ワニの背中

ワニの背中(イリエワニ)

今回は、雨が降ったので雨の日対応ということでお送りする。

演奏施設となる堤体前。その堤体前に出かける折りに、毎回調べるのが当日の天気。

晴れ予報の日。くもり予報の日。雨予報の日。

行き先を決める判断基準のひとつとして、天気予報のデータを参考にしている。

―この日は晴れるから、○時頃にこっち向きの堤体に入りたい。―

とか、

―この日はくもりだから、午前中~午後早い時間は周辺環境の観光地で過ごして、日没前に夕方ゲームで堤体前に立ちたい。―

とか。

あらかじめ空の状況を予測して、その通りうまくいったときの喜び。これ以上のものは無いであろう。

では、そのように行く日の天気のことを完璧に知った上で、思ったような状況の堤体前にいつも立たせてもらえるかというと、これがなかなか難しい。

まず、渓行の計画はどれくらい前からという点。直近では1週間前。長いところでは1~2カ月以上も前から、どこの堤体に行くかと決める。

問題となるのはやはり天気予報なわけで、1週間以上も前から当日の正確な天気を知るということがなかなか難しい。

宿泊先の予約もリュックサックもおやつもバッチリ済ませて、いざ当日~

雨。

なんてことは、誰しも学生時代の修学旅行から経験してきたことではないだろうか?

雨が降ったら雨の日対応で活動を行う。

雨が降ったら中止にするのも一つの選択肢。

重要と思われるのは、歌い手自身が納得するかたちで当日をおさめるということ。

雨の降りしきる中で楽しくゲームができた。

雨が降って堤体に向かわなかったから、事故から免れることができた。

そう考えると、行くのか?行かないのか?もはや、その判断を行う地点からこの遊びは始まっているとも思えてきた。

熱川バナナワニ園

熱川バナナワニ園

2月23日、午前9時。

雨予報ということで向かったのは賀茂郡東伊豆町「熱川バナナワニ園」。

まずは当施設に留まりながら、雨の様子をうかがうことに。

入場チケットは本園ワニ園にて購入。

今回で3度目の訪問となったバナナワニ園。

本園ワニ園と植物園、国道135号線隔てて反対側にある分園。計3園あるうちまず向かったのは植物園。

バナナワニ園3園のうち最も展示が多く、経路も長い。よって、ややもすると。人によっては。体力勝負になりかねない?!植物園から見学をスタートすることとした。

先ほど購入したばかりの入場チケットを入り口にて提示し、温室内へ進む。

1号から8号まである温室内には所狭しと植物が展示されている。各温室にある引き戸の出入り口は、室内の温められた空気を逃がさないようにするための工夫だ。

温室のガラス越しに、屋外の雨を見ながら通路を進んでいく。

湿気を帯びている。

空気は。

それも、においを伴っている。

これは、甘いにおい。とか、美味しそうなにおい。とか、そういった類いのものでは無く、本当に生きた植物たちの呼吸するにおいだ。

「植物園」の看板を掲げているが、「テーマパーク」としての機能も併せ持つ。

所狭しと植えられた植物により、通路は圧迫され歩きにくい。レジャー施設の中にいるはずなのに、自らの鼻は草木の呼吸のにおいに詰められ、視界は熱帯性植物に遮られて妙にドキドキしてしまう。

居心地としては絶対というまでに良い感じはしない。しかしながら、逆にこんなにもドキドキさせてくれるあたりはむしろテーマパークとして優れているかな?と。

1号温室のブーゲンビレア
インコは温室間の屋外通路に展示。
ネペンテス
カラテア・マコヤナの葉

ワニ園へ移動

午後12時10分、植物園からワニ園へ移動。

こちらもやはり植物園同様、屋根付きの施設。ワニ池のある大型ドームは植物園の各温室とは打って変わって明るい雰囲気。

ワニ池に使われている温泉(加水調整済み)は伊豆のスタンダード、ナトリウム―塩化物泉で匂いは少なめ。

数多の猛獣が棲んでいるこちらの棟のほうが、植物園よりドキドキのかけらも無くあっけらかんとしている。

人々はみなリラックスムードで写真撮影などに興じている。

冒頭画像のイリエワニ
表面はいかにも固そうだ。
クチヒロカイマン
ホウシャガメ

雨の影響か・・・?

午後12時50分、いったん昼食を摂るためバナナワニ園至近の食堂に入ることに。昼どきということもあって店はウエイティングボード対応。名前を書いてしばし待つことになった。

ほどなくして、店の中へ通してもらった。通す前の段階で、「お時間かかりますが、大丈夫ですか?」との事だったが、二つ返事でかえす。雨の日のゲームでは太陽の位置を気にしなくていいのだ。

満席に埋まる店内。ここに入る前、向かいの「ますみ食堂」もちょっと覗いてみたけれど、やはりかなり混んでいる様子であった。

雨の影響か・・・?

