山のタコ焼き屋

堤体は方角に応じ時間設定をして入るとよい。

秋めいてきた。
自宅のある沼津市も最高気温25度以下の日が多くなり、日中でも過ごしやすい日が増えてきた。
今回は日中のゲームを紹介しようと思う。

こちらは夕方、日没前に遊ぶのとは違い、太陽の向きを気にしながらのゲームとなる。真東方向から南向きの方角を経て真西向きまでの堤体で楽しむことが出来るタイプの遊びだ。

この方角ならば午前中とかこの方角ならば午後とか、入るべき時間が限定されているところに面倒臭さのようなものを感じるかもしれないが、太陽の光がどちらから当たるかをしっかりとマネジメントすることで、歌に対する集中力をグッと上げることが出来る。

より魅力的な時間の堤体に接するためにも、最も理想的な立ち位置に立つためにも、堤体の方角に応じて現場に入る時間を設定していきたい。

では、今回入った堤体の方位は262度。西南西向きの堤体であったのだが果たして・・・?!

広瀬ダム

広瀬ダムへ

10月17日、午前9時。山梨市三富川浦、広瀬ダム。
ロックフィルダムの頂上に設けられた管理用道路を歩く。気温は18.7度。
日の光を遮るものが何もない管理道路上は、日なたとはいえ長袖を着ていないと寒い。

さらに風も多少吹いていたので、風よけにとレインジャケットを着こんでから芝生広場に向かう。
ローラーゲートの塔、管理事務所の前を通りすぎ芝生広場へ。

芝生はきれいな緑色。垂直にそびえ立つケヤキの色はまあまあ黄色。イロハモミジは緑から赤へと移行期間中。サクラ、シラカバは完全な色彩変化を前にしてパラパラと落葉を始めている。クリ、トチノキ、フサザクラはピクリともせずきれいに緑色。色鮮やかに見頃を迎えているのはリョウブ、ニシキギ、ドウダンツツジ・・・。

結論。今が見頃かどうかと聞かれれば・・・、

「樹種によります。」ということになる。

前半戦。

前半戦と言うのが適切ではないかと思う。
紅葉シーズン前半戦のダムサイトを歩いた。

広瀬湖
四阿
紅葉はまだ前半戦。
芝生広場を上から。

道の駅みとみ

午前10時半、車を走らせてやってきたのは「道の駅みとみ」。
建物はアーチ型のダイナミックな屋根に覆われた比較的大型の道の駅だ。
そのダイナミックな屋根の上はるか向こうには、木賊山(とくさやま標高2468メートル)と鶏冠山(とさかやま標高2115メートル)が見える。

車を降りて建物に向かう観光客はその美しき山体に目を奪われ、みな一様にスマートフォンを取り出しては写真を撮る。
自身もご多分に漏れず、やはりスマートフォンを山に向けて、道の駅の建物ともども写真に収めた。

そしてトイレを利用させてもらったのち、入渓前の腹ごしらえ。
建物の店先にある看板からメニューを選んでいると、あっちの看板とこっちの看板で書かれているメニューの内容に違いがあることに気がついた。

なんと!この道の駅には2軒の食堂があるようだ。今だかつてこのような道の駅は記憶にないと思う。
2軒分の豊富なメニューの中から吟味させてもらって選んだのは「富士桜ポークカツ定食」。

食味はカツ本体、もちろんこの上なく美味かったのだが、嬉しいことに青ぶどうが付いてきた。皮までまるごと食べられたこの青ぶどうはいわゆるシャインマスカットなのではないかと思われるところ、その美味さには感動した。

果物王国、山梨県にて偶然にもたらされたラッキー。さい先がよい。

道の駅みとみ
富士桜ポークカツ定食
道の駅内
ジャンボかぼちゃが並んでいた。
さすがは果物王国。

西沢渓谷・市営駐車場へ

食後は道の駅の食堂以外の部分、観光情報コーナーや土産物店などを散策。
そして正午に道の駅を出発。

車を走らせて5分とかからない距離で、西沢渓谷・市営駐車場に到着。

本日はこの西沢渓谷・市営駐車場より歩きをスタートし、まずは散策路にしたがって行く予定。入渓は途中にあらわれる笛吹川支流の「ヌク沢」から。そしてヌク沢から笛吹川合流点に移ったのち、笛吹川を北西方向に遡行。西沢と東沢の出合にて西沢側に進路をとり、直後にあらわれる堤体に入るというのが予定のコースだ。

堤体の方位については前述の通り、西南西。午前中より入渓せず午後まで待ったのはこのため。

また、ヌク沢到着までの散策路の歩行については、距離が比較的長いためスニーカーを使用する。ウエーダーの着用についてはヌク沢からとなるため、現地までは背負子にウエーダーを搭載し、持ち運ぶこととした。

西沢渓谷・市営駐車場

堤体前へ

午後12時30分、西沢渓谷・市営駐車場を出発。
ドライブイン不動小屋の前を通過し、国道140号線西沢大橋の巨大な鉄橋をくぐり抜ける。
鉄橋の下を過ぎてもなお日陰気味でまあまあ暗いのは、散策路を覆いこむようにして生える樹木類のおかげ。

イヌブナやホソエカエデ、サワグルミなどは寒さに強いから当たり前に思えるが、静岡県でも見慣れているヤマハンノキやトチノキなどもまだぜんぜん青々としている。

暑すぎず、寒すぎず。

これだけ樹木の葉がしっかりと残っていて、暗がりを作れるポテンシャルを持っているのならば、堤体前は演奏施設として最高の環境であるはずだ。また、それだけにとどまらず、緑に覆われた散策路をこうして歩き、堤体前まで向かうこのひとときもまた、じつに心地良い。

