2019年、静岡県を含む東海地方は6月7日が梅雨入りとなった。今年の梅雨は例年に比べると、「おや?」と思うような天気が毎日続いている。6月の第3週は9日と15日土曜日が雨となったものの、その他は顕著に雨が降るということが無く、第4週に至ってはほとんど雨が降るという事が無かった。報道によれば、九州の北部などでは今年は梅雨入りが遅れ、深刻な水不足が懸念されるなどしているらしい。九州北部から遠く離れたここ静岡県東部地区に住む自分からしても、日本のどこかにそんな地域があってもおかしくは無いであろう。と思えてしまうほど変わった天気の今年の梅雨である。
そんな空梅雨の天気が続く毎日であるが、ありがたいことに気温に関しては真夏日になること無く推移していて、ある程度の暑さは感じられるものの、比較的快適な気分で毎日過ごすことが出来ている。特に音楽家である自分自身にとっては、真夏日のような猛烈な暑さは、多くの曲のイメージに合致しないということが起きるばかりで無く、活動そのものの妨げになるため、今のこの暑すぎない毎日からは大きな恩恵を受けている。
冬寄りな答え
冬のめちゃくちゃ寒いときなどは意外とその寒さに負けてたまるかと頑張って現場まで歩くし、一生懸命歌うし、まだ行ったことが無い知らないところがあれば、積極的にいってみようと果敢にチャレンジ出来ているような気がする。恒温動物である人間にとって冬の寒さというのは、それだけで「生きる」ということの行為の妨げとなる受難なのであるが、一方ではその受難が日常生活のうちの芸術活動に勤しむ時間において、その表現意欲の源(みなもと)となってその活動の支えとなってくれているという気がしてならない。寒いという事に生命を脅かされている状態にあって、ただぼんやりとしていることは当然出来ない。気を張って凍え死なないようにとしているその冬の期間というのは慢性ストレス状態にあると言え、そのストレス解放の手段として芸術活動内外、様々なことが考案され歴史を作ってきたのではないだろうか?歌うという行為がそういったストレス解放の手段の一つに数えられ、であるがゆえに、先人たちによって積極的に作曲されたり、作曲されたものが発達したりと、進化を遂げてきたのだと思う。これらの動機は当然「寒さ」だけでは無いのだが、ではそれを歌ったのが夏と冬ではどちらでしたか?と尋ねれば冬もしくはもっと温かい時期だったとしても「冬の心を持った夏」のような“冬寄りな答え”になるのではないか?と思っている。このように考えるのは私だけのことなのかもしれないが、とにかくそんな“冬寄りな答え”に常に結びつくような環境こそ理想的な音楽表現の条件と考えているがゆえ、もはやその最大対義語とでも言ってよい真夏日というような環境を避けたいと思っているのである。
仕事帰りに
2019年、6月22日、二十四節気の夏至である。副業先のホームセンターの仕事を終えた私は箱根峠を越えていた。峠にある温度計が示す温度は17℃。これから向かう大沢は神奈川県足柄下郡箱根町を流れる、須雲川のさらに上流部の区間である。その大沢に架かる黒岩橋下流約500メートルの地点にある床固工群が今日の目的地だ。当地は箱根峠から国道1号線箱根新道を小田原市方向約5キロメートル下った地点にあるため、峠よりは標高が下がるものの、谷を吹き抜ける風の影響があるため体感としては変わらない。午後6時まえ車を駐車スペースに停め、そこから歩いて床固工に向かう。このとき気がついたのだが、普段持ち歩いている500ミリリットルのボトルを今日は忘れてしまった。買いに行こうにも時間が無い。夏至とは言え、あと1時間と少しもすれば午後7時のタイムアップを迎える。そのまま床固工に向かうことに決め、ボトル以外、いつも通り準備を整え、まずはステンレス製の車止めを超える。そこから坂を横幅に長いS字状に下りるとほどなくして目的の床固工にでることが出来た。ここは私が確認した上では、7基の不透過型堰堤と1基の鋼鉄製透過型堰堤からなる床固工群で、今日入るのは最もエントリーしやすい上から数えて3基目と4基目の間の床固工区間だ。
2019年、夏至に
午後6時、床固工の護岸北側の石の積まれたところから川に入る。ここは川の両岸が約2メートルほどの高さで護岸されており、その両者間幅およそ10メートルをほぼ余すこと無く水面が覆っている。護岸をしている割には両脇の渓畔林が残されていて美しい緑が反射しているということ、また川の中においてはその場所に長くとどまった石が苔むしてこれまた緑色に反射しているということ、そしてこの今日の日が6月中旬であるというにもかかわらず、たいへん涼しいという気温感、それらの好条件によるおかげでさわやかな心地よい雰囲気のなか音楽を楽しむことが出来た。ボトルを忘れたことによる飲み水確保は川の水を手ですくって喉を濡らすという形でしのいだ。水質的にもそんなことが出来てしまう程で申し分ない。午後7時のタイムアップまで大いに音楽を楽しむことが出来た。
ホームセンターの仕事帰りのわずかな時間、気候に恵まれたこともあって、たいへんに楽しめた、そんな2019年の夏至であった。