台風19号が過ぎ去った翌々日となる10月14日、堰口川の谷止工に砂防ダム行脚したことを書こうと思う。
10月14日、この日は自家用車のオイル交換を済ませる必要があったため、まずは朝一、そちらに着手。エンジンのオイルフィラーキャップを開けて、エンジンオイルを注ぐのだが、今日の交換ではその手順がやや慎重にならざるを得なかった。なんと、「さぁ、交換だ!」と作業を始めようとしたら、霧雨程度の細かい雨粒が降り始めてきたのだ。エンジン本体内に雨の水滴が入らないよう、ボンネットを屋根代わりにしてガードしながら、できる限り素早く、エンジンオイルを注ぎ入れた。どうやら今日はあまり天気が良くないようである。
情報を元に各地に立ち寄る
エンジンオイルの交換を終え、自宅を午前8時頃、出発。まず向かったのは、田方郡函南町にある道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」。事前に床上浸水したとの情報があったため、被害状況の確認ということで訪れた。国道136号線を伊豆中央道、江間トンネル方向に向かって走り、建物本体を確認。一番先に目に入ってくる道の駅内のコンビニ「セブンイレブン道の駅伊豆ゲートウェイ函南店」は窓から、入り口から、全て白色のブラインドが降りており、閉店していることがわかった。その後、すぐに現れる水色の左折レーンを曲がり、駐車場に入場する。トイレは通常通り“営業”しているようで使用することが出来たが、ゲートウェイ本部のインフォメーション窓口、各テナントが入る建物内部は封鎖されていて入ることが出来なかった。結局、トイレだけ借りて終了、という形でゲートウェイを出発。南下のルートをたどり、伊豆中央道、修善寺道路、天城北道路を経由。次に向かったのは伊豆市市山の旧天城湯ヶ島支所周辺。台風通過当日、私は台風関連の情報をラジオにて収集していたのだが、ここ伊豆市市山がそのラジオのアナウンサーにより何度も連呼されていたのだ。連呼されていた理由は、その爆発的な降水量からで、最終的には12日当日の日降水量は688ミリ、24時間降水量は717ミリ(同観測所における観測史上最多)という数字を叩き出した。その伊豆市市山はどんな状況になっているかとのことで車を降りてみたのだが、国道414号線沿線付近は特に被害らしきものは見られなかった。しかしながら、それだけの猛烈な水の空爆が当日はこの地に降り注がれたのである。市山含め、この天城湯ヶ島周辺の街中もそうであるし、山においては山林、林道内のどこかしらが破損していることが想像できる。事実、その市山にて狩野川に合流する長野川のその最下流部、小川橋~簀子橋間の山の斜面で土砂崩れが確認できた。こういった、あまり規模の大きくないスリップと呼ばれる程度の土砂崩れは、各所で起きているであろう。であるが、今回はその台風の被災範囲の広さと、それに伴っての被災箇所の多さから、この程度の土砂崩れ一つ一つは当然のことながら報道されない。砂防ダム音楽家として、この地域含め、伊豆半島各地の山林、林道、河川構造物等の被災状況が気になっているのであるが、それらに関する情報は自分であちこち出向いて見つけていくしか無いというのが現実だ。このような悩みを持つのは私だけでは無いであろう。山歩きをする人、釣り人、職業者としては自治体の職員、山の調査を行っている人たちなど皆、そうであると思う。伊豆は、国有林も多い。今頃は、関東森林管理局の職員もあちこち飛び回っているはずだ。この令和の時代、情報網が発達した世の中にあっても、山の中の出来事というのは、平成、昭和のころと何ら変わらぬ方法を持ってしか知り得ることが出来ない。事実を知りたいのであれば、自分で“歩いて”探し回るしか方法が無いという不便さが今も昔も変わりない。
しばらく留まったのち市山を離れ、新天城トンネルを目指す。途中、国道414号線でいつも気になっている「出水橋」に立ち寄る。ここは、砂防ダムが・・・、と言うことでは無くて沢の水が道路を跨ぐような感じで越流していることが多い箇所だ。まさしく名前の通りの“出水”なのだが、今回の台風で沢の水が土砂を含んで越流するなどして被害が出ていないかと心配であったため、こちらをチェックポイントとし、立ち寄った。思いのほか、とくに目立った被害も無く安心する。その後は、新天城トンネルを抜け、河津町に入ってからも同様、目立った被害は見られずスムーズに堰口川のある東伊豆町まで行くことが出来た。
最も渓畔林の元気な時期
谷止工の現場に入れたのは正午すぎであった。ここは前回、3月の砂防ダム行脚の記事「また今日も雨降り」で来て以来の再訪である。記事によれば前回来た時はレインスーツを上下に着ていたとあるが、今回もまた同じようにレインスーツである。今日はこのスタイルで丁度よい感じだが、これが1~2週間前であったら暑くて堪らなかったであろう。一夏を超えて季節は秋となり、また春の頃の気温が戻ってきたのだ。と、ここでふと考える。前回来た時と同じ点があるとすれば、服装のこと。前回来た時と違う点があるとすれば、それは森の状態。3月のこの場所は、上から多くの針葉樹が樹冠で覆ってくれている状態であったが、その樹冠よりも下の部分が今よりもスカスカで、そのスカスカの隙間から多くの光が縦横無尽に降り注がれている状態であった。今日とは明らかに違う状態であった。今日は、前回と同様、晴天に恵まれること無く空からは「白い」光が差し込む状態であるが、その時とは違い、歌がうまく歌えている。台風の風によってちぎり取られた枝葉は道路上に散らばっているが、それ以外の多くは見事、台風の猛威に耐え抜き、木から、枝から元気な緑色を見せてくれている。
―今は、一年の内で最も渓畔林の元気な時期である。―
歌というものに無くてはならない“詩”。その詩の世界に深く入り込んでいくためには、渓畔林のもたらす暗がりは欠かすことが出来ない。渓畔林が一年のうちで最も元気なのであるから、それによって形成される暗がりも一年のうちで最大規模なのだ。その最大規模の暗がりの中、今、自分は歌えている。
今日の日の砂防ダム行脚は大成功であった。大成功にいくように導いてくれた森の木々に感謝したい。