屋根があるところ

ノイバラ

屋根があるところ。

演奏施設となる堤体前。より充実した環境は?と問われれば、屋根があるところだと答える。

どんな屋根がいいのか?

きっちりプレーヤーの頭上を覆ってくれ、暗がりを供給してくれるような屋根。

屋根があるときと無いときでは、歌っている感覚が違っているからだ。

屋根の素材は?

葉っぱ。

スレートでも鉄板でも瓦でもない。

葉っぱ。

しかし頼りになる。これがあるのと無いのでは大違い。

葉っぱでできた屋根に頼るのである。

屋根があるところ。

今回は、屋根があるところへ行ってきた。

北口本宮冨士浅間神社の第一鳥居

壮観

ここは屋根も柱も立派なところ。

5月23日、午前8時半、山梨県富士吉田市上吉田。

北口本宮冨士浅間神社。

国道138号線よりすぐの「第一鳥居」をくぐりぬける。

くぐった直後。

もうすでに満足感で一杯だった。

長い参道にはスギの並木が。

そのスギの一本一本。

立派なものだ。

いままで見たことも無いような太い木。太い木は社殿へとつづく参道の両脇に。

この参道もまた、立派なもの。

玉砂利の敷かれた参道。

歩くためのものだ。参道は。

しかし、歩くことがうまくいかない。

足が止まっている。

壮観だ。

壮観だから、一つ一つ確認しなくてはいけない。

見て、驚いて、感心して。柱から屋根までぐっと見上げてから前にすすむ。

もう満足感で一杯。

石像や神楽殿やいくつかの拝殿も見てまわったが、ここが一番よかった。

参道には立派なスギの木が。
見上げる。
仁王門礎石
また、見上げる。
参道と富士山大鳥居

昼食

午前11時。

昼食をとることに。

向かったのは富士吉田市上吉田6丁目。中央通り(国道139号線)に隣接する「ふじ山食堂。」。

店の東側にある開き戸の玄関を開けると、店の間がスッとあらわれた。せまい玄関で靴を脱ぎ、下駄箱にくつを入れて上がらせてもらう。

行灯のぶらさがった天井の低い座敷。隠れ家のような店だ。

壁ぎわに設置された座卓にこしかけ、メニューから選ぶ。各座卓には紙とボールペンが用意されていて、希望のメニューに印をつけて提出すれば良いようだ。

紙に○を付け、提出。

さて一息・・・、

つく間もなく。

料理は驚くほど早く運ばれてきた。

まずはそのままひとくち。

強いコシはご当地グルメ「吉田うどん」の特徴。噛めば噛むほど口の中は、小麦の味が充満する。濃厚味競争をしているような現代の麺料理とはまったく似ても似つかない食べ物である。しかし、この感じは好きだ。