散策路のみどころの一つである「なれいの滝」を眺望する「なれい沢橋」も過ぎると大嶽山那賀都神社まえの分岐。立派な公衆トイレも設置されているこの分岐を直進すれば、ようやくヌク沢に到着することが出来る。

散策路の隅っこに背負子を降ろし、くくり付けていたウエーダーを外して、スニーカーから履き替える。
逆にいままで履いていたスニーカーを今度は背負子にくくり付け、ふたたび担ぎなおす。

いよいよヌク沢に向かって降りる。高低差はおよそ20メートルといったところか?
沢に向かって高度を下げる踏み跡がしっかり付いているのは、ヌク沢にある2基の谷止工のためとおもわれる。見るため、あるいは写真撮影のため沢へ降りる人がいるらしく、はっきりとした踏み跡が付いている。

踏み跡にしたがったおかげもあり、たやすくヌク沢まで降りることが出来た。やはり谷止工を写真撮影したのち、笛吹川との合流点に向かう。笛吹川の合流点へは目と鼻の先の距離ほどしかないため、こちらもすぐに降り立つことができた。

笛吹川に出てからは、川の流路形状にしたがっておおよそ北西方向にすすむ。平均して大玉スイカくらいの石がゴロゴロしている中を転ばないように注意しながら進み、東沢、西沢の出合にて西沢を選択。そして出合より100メートルもないくらいの距離を進むとようやく目的の堤体前に出ることができた。

樹木の下を歩いて行くのが気持ちいい。
サワグルミ
イヌブナ
ヌク沢の谷止工
こちらは東沢の堤体と二俣吊橋。
笛吹川。(ヌク沢との出合付近。)
思わず立ち止まる。木はナナカマド。
目的の堤体へ(堤体名不明。)

記憶に思っていたそれより・・・、

腕時計に目をやると時刻は午後の2時。予定では市営駐車場より30~40分の行程にて堤体前着で、1時ちょうどから1時10分ころにはこの場に立っている算段であった。
しかしながら行程途中の道くさ(多くは植物の観察。)に時間を費やしてしまい、到着が遅れてしまった。

本日えらんだのは、おおよそ真西方向を向く堤体であるから、通常午後の2時くらいでもぜんぜん遅すぎることは無いはずである。しかしながら、記憶に思っていたそれよりも全然違う景色が目の前には広がっており、堤体の上、遠く向こうの山の山体は右岸側に向かって大きくせり出している。

北半球に位置する日本という国では、通常(通常という言い方も変かもしれないが?)、太陽は左から右に向かって放物線を描くように移動する。そのことを理解した上でいよいよ落ち着き持っていられなくなっているのは、放物線が正午を過ぎているため下降の動きに入っていて、今にもせり出した山の山体に吸い込まれてしまいそうな状態だからだ。

太陽の直射日光が失われてしまってはもはや粗鹵迂遠。

いや、例えるならばもうすっかり冷めてしまったタコ焼きを売る屋台の惰性的営業に近い。
声を掛ければそれなりにお客を楽しませてくれるかもしれないが、扱っている商品の品質から見れば、やはりそこは“それなり”のものを受けて終止する。店主のせっかくの楽しいトークも商品によるマイナスが大きく、全体的には残念ながら評価が下がってしまうということになる。

急いでメガホンをセットし声を入れてみる。

鳴らない。

立ち位置の選択性が高く、前にうしろに声を出す場所を変更することが出来る。うしろに下がれば、堤体まで声が届きにくくなる。逆に前に出れば、声のはね返るスピードに耳が追いつかず響きとして声を聞くことが出来なくなる。

うしろに下がったり、前に出てみたり・・・。立ち位置を変えてみては声を入れていくも、芳しい結果が得られない。

時間が無い。(午後2時撮影。)
冬至をおよそ2ヵ月後に控え、太陽の高度が下がり気味なのも要因。(日没が早い。)
放水路天端
もはや吸い込まれる寸前。(午後2時50分撮影。)

堤体の持つ生命感

その後も立ち位置の変更、メガホンパーツの変更、メガホンの持つ向きの変更などいろいろやってみたが、これといってはっきりとした響きを得られることは出来なかった。

仮説にしかならないが、もう少し水が落ち着いてくれれば落水のノイズと声とのバランスが良くなり、歌い手自身、負けず劣らずの感覚のなかで声を発していくことが出来るのではないかと思う。

あとは堤体前における風。この日はほぼ無風という条件の中でやったが、これが前から後ろからもっとビュービュー吹いて、堤体本体、またその向こうの景色の奥先まで声を送り届けてくれたなら、もっと違う結果があったのではないかと思う。

逆に良かった点を上げるならば、山の山体に太陽が吸い込まれるまでの間、堤体を湛水する水に太陽の光があたって光る様子を見て楽しむことが出来た。

太陽の光があたるところ。

逆に影になって暗いところ。

両者の明暗の差を歌い手がひとつの視野の中に取り込むことで、堤体の持つ生命感のようなものを感じとることが出来た。(おいしい思いは出来なかったが、タコ焼き屋のイイ香りを嗅ぐくらいまでだったらなんとか出来たと思う。)

山の山体に太陽が吸い込まれていったのは午後2時55分頃のこと。それまでは響かないながらも声を入れていくという行為を試みて、以降1時間ほどはメガホンを置き、堤体周辺の渓畔林の様子を見てまわった。堤体前をあとにしたのは午後4時前のことであった。

~90ヤードで、河床もほぼフラット。立ち位置の選択性が高い。
午後2時12分撮影。
午後2時52分撮影。
退渓時に撮影。リベンジを誓ったのは言うまでも無い。

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