11月になった。朝晩の冷え込みも徐々に感じられるようになり、いよいよ秋も本番。これからの時期は紅葉が楽しみである。
ホームセンターの園芸売場というのはこの時期、とても華やかである。これからの寒い時期、育てるのが通例となっているパンジーやビオラで売り場は色鮮やかだ。さらにさらに厳しくなる今後が控えているというのに、この花たちは寒さに対して強く、枯れることがない。同種らはもともとヨーロッパで自生していたサンシキスミレの交雑種であるとのことだが、気温が低い環境下、強い耐性を持って生きる植物を人工的に作り出してしまうあたりに同地域の民族性の豊かさを感じる。19世紀の音楽界で言えばロマン派の頃の出来事であるというから、この頃のヨーロッパがさまざまな分野において、娯楽の創造に熱心であったのだと感じると同時に、そしてそれが200年先、現在の世の中でも通用するレベルのものであったということは驚きである。
冬の寒い時期に、あらゆる植物が休眠状態に入りこむ中、そんな中でも元気に育ち、人々に楽しみを与えてくれるものを開発していった結果が今、こうして目の前に色とりどりの色彩となって現れている。
冬の娯楽要素
私の出身は新潟県。冬の間は雪が降る。雪の降る町に生まれたから、この時期に、「よし、これから花を。」という、この時期の花屋としての・・・?
けっしてこれが簡単では無いのだ。たしかに新潟にもパンジーやビオラはあるが、ある意味、大げさに言うと、恒温動物として生命の危機に瀕する雪の時期。そういう中にあって花を楽しむという娯楽的要素がちょっと、どうも・・・。なのである。雪の降る日は家の中でストーブやコタツの暖かさとともに、それをしのぎきることが出来れば十分ではないかと考えている。
窓の外は一面冬景色。全てが白!白一色で“色彩”などというものは存在しない。正月、関東の親戚の家に遊びに行った時に見るような、からっ風で立ち枯れした草木の姿は、それですら自分にとっては色彩であった。冬の或る日、黒ボク土で靴を汚しながら桑畑の中を走り回ったことが思い出される。
グリーンのネットフェンスが
画像にあるこのグリーンのネットフェンス。皆さんの住む町の中にもこのフェンスは当たり前に見られると思うが、実はコレ、私の出身地の新潟県では極端に少ない。(・・・かったように記憶している。学校と道路の境界線などは意外と多い?)少ない理由の考えられることとしては、やはり雪で、雪の持つ水分によって鉄が錆びる。また、雪の重みによって変形する。雪の重みで言えば、降った雪のそれのみならず、屋根からの縦方向の急激な衝撃もあるし、除雪車による横方向からの圧力もある。
考えただけでも、鉄製のネットフェンスは雪との相性が良くない。
建物の境界線はフェンスを使わずに、ブロック塀だけとか、生け垣によって表している。公共施設、アパートなどの建物、駐車場を区切るのに、鉄製のフェンスを使っている例は一定程度あるが、画像にあるような鋼鉄製のグリーンカラーのものはほとんど見かけない。
したがってこれを見ただけで、―あぁ、故郷では無いところにいるのだな。―ということがわかってしまうのだが、なんというかコレ・・・、好きである。自分にとっては「非雪国」を象徴する景色の一部であるから、もはやこれを見ただけで、冬でも外で遊べるのだという期待感が頭の中を巡るからであろう。
大鍋に
11月14日。大鍋川の砂防ダムに入った。国道414号線から大鍋入り口の看板を西方向に入って(県道115号線)4キロほど行くと画像にあるようなガードレール製欄干の橋(門前橋)に出られる。橋の手前側100メートル程度のところに防災無線の電柱が立っており、当日はその電柱のあたり、道幅の広くなっているところに車を停めた。
車を降りて準備を済ませた後、まずは橋まで歩く。橋を渡って直後を左に曲がる。そしてまた100メートルほど歩く。
すると出た。ワサビ田をぐるりと囲うようにしてグリーンのネットフェンスが立てられていた。ワサビは半日陰の環境を好むため、ヤシャブシの木がところどころ植樹されている。それにしても、このライトグリーンというか、明るめのグリーンカラーは植物との対比におけるバランスが秀逸である。植物の持っているグリーンとフェンスのグリーンとで思案的には喧嘩しそうなところであるが、実際はとても調和されていてカドが無い。色彩的に精神を毒するものが無く、見ているこちらは非常に穏やかな気持ちでいられる。今こうして何事も無く、ここに立てられているが、この色を決めるのには恐らくは多数のサンプルを試したか、改良を重ねていった末の結果なのかと勝手に思ってみたりした。たかだかネットフェンス一つの話しであるが、自然界という莫大な長さの伝統を持った色彩の中に、人間の作り出した“色”を放り込むのであるから、その作業はけっして簡単なものでは無いはずだ。
大鍋のもつ暖かさ
のどかな田園風景を満喫しながら川沿いに植えてあるクリの木の下に入り、入渓する。堤体は入渓点から300メートル程度遡ったところにある。今年は大きな台風が2本、河津町を襲ったため、ここの“島”は流されたりしていなかったかと心配していたが、大丈夫であった。アカガシの巨木の根によって島の土は支えられ、両岸の河床も崖も渓畔林も見事にその姿を留めていた。この日もまた、小一時間ここで音楽を楽しむことが出来た。
河津の砂防ダムはどこに行っても楽しい。それは音楽の演奏場としての砂防ダム周辺空間が非常に優れていることもさることながら、その砂防ダムに行くまでの行程がまずどこも素晴らしいからである。この大鍋の巨大堤体に行くまでに関して言えば、直前の田園風景、また国道414号線から約4キロ区間の農村の風景がとても暖かい。たしかに気温が低くなるはずのこれからの季節にあってもそうなのだ。