それに、味はあとから足すことができる。

すりだね。

吉田うどんには無くてはならない存在。すりだね。

すりだねを入れて味付け。

この店のすりだねはサラッとしていて調整がしやすそう。自身は辛い料理がもともと苦手で、まず調整できることそのものがありがたい。

数本のうどん、箸でつまめる程度の量に、小指の爪の先・・・、よりもわずかなすりだねがあればいいはずだ。

小さな木さじの先っぽにすりだねを掬ってうどんの麺にかけてやる。すりだねは一瞬、だしに浮いたかと思うとスッと中へ沈んでしまった。

こんどはちょっと赤い粒が付いたうどん。再び口に運ぶ。

強烈な辛み!ほんとうにわずかに掛けただけにも関わらず、しっかり辛くなった。やはり利用に際しては、様子を見ながらすこしずつ足していくのがよさそうだ。

すりだねの辛み。と、うどんの小麦。

口にいれて何度も何度も噛んでたのしむ。ゆっくり味わって食べられるのがいい。

そして、店の雰囲気も人もそんな食べ方を手伝ってくれる。

味も食事もとてもいい店だった。

ふじ山食堂。へ。
店は隠れ家的な雰囲気。
吉田うどん。吉田のうどんとも。
ふじ山食堂。の吉田うどん
すりだね

ワープ

午前11時35分、ふじ山食堂。を出て、駐車場に向かう。

中央通りを北上。通りに隣接する駐車場には、ものの3分程度で到着した。

駐車場はタイムズのB駐車場。名称は「富士吉田市上吉田6丁目7駐車場」。

駐車場の解釈としては、堤体至近の駐車場。

この駐車場から歩く。

当地から堤体までは直線距離にしておよそ5キロ。この距離を富士急行線の電車を使ってワープし、約1キロまで縮める。

富士吉田市内。発達する交通網を活かした移動である。

車から入渓用の道具一式をおろす。ウエーダーは履いたまま歩けないので背負子に搭載。

フローティングベストはレインウエアで隠す。レインウエアはサイクリング用のリュックサックまで覆い隠せるもの。

こちらは背中のところに付いているファスナーを開放して使う。この機能によってレインウエアは表面積が大きくなり、衣服、リュックサックもろとも雨から逃れられる。

これが本来の使用方法。

だが今回は、リュックサックではなくフローティングベストを着た状態で使用する。

寸法の足し算。

単純に、寸法の足し算が行われるということで変わりはない。“内容物”がリュックサックからフローティングベストへ変わったというだけである。

寸法の足し算分をファスナーを広げることによって対応した。(覆い隠すことができた。)

午後0時半、タイムズのB駐車場を出発。

中央通りを北上し、富士山駅をめざす。

午後0時45分、富士山駅に到着。

午後1時24分、富士急行線、上り電車に乗り込んだ。

午後1時34分、寿駅に到着。

駅前道路はタイムズのB駐車場があった中央通りと同様「国道139号線」である。無事、電車をつかったワープに成功した。

国道139号線を北上する。

富士吉田西桂スマートIC入口交差点を通過。

富士吉田市上暮地歩道橋を過ぎたところで左折。道なりに進んだ。

午後1時50分、日月神社前踏切に到着。

ファスナーを閉じた状態。
ファスナーを開放した状態。
開放したことにより、厚みのあるフローティングベストを隠すことができた。
富士吉田市「中央通り」
富士山駅
上り電車に乗り込んだ。
寿駅
国道139号線、上暮地歩道橋

踏切

いまだかつてこんなことがあっただろうか。

なんと、遮断棒を手で持ち上げてわたる踏切の登場である。踏切は、人ひとりが歩いてわたれる程度の幅しかない。

歩行者・自転車・バイクのための踏切といったところか。非常に簡易的で、しかしながら歴とした踏切である。

このようなタイプは専門的には第4種踏切というらしい。

警報機、遮断機なしの踏切だと第4種。遮断機は富士急行が独自に設置した設備で「手動式簡易踏切遮断機」が正式名称とのこと。(同社ホームページより。)

実際に遮断棒をにぎってみると決して重いものではない。これを持ち上げられる身長さえあれば、小学生くらいの子どもでも十分持ち上げられる程度の重さである。

遮断棒を持ち上げると黄色の回転灯が点灯した。

踏切内に入って遮断棒を下ろし、今度は反対側の遮断棒を持ち上げる。

無事、線路をわたりきることができた。

手動の遮断機。利用に際しては、いちど上げた遮断棒について、また元あったように下げておかなければいけないとのこと。

遮断棒が上げっぱなしになっていると踏切内に通行人がいる!という判断になり、列車が緊急停止してしまうらしい。(看板に注意事項として書かれていた。)

人がいるのか、いないのかは電車運転手による目視と、さらに「設備」という二重チェックの構造になっているようだ。

日月神社踏切
通れる幅は歩行者、自転車、バイクくらいまで。
遮断棒を持ち上げてわたる。
遮断棒は使い終わったら下げておく。
貴重な体験であった。

堤体へ

日月神社前踏切をこえ、さらに北上する。

午後2時15分、富士吉田市上暮地7丁目2(電柱)の十字路を左折。

「白糸町会館」でもう一度左折。道なりにすすみ、消火栓の箱を見たら左折。そのまままっすぐすすむと富士吉田市上暮地7丁目5のあたりで、最終民家。最終民家を過ぎて林道に入ったところで背負子を降ろした。

午後2時35分、背負子に搭載されているウエーダーをほどいて、靴から履き替える。

フローティングベストを隠していたレインウエアを脱ぎ、フローティングベストも脱ぎ順番を逆にする。(レインウエアのうえにフローティングベストを着る。)

午後2時45分、歩行を再開。

林道沿いの祠を過ぎて、コンクリート製の橋をわたると道は二本に分岐。直進か、橋をわたるかの分岐である。

直進を選択し、林道を奥へ。

直進の林道には沢が一本並行する。この沢が本日入渓する「翁沢」であるので、沢の状態を確認しながら(魚は泳いでねぇ~か~?)すすんだ。

午後3時5分、林道わきに大きな堤体があらわれた。(翁沢川堰堤)