伊豆半島各所、様々な観光スポットがあるが、雨の日でも楽しめるというところは意外と少ない。

殊に東伊豆町というところでいえば、ここ以外にはほとんど思いつかない。あとは、イチゴ狩りのハウスか土産物の物販スペースくらい。屋外で温暖な気候を堪能できる場所が多いという点で、雨が降ってしまうと逆に都合が悪くなってしまったりするのは難しいところだ。

ほとんど傘をささなくてよい、雨をしのげる場所としてバナナワニ園の存在は大きい。

入渓前に立ち寄らせてもらった、貴重な待機スペースであった。

うめや食堂
アジのつみれだんご汁定食
今回の訪問で多くの時間を費やした8号温室。
オオオニバスの浮く池
カランテ
パフィオペディルム・ルヴィガテム
カトレア・グアテマレンシス
オンシジューム・スプレンディウム
パフィオペディルム・スピセリアヌム
コルクに着生したランのなかま。

堤体に向かう

午後1時40分にうめや食堂を退店。

午後1時50分、依然として止まぬ雨の中、バナナワニ園の駐車場を出発。堤体に向かう。(今回、分園は時間の都合でスルーすることに。)

本日入る沢は熊明川。

バナナワニ園の駐車場を出て、奈良本の丘陵地帯を登っていく。ところどころに現れる源泉井のやぐらは当地域ならではの光景だ。

ストロベリーファーム太田農園、自性院、間当橋などを越えて、奈良本分譲地の最終民家を越えると道は林道の様相を呈す。

熱川ウインドファームの風車群を見ながら林道を登り続け、「林道大川小溝線」の看板にて右折。右折したあとは3.7キロの行程。坂を下るようにして進み、※ブルドーザー道のバリケードを見つけたら近くの道幅広くなったところに車を駐車する。

※バリケードには午後3時に到着。計算上、1時間10分の行程となるが、これは写真撮影等の時間も含む。バナナワニ園~バリケード間の距離は16.2キロであるため、通常は1時間未満の行程で到着することができる。

町内のいたるところに源泉井が。
間当橋
熱川ウインドファームの風車
「林道大川小溝線」の看板

雨で増水すると・・・、

午後3時、車から降りて入渓の準備。レインバイザーを装着し、雨の中でもしっかり目が開けられるようにする。

ほか、ウエーダー、レインジャケットなどはいつも通り。

午後3時10分、バリケードのわきを通って熊明川に沿うブルドーザー道に入る。

本日入りたいのは、熊明川の7基ある谷止工群のうち下から5基目。7基の下流側にある堤体ほど建造年数が古く、上流側ほど若い。バリケード通過直後に現れる1基目、昭和61年造の谷止工周辺は渓畔林が濃く、ブルドーザー道からの視界がはっきりしない。

谷底の熊明川をはっきり目視で確認することが出来ない。しかしながら、明らかにこの川が増水しているということをその轟音から判断することができる。

普段は本当にチョロチョロとしか流れていない川。源頭となる箒木山の頂上からは1~2キロと距離が離れていない最上流部の谷止工群は、雨で幾らか増水すると良い案配になる。

ブルドーザー道にしたがって歩き、2基目から4基目の谷止工もクリア。

午後3時半、目的の谷止工に到着。

バリケードのわきを通ってすすむ。
ブルドーザー道
下から2基目の谷止工
目的の谷止工に到着。

ワニの背中

水は降雨のおかげもあってよく流れている。

あらかじめ決めていた立ち位置は、ブルドーザー道の終点のようなところで一段高くなっており、増水した強い流れから逃れることができる。

立ち位置から堤体までの距離は62ヤード。高低差は目視可能な堤体基部まで推定10メートルほどあり、大型ダンプのタイヤサイズくらいの石で構成される段差渓。

流路は谷止工下流部よりほぼ直線的に下っており、段差渓でノイズを発生。堤体前はかなり騒がしい。

メガホンをセットし声を入れてみる。

鳴らない。

やはり、目の前に広がる段差渓のノイズが、堤体前の音環境を支配してしまっている。

ひとつひとつの段差から生まれるノイズの強さ。プラスしてその範囲もタテおよそ50ヤード(約45メートル)×ヨコ約10メートルほど。

単純計算で約450平方メートル。ワニの背中よろしい段差渓から発生するノイズはあまりにも音を響かせるのに難しすぎる。

背中の凸面に立つなどして立ち位置の変更もしてみたが、これはむしろノイズ発生源との距離を近め、さらに暗澹とした。

渓畔林はしっかり生えているものの離れすぎている。音を響かせるのに有利なのは、左右両岸ともにもっと川の中央に切れ込んでいてお互いが狭まった状態。横方向に空間がポッカリ空いていて、何の引っかかりも無く、音は外の空間へと逃げていってしまう。

矢印部分を立ち位置とした。
段差渓はワニの背中のごとく。
騒がしい中でも意識は堤体本体に。
銘板

退渓へ

午後4時半、退渓することに。

音が響かないながらも、この場に来て歌えたことはよかった。

まずは堤体前に立てたこと。

これは運が無ければ成し得なかったことである。雨が降っているというなかで、過去に拾ったデータから現場の今日の状態を予測して、実際にこの場に来てとりあえずは声が入れられたこと。

雨がもっと大降りであった。風がもっと強かった。中止にせざるをえない状況に陥った。ということにならなかったのは、運が良かったことに他ならない。

今日の状況では音が鳴らせなかった。しかしながら、今日のこの雨はやがて止み、川の水量は間違いなく減少に転ずるであろう。

では、そのとき歌ってみたらどうなるのか?

今日の結果は今日の結果でしかない。落ちこむことも無い。

鳴らせるチャンスはきっとあるはずだ。

距離は62ヤード。
ほぼ真西向きの方角。
追い風で微風。
運に恵まれて立つことが出来た。
堤体前。上流側から見たようす。
今日の結果は今日の結果でしかない。

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