9月3日午前9時半、伊豆市青羽根、JA伊豆の国狩野支店となりにある「青埴神社(あをはにじんじゃ)」の鳥居をくぐる。
そのまま坂を登っていくと木は左手方向にあった。
なんともあっけない対面。青埴神社のシダレイロハカエデ。
木は一段上がったところにある石垣の上から、東の方向に向かってもくもくと、最近よく見かける積乱雲のように、そして流れ落ちるように樹形を見せてくれた。
ネットで見たものと同じ。それにしてもあっけない。
木は樹齢200年以上とも言われるこの神社の顔。臨む前は非常に神聖なイメージを持っていただけに、もっと奥まったところにひっそりと根を下ろしているのかと想像していたが存外、見つけるのは早かった。
石垣の下の段からは葉を、階段上って中段あたりからは株元を観察する。その後いったん階段を登りきってから社殿を見たのち、また下に戻って境内を見回す。すると何やらほとんど文字が消えかかった案内板の存在に気がついた。もはや文字なのか木目なのか判別しにくい線の羅列を詰まりながら読んでみる。
〔静岡県指定 天然記念物 青埴神社のシダレイロハカエデ
この枝垂れイロハカエデはカエデ科に属する。落葉高木で、カエデ(広義)・モミジ・イロハモミジ・タカオモミジともいわれる。
枝が垂れる品種で樹齢は推定一四〇年~一八〇年、枝垂れの高さは七・七メートルもあり当地方最大のものである。
昭和五十八年九月二十七日 指定〕
イロハモミジだそうだ。植物図鑑の和名で言うところ。
アオツヅラフジ
事前に仕入れていた情報によれば「シダレイロハカエデ」というカタカナ表記であったこの木。独立した種であり、その葉には何か他とは違う特徴的なものがあるのかと期待していたのだったが結局のところ、
イロハモミジ
ということで違いないらしい。たしかにその葉はふだん渓行しているときに一番よく見かける、最もポピュラーな種類で間違いは無かった。
〔切れ込みが深く先は尾状にのびる。鋸歯は重鋸歯で粗く不ぞろい。葉の質はやや薄い。 文一総合出版カエデ識別ハンドブック猪狩貴史著より〕
ハンドブックを取り出して一応その説明と目の前の木の葉の特徴を照らし合わせてみた。
それでは全体像としてはどうか?木は東に向かってきれいに流れ落ちるような樹形をしている。これならば特に午前中の時間帯については光合成が効率的に行われているように思われ、そのおかげもあってか、木は老木にしては非常に元気であるような気がする。
まぁ管理面のこともあるだろう。
地域住民の思いというか?
通常「神社」であったらその維持管理は建築が中心になると思うが、その入り口にこんなにもどデカく、全体の顔として木が鎮座しているのであれば管理不届きというわけにはいかないであろう。
看板を立てて観光名所化したものの、かえって収まりがつかなくなり現在ではかなり「苦労」の面が大きいのでは?正直なところ?
木が荒れている、支えのやぐらが傷んでいる、境内にゴミが落ちているという事象は見られない。維持管理する者の苦労がしのばれる。
他の神社だったらやらなくてもいい努力をここはやっていると思う。他の神社の2倍、3倍労力を使って“全体”を維持しているように思った。木を育てるということ。に対して、
木を飼う。
なんて言ったら怒られるかもしれないが、最後までそれは続くのであろう。
飽きてしまったらもうダメだ。と再訪を誓い、坂の下にある鳥居に向かって歩き出す。坂を降りていくと、途中には何やら学校の校門のような石柱を一対みつけることが出来た。刻まれていた文字を見れば向かって左には「狩野保育園」、右には「狩野幼稚園」。
石柱の向こうにあったであろう往時の景色を想像する。未就学児らによってさんざん踏みつけられた木床の建物と、そこから外に飛び出すと子どもの目にはなんとも広い園庭。現在では建物も外もすべてが無くなった。土の更地が広がる。
大きな虚無感に襲われたが、石柱のすぐ横にはそんな心を癒やすようにつる性の植物と青いろの実、未成熟のみどりの実がフェンスからぶら下がっていた。
たまたま持ち合わせていたハンドブックにはそれが載っていて「アオツヅラフジ」であることを知る。種子散布期は来月10月から12月までという。その頃にはほとんどが完熟した青いろの実に変わっているということか?
来月以降が楽しみだ。
なんて思って読み進めていくと最後には、〔※アルカロイドを含み有毒〕と。
なんだ、食えないのか・・・。
※文一総合出版 身近な草木の実とタネハンドブック 多田多恵子著より
神社を離れる
坂の下の鳥居をくぐり抜け、国道136号線を横断し、狩野ドームに向かって歩く。そのまま狩野ドーム前を通過し、雲金橋をわたって駐車していた車に乗り込む。
園の入り口に毒の実の植物が生えていたのはなぜか?子どもが口にしたらどうするつもりであったか?それともあの場所に生えてきたのは閉園後か?