大きな堰堤を越えておよそ30メートル。堆積地に下りられるブルドーザー道が出現。

ブルドーザー道を下りたところで翁沢に入渓。

午後3時半、本日の目的地、翁沢堰堤に到着した。

白糸町会館
この橋はわたる。
この橋はわたらずに直進する。
翁沢川堰堤
堆積地に下りられるブルドーザー道
いつの間にやら霧雨天気に。(フタリシズカ)
入渓点

甘いノイズ

堤体を湛水する水。

水は右岸側に一筋、1メートル程度の幅で落ちている。

放水路天端の一部に集中して落ちる水。泡立ちも見られる。しかし、勢いがない。

水はゆっくりと水タタキに着地。着地のあとは、縦およそ20メートルの護岸区間をゆったりとした速度で転がる。

護岸区間のおわりには落差30センチ程度の落ち込み。コンクリートの床でコロコロ横幅を広げた水は渓流に回復後、収束に向かう。

収束は徐々に。

川は夏みかん~大玉すいかサイズの転石からなる極浅区間から、少しずつ幅を狭くしていく。

しかし、いつまでも流れは浅い。

転石に乗ることができないほどの浅い流れ。どうにか乗ることが出来ているのは、腐植に埋もれた低い石で、これを越えるときにわずかな落下をしている。

わずかな落下。

わずかな衝撃。

わずかな衝撃によって、水はノイズを発している。しかし、そのボリュームは微々たるものである。

こんな小さなノイズでは脅威にはならない。もちろん、それは歌のもととなる声とのバランスを言っている。

いま、この場で歌うことに関して何も危惧することはない。

ただただ、この甘い感じのノイズの中で歌えればいいのである。

翁沢堰堤
落水は右岸側に一筋。
ゆっくりと水タタキに着地。
護岸区間から渓流に戻るところ
流れは浅い。

変えたくなる

立ち位置として設定した地点は堤体からおよそ40メートル。

自作メガホンをセットし、声を入れてみる。

声は立ち位置の前後左右でよく鳴っている。林の奥に深く響く感じが心地よい。

響きを作っているのは堤体前とそのまわり広範囲に生える樹木たち。渓畔林域、渓畔林域外の樹木。

樹木から樹木への声の伝搬。ここは枝の多い樹種(ケヤキ)が多くて、より効果的に響いていると思う。

樹木から受けられる恩恵だ。

こうなると、

変えたくなる。

遊びをさらに追求したくなる。

悪だくみは、設定する立ち位置を変えてみるということ。

再度、設定した立ち位置は70メートル付近。ふたたび声を入れてみる。

こちらもよく響いている。

立ち位置からは堤体本体が見えにくくなった。プレーヤーの上流延長線上にアブラチャンが何本も生えているからだ。

中低木層のアブラチャン。

さらに高木層にはケヤキ。

渓畔林域外のスギ。

堤体本体が見えにくくなっているだけでなく、堤体前が全体的に木々に覆われていて暗い。

光は上空からのものも、霧雨の空から飛び込んでくる横方向からのものも完全にシャットアウトしている。

暗がりの空間にワワッと声を入れ・・・。その響きを楽しむという遊び。

かなり楽な感じで入れてみても、約束したように声が返ってきてくるので安心して歌うことができる。

距離はおよそ40メートル。
風は無風
堤高12メートル。放水路天端までだと約10メートル。
方位は北西。
アブラチャンの木(画像中央)
堤体前は暗がりになっている。
これは約40メートルの立ち位置。

安心

結局、この日は午後6時まで堤体前で過ごした。

今回は、非常に樹木に豊かな堤体前で遊ぶことができた。

その木の多さから、暗がりができたり、堤体本体が見えにくくなったりするほどの空間であった。

堤体前という場所を専門に音楽的優性を求めて歩きまわっているが、「響き」のみならず「歌いやすさ」という点においても、やはり木の多い空間は優れているなという印象をもった旅であった。

高木層の木、中低木層の木。ともに充実した堤体前は屋根があった。

屋根はプレーヤーに、安心をもたらした。

屋根の素材は?

葉っぱ。

スレートでも鉄板でも瓦でもない。

葉っぱ。

しかし頼りになった。これがあるのと無いのでは大違い。

屋根があるところ。

葉っぱでできた屋根に頼ったのである。

これから夏に向けて、樹木は葉っぱの量が最大化する。葉っぱの量が最大化するなかで歌という楽しみも最大化していきたい。

響きに、歌いやすさに、安心に。樹木のもたらす機能は数多い。今夏もまた樹木に頼るシーズンになりそうである。

葉っぱの屋根。
アブラチャン
コクサギ
キブシ
ケヤキ(樹皮の白い木)
ハリエンジュ(ニセアカシア)
フサザクラ
ミズキ