―3ヵ月したらまた持ってきます。―
そう言って瓜生野の小野自動車を出庫したのが3ヵ月前の6月。当時のことを思えば、
―あぁ、良かった・・・。―
これに尽きると思う。
6月20日。その日も私は伊豆の砂防ダムを行脚していた。西伊豆方面を数カ所回ったのち、今度は中伊豆の吉奈方面を探ろうと車を走らせていた時のこと。どうも車の調子が悪い。走行中に急にエンジンが止まってしまうのだ。このまま無理して山中を走って、そのあと一歩も動けなくなってしまったでは大変だとやむなく帰路をたどることにしたのだが、その走行中、サイドミラーに目をやると自車のマフラーからは煙がモクモクと上がっているような状態。
―これはヤバいな。―
と思ったものの、そんな車の不調の現状を認めたくない自分がおり、とりあえずは、まずは家に、という気持ちでとにかく車を沼津方面へと走らせていた。伊豆縦貫道を北上し、長岡北ICを降りる。狩野川放水路、長塚橋向かいのデイリーヤマザキ前を通り過ぎ、口野トンネル、口野橋と進んだあと多比第二トンネル、そしてその出口へと差しかかった時の事だった。このとき不意に車のメーターに目をやったのはおそらく、トンネル走行時にちゃんとヘッドライトが点いているかということを確認する為だったからであろう。
―あぁ、もうダメだ・・・。―
これまで何の根拠も無く大丈夫なんだと期待感と希望的観測とともに頑張ってきた自分自身であったが、そのいつもとは違う異様な光景を目の当たりにした時、あきらめがついた。無情にも冷却水の温度を示す水温計の針が、まっすぐ上にある「H」の方向に向かってきれいに伸びていたのである。とりあえずはトンネルを抜け、すぐにある信号を左折。ほぼ直後にある多比防潮堤前の駐車スペースに停車。釣り目的でしか来たことの無かったこの場所に、そのいつもとは真逆の、なんとも言い難い「負」の精神状態を持ち合わせた自分が今日はおりたっている。不安な気持ち、しかし、やけどをしてはいけないと警戒するなか、恐る恐るボンネットを開ける。明らかにおかしいのは、Vベルトが1本外れているということ。のちに小野自動車の親方に教えてもらったのだが、このVベルトは車のウォーターポンプを回すためのVベルトで、これが外れてしまうとエンジンを冷やすための冷却水はラジエーターに行くことが出来ない。ラジエーターに行くことが出来なくなり熱を逃がせないまま超熱湯状態ほどにまでなった冷却水は当然のことながら冷却機能を失っていて、その冷却機能を失った冷却水を受けるエンジンはそのまま高温となり、ついにはオーバーヒート。心優しき親方はこれ以上言わなかったが、最悪なところエンジン使用不能という事態に陥るらしい。(幸い今回はそこまで行かなかった・・・。)
多比防潮堤の高く続いた階段を見上げながら、損保会社のロードサービスに電話をかける。どこにいる相手にかかっているのだか、地元、沼津の人間ならほとんど誰でも通じるであろう「多比の防潮堤」が通じない。オペレーターが番地で答えてくれと言うので、車内に置いてあった紙の道路地図を広げ、近くの民家に振ってある番地で答える。
スズメ
それから30分ほどであったか?防潮堤前の駐車スペースでレッカーを待った。その助けは防潮堤本体とは反対側にある国道414号線を介してここにやってくる。国道を上下線に通り過ぎる何台、何十台という車を見ながら、時折現れる大型車に(レッカーではないかと・・・)ドキッとしながらそこで待ち続けた。国道手前側には野球場の内野一面分くらいの空き地があり、砂利と雑草で放置されている。その放置の上を数匹のスズメが食べ物がないかどうかとしきりについばんでいる。車という移動手段を失った自分とは対照的でスズメは元気いっぱい旺盛であった。スズメのような小さな小さな鳥さえもがその時はうらやましく思えた・・・。
防潮堤には、レッカー、レンタカー会社の順で到着した。保険商品のレンタカー特約で借りた軽自動車に乗り、伊豆市瓜生野まで引き返し、車の修理を申し込む。その後、敏腕工場長の手により車は数日のうちに修繕されたが、私自身のスケジュールが合わなかったため、結局車を取りに行けたのは1週間後の6月27日。その時に親方からブレーキパッドを心配する声をいただいていたため、3ヵ月後にまた車を入庫させるということでお願いし、その日は帰った。今回再び小野自動車に車を持ってきたのはそのためであったのだ。
常に車
いやはや、車は大事に乗らないといけないのだと今回の入庫でまた改めて感じさせられた。あちこちの砂防ダムを行脚する私であるが、その移動手段というのは常に車である。車が無ければ砂防ダムに行くことは出来ないし、たとえ行けたとしても車が健全な状態で無ければ、その行った先から今度は帰ってくることが出来なくなってしまう。車というものに命を預けているということを今一度確認し、それ相応に取り扱っていくということが必須となる。日々、車の状態をチェックしながら乗ることはもちろん、定期的にはプロの目での点検を受けること、消耗品管理は適切に行っていくこととし、車にとって良くない使用方法(シビアコンディションというものにより近い使い方)にはなるべくならないようにし、何より安全運転で、車をこれからも長く使い続けていきたいものである。