車中で先ほどのアオツヅラフジのことをいろいろ考えながら北上。深まる永遠の謎とともに大平インターチェンジを通過。伊豆縦貫道に乗り、本立野トンネル1034メートルを抜けると直後の修善寺インターチェンジで降りた。西進し、修善寺温泉方面に。五葉館前で右折。神戸川(ごうどがわ)に沿って坂を登り、桂谷トンネル入り口前、修善寺ニュータウン入り口も直進。
静岡県きのこ総合センターの前も通過して、道が大きく左にカーブするところを逆に右に向かって逸れる。駐車場に車を停め、トイレに駆け込んだ。
修善寺自然公園
修善寺自然公園のトイレから出た。散策を始めることに。
北西の方角に向かって伸びる坂を登りながら木を一本一本見ていくとほとんどがイロハモミジであることがわかった。その他に多いのはオオモミジであるが、これらは図鑑で調べると樹高についてはたいてい小高木~中高木と書かれている。
樹冠の高さが低くても3~5メートル程度はあるということだが、気になるのは手の届く範囲であるかどうか。
出来ることなら木の枝まで手を伸ばして、その葉が何であるのかをしっかり見極め、実際に手で触れて感触をおぼえていくことが大切だと思ったからである。
幸い、実際に葉にさわって感触を確かめられた木は何本もあった。背伸びをしてギリギリ手の届くぐらいの枝を掴んで、眼前まで引いてきて観察する。終わったら枝を解き放ち木を離れる。手から離れた枝は弾力によって大きくしなりながら、揺れながら、元あった位置に戻ろうとする。
こんなことが出来るのも・・・。今だけ。あと2ヵ月もすればシーズンインの号砲が鳴り、ここに多くの観光客が大挙することになるだろう。その頃にはある程度、TPOというか行動が制限されてくることになると思う。
今ならば自由(木を傷めるまでは出来ないが。)。あれこれ手で触りながら、ゆっくり、じっくり自然公園の木々を観察していった。
その後は停めていた車まで戻り、微睡む。
湯舟川第2堰堤
車の中で目を覚ました。腕時計を見る。
時刻は午後3時。う~ん。
虹(の郷)はパスだな。
当初の予定ではこのあと修善寺虹の郷へ行く予定であった。しかし、閉園時間も近くなっていたためそちらはあきらめることに。駐車場を出て、虹の郷前をスルー。そのまま4.6キロほど戸田峠方面に向かって走る。
「広域基幹林道達磨山線」の青い看板を見ると吸い込まれるように左折し、ぐねぐねと曲がる林道を約4キロ走る。「牧場橋」という赤い欄干の橋が見えたらその手前で左折し、2.2キロ坂を下りて行く。
当ブログで以前にも紹介したことのある「湯舟川ふれあい公園」はそのまま車をバックさせて入った。(たぶん交通上の“すれ違い確率”は何百万分の一くらいなのだけど、いちおう注意して。)
車を前進に切り替え、床固工4基分を通り越すと公園最奥部となり、これ以上車では行けなくなった。それではこのあたりに駐車し、入渓の準備を整える。
蒸すような小雨がパラついている。
湯舟川第6号床固工の上流部より入渓し遡行を始めると、10分もかからない程度で目的地に到着。堤体の名は「湯舟川第2堰堤」。堤高は5.5メートルとある。
渓畔林は川の中央に立ってしまえば完全に切れているが、周辺全体的(堤体前空間)として見るとあたりは針公混交でしっかりと木々に囲まれている。シンボルツリーとして見られるのが堤体天端右側のクヌギ、同左側のイロハモミジ。さっそく近づいて葉を見ると、
小さい!
さきほどまで見ていた植樹モノとは明らかに違う。育成条件の整った中で、栽培管理されてきた個体では無い。こちらは野生ものだ。自然界の空間上に枝が伸びて展葉するときの緊張感(ストレス)がある。ここは堰堤の真横で常に落水がドバドバと音を鳴らしているような環境だ。
流されないように、倒されないように、根も葉も気持ちで踏ん張って緊張感に打ち勝っている。
強く生きる姿に「心(しん)」を感じた。流石!
その後は、立ち位置を決め歌を楽しんだのだった。
ん?
この日は、あまり長く歌っていられなかった。突然、雨が強くなってきたのだ。
やはり強い、雨に濡れて尚いっそう輝きを増すイロハモミジを見ながら現場を立ち去った。