを抱きながら遊ぶことが出来た。
久しぶりに来てみた場所であったけれど、なかなかどうして鳴ってくれる堤体前。気温の面でも暑すぎず。寒すぎず。過ごしやすくて午後5時前、夜の帳が下りる寸前まで遊んでから帰ったのであった。