年が明けた1月2日。新年のワクワク感とともにとりあえず外へ出てみることにした。車には釣り道具を積み込み、海でも見に行こうと市内の千本浜に向かって車を走らせた。外は快晴。気持ちのいい朝の出発であった。
自分自身は新潟出身とあって、冬のこの時期は天気の荒れる日が多い。雨が降ったり、雪が降ったりでたいていは外で遊べない日を過ごすこととなる。特に西高東低の冬型の気圧配置になった日の海沿いなどは風がビュービューと吹いて、海面は低くなった気圧に持ち上げられて大シケとなり、ドカンドカンとうねりが砕ける光景を目にする。
そんな新潟日本海の海とは似ても似つかず、この日の静岡駿河湾は大変に穏やかでまるで湖のようであった。
どこから来たのであろうか?今日もまた海に沿って伸びる堤防上にも、またそこから下へと続く階段、砂利浜の上にも人がちらほらと見られる。
多くは観光客であろう。
―あなたの地元はどんな海ですか?―
当初はここで初釣りを堪能する予定であった。しかし、この穏やかな海を見ているうちにただそれが満足感となって、釣りをやる気も失せて、竿は閉まったままにしておいた。新年初釣りにこだわる必要は無い。自分自身に収まる価値観のなかで、新しい年を喜び、その中で釣りが出来れば十分であろうと思う。
鉄道、バスと
千本浜を後にし、沼津港へと車を走らせる。ほどなくして沼津港に到着。きのうは元日で今日は2日。正月休み最盛期の港を歩く。
ここは在来線の最寄り駅「沼津駅」からはだいぶ離れているが、にもかかわらず多くの歩行者で賑わっていることに驚かされる。駐車スペースにはたしかに県外ナンバーの車がずらりと並べられた光景が確認できたが、それだけでは無いはずで、“公共交通機関組み”も多いであろう。鉄道、バスと乗り継いでまでしてこの沼津港を訪れたかったのか?
行動力のある人がいるもんだなと感心するとともに、ありがたさを感じ、そしてなによりも魅力溢れる観光地に自分は在住しているのだということを再認識した。
みなと生鮮館に入り「千漁家」でメギスの干物を購入したのち沼津港を出発した。
愛鷹と書いてあしたか
その後、いったん自宅まで戻り、干物を冷凍庫にしまったのち昼食をとるため愛鷹パーキングエリアに移動。ここでもまた観光客のなかに混じる。券売機のボタンを見れば「あしたか牛入りもやし炒め定食」とあったのでそれに決め、出来上がりを待つ。
食券を渡す時にご飯大盛りでオーダーしたため、呼ばれて取りに行った時には山盛りのそれが用意されていた。後半、白飯だけがのこったため(これは大誤算!)それを「たかぼーふりかけ」で締める。たかぼーとはこのパーキングエリアのイメージキャラクターのことでオリジナルグッズなども販売されている。
食堂内にあるテレビには、箱根駅伝のランナーが映し出されていた。自分も学生時代は陸上競技の競技者であった。学生ランナーなどという華々しい肩書きにはほど遠い実力ではあったが、今はそれを飯をかきこみながら見るような立場となった。
懸命に走る箱根ランナーに対し、偉くなったもんだと反省しつつ愛鷹パーキングエリアを後にした。
高橋川に入渓す
その後、愛鷹パーキングエリアを出てまっすぐ坂を登った。目指したのは高橋川の入渓点。新東名の上にかかる高架橋をわたり「新沼津カントリークラブ」を東側から回り込むようにして進むと駐車場所に到着。食後の眠気に襲われ、しばし微睡んでから出発することとし、車のシートをリクライニングモードに。時間は午後2時。やはり晴れていて暖かい。
15分ほどの仮眠ののち起きて準備を整える。気を引き締め、堤体に向かって斜面を降りる。
斜面を降りはじめてから15分ほどで堤体に到着。早速目に飛び込んできたのは渇水しきった河床。岩も石も酸化した鉄分によって赤く染まって、その色が流されること無く留まっている。水が流れていないから辺りは本当に静かで、小鳥のさえずる声以外ほぼ物音がしない。
bluetoothスピーカーに電源を入れ、曲を選ぶ。シューベルト作曲のganymedを選び出し、音を流す。この曲は速くやっても演奏時間6分を越える長いものであるが、自然界のなかで歌えば不思議とあっという間に終わってしまう。そういったことは水の流れの影響などもあってのことなのかと思っていたが、この日ここに来て歌ってみてわかったのは、そうでも無いということ。水が流れていても、流れていなくても変わらないようである。
この日は新春早々の歌い初めであった。
今年もまた、いろいろな砂防ダムへ行き、音楽をやっていきたいと思っている。もうすでにかなりこの音楽を楽しめていると思うが、これをさらにもっと楽しいものにするにはどうすれば良いのかを研究し、開発を進めていきたい。まだまだ世の中には見たことも無い美しい砂防ダムが数多くあるはずであろうと思う。そういった「美」を発見しながら、同時にその場所にあった音楽を見つけだして、曲の持っている魅力を引き出していきたいと思っている。
砂防ダム音楽の楽しさ、その追求に終わりは無い。