退勤後のゲーム2023

この見慣れた風景ともいったん区切りをつけることに

ホームアシストの皆様へ

大変お世話になりました。日々の業務において皆様のお力添えがあったからこそここまでやってくることが出来ました。今後は、この場で身につけたことを忘れず、砂防ダム音楽家という仕事を大成させられるよう全力を尽くす所存です。誠にありがとうございました。森山



2023年5月。人生の節目。

在籍期間5年1ヵ月という期間をもって、駿東郡清水町のホームセンター「エンチョーホームアシスト」を離れる事になった。

これまで同店舗では園芸用品担当ということで関わってきたが、今般、退職というかたちで職場を離れ、独立して生計を立てていくことに決めた。

心配する声も多くの方から受けたが、チャレンジしたいという気持ちの方が強い。

そもそもの発端は植物を勉強したいという、自分自身の身勝手な希望を受け入れてもらう形で実現したホームセンターでの仕事。

砂防ダムの音楽をより楽しむ上で、植物のことを知ることが欠かせない。
植物を学びたいという志望動機を出し、面接を受け、縁あってこの場で働かせてもらうことになったのがおよそ5年前のこと。

川を取り囲むようにして生える木々「渓畔林」は響きの反響板として機能したり、空間に暗がりを作って歌い手のメンタルに作用する働きがある。また、とくに落葉樹の木々は季節による変化があり、夏の非常に旺盛な期間、それを過ぎて秋の紅葉シーズン、冬期の落葉状態の中で感じられる生命感など、その魅力が尽きない。

同様のことは足元を飾る「草本(くさ)」にも言えることで、山行・渓行というものをただの堤体までの移動行為だけにさせず、時には観察の楽しみを与えてくれたり、時にはヤブという形で、行く者の冒険心をくすぐったりしてくれる。

砂防ダム音楽家として遊びを紹介しているわけだが、遊びを研究するというプロセスにおいて、圧倒的に欠かすことのできない植物に関してはこれまでも、そしてこれからも学びを続けていくことになるだろう。

清水町総合運動公園はみどり豊かな公園だ。

引き返すことはしない

つまり今回、恒久的な意味での“退勤”となった。

ゲームのことを書こう。

5月27日、午後5時前、開始は駿東郡清水町のエンチョーホームアシスト。まずは、その正面駐車場に出入りする道路挟んで反対側の清水町総合運動公園に立った。

この日は土曜日。土曜日なのだけれども、いつものごとく賑やかな運動公園。ここは静岡県東部地区最大クラスのショッピングセンター「サントムーン柿田川」至近の公園とあって、いつも賑やかだ。

公園ではたいていサッカーを楽しむ子ども~大人の姿が見られ、また最も多いのが公園をぐるっと一周、ウォーキング・ランニングする人たちの姿だ。

一方、こちらは山登り前の風観測。

公園の北東側にあるトイレの前に立ち、風速計をかざすと風速は最大で3.1メートルほど。およそ1分ほどの計測でこの値であるが、感想としてはもう少し粘って立ち続けることで、さらに数値が上がるのではないかというのが肌感覚だ。

風は西から吹いていて、地面から高く伸びるケヤキやユリノキの樹冠をときおり激しく揺らしている。

平地ではこの風であるが山はどうなのか?

安心することはできない。平地と山で風が異なるなんてことはしょっちゅうで、むしろ正直なところ縁起が悪いくらいだ。お互いが異なっていた。という経験が過去に多いから安心することができない。

しかし行くことはもうとっくに決めている。

決めているのだから、引き返すことはしない。想像を裏切る良き展開に期待し、車に乗り込んだ。

清水町総合運動公園での観測のようす

夕暮れのさわやかさ

午後5時、まずは車で国道1号線まで出て、箱根方面に向かう。

空にはまだ太陽があり、ロードサイドの店の看板を金色に照らしている。

ほぼ毎日のように利用している国道1号線は今日も多くの車で溢れている。土曜日ということもあって、明らかにレジャー目的のバイクツーリングの一団なども見受けられるが、この時間から午後6時~7時にかけては労働者の帰宅ラッシュの時間帯である。

そして眼前に見る夕暮れのさわやかさに反して知るのは様々な思い。

ハンドルを握る人たちの感情は決してポジィティブなものばかりでは無いはずだ。心には喜び、怒り、悲しみなど様々な感情が含まれていて、それが何百、何千、何万とごちゃ混ぜになる舞台、労働者たちの道路、それが国道1号線だ。

仕事をすることは決して容易では無いよなという気持ちが頭をよぎる。

・・・。

ところで我は何なのかと、ふと考える。

これは、退勤後の移動であってすなわち帰宅の動きとも言えるし、これから山に登って堤体に向かってゲームをしてくるという遊びのための動きでもある。

なんとも言えない類いの移動になってしまっているが、逆に幸せなのかなと思う。平穏な心で走り抜けていくことが出来る人間関係、環境に今日一日置かれていたというわけだ。とは言っても・・・、

