今日(2月13日)は足柄SAからスタート。
午前中は雨が降っていた。それも昨日の夜から断続的にである。午後からは雨がやんで、一転晴れるというので足柄SA下り線に待機していたのだった。
祈るような思いとともに迎えた午後0時。空は予報通り、突然、快晴となった。前回、寒沢川と金時川に入っているが、今回は金時川のさらに北側のエリアを攻めるつもりで来ている。天気が回復してくれたことで、気分的には少し楽になった。
これならば目的地までのドライブだけでも楽しむことは出来そうである。問題があるとすればそこから先で、午前中まで元気に降っていた雨の影響をうけ、渓行が思ったように出来ないのではないかという不安を抱えている。
足柄SAを出発。桑木の集落に向かって坂を下り、JR御殿場線を見る。いったん桑木踏切をわたり、直後の新金時橋前で車を停車。橋から鮎沢川の様子をうかがうと、水量はそれほどではないものの水が濁っている。やはり渓行は厳しいか?それならば路上から谷止工相手に歌おうかと考える。
―沢を歩くのが危険というならば、沢に降りなければ良い。―
川をチェックしたあと、1枚画像を撮った。鮎沢川は金時山山麓北側を回り込んで酒匂川となり、最後相模湾に流れ出す静岡→神奈川の越境河川である。水の流れとしては県境に向かっているので不思議な画が撮れた。川が山の方向に向かって流れているように見える。
コースの一部
新金時橋前を出発し、JR御殿場線に寄り添うようなかたちで北に向かって車を走らせる。前回、行脚した金時川より北側には順番に、山沢川、地蔵堂川、滝沢川、大沢川といった川が控える。どれも流れに太さの無い、川というよりは沢に近い程度のものであることは地理院地図の情報からすでに明らかであるが、期待感は決して低いものでは無い。
新規開拓では何が起るかわからないはずだ。
であるから、本当は山沢川に入らなくてはいけなかった。しかし今回はパスすることに。地理院地図を見れば川の流域の大部分がギャツビーゴルフクラブにかかっていて、これはもはやコースの一部というような体で描かれている。別に遠慮することも無いと思ったが、雨後で渓行出来ない可能性ありという点含めて鑑みるとここは素通りするのが吉と判断して通過した。
さらに北に向かって走り、地蔵堂川を目指す。
足柄峠
地蔵堂川へはJR御殿場線の竹之下踏切を渡り、直後に現れる看板のとおり「足柄山古道」経由で進む予定であった。しかし、その看板前の丁字路、足柄山古道方面には「林道通行止め」の看板が。
それならばと、もう一つの地蔵堂川ルートである県道78号線ルートを使おうと右折したのだが、その先のY字分岐でもこれまた全面通行止の文字。
どうやら、地蔵堂川へは入れないようである。こちらの川もパスすることに。
少し焦りながら次に選んだのが県道365号線のルート。地図上に沢は全く描かれていないが、この道は静岡、神奈川両県の県境「足柄峠」へと続く重要なルートのため、谷止工が見つけられるかもしれないという思いで登り始めた。ここでは結局、一番上の足柄峠まで登って、しかし谷止工発見とはならなかったが、峠から下りてきて約4.0キロ地点に大沢川、滝沢川へと続く入り口をそれぞれ発見した。
大沢川の入り口はがっちりゲートで閉鎖されていたため進入出来なかったが、そこからちょっと降りたところにある滝沢川入り口には入ることができる状態であった。
―よし、行こう。―
林道に入ってからは、滝沢川に沿うようなかたちで降りていくことができた。降り始めてすぐにわかったのが、かなり森が傷んでいるということ。土砂崩れの復旧跡はあちこちに見られ、どちらかと言えばその復旧跡の壁のすき間をかろうじて通り抜けている感じ。林道本体が沢からの浸食を受けている箇所があったりして、ヒヤヒヤしながら坂を降りた。
上流部に堰堤を見つけることが出来たが、伏流していたためその後は大して期待していなかった。だが・・・、
だが・・・、
堤体は突然現れた。それは林道脇の土砂崩れ跡が見られなくなり始めた頃のことであった。高さは堤高10メートル程度といったところか?ちゃんと落水も見られる。
悩んだ・・・。というのもここまで降りてくる時に林道から、その脇の滝沢川から酷い土砂崩れ痕を見ていたからだ。気分的にどうも乗り気になれなかった。
ここはいったん「キープ」という判断で、次の堤体を目指すことに。一本東側を流れる大沢川に下から入ろうということで、駿河小山駅前まで降りて800メートルほど東進。入り口には「遊女の滝」の看板があり、かなり整備された道を走れるのでは?と期待したが、まもなく現れた東名高速道路上り線の高架下で、またしても「通行止め」の看板。沢の感じとしてもかなり荒れている様子。
あきらめて滝沢川に戻ることにした・・・。
用水路にふと目をやると
先ほどキープした滝沢川の堤体まで戻った。堤体付近には駐車スペースが無かったため、堤体前を通過しさらに100メートルほど上流の道幅の広くなった所に車を置いた。
車を降りる。
すると、堤体の方から動物の鳴き声がする。普段よく聞くニホンジカの「キャン!」というものではない。断続的に「ケケケケ!」と鳴いているのだ。
―ははぁ、竹の節間同士が擦れる音だなこれは。だましやがって!・・・―
準備を済ませ、堤体に向かって歩く。林道沿いの用水路にふと目をやると、水たまりの中でなにかがピュッと逃げた。イワナかと思ってその逃げたあたりをウォーキングポールで突いてやると足の生えたイワナが下手くそな泳ぎでズズズッと水たまりの反対側に突進した。
ヒキガエルだった・・・。1匹の。
やれやれと用水路を見限り、その後堤体上に到着。
ヒキガエルだった・・・。おびただしい数の。
冬眠から覚めて
たしかにもう立春を9日ほど過ぎ、暦の上では春である。それにしたってまだ2月。寒くて朝おきるのがつらい日もある。屋内だってそんなであるのに、ここは屋外、自然の中。冬眠から目覚めて、元気に鳴きまくっている猛者達のその姿には唖然となった。携えていた温度計で計測してみれば気温15度、水温は10度という条件下での出来事であった。
ヒキガエルの画像を撮り終え、今度は自分が歌うため堤体下に降りる。ヒキガエルたちの旺盛に鳴く姿に触発されてこちらも俄然やる気が出てきた。
選んだ曲はシューベルト作曲のDie schöne Müllerinから数曲。この曲集は私のなかでは冬限定。水車職人の娘に片思いした青年がその自身の溢れる気持ちを表現した詩から曲が出来ている。今年はどれだけこの曲集を歌うのだろうか?と期待して迎えた冬であったが、意外にも出番が少なかった。
堤体を前にしてどんな曲を歌うかは事前に決めていることが無く、その時、その場所で得た気分によって選曲している。素晴らしいとわかっている曲であっても、そのときのシチュエーションに合致しなければパスすることとなる。気分で選んでいるので旧知でおとずれた堤体と新規開拓でおとずれた堤体ではやはり差が出てしまう。
もしかするとDie schöne Müllerinは新規開拓ならではの歌なのかもしれない。
今日は午前中まで雨が降り続いた。そんななかで堤体を前にして歌うことがまず出来た。そこを評価したい。しかも実際に滝沢川という川に来て、その土砂崩れ痕から一時やる気を失ってしまったが、なんとか取り戻すことが出来た。そんな自分自身がなれた、というのはやはりここで待ち構えてくれていたあの早起きヤツらのおかげだと思っている。
ヒキガエルたちに心から感謝したい。