こんな日ばかりじゃ無いはずだ。

単に運が良かったために手に入れられた平穏と言うこともできる。

怒りや悲しみに苛まれるときがある。

解決方法が求められるときがある。

音楽の力に頼るときがある。

行くところはやはりあの場所・・・。

先を急いだ。

箱根峠

忘れ物に注意する

しばらく山を登り続け、午後5時半に箱根峠を通過。標高846メートルの頂上を過ぎると、今度は車を箱根新道に向け、坂を下り始める。

そして箱根峠からおよそ4キロの道のりで黒岩橋。黒岩橋すぎて直後に現れる下り車線側には見慣れた駐車スペース。

駐車スペースには午後5時40分に到着した。

車から降りて、準備を始める。

急ぐ。

今日このシチュエーションにおいていつもと違うのは、時間的余裕があまり無いことだ。かつては4年ほど前に今回同様、退勤後にこの場所を訪れたことがあったが、その際は“水”を忘れてしまった。同地に来ることばかりに気を取られ、焦って、飲み水の確保を忘れてしまっていたのだ。

もちろんこの周辺には自動販売機などが無い。

その日は結局“川水を飲む”ことで喉の渇きを潤すという対処をした。

もうこんな極めてマヌケなミスはするまい。とは思ったのだが・・・。

なんとその後、またしてもやらかした!のだ。しかも同地で。それでも、その日は昼間だったので、いったん下ってきた坂を再び登り直して芦ノ湖湖畔、元箱根まで行き、自動販売機にて用事を済ませた。

ほかの場所に入るときはこんな事は無いのに。

同地はほとんど信号の無い(周辺では箱根峠の一基のみ。)スイスイ道路にて来ることができる。しかしながら、運転中の考え事のしすぎはどうやらほどほどにしておいたほうが良さそうである。

見慣れた駐車スペース

果たして・・・、

さて、今日はペットボトルに入った水をしっかりドリンクホルダーに差し込み、準備が整った。

肝心要の風は下(駿東郡清水町)よりも弱いようであるが、あまり気にはならない。こうなることは前述のようにある程度予想していたことであるし、なにより日没前のわずかな時間帯に歌えるというワクワク感が勝っていて、むしろどうでもいいぐらいの心緒になっていた。駐車スペースから下へ続く坂を下りる。

堤体前には午後6時に到着。現場は櫛状に落水する須雲川の水と、非常に旺盛な渓畔林のみどりでなんとも美しい。いつの間にか没してしまった太陽の余光はそれらを照らし、まるでみどりのトンネルの中にでもいるようだ。

早速、風速計を取り出して計測すると風は向かい風で1.2メートルほど。これも単なる風では無くて、鞍掛山、大観山といった頂から吹き下ろす冷涼な風だ。

さっそくメガホンをセットし声を入れてみる。

鳴る。

しかもめちゃくちゃ心地よく鳴る!

黒岩橋下流の堤体

予想のつかない場面

流れている水の音と声のボリュームのバランスが良いような気がする。

ここのところの砂防ダム行脚では自作メガホンの改良に重きを置いて堤体を選定していたため、比較的水量の多い、ドカンドカンと水が落ちるようなタイプのところによく出掛けていた。

そういった響かせづらい堤体を敢えて選ぶことで、仮に歌い手が響きづくりにおいて困難なシチュエーションに遭遇した時でも、道具によってその障害をクリアすることが出来るよう、プロトを鍛えるという意味で難所ばかりを選んでいた。

では、今日はなぜここを選んだのか?

今日この堤体を選んだのは単純に移動時間が少なくて済むからという理由からである。退勤後の日没前、わずかな時間のなかで楽しむ場所として、とにかく近場を選んだ。ただし、今日この川がどのような状態であるかといったことは全く予想をしてなくて、歌い手の声量と川のノイズのパワーバランスが極めて理想的な状態にあったのは全くの偶然。まぐれのことだ。

これは退渓後談になるが、自宅に帰って過去の画像と比較してみたところ、昨年の元日にこの場所に来たとき比較で、ほぼ水量に変わりが無いことがわかった。
ちなみに正月の渓と5月下旬の渓で水量がほぼ変わらないというのであれば、現在(5月下旬)の状態が減水気味だという可能性は非常に高い。

こういった全く予想のつかない場面に遭遇することもまたこの音楽の楽しみでもある。

結局、午後7時頃までのたった1時間ほどであったが、日が暮れるまでのあいだ堤体前で歌を楽しんだのだった。

追記

こういった遊びには、日没前のわずかな時間に音楽を楽しむという希少性のほか、前述の解決方法といった機能が(人によっては!)伴うということを付け加えておく。

平穏な心が手に入れられないとき。怒りや悲しみに苛まれるとき。それらの解決方法として、ゲームを利用していくという手がある。憶えのある方はぜひ試されてみてはいかがだろうか?何時でも怒り、悲しみといった感情はその日のうちに忘れ、翌日にはきれいさっぱり、新たな心で仕事が出来るよう準備したいものである。

退勤後のゲームによって多くの方が心身ともに健康になり、仕事で大きく活躍されることを祈っている。

渓畔林はフサザクラ、イロハモミジ、ケヤキ、コナラなど
右岸側のようす
穴からは適度に光が差し込む
昨年の元日の同所
若干、今回の方が多いか?
こちらも昨年元日に取得したデータ
当日の風
堤体までの距離
気持ちのいいゲームであった。

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